辺野古訴訟の最高裁判断 憲法反するあしき前例
沖縄タイムスの「木村草太の憲法の新手」
高裁が「前知事の埋立承認処分の適法性を審査対象としたのは誤り」で「現知事の処分の判断の合理性・適法性を審査しなくてはならない」。が、判決は「環境問題の専門家からなる第三者委員会は、今回の埋め立てが「環境保全」への「十分配慮」を求める法律に違反していると判断」したことのどこに問題があったか指摘していない。
また、米軍基地の設置は地元自治体の自治権制限を伴う。憲法92条は、自治体の組織・運営に関わる事項を「法律」で決すべき事項としているが、米軍基地の設置基準や手続きを定めた法律や辺野古基地設置法は制定されておらず違憲である。
これら高裁判決の問題点について、最高裁が議論もせずに維持いることは“裁判所が「法」に従わずに、「権力者の意思」に流された、あしき前例となるだろう。”と指摘している。
ただしそれでも建設は簡単ではない。
【木村草太の憲法の新手 (46)辺野古訴訟の最高裁判断 憲法反するあしき前例 沖縄タイムス12/18】
【辺野古新基地… 追い詰められているのは安倍政権2016/10】
【木村草太の憲法の新手 (46)辺野古訴訟の最高裁判断 憲法反するあしき前例 沖縄タイムス12/18】最高裁第二小法廷は、弁論を開かないまま辺野古訴訟の判決期日を12月20日に指定した。このことに、私はかなりの衝撃を受けている。原審の結論を覆す可能性はほぼなく、県敗訴となる見通しだ。福岡高裁那覇支部判決の問題を振り返っておこう。
まず、判決が、仲井真弘多前知事の埋立承認処分の適法性を審査対象としたのは誤りだ。前知事の決断時には合理的に見えても、後に、新たな事実や、考慮すべき要素が見いだされることもある。翁長雄志現知事の行った取消処分の適法性を判断するには、前知事ではなく、現知事の処分の判断の合理性・適法性を審査しなくてはならない。
また、専門家の判断軽視も看過できない。環境問題の専門家からなる第三者委員会は、今回の埋め立てが「環境保全」への「十分配慮」を求める法律に違反していると判断した。知事の埋立承認処分取消は、これを受けたものである。通常であれば、特別の事情が示されない限り、裁判所は専門家の判断を尊重する。しかし、今回の判決は、第三者委員会の判断のどこにどのような問題があったのかを指摘していない(判決の問題点については、岡田正則氏の『世界』11月号の論稿参照)。
さらに、再三この連載で指摘したように、憲法上の問題もある。
沖縄県側は、次のように主張していた。米軍基地の設置は地元自治体の自治権制限を伴う。そして、憲法92条は、自治体の組織・運営に関わる事項を「法律」で決すべき事項としている。しかし、米軍基地の設置基準や手続きを定めた法律や辺野古基地設置法は制定されていない。従って、辺野古新基地の建設は、そもそも違憲である。
これに対し判決は、自治権制限は「条約」に基づくものだから良いのだ、と開き直った。言うまでもなく、法律と条約は異なる法形式だ。原審の判断は、安保法制で騒がれた「解釈改憲」どころか、憲法明文に反する解釈だ。原審には、主だったものだけでも、これだけ問題がある。原審の判断を維持するなら、その一つ一つに理論的に反論を示す必要がある。しかし、判決後の法律家らの議論を見ていても、理論的に筋の通った反論は見当たらない。現実問題として、基地の建設はやむを得ない、といったものばかりだ。
最高裁が、これほど法的に筋の通らない原審を、議論もせずに維持するとすれば、裁判所が「法」に従わずに、「権力者の意思」に流された、あしき前例となるだろう。
こうなると、本土の市民の正義感に期待する他はない。この点、わずかながら明るい材料もある。各種報道によれば、大阪、福岡、新潟などの住民が、「地元で沖縄の基地を引き取ろう」という運動を展開しているらしいのだ。
世論調査の結果を見る限り、日米安保体制への国民の支持は厚い。そうだとすれば、沖縄の基地負担軽減を実現するには、「基地絶対反対」ではなく、本土への引き取り運動こそが有意義なように思われる。基地の引き取りを真剣に議論すれば、基地問題を、ひとごとではなく、自分事として考えざるを得ないだろう。
沖縄に対する差別を解消し、正義・公平を実現するには、この道しかない。(首都大学東京教授、憲法学者)
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