原発は高い~実績でみた原発コスト~ 大島堅一氏
「事故があっても、原発は安い」というなら、廃炉・賠償費用は自分ではらうべき。実際はそうではなから転嫁させようとしている。
「安い」とする「政府の試算は『モデルプラント方式』といって、建設費の安い原発が事故もなく順調に稼働し続けるという理想的なシナリオを描いた計算。だから実際にかかった費用をそのまま反映するのではなく、仮定を置いて数字を変えるので安く見せるよう操作できる」もの。
「実際のコスト」は、発電コスト8.5円、研究開発費や原発交付金など政策コスト1.7円、事故コスト〔経産省21.5兆円と試算〕2.9円と、13.1円〔kW時あたり〕。
■実績では・・原発(13.1円)>火力(9.9円)>水力(4.4円)
しかも、政府試算の原発建設費は従前と同じという前提。「英国で新設されるヒンクリーポイント原発の建設費に置き換えただけでも、発電費用は一七・四円に跳ね上がる」。政府試算の石炭火力12.3円、LNG火力13.7円よりも大幅に高い。
【原発は高かった~実績でみた原発のコスト~ 大島堅一 12/9】
【事故処理費増え「原発は高い」 立命館大教授・大島堅一氏に聞く 東京12/11】
【原発は高かった~実績でみた原発のコスト~ 12/9】大島堅一 | 立命館大学国際関係学部教授(環境経済学) 12/9(金)
◆ 原発は安いのか
経産省が2016年12月9日に示したところによると、福島原発事故のコストが21.5兆円になるという。すさまじい金額だ。さらに、それを国民負担にするという案を経産省は提示している。
にもかかわらず、世耕・経産大臣は、原発は安いとの発言を2016年12月7日におこなっている(テレビ朝日の報道による)。
原発のコストは安いのか高いのか。
一体どのように理解したら良いのだろうか。◆コストの計算方法
原発のコスト計算の方法には、1)実績コストを把握する方法と2)モデルプラントで計算する方法の2つがある。
2)の方法で計算した値は、政府のコスト検証ワーキンググループが2015年に試算したものが最新だ。ここでは、原発のコストを10.2円/kW時としている。おそらく世耕大臣は、この計算結果を言っているのだろうと思われる。
政府の計算には、いくつもの前提があって問題点もあるが、長くなるのでここでは詳しくは述べない。さしあたってこの計算方法の特徴を一言でいえば、想定や計算式で数値は変わってくるというものだ。◆原発の実績コスト
これに対して、実績コストは、想定も何もないので誰が計算しても同じになる。過去の原発のパフォーマンスを知るのに最適だ。
では、原発の実績コストはどれくらいなのだろうか。
まず、発電コスト。これは、電気料金の原価をみれば把握することができる。データは、電力各社の有価証券報告書にある。また計算方法は、電気料金を算定する際にもちいる省令に書いてある。この方法は、室田武・同志社大学名誉教授が開発した方法だ。計算すると、8.5円になる。次に、政策コスト。原発には、研究開発費や原発交付金といったものに国費が投入されている。つまり国民の税金だ。財政資料を丹念にひろうとこの費用も計算できる。これは1.7円。
最後に、事故コスト。これは経産省により21.5兆円という数値がでた。そこで、これまでの原発の発電量で割って単価を計算すると、2.9円となる。
つまり、原発のコスト=発電コスト+政策コスト+事故コストで、13.1円(kW時当たり)となる。◆他の電源は
原発以外の電源も計算すると、
火力は、発電コスト9.9円、政策コスト0.0円(値が小さいので四捨五入するとこうなる)で合計9.9円。
一般水力は、発電コスト3.9円、政策コスト0.5円で合計4.4円だ。
これらのコストも原発のコストと同じように計算できる。◆計算結果のまとめ
以上をまとめると、原発(13.1円)>火力(9.9円)>水力(4.4円)。つまり、過去の実績(1970-2010年度)でみると、原発は安い、どころか、原発は最も経済性がない電源だったと言える。
◆それでも安いのなら電力会社が払うべき
原発は、政策コストと事故コストが大きい。これは、結局、ほとんどを国民が払っている。
「原発が安い」というのは何故か。それは、原発のコストを電力会社が全て負担しているわけではないからだ。
最終的に負担しているのは国民。つまり、電力会社にとっては安くても、国民にとっては高いのが原発、ということになる。もし仮に、今でも原発が安いというのであれば、原発に対する国の支援を全て止めるべきだ。東京電力を含む電力会社は、事故コストを含む全てのコストを自分で払うべきだろう。それが資本主義のルールなのだ。
【事故処理費増え「原発は高い」 立命館大教授・大島堅一氏に聞く 東京12/11】原発の発電費用を研究してきた立命館大学国際関係学部の大島堅一教授が、原発で一キロワット時(エアコン一時間分)の電力量をつくるために必要な費用を、実際にかかってきた費用を基に「一三・一円」と試算した。
政府が九日にまとめた福島第一原発の処理費用二一・五兆円を反映した。本紙のインタビューで、政府の「最大でも一〇・四円で、さまざまな発電方法の中で最も安い」とする試算を「架空の前提に基づくため実態を反映していない」と否定した。
大島氏は「原発は高い」と説明する。現実に東京電力は必要な費用を払えない状態のため、「資本主義のルールに従って破綻処理したうえ、株主にも責任をとらせて財産を処分、それでもお金が足りない場合は国が責任を持って税金などを充てるべきだ」と提言。ほかの大手電力会社の原発への支援策もやめるべきだと指摘した。
立命館大国際関係学部の大島堅一教授が試算した方法は明快だ。原発の建設費や投じられてきた税金、福島第一原発の賠償に充てられたお金など、実際にかかった費用を積み上げ、原発が過去につくった発電量で割った。すると、一キロワット時当たりの発電費用は一二・三円だった。
さらに、経済産業省が九日、原発の事故処理費が二一・五兆円へと倍増する試算を示したため、これを反映させると一三・一円になったという。
一方、経産省はこの二一・五兆円を考慮しても、原発の発電費用は一〇・二~一〇・四円にとどまると計算した。二〇一五年に試算した一〇・一円とほぼ変わらず、水力発電(一一・〇円)などほかの発電方法を下回って最も安いとの説明を続ける。経産省と財界人らでつくる「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」の伊藤邦雄委員長(一橋大大学院特任教授)も「原発は最も効率的な発電方法だ」と語る。委員会の議論では「事故があっても安いということをもっと広報するべきだ」という意見があったという。
この食い違いについて、大島氏は「政府の試算は『モデルプラント方式』といって、建設費の安い原発が事故もなく順調に稼働し続けるという理想的なシナリオを描いた計算。だから実際にかかった費用をそのまま反映するのではなく、仮定を置いて数字を変えるので安く見せるよう操作できる」と指摘する。
例えば、日本の原発は稼働年数が平均三十年の時点で三基の炉心が溶融する「過酷事故」が起きた。十年に一基で事故が起きる確率だ。しかし政府試算は事故はほとんど起きない前提。このため福島第一原発にかかる費用がいくら膨らんでも、政府の試算にはほぼ影響しない。国民負担が増えているのに、政府が「原発は安い」と主張し続けるからくりはここにある。また、震災後は原発に厳しい安全対策が求められるようになり、建設費は世界的に高騰している。しかし、政府試算の前提は従来の建設費と同じ。大島氏は「政府試算の建設費の前提を、英国で新設されるヒンクリーポイント原発の建設費に置き換えただけでも、発電費用は一七・四円に跳ね上がる」と分析する。石炭火力(一二・三円)はもちろん、液化天然ガス(LNG)火力(一三・七円)より高くなる。
ほかにも、政府が着手しようとしている次世代の原子炉「高速炉」の開発に投じられる税金は規模すらつかめない状態で、政府試算に反映されている金額を大幅に超えることは確実だ。
大島氏は「原発は高い」と断言。「原発を続けるという選択肢があってもいいが、そのためには『原発は安い』という架空のシナリオではなく、客観的なデータを国民に示して判断を仰ぐべきだ」と語った。 (吉田通夫)
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