国民の「生活崩壊」の進行 家計調査からみえてくるもの〔メモ〕
都市と地方で最低生計費に違いがないことなど、全国一律の最賃の必要性などを明らかにしてきた金澤誠一・佛教大学教授が、5年毎に調査する総務省「全国消費実態調査」をもとに、国民の「生活崩壊」の進展をあきらかにしている。経済2017.1より。
高所得層で節約率が高く、生活準備資金の蓄積を優先し、消費不況をもたらすとともに、低所得者層は、生活準備資金への余裕はなく、食費、交流費を切り詰め、健康破壊と社会的孤立が進展していると指摘する。
【国民の「生活崩壊」の進行 家計調査からみえてくるもの〔メモ〕】金澤誠一・佛教大学教授 経済20167.1
■ はじめに—多面的「構想改革」の労働と生活への影響
1低所得層における世帯属性の著しい変化
5年毎に調査する総務省「全国消費実態調査」/2人以上の勤労者世帯を分析対象とする
(1) 低所得層を中心に世帯主が高齢で就労している世帯の増加
・世帯主の平均年齢 94年44.9歳、14年48.9歳
○年収10分位での平均年齢の比較
94年 低所得のⅠ、Ⅱは41.7歳、40.4歳。Ⅹ50.8歳
14年 Ⅰ49.4歳、Ⅱ48.8、Ⅹ51.3歳/ 低所得者ほど年齢上昇率が高い。中間層のⅤを谷にV字型○ 10分位毎の世帯主の年齢構成
99年 Ⅰの60、70歳代13.5% / 14年31.4% と2倍以上
99年 Ⅰの20、30歳代50.9% / 14年27.2% と半減
・収入が高くなるに従い40、50歳代の割合が上昇、Ⅹでは8割/この傾向は15年間変化していない☆世帯主の年齢層の変化/低所得層で著しい
99年 低所得者層、若・中年層が8割強/14年 中・高年層で7割以上○この変化は、全世帯と勤労世帯と比較すると意味がより鮮明に
・99年 全世帯 低所得者層の中で、世帯主が60、70歳代56.9%
勤労世帯の場合は、13.5% /定年退職後、就労は少ない
・14年 全世帯 所得者層の中で、世帯主が60、70歳代73.6%
勤労世帯 低所得の高齢世帯31.4%に上昇~ 高齢者の多くがますます低所得層に集中/退職後に就労している割合が拡大に上昇/ 年金支給年齢の引き上げ、年金水準の引き下げで、再就職し就労している場合が多くなっている。
(2)低所得層での「一人親世帯」や「高齢夫婦のみ世帯」の増大
・この15年でⅠの低所得層で、増加している世帯類型
「一人親世帯」19.9%→33.7% / 「夫婦のみ・夫60歳以上世帯」9.6%→18.1%
・割合が低下したのは
「夫婦と子ども世帯」52.0→36.0% / 「夫婦のみ・夫60歳未満世帯」13.8→7.9%☆今日の低所得世帯の世帯類型は、
①「一人親世帯」がⅠ/3と圧倒的な高い率。他の収入階層と歴然とした差(Ⅱで12%、それ以外数%)
②「夫婦のみ・夫60歳以上世帯」も低所得ほど割合を高める傾向を示し、低所得層の1つの特徴に☆ 高所得のⅩでは
①圧倒的に「夫婦と子ども世帯」で構成 99年55.1%→14年63.1%
②3世代世帯が、低所得層の4倍以上/が、99年の33.1%から、18.8%へ大きく低下(3)低所得層での世帯主「非正規」世帯の増大
10分位別の世帯主の就労形態
・Ⅰで、世帯主「労務・非正規」「職員・非正規」 09年43.6%→14年50.8%
・Ⅹでは「労務・正規」「職員・正規」は、09年、14年も9割以上(4)高所得層は有業人数が2人以上
・収入階級が上昇するにつれて、有業人員が顕著に増加/Ⅸ、Ⅹでは2名を超える/99、14年も同様
・99-14年比較/Ⅶを境に、低い収入層で、有業人員が増加する傾向、高い層で減少する傾向
→ 低所得を補うために、多就業化が進んでいる/が、一人親世帯が多いことを考慮すれば、有業人数を増やすことは、もともと限定させれている。
2. 実収入の推移(1)1995年を転換点とした実収入の低下
・95年 月額57万817円 → 15年52万5669円/4万5148円、7.9%減少
・10-15年 52万692円→52万5669円と4977円、1.0%増、その間の物価上昇3.6%。実質2.6%減・世帯主収入 46万7799円 → 41万2884円/5万4915円、11.5%減
・配偶者収入 5万4646円 → 6万4768円 /1万123円、15.6%増
・社会保障給付 1万6027円→ 2万6262円 /勤労世帯の中での高齢者世帯増加を反映~ 世帯主の収入減を、配偶者、年金の収入で補っている関係
(2) 低所得層での年金収入の増加、高所得層での配偶者収入の増加
5分位別の比較
・Ⅰ 95年32万8271円 → 15年29万4887円/3万3384円、10.2%減
・ Ⅴ 95年89万473円 → 15年84万1046円/4万9427円、5.6%減
~ 低所得者ほど、減少率が高い・実収入の内訳の5分位別の比較
①勤労世帯にとって、収入の違いが配偶者収入の割合の高さに比例/この20年間に全ての階級で割合増加
→配偶者の追加収入が増えている/が、低所得層では一人親世帯が1/3。そもそも有業人員が限られている②社会保障給付の割合が、収入が低い層ほど高い/低年金を補うための就労の増加
→追加収入があるうちは生活が成り立つ可能性が高いが、不可能となると生活保護となる可能性が高い
3. 支出の分析――家計の「硬直化」と「生活崩壊」への進行(1)「硬直化」の進展--福祉関連部門の市場原理の強化の家計支出への影響
住宅、教育、医療をはじめとした「生活基盤」の家計支出/社会的に強制された「固定費」の性格が強いもの
「Ⅲ社会手拭固定費」 以下のように分類して分析
①社会的固定費目/家賃・設備修繕費・教育費、医療費、水光熱費、交通・通信費
②税金・保険料/税金、社会保険料
③土地家屋等借金返済/住宅ローン、教育ローンなど借金返済・95年 21万9465円 →15年 24万1466円/2万2001円増
各種「社会的固定費」/2人以上勤労所得平均 95-15年 約36%→40%強(2)生活準備金の伸び悩み――将来の生活の不安定化
・福祉部門の公助の後退→「社会的固定費」の拡大 + 自助としての「生活準備金」の蓄えの必要
・「生活準備金」を可能とする所得階層は限られている・生活準備金は95年以降減少(15年ややもちなおし)95-15/12万円弱→10万円強
・5分位 ⅠとⅤ /生活準備金格差7.3倍。実収入の格差2.9倍に比べはるかに高い
☆ →低所得者層は、社会制度として自助を強いられれば強いられるほど、長期的な生活が不安定になる
→ 将来に対する自由で自律的な見通しを困難にし「生活崩壊」につながる(3)「社会的固定費」の圧迫による「日常生活費」の減少は続いている。
・実収入は低下傾向/「社会的固定費」は増加 ~ その圧迫のもと、日常生活に必要な消費の削減を生む
・日常生活費
「Ⅰ個人的再生産費目」 食費、被服費など個々人の肉体的再生産に必要な費目
「Ⅱ社会的体裁維持費目①」 自動車、家電など耐久消費財など今日の生活様式を形成しているもの
「Ⅱ社会的体裁維持費目②」 交通費、教養娯楽費、理容美容など社会的交流・参加に必要なもの・長期的傾向/95年を境に「日常生活費」が低下 95-15
「Ⅰ」8万6085円 → 7万2462円 /1万3623円、15.8%減
「Ⅱ」3万6395円 → 3万7856円 / 1461円、 4.0%増
「Ⅱ②」13万1123円 → 10万2143円 /2万8980円、22.1%減
全体 25万3603円 → 21万2461円 /4万1142円、16.3%減
~ 実収入の減少率〔7.9㌫〕を大幅に上回っている・国民の生活の縮小再生産/家計の「硬直化」による自律した自主的生活を困難なし「生活崩壊」/とともに、「Ⅱ②」の減少により社会的孤立・脱落をもたらし、社会的存在としての人間の尊厳を損なうという意味の「生活崩壊」を進める
◆結びにかえて—低所得層の「生活崩壊」と国民生活底上げによる打開
○「日常生活費」の節約は、低所得層で現れやすい構造/「社会的固定費」増の圧迫を受けやすいから
・「社会的固定費」 第Ⅰ5分位で、最も高率。収入が高くなるにしたがい低下 35.1→32.3%
・「Ⅰ」も、低所得層ほど高く、収入が高くなるに従い低くなる傾向 25.2→21.7%
・「Ⅱ②」は、収入が高くなるに従い割合が高まる傾向 28.3→34.6%
~低所得層ほど「社会的固定費」増の圧迫をうけやすく、「Ⅰ」は肉体的生理的に節約しにくく、その結果、「Ⅱ②」を最も圧縮削減せざるを得ない○95-15年の消費支出の構造変化
・総数で、8.9%減。Ⅰ5分位6.6%減、Ⅴ5分位10.4%減/ 以外にも高所得層で削減が大きい
・Ⅰ5分位/ 社会的固定費5.4増、「Ⅰ」1.8減、「Ⅱ②」4.4減
→ 収入が低下し、消費支出が低下/「Ⅰ」は、エンゲル係数に代表されるように高まる性格をもっているが低下/ 必要以上の食費、被服費等の削減。健康破壊が進んでいる可能性が強い・Ⅴ5分位/ 社会的固定費5.2像、「Ⅰ」1.4減、「Ⅱ②」5.5減
~支出総額も「Ⅱ②」も、削減率が低所得層より大きい
→高所得層は「生活準備金」の支出が極めて大きい。日常生活費を削減してまでも「生活準備金」の蓄えを優先
/低所得層は、ゆとりがなく、短期的な日常生活費への支出を優先せざるを得ない→消費支出の構造だけみれば、各費目の構成比の格差を小さくしている/全所得階層での消費生活の縮小再生産が進み/ 消費不況を深刻にしている。/が、高所得層と低所得層では、質的違いは明らか
★低所得層/少ない所得の中で短期的生活を優先/が「社会的固定費」の増加の圧迫を最も強く受け、「Ⅰ」の削減で健康破壊が進み、「Ⅱ②」の削減で社会的孤立・脱落しやすく/「生活準備金」が確保するゆとりもなく、将来の見通したちにくい
→肉体的生理的存在、社会的存在として人間の尊厳を損ねる「生活破壊」が、特に低所得層で進んでいることを意味する。
★国民生活の底上げ――ディーセントワークや最賃、社会保障のナショナルミニマムの引き上げることが、内需を拡大し地域経済を活性化し〔メモ者 少子化に歯止めをかけ〕、持続可能な経済の循環〔と社会〕をもたらす。
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