南スーダン 自衛隊への新任務付与ではなく、武力によらない平和貢献を 非戦ネット声明
国際ボランティアセンターなど、海外で活動している日本のNGO74団体らで構成する非戦ネットの声明。
「南スーダンの紛争状況を直視すべきである」「紛争状態での新任務遂行は憲法違反になる」「『駆け付け警護』を現地で活動するNGO は要請していない」「民生支援によって培ってきた日本への信頼を損なう」「日本の独自性を生かした貢献を」との構成になっている。
【南スーダンにおける自衛隊への新任務付与を見合わせ、武力によらない平和貢献を求める」非戦ネット11/14】
【南スーダンにおける自衛隊への新任務付与を見合わせ、武力によらない平和貢献を求める」非戦ネット11/14】2016 年11 月14 日 NGO 非戦ネット声明
昨年成立した安保法制が今南スーダンにおいて始めて運用されようとしている。政府は今月11 月15 日にも閣議決定を行い、南スーダンのPKO に派遣する自衛隊に駆け付け警護および宿営地の共同防衛の新任務を付与する方針である。しかし、事実上の内戦状態にある南スーダンで今日本がなすべきは、自衛隊派遣、安保法制運用を運用しての「貢献」ではなく、非軍事かつ日本の独自性を生かした和平に向けた平和貢献である。政府には、安保法制にもとづく新任務を自衛隊に付与する案件の取り下げを求める。その理由は以下の通りである。
◆南スーダンの紛争状況を直視すべきである
南スーダンは、今年7 月の首都ジュバにおける大統領派と元第一副大統領派との大規模な武力衝突によって、昨年8 月に締結された両派の和平合意と和平合意にもとづいて樹立された統一政府は瓦解し、両派の戦闘は地方にまで拡大している。地方政府の中には元副大統領派勢力に合流して反政府闘争に転じるものも出てきている。また、政治勢力間の抗争に留まらず、諸民族間の異民族排斥と殺戮が広がっており、南スーダンは人道危機に直面している。この事態を見れば、もはや南スーダンではPKO5原則を満たす条件は破綻しており、国民統合が存在するとは言い難い。こうした状況下でのPKO 新任務付与は、紛争の助長にすらつながりかねない重大な危険をはらむものである。
◆紛争状態での新任務遂行は憲法違反になる
この状況で自衛隊の派遣部隊に新任務を付与すれば、政府軍、反政府勢力の軍との武力衝突を引き起こす事態になりかねず、住民を巻き込んだ交戦状態に陥る危険がある。自衛隊にも犠牲がでる可能性が高い。またいかなる法律上の言葉合わせを現時点で行おうとも、紛争現場において自衛隊は武力行使に該当する行為を行うことが予見できる。すなわち政府の判断によって自衛隊が憲法違反を問われる状況に置かれかねない。
◆「駆け付け警護」を現地で活動するNGO は要請していない
政府は駆け付け警護の対象のひとつとしてNGO をあげているが、現地で活動するNGO は自衛隊の「駆け付け警護」を要請していない。NGO がPKO の役割として認識しているのは、国連施設や空港、物資輸送ルートなどの安全確保、或いはNGO が情勢悪化に伴い退避をする場合の支援であり、PKO 部隊による「襲撃されたNGO の救出」といった非現実的な作戦を期待しているわけではない。仮に、襲撃や戦闘が起きている現場で自衛隊による「駆け付け警護」が行われた場合、自衛隊が交戦主体になり、救出されるNGO もそれと一体化していると見られる危険性がある。そうなっては人道支援を行う上で不可欠な中立性が担保できず、将来も含めかえって身の危険が高まる。NGO の安全確保の基本は、事前に様々な情報を収集して危険を未然に回避することであり、そのために南スーダンのNGO 連合体である「NGO フォーラム」は2 名の安全対策専任スタッフを配置している。そして万が一にも襲撃され拘束を受けるような状況に陥った際には、交渉による救出が現実的な解決策である。駆け付け警護の必要性の根拠にNGO の救出を上げるべきではない。
◆民生支援によって培ってきた日本への信頼を損なう
日本は南スーダンの独立以前から南スーダンに民生支援を行っており、現地の住民の日本に対する信頼は高い。またこの地域において植民地支配の歴史から無縁であることも相まって日本は欧米とは違った親近感を抱かれている。しかし一度武力介入を行えばこの信頼と親近感は一気に敵対感情に変容する危険がある。すでに政府のみならず住民のPKO に対する反感が存在していることを考えると、PKO による住民保護の任務は極度に困難が状態に直面している。お試しで駆け付け警護をするというような事態ではもはやなく、日本は全く別の角度から平和貢献をすべきである。
◆日本の独自性を生かした貢献を
日本が今なすべきなのは、非軍事かつ日本の独自性を生かした和平に向けた平和貢献である。現在の南スーダンは国民統合が存在していない以上、インフラ支援を中心とする民生支援もすぐにできる状態ではない。日本が優位性をもつのは非軍事の分野での支援に対する住民の信頼と、対立する諸勢力に対して比較的中立だと認識されていることにある。他国の国民にも平和的生存権を保証するとする憲法の前文と国際紛争を武力において解決しないという9 条の規定を掲げることで、対立する諸勢力に和平に向けた対話を外交的に働きかかること、国民の和解、融和に向けた支援を和平に向けた対話とセットで打ち出すことが可能である。また、現在250 万人にも達する国内避難民と難民に対する人道支援も日本の優位性を生かして大規模かつ顔の見える形で行う必要がある。このことが、対立する諸勢力や住民の信頼を一層高め、国民和解と融和に向けた取り組みの環境を醸成することにもつながる。
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