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沖縄辺野古訴訟高裁判決と地方自治 

 国の主張を丸呑みした高裁判決について、自由法曹団の声明で「公有水面埋立法及び取消権の発生要件等の解釈を誤っているばかりか、憲法上の地方自治権を軽視して,県民の法的な権利や利益を保護しようとする沖縄県側の主張を安易に切り捨てるものであって、憲法や法律に従って公正、公平に法的判断を行う司法の責務を自ら否定した極めて不当な判決といわざるを得ない。」と厳しく批判していたが、国地方係争処理委員会の位置づけなど地方自治との関係での問題点について、地方自治問題研究機構の論稿が詳しく展開している。
  この理屈でいえば、核のゴミ処分場も、国が勝手におしつけることができる。地方自治のあり方としてどうか。ぜひ首長の意見をただしてみたい。

【沖縄辺野古訴訟高裁判決と地方自治 村上博(広島修道大学教授) 地方自治問題研究機構11/2】
【国の主張を全面的に追認し名護市辺野古の米軍新基地建設を容認する福岡高等裁判所那覇支部判決に強く抗議する声明 自由法曹団 9/23】

【沖縄辺野古訴訟高裁判決と地方自治 村上博(広島修道大学教授) 地方自治問題研究機構11/2】

はじめに

沖縄県宜野湾市の米軍普天間基地の返還に伴う、その代替施設として国が唯一と考える辺野古新基地建設に関する福岡高裁那覇支部の判決が、2016年9月16日に出されました。裁判所は本来、第三者としての立場で審理・判断を行うはずの機関ですが、本件裁判所はそのような立場を投げ捨て、沖縄防衛局長と同じ立場で判断を行っています。その結果、本判決は法治主義と地方自治を真っ向から否定する内容になっています(紙野健二「9・16福岡高裁那覇支部辺野古訴訟判決を受けて」住民と自治2016年11月号36頁)。そのため翁長沖縄県知事は、「一見、遠い沖縄で起きている辺野古の問題を、また、そこに垣間見える構造を、全国の皆様に『わが町の問題』としてしっかり見て、そして考えていただきたいと思います。『地方自治の危機』は今そこに迫っているのです」(「沖縄県知事メッセージ」自治総研2016年9月号39頁)と、全国の国民にこの裁判の本質を見抜くこと、及び沖縄への支援を求めています。

1.事実

まず事実についてですが、国は、米軍基地を提供するために名護市辺野古の辺野古地区及びこれに隣接する水域等を埋め立てる必要がある、と判断したことから、沖縄防衛局名で仲井真・前沖縄県知事に公有水面埋立承認を申請し、知事が2013年12月27日埋立承認処分(法定受託事務)を行いました。

そこで、辺野古新基地建設に反対する翁長さんが、2014年11月16日の沖縄県知事選挙で、現職の仲井真さんに約10万票の差をつけて当選しました。翁長知事は、県が設置した「普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立手続に関する第三者委員会」による慎重な検討の結果、この承認処分は公有水面埋立法4条1項1号(国土の利用上適切かつ合理的なること)および同2号(環境の保全につき十分に配慮せられたること)の要件を充たさず、違法であると判断し、2015年10月13日、承認処分を取り消しました。

これに対し、様々な経過を経たのち、公有水面埋立法を所管する国交大臣は、2016年3月16日、知事の行った取消処分が「都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認められるときに当た」ると判断し、地方自治法245条の7第1項の規定に基づき、承認取消処分を取り消すよう知事に対し是正の指示をしました。これに対し、翁長知事は、3月23日、地方自治法250条の13に基づき、国地方係争委員会に審査の申し出をしました(本多滝夫編『Q&A辺野古から問う日本の地方自治』自治体研究社、2016年)。

これに対し委員会は、6月20日、つぎの決定を行いました。「国と沖縄県との間で議論を深めるための共通の基盤づくりが不十分な現状の下で、」本件是正の指示が適法か否かの「判断をしたとしてもそれが国と地方のあるべき関係を両者間に構築することに資するとは考えられない。したがって、……本件是正の指示にまで立ち至った一連の過程は、国と地方のあるべき関係からみて望ましくないものであり、国と沖縄県は、普天間飛行場の返還という共通の目標の実現に向けて真摯に協議し、双方がそれぞれ納得できる結果を導き出す努力をすることが、問題の解決に向けての最善の道である」と。

そこで、沖縄県はこの決定に従って、国に協議を要請し、承認取消処分の取消を行ないませんでした。すると国土交通大臣(原告)は、県知事(被告)が大臣の指示に応じないのは違法な不作為であるとして、地方自治法251条の7第1項に基づき、高裁に不作為の違法確認訴訟を提起し、高裁は不作為が違法であるとの下記の判決をしました。

2.判決内容

判決内容は、「判決骨子」によれば、以下のとおりです。

(1) 知事が公有水面埋立承認処分を取り消すには、承認処分に裁量権の逸脱・濫用による違法があることを要し、その違法性の判断について知事に裁量は存しないので、取消処分の違法性を判断するに当たっては、承認処分の上記違法性の有無が審査対象となる。

(2) 公有水面埋立法4条1項1号要件の審査対象に国防・外交上の事項は含まれるが、これらは地方自治法等に照らしても、国の本来的任務に属する事項であるから、国の判断に不合理な点がない限り尊重されるべきである。

(3) 普天間飛行場の被害を除去するには本件埋立てを行うしかないこと、これにより県全体としては基地負担が軽減されることからすると、本件埋立てに伴う不利益や基地の整理縮小を求める沖縄の民意を考慮したとしても、法4条1項1号要件を欠くと認めるには至らない。

(4) 承認時点では、十分な予測や対策を決定することが困難な場合は引き続き専門家の助言の下に対策を講じることも許されるなどの点に照らすと法4条1項2号要件を欠くと認めるには至らない。

(5) よって、承認処分における要件審査に裁量権の逸脱・濫用があるとは言えず、承認処分は違法であるとは言えない。仮に、承認処分の裁量権の範囲内であってもその要件を充足していないという不当があれば取り消せると解したとしても、承認処分に不当があると認めるには至らないし、仮に不当があるとしても、知事の裁量の範囲内で埋立ての必要を埋立てによる不利益が上回ったに過ぎず、承認を取り消すべき公益上の必要がそれを取り消すことによる不利益に比べて明らかに優越しているとはいえないなど、承認処分を取り消すことは許されない。よって、被告の取消処分は違法である。

(6) その他、被告がする是正の指示が違法であるとの主張は、その前提とする地方自治法の解釈が失当である。

(7) 遅くとも本件訴え提起時には、是正の指示による措置を講じるのに相当の期間は経過しており、被告の不作為は違法となった。また、地方自治法の趣旨及び前件和解の趣旨から、被告は自ら是正の指示の取消訴訟を提起するべきであった。


3.問題点

(1)裁判の問題点

この高裁判決に対し、翁長知事は「裁判所には、法の番人としての役割を期待していましたが、政府の追認機関であることが明らかになり、大変失望しております」とのコメントを発表しています(赤旗9月17日)。

これは前述の「判決骨子(3)」に明確に現れています。さらに高裁の独自の判断の極め付けは、「普天間飛行場の被害を除去するには本件新施設等を建設する以外にはない。言い換えると本件新施設等の建設をやめるには普天間飛行場による被害を継続するしかない。」(134頁)という判決文です。しかも裁判所は、翁長知事1名の尋問をしただけで証人申請をすべて退け、ほとんど審理を尽くさずに、国側の主張を全面的に認めているのです。

そもそも、国の地方自治体に対する関与とそれを巡る係争処理は、地方自治体に対する国の関与が過度にあるいは恣意的に行われることのないように、一定の法的枠付けを与える、という法治主義の強化の方向を目指したものです(小早川光郎「国地方関係の新たなルール」西尾勝編『地方分権と地方自治』ぎょうせい、1998年105頁)。国地方係争処理制度につき、「国・地方間の係争処理のあり方に関する研究会」の「国・地方間の係争処理のあり方について(報告)」(2009年12月7日)は、つぎのように述べています。「国と地方公共団体との間で法律解釈を巡る齟齬が生じた場合に」、「中立・公正な司法の場で、透明性の高いプロセスの下、国と地方公共団体の双方がそれぞれ主張立証を尽くし、これをもとに裁判所が判断を行うとすることが、国と地方公共団体のみならず、国民・住民にも納得の得られる、最も適切な解決方法であると考えられる」(「一基本認識3問題解決の基本的方向」)と。この裁判所による訴訟の仕組みを、高裁はまったく理解していません。

つぎに、「判決骨子(1)」のように、高裁は、国交大臣の是正の指示の適法性が問題であるにもかかわらず、仲井真知事の承認を審査の対象とています。ここに最大の間違いがあります。 間違った理由は、裁判所がこの訴訟の意味をまったく理解していないからです。裁判所は「本件は、国の事業にかかわる埋立承認が取り消されたことからその取消しを指示した事案であり、本来的には行政行為の効力に関する不服として抗告訴訟に類する事案であり」と理解しています(判決文118頁)。しかしこの訴訟は、主観訴訟としての抗告訴訟とはまったく違う、大臣と県知事との機関訴訟として立法技術上整理されています。裁判においては、本来、大臣の是正の指示の適法性が審査の対象とされ、適法であった場合には、その指示に知事が従わないこと(不作為)の違法性が審査されなければなりません。したがって判決の検討の順番が、まったく逆さまなのです(岡田正則「裁判所による法治主義・地方自治の破壊」法律時報11月号108頁)。

≪メモ者  主観訴訟と客観訴訟≫
・客観訴訟とは、客観的な法秩序の適正維持を目的とする行政訴訟のこと。個人の権利利益の保護を目的とするのではなく、法律に定められた者のみが、提起できる。
 国民の個人的権利利益の保護を目的とする訴訟である主観訴訟(主観的訴訟)に対比される

・主観訴訟とは、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」であり、当然に裁判所(司法権)の権限に属する。客観訴訟とは、これに対して「法律上の争訟」にあたらず、「法律において特に定め」た場合にのみ、例外的に許される訴訟類型〔民衆訴訟と機関訴訟に区別される〕。
・機関訴訟とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟である。


(2) 国地方係争処理委員会

「判決骨子(7)」の被告の不作為の違法性判断は、つぎのことを前提としています。「国地方係争処理委員会は前記のとおり地方公共団体のための簡易迅速な救済手続であり、……同委員会において本件指示を違法と判断しても、国はこれに従わないことが和解の前提となっており、同委員会の決定自体は紛争解決のための意義のあるものではなく、その手続において議論として争点を整理すること、その間に原被告において解決のために協議をすることにのみ意義があったことは、同和解関係者は一同認識し、和解成立の前提としていたところである(当裁判所に顕著な事実)。これによれば、……元々和解において決定内容には意味がない」(183~184頁)。

このように、高裁は国地方係争処理委員会の存在意義を著しく貶しめています。しかし委員会は、国と地方自治体が対等・協力の関係に立つことを前提として、地方自治の制度的保障の充実・確立に資することを目的とし、委員会の組織構成の中立性・公平性や職権行為の独立性が保障された権威ある第三者機関です(村上・白藤・人見編『地方自治法』日本評論社、2011年405頁以下〔白藤執筆〕)。委員会の決定に従って紛争解決をすることが求められているのです。

(3) 国と自治体との役割分担

判決文は、「判決骨子(2)」に関し、つぎのように判示しています。地方自治法245条の7第1項の是正の指示の要件規定は、大臣「自らの担任する事務に関わるか否かに関係なく、法定受託事務の処理が違法であれば、是正の指示の発動が許される趣旨と解される。(中略)しかも……そもそも、法による都道府県知事の第1号要件の審査権は防衛・外交に係る事項にも及ぶと解されるところ、その法を所管する国土交通大臣が……上記審査権の及ぶ防衛・外交に係る事項を考慮することは当然許容されるものであ」る、と(177~178頁)。また「地域特有の利害ではない米軍基地の必要性が乏しい、また住民の総意であるとして40都道府県全ての知事が埋立承認を拒否した場合、国防・外交に本来的権限と責任を負うべき立場にある国の不合理とは言えない判断が覆されてしまい、国の本来的事務について地方公共団体の判断が国の判断に優越することにもなりかねない。これは、地方自治法が定める国と地方の役割分担の原則にも添わない不都合な事態である。」「国の判断が不都合とまでは言えないのであれば知事はこれを尊重すべきであるとはいえる。したがって、国の説明する国防・外交上の必要性について、具体的な点において不合理であると認められない限りは、そのような必要性があることを前提として判断すべきである」とも判示しています(121~122頁)。

このような解釈は明らかに間違っています。国交大臣自身、「〔公有水面埋立〕法は国土交通省が所管するところ、我が国の国防や外交に係る事項の適否を判断することは、もとより同省の所掌事務には含まれていない」と主張しています(岡田正則「辺野古訴訟で問われる日本の法治主義と地方自治」世界11月号46頁)。また知事の1号要件に関する判断は、防衛・外交の観点からするものではなく、沖縄県民の日常のいのちと暮らしの問題から捉え直し、沖縄県という国土の一部である地域の適切かつ合理的な利用という観点からのものです(白藤博行「識者評論」中国新聞9月21日)。

おわりに

前述のように、高裁判決はまったく法治主義と地方自治を理解していません。最高裁判決が12月にも予想されることから、東京、金沢など全国各地での辺野古訴訟に関する全国キャラバンへの多くの皆さんの参加が求められています。

【国の主張を全面的に追認し名護市辺野古の米軍新基地建設を容認する福岡高等裁判所那覇支部判決に強く抗議する声明 自由法曹団 9/23】

1 名護市辺野古沖の公有水面埋立承認取消をめぐり、翁長雄志沖縄県知事が国土交通大臣からの是正の指示に従わないのは違法だとして,国が沖縄県に対して提起した違法確認請求訴訟の判決が、2016年9月16日,福岡高等裁判所那覇支部(多見谷寿郎裁判長)において言い渡された。判決は、米軍普天間基地の移設問題について「辺野古が唯一の解決策である」とする国の主張を一方的に容認して、国土交通大臣が行った是正の指示に翁長知事が従わないことは違法であるとの判断を示した。

判決は,公有水面埋立法及び取消権の発生要件等の解釈を誤っているばかりか、憲法上の地方自治権を軽視して,県民の法的な権利や利益を保護しようとする沖縄県側の主張を安易に切り捨てるものであって、憲法や法律に従って公正、公平に法的判断を行う司法の責務を自ら否定した極めて不当な判決といわざるを得ない。

2 まず、判決は,自然環境面について一切考慮せず,沖縄県の反論で既に破綻済みの「沖縄の地理的優位性」や「海兵隊の一体的運用」論に固執して,普天間基地移設のための辺野古沖埋立事業の必要性をいう国の主張を全面的に追認しているが、裁判所が司法の独立を放棄して政府の追認機関に成り替わったものとの誹りを免れない。
また,判決は、辺野古新基地の「建設をやめるためには普天間飛行場による被害を継続するしかない」との,これまで政府が沖縄県民に新基地建設を受け入れさせるために使ってきたどう喝的言い回しまでそのまま使用しており、沖縄県民として到底受け入れることのできないものである。

次に,判決は,国地方係争処理委員会が示した双方の協議を求める判断を軽視し,国防・外交は国の専管事項であり,国が辺野古に新基地を建設するといえば県はその考えに従うのが当然というに等しい判断を示すものであって、国と地方公共団体との対等・協力関係を規定した1999年の改正地方自治法の精神に反し,憲法に規定された地方自治の本旨,地方自治体の自主性と自立性を否定するものといわざるを得ない。
さらに,判決は,前知事が埋立承認をして以来、名護市長選、県知事選、衆院選(県内全選挙区)、参院選(沖縄選挙区)において、繰り返し示されてきた辺野古新基地反対の県民意思を軽んじるものにほかならない。

3 計画されている新基地には、強襲揚陸艦が接岸する岸壁やオスプレイなどに弾薬を積み込む弾薬搭載エリアが設置される予定である。また、新基地は、オスプレイ・パッド(着陸帯)の建設が強行されている北部訓練場(東村、国頭村)などとも一体的に運用され,海兵隊の海外侵攻のための巨大出撃拠点として計画されているもので、基地機能は著しく強化されている。にもかかわらず、判決は、「辺野古沖埋立事業による普天間飛行場の移転は沖縄県の基地負担軽減に資するものである」などと述べているが、沖縄の基地の現実を全く理解しようともしない一方的な決め付けにほかならない。

4 そもそも,翁長知事の埋立承認取り消しは、公有水面埋立法が求める要件を丁寧に検証した上で行われたものであり、違法の誹りを受けるものではなく、国土交通大臣から是正の指示を受ける理由も全くない。

判決直後、翁長知事は,最高裁判所に上告及び上告受理の申立てを行い、不当な高裁判決の破棄を求めるとともに、憲法で認められた地方自治が本来の役割を果たすことが出来るよう、力の限りを尽くして訴えていくことを表明した。自由法曹団は、この表明を全面的に支持するものである。

5 私たち自由法曹団は、この高裁不当判決に強く抗議し、引き続く沖縄県の最高裁でのたたかいを全力で支援し、辺野古新基地建設を許さない沖縄県民と連帯して、新基地建設を阻止するまで奮闘することを表明する。


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