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今般の生活保護基準の検討にあたっての質問及び要望書 全国会議

2018年度の生活保護基準見直しに向けて、本年5月から、社会保障審議会・生活保護基準部会の審議が再開されている。生活保護問題対策全国会議が、同基準部会と部会委員に対し提出した質問及び要望書。
社会保障の岩盤として保護基準が低下すれば、すべての制度が後退していく。対決点がよくわかる。
前回の引き下げでもっとも影響の大きかった子どものいる世帯では、再び母子加算削除が狙われている。安倍首相は、2010年に出版された大学教授の対談集で、「子育ての社会化」について「『個人の家族からの解放』というイデオロギーを背景にした考え方」と述べている。自民改憲案24条「家族の助け合いの義務」を規定。家庭、親の責任の強調は、一見古いようで、市場原理から零れ落ちる部分をボランティア、助け合いで「手当て」しようという新自由主義を補完するイデオロギーがその経済的本質である。
【「今般の生活保護基準の検討にあたっての質問及び要望書 2016/10/6】
【教育再生会議、家庭の役割に照準 「国の介入」に懸念も 朝日10/10】

【「今般の生活保護基準の検討にあたっての質問及び要望書 2016/10/6】

生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾藤 廣喜


 第1 はじめに
 去る本年5月27日,2018(平成30)年度に予定される5年に1度の生活保護基準の見直しに向けた生活保護基準部会が再開されました。

○基準部会による検証の無視・軽視
  前回の見直しについての基準部会報告書は2013年1月にまとめられましたが,厚生労働省は,同報告書の検証結果をふまえた数値について,同部会に何ら諮ることなく独断で,減額となる世帯だけでなく増額となる世帯についても2分の1としました(資料1・北海道新聞2016年6月18日朝刊,資料2・厚生労働省保護課作成「取扱厳重注意」文書参照)。さらに,厚生労働省は,基準部会では全く検討されなかった「物価」下落を考慮し,しかも,「生活扶助相当CPI」なる通常のCPIとは全く異なる偽装数値を用いて,最大10%・平均6.5%という保護世帯の96%に対する生活扶助基準の引き下げを強行しました(資料3・中日新聞2013年4月10日朝刊参照)。

○集団違憲訴訟における国の不誠実な態度
これに対しては,約2万人が審査請求を提起し,さらに現在,全国27都道府県において900名を超える原告が違憲裁判を提起して争っています(資料4・朝日新聞2015年11月3日朝刊参照)。しかし,後述するとおり,訴訟の場においても被告国は,引き下げの具体的な過程やデータを明らかにすることなく,時に必ずしも基準部会の意見を踏まえる必要はないという一方,時に基準部会の了解を得たという,不誠実な態度に終始しています。

○今般の検証によるさらなる生活保護基準引下げの懸念
今般,厚生労働省が基準部会に示した「平成29年検証における検討課題(案)」には,「有子世帯の扶助・加算の検証」,「級地区分の在り方の検討」等があげられていますが,前回検証後の経過を踏まえると,民主党政権下で復活された母子加算の再度の廃止等子どものいる世帯の扶助基準の引き下げや,1級地等都市部の扶助基準の引き下げが既定路線とされ,基準部会の検証が,その免罪符として都合よく利用されることが強く懸念されます。

 そこで,私たちは,貧困問題に深い見識をもつ専門家によって構成される基準部会が,その本来的役割を果たすことを念願し,以下のとおり質問をするとともに,以下の諸点をご考慮のうえ審議されることを要望いたします。

第2 質問事項及び説明

1 基準部会の検証の目的について

上記集団違憲訴訟において,国は,「基準部会においては,当初,年齢・人員・級地の3要素を踏まえた相対的な不公平さの是正と生活扶助基準の絶対水準の適正化を同時に検証する予定であったが,第11回部会における複数の委員の異論を踏まえて,絶対水準の検証までは行わないこととなった」旨主張していますが,そのような事実はありますか。

【説明】
(1)被告国の主張
上記集団違憲訴訟において,国は,「前2回の検証(生活保護制度の在り方に関する専門委員会と平成19年の生活扶助基準検討会の検証)は,生活扶助基準が高いか低いかという絶対水準の妥当性を評価し,絶対値としての給付水準を適正化することを目的としていた。しかし,平成25年の基準部会における検証は,かかる絶対値としての給付水準の適正化は目的としておらず,年齢体系,世帯人員体系及び地域(級地)体系における生活保護利用世帯間での相対的な不公平さの是正(ゆがみ調整)のみを目的としていた。」と主張しています。

(2)原告の反論
これに対し,原告側は,第10回基準部会資料2(4頁)に「体系の検証と水準の検証も一体的に行ってはどうか」等の記載があること,同部会において岩田委員が「今回の方法は,(略)単純にモデルで数字比較をするだけではなくて,同時にこの体系検証を行いながらそれをしようとした」と発言していること等から,基準部会の検証は,上記の絶対水準の検証と相対的不公平さの検証を一体的に(同時に)行った点に特徴があったと反論しました。

(3)被告の再反論
これに対し,被告側は,第11回基準部会において,厚生労働省事務局が,「前回の部会におきまして,今回の検証は年齢及び人員並びに級地の3つの要素(略)に焦点を当て,詳細な消費実態の分析に基づく評価検証を行い,その結果を踏まえたうえで水準の検証を行うといったことを基本方針として御了解いただいたところでございます」と発言したのに対し,岩田委員と栃本委員から異論が唱えられたことから,結果的に「絶対水準の検証」までは行わないこととされたと再反論しています(資料6・大阪訴訟における被告第2準備書面14頁)。

2 生活保護世帯のサンプルからの除去について

生活保護受給世帯のサンプルが第1・十分位のデータから除外されなかったことを知っておられましたか。
比較対象をもって比較する(トートロジーになってしまう)という問題点は相対水準の調整にあたっても同様に妥当する以上,上記1における国の主張を前提としても,生活保護受給世帯のサンプルは除外すべきではないでしょうか。

【説明】
 第9回基準部会における議論の結果,生活保護受給世帯と考えられる世帯のサンプルを除去することになりましたが,被告国は,今回の検証にあたって「第1・十分位のデータから生活保護受給世帯と考えられるサンプルは除外していない」と回答しています。そして,それが妥当である理由としては,「データから生活保護受給世帯と考えられるサンプルを除外するか否かは,結果として行わなかった生活扶助基準の絶対水準の検証に関する論点」であるからと主張しています(資料5・大阪訴訟における被告求釈明に対する回答書(2)10頁)。

3 物価の考慮について

 基準部会は,物価を考慮すること,特に,今回厚生労働省が採用したような「生活扶助相当CPI」を考慮することについて了承し,お墨付きを与えたのでしょうか。

【説明】
被告国は,基準部会報告書に「他に合理的な説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合には,それらの根拠についても明確に示されたい。」との記載があることから,「厚生労働大臣が根拠を明示して物価などの経済指標を活用すること自体については,平成25年基準部会の委員全員の了承を得たものとみることができる」と,あたかも今回の物価考慮について基準部会委員全員のお墨付きが得られているかの如き主張をしています(資料6・同上12頁)。

4 基準部会の検証結果の2分の1について
基準部会の検証結果を踏まえた数値を,増額も減額も2分の1にすることについて,事前事後を問わず,厚生労働省から説明を受け了承をしたことはありますか。
 「激変緩和」を理由とするのであれば,減額となる世帯のみを2分の1にすればよく,増額となる世帯も2分の1にする理由がないと思いますが,いかがでしょうか。

【説明】
「取扱厳重注意・生活保護制度の見直し」についてと題する文書(資料2)は,基準部会報告書とりまとめ直前の世耕弘成内閣官房副長官に対する説明資料として厚生労働省保護課が作成したものですが,基準部会の検証結果を踏まえた数値を減額となる世帯だけでなく,増額となるはずの世帯についても2分の1にしています。
 その結果,本来,7万3000円から7万7000円に4000円増額になるはずであった高齢単身世帯や,10万6000円から10万8000円に2000円増額になるはずであった高齢夫婦世帯についても増額が半減され,さらにその後に物価を考慮した引き下げがされたため,結果的には,それぞれ7万1000円(▲2000円),10万3000円(▲3000円)に減額されました。

第3 要望事項及び理由

1 生活扶助基準引き下げの経過の検証

2013年8月からの生活扶助基準の引き下げに際し,生活保護基準部会に諮ることなく独断で,同部会の検証結果を踏まえた数値を2分の1とした点,及び,生活扶助相当CPIという独自の統計数値の捏造の上に成り立つ大幅な物価下落を考慮した点について,基準部会の議題として取り上げて検証し,基準部会または同部会委員としての見解を表明すること。

 【理由】
 前記のとおり,被告国は,訴訟の場において,物価考慮について基準部会委員全員の了承を得ていた旨の主張をする一方,「生活扶助基準の見直しは必ずしも専門家によって構成される審議会等の検討結果に従って実施しなければならないものではない」とも主張し(資料6・同上7頁),基準部会の検証結果をまさしく都合よく如何様にでも利用すればよいとの姿勢を露わにしています。私たちとしては,専門機関である生活保護基準部会として,また,同部会委員として,このような国・厚生労働省の姿勢を容認しないとの姿勢を明らかにされることを強く期待します。

2 各種生活保護基準引き下げの影響の検証

2013年8月からの生活扶助基準の引き下げ,2015年7月からの住宅扶助基準の引き下げ,同年10月からの冬季加算の引き下げについて,以下の影響を検証すること。

(1) 生活保護世帯にどのような影響を及ぼしたか,世帯類型ごとの影響額,保護廃止世帯数,減額によって支出を抑制した経費などを検証すること。

(2) 生活保護基準と連動している他の制度(地方税,最低賃金,就学援助等の低所得者対策等)への影響の有無及び内容を検証すること。

【理由】
 上記の度重なる生活保護基準の引き下げによって,生活保護利用世帯はその生活に多大な影響を受けています。実際,2015年9月から2016年1月にかけて,原告ら653人を対象にして,厚生労働省が2010年に実施した「家庭の生活実態及び生活意識に関する調査」と同じ質問をしたところ,食生活,衣類,親族・近隣との付き合い等の面で明らかに水準の低下が見られます(資料7・山田壮志郎日本福祉大学准教授による2016年6月11日引下げアカン!関西交流集会における報告レジュメ「生活保護基準引下げ違憲訴訟原告アンケート分析報告」)。国においても,同様に,2010年と同じ調査をすることで,生活保護基準引き下げの影響の有無を検証すべきです。

3 検証方法について

生活扶助基準を検証するにあたっては,問題が多い第1十分位(下位10%)との比較という手法は止め,何が健康で文化的な生活なのかを具体的に検討する手法を開発し,その新たな方法によって今回の検証を行うこと。

【理由】
 第1・十分位世帯の中には,膨大な漏給層(生活保護基準以下の生活水準の層)が含まれており,前回の部会報告書においても,「第1・十分位の等価可処分所得の平均は92万円,最大では135万円となっている。これは第1・十分位に属する世帯の大部分はOECDの基準では相対的貧困線以下にあることを示している」と指摘されています。このような所得水準の層と比較すれば,生活保護基準引き下げの方向に導かれることが目に見えています。
 本来,水準均衡方式とは,「一般国民の消費水準(全世帯の平均的消費水準)」と比較し,それの6割程度に達していることをもって生活扶助基準の相当性を判断する方式です。基準部会報告書においても,「全所得階層における年間収入総額に占める(略)構成割合の推移をみると,中位所得階層である第3・五分位の占める割合及び第1・十分位の占める割合がともに減少傾向にあり」,全世帯の平均的消費水準との対比における第1・十分位層が占める位置が相対的に低下していることから,「これまで生活扶助基準検証の際参照されてきた一般低所得世帯の消費実態については,なお今後の検証が必要である。」と指摘されていることからしても,今回の検証に際して,第1・十分位を比較対象とすることは許されないと考えます。

4 有子世帯への扶助・加算

一般低所得世帯の子どもとの均衡から安易に基準を引き下げることがあってはならず,子どもの貧困対策の推進に関する法律が求める,貧困の連鎖・貧困の固定化を防ぐ観点から,子どもの最低生活費がどうあるべきかを検証すること。

【理由】
 私たちは,今般の検証において,母子加算の再度の廃止等有子世帯の扶助・加算の削減が既定路線とされているのではないかと強く懸念しています。
 実際,5月27日の基準部会において,鈴木保護課長は,「全体として世帯としては子どもの育成をしていただくということでありますので,そういう意味で,高さを切り離して議論をしてはいけないのではないかと」,「高さ,家計全体を見なければいけない」,「生活保護世帯の中で今の加算が本当にフェアなのかとか,(略)そういう意味では予断なく見直しの検討をする」と母子加算等有子世帯の扶助基準全体の「高さ」を問題にし,引き下げに誘導したい意向をにじませています。

以 上


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