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「再稼働危ない」防災のプロが訴える理由

 元四国電力社員の松野元さん。その著書「原子力防災」は、福島原発事故を警告していた書として注目をあびた〔私も同書で基本的なことを学んだ〕。
先日「推論 トリプルメルトダウン-- 原子炉主任技術者が福島第一原発の事故原因を探る」を出版。同氏のインタビューが朝日に掲載された。
 事故原因がわからないままの再稼働らついて「ブレーキのないバスが走り出してしまったような感覚」と指摘。そして何故、津波が来る前に「緊急炉心冷却システム(ECCS)」が起動しなかったのか、を追及し、それが「炉」の損傷を避けるために、極力ECCSを動かせない運用…人災ではないか、と推論している。

【『「再稼働危ない」防災のプロが訴える理由』 2016/9/30 朝日】
【原子力防災~リスクと向き合うために 松野元 (メモ)2012/8】

【『「再稼働危ない」防災のプロが訴える理由』 2016/9/30 朝日】

「5年前の東京電力福島第一原発事故の原因がいまだに特定できていないのに、原発の再稼働を進めていいのか――。元四国電力社員の松野元さんは、このほど出版した「推論 トリプルメルトダウン」(創英社/三省堂書店)で、事故原因をめぐる数々の疑問から警鐘を鳴らす。本の副題は「原子炉主任技術者が福島第一原発の事故原因を探る」。原子力防災の専門家として、3基(トリプル)の原子炉がメルトダウン(炉心溶融)する中で、なぜ緊急炉心冷却システム(ECCS)を起動しなかったのかを追究している。そうした作業から何が見えてきたのか。松野さんに聞いた。

■元四国電力社員・松野元さんに聞く

――原子力防災の専門家からしても、再稼働は危ういと?

「私は、あと数十年、再稼働を認めることはないだろうと考えていました。なぜなら、福島第一原発事故の原因が特定され、それを踏まえた対策が取られて初めて再稼働できると思っていたからです。でなければ、次の事故を防げません。なのに、そうした作業をなおざりにしたまま、再稼働の動きが速まっています。ブレーキのないバスが走り出してしまったような感覚です。これではいけない、と思ったことが、この本の執筆動機です」

「とくに国会や政府の事故調査委員会の報告書は、なぜ事故にいたったのか、なぜ事故が拡大したのか、肝心のプロセス(過程)の解明が不十分でした。それは私のような専門家が、疑問を持って関係者に聞いていないからです。そうした面からも、まずいと思ったのです」

「ところが、調べ始めて驚いたのは、事故にかかわる重要な記録、データ、そして議事録が残っていなかったのです。誰かが大事な部分を、ごっそり消去してしまったという感じです。それで、やむなく、公表データなどをベースにしつつ、私なりに、疑問点を整理し、事故原因に迫ろうと推理を重ねました」

――とりわけ事故の原因に絡んで、大量の冷却水を一気に注入する緊急炉心冷却システム(ECCS)を起動しなかった点を、丹念に考証されていますね。

「津波が来る前にECCSを起動しなかったことが事故原因を探る最大のカギです。ECCSこそ、原子炉を冷却する『伝家の宝刀』です。例えて言えば、ECCSは将棋の飛車や角に当たります。原子炉隔離時冷却系(RCIC)の性能はその10分の1で、時間稼ぎしかできません。非常用復水器(IC)にいたっては、野球の控えの選手のようなものです。なぜ、ECCSを早く起動しなかったのか、大きな疑問です。津波が来る前なら、ECCSを起動させる直流電源があったのです」

「国内のECCSの作動例を調べると、過去に5件あります。うち2件は東電福島第一原発の2号機で、ECCSの主力である高圧注水系(HPCI)が1981年と92年の2度、動いています。この時は、RCICも同時に動いています。これが外部電源が喪失して緊急停止した時の、世界の標準的な対処方法だと思います。ところが、東電は肝心の2011年3月11日の福島第一原発事故の時、このHPCIを動かしていないのです」

「福島の原発事故時の炉心冷却の対応を整理すると、1号機はICが自動起動しただけで、HPCIは動かしていません。2号機はRCICを運転員が手動起動しましたが、HPCIは動かしていません。3号機は、RCICを手動起動した後、3月12日昼になって、HPCIがようやく自動起動するのですが、タイミングが遅く運転が不安定で運転員が停止させました。こんな状況で、冷却機能はまったく不十分でした」

■30分ルールなどない

――この「疑問」に絡んでですが、本書は1993年、原子力安全委員会の作業部会が打ち出した「30分程度の全交流電源喪失に備えればよい」とするルールに注目していますね。

「原子力の世界にそんな『30分ルール』はありません。考えてはいけない『禁じ手』です。私は、これが根拠になって、福島第一原発事故の際、ECCSを起動しなかったのでは、と疑っています。日本は技術力が世界一で、停電がすぐ収まるので大丈夫だ、と。これが国会事故調の言う『人災』の始まりだったのでは、と私には思えるのです。なにやら、連戦連勝におごって大敗を喫した70年余り前のミッドウェー海戦のような話です」

「気になるのは、『30分ルール』が定まったのが、1993年ということです。そのとき、東電の規制当局への働きかけがあったのではないでしょうか。先ほど、福島第一原発2号機でECCSが81年と92年の2度、作動したと言いましたが、東電はこれを『誤作動』と認識してしまった可能性があると私は見ています。ECCSであるHPCIは大量の水で原子炉を冷やすので動かせば炉の寿命を縮めることになります。誰だって『誤作動』による起動は避けたいはずです」

――福島第一原発事故の9カ月前の2010年6月17日のことになりますが、本書は福島第一原発2号機の電源喪失時の対応も問題視しています。この時、作業員はECCSではなく、RCICを単独で手動起動させ、それでその時は収束したとされています。

「この『6・17』の対応こそ、前述の『30分ルール』が正しいという証明となってしまい、あしき成功体験になってしまったのかもしれません。確かに、この時はRCICを動かすだけで事態は収束しています。これは、9カ月後の2011年3月の時と違って、電源が30分程度で回復し、あらゆる冷却機能を総動員できたからです。しかし、逆にこの時、外部電源を喪失しても、RCICさえ動かせばECCSは起動しなくていい、という間違った考えが根付いたのではないか、と思えるのです」

「5年前の福島第一原発事故は、関係者が、この『6・17』の経験をなぞるように対処しようとしたと私には見えます。しかし、『6・17』と違って、福島では発電所への送電線の鉄塔が倒れ、そして津波に襲われ、電源は30分で回復しませんでした。そう考えると、福島の原発事故は、1993年の『30分ルール』が出発点で、この2010年の『6・17』がその運命を決めたと思えてなりません」

■電力会社こそ避難路整備を

――ところで、かつて働いていた四国電力ですが、今年8月、伊方原発3号機が5年4カ月ぶりに再稼働しました。これにも、いくつもの疑問を投げかけていますね。

「例えば、米国ニューヨーク州のショーハム原発は、避難計画が時速100キロで逃げないといけないような非現実的なものだったので、一度も稼働せずに廃炉となりました。避難計画の不首尾から廃炉にしたのです。そうした覚悟を我が国の関係者は持っているでしょうか。伊方原発では、避難道路が脆弱(ぜいじゃく)だと問題になっています。ならば、四国電力こそ、国や県に避難道路をきちんと整備してください、できないなら再稼働しません、と言うべきです。安全の一義的な責任は電力会社にあるとされています。なのに再稼働ありきで動いているのが残念でなりません」

「伊方原発の数キロ北には、国内最大規模の活断層『中央構造線断層帯』が走っています。これに対して、しっかりした地震対策をしたのでしょうか。四国電力は、『強固な岩盤の強さ』に依存して、十分な地震対策を避けているように見えます。中央構造線が動いた時のデータはないのですから、えたいの知れないものとして、備えを厚くするべきです」

――四国電力の社員やかつての同僚の方から批判や反論はありませんか。

「ありません。もし、次の巨大な事故を四国電力が起こしたら、四国電力の社員が路頭に迷うことになります。だから、私はむしろ彼らのことを思って、この本も書いたと言ってもいいぐらいです。愛媛県は私の出身地です。その愛媛県の知事は、伊方原発について『最高の安全対策』が施されているとして福島と同じことは起きない、と説明しています。しかし、その福島の事故原因が本当に解明できたとは私には思えないのです。」


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