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相模原事件 格差社会と社会的排除

この事件で、以前書いた備忘録を思い出した。
イギリスのリチャード・ウィルキンソン教授の「格差社会の衝撃」。ナチスがホロコーストを起こした社会的心理を分析するのに用いた「自転車反応」。階層性の強い権威主義的社会では、人は上位の者に対し、(自転車競技の選手のように上半身を前に傾け)頭を低く下げ、一方、(下半身はペダルを漕ぐように)下位の者を足蹴にする、というもの。そして、「自転車反応」が蔓延する社会では、社会的排除の傾向が強まることは容易に想像できる/ 一部の人を排除する社会は、その他の人々にも住みにくい社会と指摘する。
【格差が社会を不健康にする~社会的包摂を/阿部彩(メモ)2012/2】
http://wajin.air-nifty.com/jcp/2012/02/post-a2f6.html
 危険思想は、そもそも精神疾患なのか。「措置入院の見直し」など、本質を歪曲、隠蔽し、排除を強める社会は、明らかに間違っていると思う。関連する記事。

【相模原事件は措置入院解除のせいじゃない、警察の捜査ミスだ! いたずら殺害予告は逮捕しても植松容疑者は放置 リテラ7/31】
【植松容疑者はそもそも精神疾患なのか? 新精神医療ルネサンス 読売8/3】
【相模原殺人 「多くの人は暴力とは無縁」専門家が精神障害者への偏見を懸念〈週刊朝日8/5〉】

【相模原事件は措置入院解除のせいじゃない、警察の捜査ミスだ! いたずら殺害予告は逮捕しても植松容疑者は放置 リテラ7/31】

神奈川県相模原市の障がい者福祉施設「津久井やまゆり園」で起こった殺傷事件をめぐって、「措置入院」問題がクローズアップされている。3カ月前、植松聖容疑者が「他害の恐れあり」として措置入院になっていたのに、13日間で退院させたことについて、マスコミがこぞって批判の声を上げているのだ。
 新聞やワイドショーも、「措置入院させても『人権』の問題で退院させざるを得ない」という主旨の専門家のコメントを紹介し、まるで「措置入院制度の不備のせいで事件が起きた」かのような主張を展開している。
 いや、マスコミだけではない。安倍晋三首相も今月28日、関係閣僚会議でさっそく措置入院のあり方の見直しなどを指示し、厚生労働省も入院解除が妥当だったかどうかの調査を行うと発表した。
 今回の事件は、明らかに社会にはびこる弱者排除の風潮と自民党=安倍政権の障がい者切り捨て政策に影響を受けたヘイトクライムなのに、そこにはまったく触れず、すべての原因が措置入院であるかのような論調が形成されているのだ。

 しかし、はっきり言うが、今回の事件は措置入院制度とは何の関係もない。もし事件を未然に防げる可能性があったとしたら、それは措置入院以前の段階であり、責任はその段階で捜査を怠った警察にある。
 周知のように、植松容疑者は衆院議長宛てで、差出人として自身の名前と住所、勤務先を明記した上、詳細な障がい者施設殺戮予告の手紙を渡していた。そこには、実際の犯行とまったく同じ手口の障害者大量殺戮の詳細な計画の予告が書かれ、「津久井やまゆり園」ともうひとつの施設を、具体的なターゲットとしてあげてもいた。
 普通なら、これは「威力業務妨害」や「脅迫」で即、逮捕される案件であり、植松容疑者はこの段階で逮捕されているべきなのだ。
 実際、これまでもSNSや脅迫状などで有名人や公共施設での殺人、爆破予告などをして、威力業務妨害や偽計業務妨害、脅迫で逮捕されたケースは山ほどある。

たとえば、「明日にしお(注:愛知県西尾市のことと思われる)で3人殺します」と2ちゃんねるに書き込んで偽計業務妨害で逮捕されたケース、同じく2ちゃんねるに「今から大量の子供を殺す。準備万端だぜ」と書き込んで威力業務妨害で逮捕されたケース、「ディズニーランドで客刺し殺してくる」と携帯の掲示板に書き込んで威力業務妨害で逮捕されたケースなど、今回の植松容疑者の予告文よりずっと具体性がない、ただのいたずらに対しても警察は厳しい姿勢で臨み、身柄を拘束してきた。
 しかも、摘発対象は殺人や爆破といった、明確な犯罪予告だけではない。昨年6月には、2ちゃんねるの掲示板で、秋篠宮家次女の佳子内親王について、「逆らえないようにしてやる」「ICUには同志の仲間がたくさんいる」という書き込みをしただけで、43歳男性が偽計業務妨害で逮捕された。同じく昨年5月には、ドローンを各地で飛ばしていた15歳の少年が「東京・浅草神社の三社祭に行く」とネット配信しただけで威力業務妨害の容疑で逮捕されている。
 さらに、相模原事件後の29日には、横浜市内の障がい者施設に対して、「破壊しに行きます」とメールを送った男が神奈川県警に逮捕されている。

 ところが、植松容疑者について、警視庁はまったく捜査に動いていないのだ。繰り返すが、植松容疑者の予告文のほうが前述した逮捕事件よりもはるかに具体的であったにもかかわらず、だ。
 仮に植松容疑者に精神疾患の可能性があったとしても(実際には病歴はなかった)、事情聴取くらいはすべきだと思うのだが、警視庁はそれすらしていない。神奈川県警に情報提供しただけ。その後、植松容疑者が同僚に障がい者の殺害を示唆したことで、施設が神奈川県警に通報。県警から自治体に報告が上がり、措置入院が決定されたが、もっと前の段階で、少なくとも事情聴取には踏み切るべきだったのだ。

 これは明らかに、警察、とくに警視庁の捜査怠慢だろう。佳子内親王やディズニーランドについては具体性がなくても容疑者を逮捕しているのに、今回は事情聴取すらしない。このあまりに違う扱いを見ていると、警察自体が自民党の極右政治家たちやネトウヨ同様、障がい者の安全について重視しておらず、心の底で「障がい者は殺されてもかまわない」と考えているのではないか、と指摘したくなるくらいだ(29日に障がい者施設破壊予告の男を逮捕したのは、相模原事件後であり、批判を受けないように対応しただけだろう)。

 しかも、テレビや新聞はこうした警視庁の捜査批判を一切していない。なぜか。キー局の社会部記者がため息まじりにこう語る。
「いまのマスコミ、とくにテレビは警察の捜査批判は絶対できませんよ。県警クラスならまだ、場合によっては捜査批判をすることもありますが、警視庁については絶対タブーです。警視庁はマスコミにとっていちばんの情報源であり、いま、公安部は完全に安倍政権の別働隊になっている。批判なんかしたら、どんな嫌がらせをされるかわからない。現場がやろうとしても、報道局の幹部が絶対に抑えにかかるはずです。とくに、今回の相模原の事件については、政府も警察も一切捜査ミスを認めず、措置入院問題に話をずらしていっていますからね。マスコミも右にならえ、ということなのでしょう」

 つまり、「措置入院見直し」は警察の捜査ミスを隠蔽するためにもち出された話であり、マスコミはそれにまんまと乗っかっているだけなのだ。
 しかも、いま、議論されているその措置入院制度の見直し論自体が明らかに的外れなものだ。自民党の極右政治家、保守系マスコミは、措置入院の強制性を高めろ、と叫んでいるが、これは日本も批准している国連の障害者権利条約の条文《いかなる場合においても自由の剥奪が障害の存在により正当化されないことを確保する》に逆行している。

 そもそも日本は、先進国のなかでも精神科病院の患者入院日数がダントツで長く、人口1万人あたりの病床数も1位というランクを独走しつづけている“精神保健後進国”だ。こうした日本の対応は、WHO(世界保健機関)より、“社会に開かれた療法を取り入れることによって入院の増加を防ぐべき”などとする勧告を受けてきた。
 しかも、これはたんに人権侵害の問題だけではない。治療の実効性という意味でも入院の強制性を高めることは逆効果だというのは専門家の間で常識となっている。現に、戦後の先進国の精神保健は、施設収容ではなく地域中心の継続的なケアに重点が置かれるようになっている。

 そんな現実も知らずに、ひたすら「精神病患者を閉じ込めろ」と時代錯誤の主張を叫ぶ自民党政治家と右派マスコミ。ようするに、連中は今回の事件を政治利用して、人権制限の口実にしたいだけなのだ。実際、山東昭子参院議長などは、精神疾患の患者とはまったく関係のない性犯罪者対策として導入されている「GPSを使った監視」をもち出し、「人権という問題を原点から見つめ直すときがきている。ストーカーもそうだが、人権という美名の下に犯罪が横行している」といったとんでもない主張を当たり前のように語っている。
 繰り返しておくが、今回の事件は明らかなヘイトクライムだ。植松聖容疑者が措置入院中に「ヒトラーの思想が2週間前に降りてきた」などと病院の担当者に語り、友人や理容室の店員に「障がい者は国にとって無駄な金じゃね?」「(障がい者)ひとりにつき税金がこれだけ使われている」「何人殺せばいくら税金が浮く」と語っていた。こうした思想は、安倍政権の閣僚や自民党の極右政治家たち、そしてネトウヨたちももっており、植松容疑者は明らかに影響を受けている。

 それがまったく語られず、逆にここぞとばかりに、精神障がい者の人権制限が大きな声で叫ばれる。いったいこの国はどうなってしまったのだろうか。

【植松容疑者はそもそも精神疾患なのか? 新精神医療ルネサンス 読売8/3】

 2016年7月26日未明、相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が死亡、26人が重軽傷を負う殺傷事件が発生した。逮捕された植松聖容疑者は、精神疾患のために危険思想にとりつかれ、凶行に及んだかのように一部では語られている。そのため、事件前に植松容疑者の強制入院(措置入院)を短期間で解除する判断をした大学病院や担当医にも、非難の声が浴びせられている。

 だが、我々は根本的な部分から冷静に見直す必要がある。「植松容疑者は本当に精神疾患だったのか」と。

 「ヒトラーのような危険な考えを抱くこと=精神疾患」ではない。精神疾患は通常、脳機能の一部に病的な変化が起こって生じるものと考えられるが、障害者蔑視などのゆがんだ考えは、病気の有無とは関係なく生じるものだからだ。「殺人行為=精神疾患」でもない。世界各地を恐怖におとしめているテロリストは、著しくゆがんだ考えに基づいて一般市民を殺傷する。だからといって、それだけで精神疾患とは言えない。

 植松容疑者は、大量殺人をほのめかす言動と、血液・尿検査での大麻陽性反応があり、措置入院となった。だが、診察した2人の精神保健指定医(緊急措置入院を入れると3人)の診断名は、全て異なっていた。薬物の影響に詳しい専門家は「大麻の使用で思考までゆがむとは考えにくい」としている。危険ドラッグの使用歴を指摘する声も気になるが、事件との関連はまだはっきりしない。

 憲法で保障された人身の自由を制限する措置入院は、精神疾患のために自分や他人を傷つける恐れが生じ、治療が欠かせない場合に限って認められる。だが、前回の光トポグラフィー検査の記事でも指摘したように、精神科には精神疾患か否かを正確に判断する検査機器はなく、病名は症状を踏まえた医師の判断で決まる。そのため、医師の恣意的な考えが入り込む余地がある。もし、2人の精神保健指定医が「この人物は殺人を犯しかねない危険な発言が目立つので、このまま社会に置いておけない」と社会防衛的に考えれば、本当に精神疾患なのかどうかはともかく、ひとまず妄想性障害などの病名をつけて措置入院を実行できる。

 ただし、措置入院は症状が治まればただちに解除しなければならない。植松容疑者は医師を欺くため、危険な考えが治まったかのように振る舞ったと伝えられている。深刻な病的妄想が続いていれば、冷静な演技は難しい。担当医が演技の可能性を感じていたのかどうかは分からないが、いずれにしても措置入院を継続するほどの症状はなくなったとみて、精神保健福祉法に基づき、通常どおりの解除を行ったのではないか。

■危険思想は精神科では治せない

 植松容疑者が措置入院した大学病院は、以前から精神科医の面接力向上などの教育に力を入れていた。精神科教授自らが、患者の協力を得て定期的に模擬面接を行い、それを医局員に見せて内容を評価させる斬新な取り組みも進めてきた。そのような病院だからこそ、患者の症状と人権を考慮して、迅速な措置解除に踏み切った側面もあるのかもしれない。

 精神科は、精神疾患とそれに伴う病的妄想などを治す場所であり、病気の影響とはいえない危険思想までも改めさせる場所ではない。大量殺人を予告していた人物に、もう一歩踏み込んだ対応をしなかった警察の姿勢こそ、真っ先に検証が必要と思われるが、それは棚に上げて、精神科にヘイトクライムを止められなかった責任まで押しつけるのはいかがなものか。

 ゆがんだ正義感を募らせ、計画的な犯行に及んだかのように見える植松容疑者の心の内は、まだ闇に包まれている。それなのに、犯行の原因を精神疾患と決めつけ、他の強制入院患者までも危険視する兆候が一部に見られるのは恐ろしいことだ。横浜市で開かれた精神疾患患者らの集会で、男性患者はこう語った。
 「障害者を不必要な存在とみる植松容疑者の考えは許し難い。ですが、決して特異な考えではなく、私が実際に味わった様々な差別体験からみても、同様の考えを持っている人はたくさんいます。支援に金がかかる障害者などいらないという発想は、精神疾患患者よりもむしろ、健康な人が抱いているのではないでしょうか」

 社会に広がる深刻な差別意識からは目をそらし、事件の責任を精神疾患や精神科に押しつけて分かった気になり、解決を図ろうとする社会の在り方は到底受け入れられない。圧倒的大多数が凶悪犯罪など起こさない精神疾患患者を、不当に危険視する流れが強まり、近年著しく減っていた措置入院の数が再び増加に転じるとすれば、我々は、植松容疑者が望む障害者排除社会にまた一歩近づくことになる。

【相模原殺人 「多くの人は暴力とは無縁」専門家が精神障害者への偏見を懸念〈週刊朝日8/5〉】

 7月26日未明に起きた、相模原・障害者施設19人殺害事件。凶行に及んだ植松聖(さとし)容疑者の言動から、精神疾患の疑いが出てきている。

 これにより、国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部部長の松本俊彦氏は、精神障害者への偏見を危惧する。

 精神障害者が暴力行動に出る確率は、健常者よりむしろ少ないといわれています。多くの人は暴力とは無縁で、家に引きこもりがちになります。まれなだけに、精神障害者の暴力行動を科学的、統計学的に予測することはきわめて難しいのです。

 措置入院の際に妄想性障害などと診断されていますが、現時点の情報では、医療が有効な病態なのか、そもそも医療の対象とすべき病態なのか判断できません。もしかすると加害者は、危険な思い込みを持っていて、大麻などの薬物によって一時的に気分が高揚し、犯行におよんだ可能性はあります。ただ、大麻の影響だけでは到底説明がつきません。

 難しいのはその「危険な思い込み」です。例えばヒトラーの優生思想を例にとっても、それが思想なのか妄想なのかの区別は難しい。妄想ならば医療の対象ですが、思想ならば医療の対象とはなりません。
 衆議院議長に宛てた手紙の内容を見て言えることは、「自分は特別」だという意識が非常に強いこと。自己評価がとても高いということが見受けられます。「安倍晋三様のお耳に伝えて頂ければ」という部分には、自分の考えの正しさを強く確信していて「自分が話すべき相手は国家元首レベルである」という特権者意識が見え隠れしているように思います。

 池田小学校の児童殺傷事件や秋葉原の無差別殺傷事件などの大量殺人事件と共通する点は、やや乱暴な言い方ですが、加害者が「正常ではないが、病気でもない」ということ。専門家を含め、にわかに理解しがたい行動なのです。それだけに、こう対処すべきと指針を打ち出すのが難しい。

 今、とても心配しているのは、精神障害者や薬物依存者に対する偏見が、事件によって加速してしまわないかという点です。実際に、一部の薬物依存症リハビリ施設から「これまで会合に使わせてもらっていた外部施設が、事件を機に借用を断られるようになった」との声も聞きました。それこそ、必死で治療を頑張っている精神障害者や薬物依存者を排除する動きが強まり、彼らの社会復帰が妨げられてしまう事態が起こらないか、非常に心配です。

 今年4月に障害者差別解消法が施行され、やっと少しずつ偏見が解消される方向に進んでいる。今回の事件が、そうした流れを後戻りさせるような影響を及ぼさないことを願うばかりです。


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