南シナ海。仲裁裁判所判決 竹島・沖の鳥島も「岩」
南シナ海のハーグ仲裁裁判所は、中国の主張を根拠がないと退けた。当然である。地中海をイタリアやエジプトがかつて支配していた、と領有権を主張するのに等しいから。ただ海洋条約第298条は「海洋の境界画定に関する紛争」については、いずれの国も拘束力を有する解決手続きを受け入れないことを宣言できる、との規定があり、道義的圧力となってはいるが、拒否することもまた、権利として留保されているとのこと。
「ルールを守れ」というアメリカはそもそも海洋条約を批准もしていないし、アメリカがニカラグアの反政府勢力支援は、違法とした国際司法裁判所の判決を受けていない。2度の安保理決議案、4度の国連総会決議も反対・無視した。日本も米国に同調した。こうした二重基準が混乱を深くさせている。
ところで、この判決は、南沙諸島について、排他的経済水域の拠点となる島は存在しない、すべて岩と認定したことだ。島について「自然状態で人間の集落が存在できる」という条件をつけた。
0.5平方キロの太平島は、滑走路も巡視船の突堤もあるが、井戸が飲料に不適で人は住めないとされた。これでは、沖の鳥島はもちろん、0.23平方キロしかない竹島も岩になる。
「中国に仲裁判定守れ」というのは、こういう意味がある。脅威をあおるだけでなく〔これで利益をあげる輩がいる〕、紛争を戦争にさせない冷静な努力、当事者を軸にした粘り強い話しが重要である。
南シナ海問題が、中国でどう報道され、見られているか、というレポートも、情報を複眼視する上で興味深い。
【仲裁裁判所の画期的判決で「竹島」はただの“竹岩”? 毎日8/6】
【中国、南シナ海問題での意外な思考原理と日本への本音 ダイヤモンドオンライン7/7】
【仲裁裁判所の画期的判決で「竹島」はただの“竹岩”? 毎日8/6】2016年8月6日 金子秀敏 / 毎日新聞客員編集委員
「南シナ海は中国の海」という中国の主張を、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が「根拠がない」と判決した。波紋はその後も広がっている。
中国は「判決を認めない」と激怒して、7月24日、ラオスで開会した東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議で切り崩しに出た。カンボジアは中国から6億ドル(約600億円)の援助をささやかれ、中国擁護の先頭に回った。仲裁裁判を申し立てた当のフィリピンまで「中国はマネーがある。米国にはない」(ドゥテルテ大統領)と中国にすり寄った。
では中国はこのまま南シナ海の不法占拠を続けられるのかというと、それほど簡単ではない。仲裁裁判所は国連海洋法条約の定める裁判機関、つまり公式レフェリーだ。レフェリーが反則の笛を鳴らした以上、態度を改めないと国際社会からブーイングを浴びる。サッカーと違って退場命令はないが、反則を消すことはできない。◆「南シナ海の島々は、すべて岩」なら竹島と沖ノ鳥島は?
ところで、仲裁判決は中国以外の国々にも由々しい問題を突きつけている。島と岩の区別だ。この影響の大きさが見落とされている。そこで"透視術"。この問題は竹島に飛び火して、「竹島」はいつか「竹岩」になる−−。
海洋法条約では、島はその周囲200カイリに排他的経済水域(EEZ)を設定して漁業や海底鉱物の採掘などができる。一方、岩にはEEZが設定できない。海洋権益で島と岩では雲泥の差だ。では島と岩をどう区別するのか。今回、仲裁裁判所は画期的な判断を下した。「形が島でも、自然状態で人間の集落が存在できなければ岩である」−−飲料水や食糧を持ち込んではだめ、埋め立てもだめ。この結果、南シナ海の島々は、すべて岩と認定された。
中国やベトナムなどは島争いのほかに、「島」を起点に設定したEEZの線引きが重なり合って紛争になっているが、「岩」ならEEZそのものが無効となるので、EEZ区割り紛争も消える。大岡裁きのような不思議なことになった。
判決は、台湾が実効支配するスプラトリー(南沙)諸島の「太平島」(英語名、イトゥアバ)を「岩」と認定した。面積0.5平方キロ、滑走路も巡視船の突堤もある。しかし井戸が飲料に不適で人は住めないとされた。台湾では馬英九前総統が「太平島が岩なら沖ノ鳥島はもっと岩だ。EEZは認めない」と矛先を日本に向けた。これから面倒になりそうだ。◆もし竹島が「岩」と認定されると……
もっと面倒なのは面積0.23平方キロの竹島(韓国名、独島<トクト>)だろう。そもそも竹島の海図名は「リアンクール・ロックス」という。「リアンクール」とは幕末、この名を付けたフランスの捕鯨船。当時、島に集落があったという記録は日本にも韓国にもない。仲裁裁判になれば岩と認定されて、EEZは認められない。
竹島の位置は日韓両国の海岸線からほぼ等距離。島なら日韓のうちEEZを設定した国が日本海西部の海洋権益の大半を握るが、岩とされれば権益は一気に縮小する。これはなかなか難問だ。
【中国、南シナ海問題での意外な思考原理と日本への本音 ダイヤモンドオンライン7/7】陳言 [在北京ジャーナリスト]
国連の安全保障理事会は1ヵ月ごとに議長国が入れ替わるが、7月1日から日本が議長国になった。別所浩郎・国連大使は、さっそく記者会見を開き、中国が領有権を主張している南シナ海問題について「強い関心を持っており、要望があれば、国連安保理では同議題を討論する用意がある」と述べた。中国のテレビではその会見の映像を繰り返し放映している。
同時に、カンボジアのフン・セン首相が現地のイベントで「日本大使が経済支援を餌にして南シナ海問題について日本の主張を支持してもらいたがっている」と語った映像も放送されている。
南シナ海問題では、フィリピンが中国を相手どってオランダ・ハーグ常設仲裁裁判所に訴訟を提起しており、7月12日にその判断が下る予定だが、実は北京で報道に触れる限りでは、南シナ海問題で中国と対峙している国として話題に上るのは、アメリカ、日本ぐらいで、フィリピンはそれほど多くメディアには登場していない。
中国はまったくフィリピンを批判していないわけではないが、当事国同士で話し合いによって南シナ海問題を解決していきたいという姿勢は変化していない。また、多くの報道は、南シナ海問題は当事者同士の交渉によって解決すべきと主張している。
筆者が中国で接し得る日本の報道は限られているが、中国と日本で世論はかなり異なっているように思う。当然ながら、それぞれの国民の相手国に対する感情は、こうした世論の影響を強く受けていると思われる。
筆者は中国の南シナ海での行動について全面的に賛同しているわけではない。また、日本が南シナ海問題に対して、他国と連帯をとって中国包囲網を作っていこうとする思惑について分析するつもりもない。あくまでここでは、中国は南シナ海問題でなぜ今のやり方しか取らないのか、中国の専門家の意見などをまとめるに留めたいと思う。
◆ なぜ中国ばかりが「独善的」と言われるのか ベトナム、マレーシア、フィリピンは?
筆者が接する限り、日本における南シナ海における埋め立て関連の報道は、もちろんベトナム、フィリピンについて言及することもあるが、全体のイメージとしては「中国だけ独善的に埋め立ている」とするものが多い。特に空港建設については、ベトナム、マレーシアのケースに触れているものはほぼない。
これは中国での報道とはかなり異なる。中国では「陸域吹填(暗礁埋め立て)」という言葉をよく使う。これはかなり専門的な言葉であり、海浜や島嶼等で大型浚渫船等の専門工事の機械を利用し、囲い堰、浚渫、埋め立ての3段階を経て、陸地面積を拡大することを指す。
暗礁埋め立ては、ベトナム、マレーシア、フィリピンと台湾はいずれもきわめて早い時期からやっており、それぞれ、空港も作っている。それに対し中国は、国力の増大に伴い、遅ればせながら動き始めた。南沙諸島の主権と海洋権益を守る上で、さらに南沙諸島で自己の実力に相応した存在であることを示すために、2013年末から暗礁埋め立て、さらに滑走路建設に着手したのである。
確かに埋め立てで中国は立ち遅れたが、いったん動き出すと、その規模の大きさと、工事の速さに、関係国や国際社会が驚いているというのが現状だ。
中国での報道によると、南沙諸島は合わせて50の島嶼、岩礁からなる。現在、実効支配している国の内訳は、ベトナムが29、マレーシアが5、フィリピンが8、中国が7、台湾が1となっている。出遅れてきた中国は数の面では少なく、ベトナムが約3分の2の島を占用しているのだが、日本の報道ではこうした数についてはあまり問題にされていないようだ。
また、南シナ海には4つの諸島(東沙、西沙、中沙、南沙)があるが、各国の紛争の重点は南沙諸島にあり、各国の主張は幾重にも重なっている。
ベトナムが実効支配している南威(チュオンサ)島には既に空港が設置され、住民がおり、軍隊も駐留し、南沙諸島指揮部はこの島に置かれている。フィリピンも中業(パグアサ)島に同様の構造物を作っている。マレーシアは弾丸礁(ラヤンラヤン島)で大規模な建設工事を行い、空港、港湾を建設し、旅館まで作り、世界的に有名なダイビング基地に変えてしまった。
これを報道する中国メディアは、「米日欧のメディアが中国だけを指弾するのは公平とはいえない」と心の中では思っている。◆ 域外国が乱入、関与するから 事態が国際化し、複雑する
中国が南シナ海での領有権を主張する際の根拠としている9本の境界線、いわゆる「九段線」は日本のメディアでもしばしば登場しているが、ここで九段線について少し説明したい。
まず、九段線は、国民党政府が1945年から主張しているものであり、現在、中国大陸を支配している中国共産党政府もそれを継承している。ただし、中国は九段線の意味について明快な説明はしておらず、中国政府が「九段線がわが国の海上の境界線である」と言ったこともない。むしろ日本の報道によって、九段線が中国の海上の境界線と思われている面がある。
しかし、いずれにせよ1982年に採択された「国連海洋法条約」によって、中国に従来の主張の放棄を要求することは、不可能であろう。中国から見れば、これらは交渉によって解決すべきことである。
そもそも中国は、当事国同士で問題を解決するという原則を1982年以降、ずっと堅持している。2002年、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は「南シナ海における関係国の行動規範に関する宣言 (DOC)」に調印し、領有権を巡る紛争の平和的解決を目指し、敵対的行動を自制することを確認している。その後、各権利主張国が、新たな油田、天然ガス田の開発、新たな建築物の修築、開発のための移民、埋め立ての継続など、現状を変えるような新しい行動を取った際も、中国は比較的抑制的だった。中国は2013年までいかなる石油、天然ガスの採掘も行わず、埋め立ても行わなかったのである。
しかし、こうした状況が長続きすることは不可能であり、不公平であるし、南シナ海紛争の解決にも不利なものであるということで、ここ数年になって中国も行動を取るようになった。
「中国が現在行っていることは埋め合わせ(損失の補償)的なもので、ただ国の能力が異なるため、埋め立て規模が他の権利主張国に比べると少し大きいだけのことである」と、中国社会科学院世界経済・政治研究所国際戦略研究室の薛力部長は中国メディアに話した。
薛部長の理解では、中国の認識は次の通りである。西沙諸島(パラセル諸島)には主権、海洋権益の紛争はないが、南沙諸島には紛争が存在することを認め、交渉を通じて解決することを主張し、国際化と域外国家の関与に反対する──。
「想像してもらいたいのは、もしアメリカと周辺国との間に海洋争議があり、正義を守ると主張して中国が駆けつけて口出ししたら、アメリカはどのような反応を示すだろうか」と薛部長は疑問を投げかける。薛部長の南シナ海に対する立場は、内外の同業者からは、比較的バランスが取れ、温和だと認識されている。その薛部長でさえ、現在のアメリカはやり過ぎだと感じているのだ。米日欧のメディアは「中国が間違っている」と言うが、中国のメディアから見ると、それは公正ではない。中国は「寸土も譲らない」と言ったことはなく、複線思考を提起し、島嶼主権の帰属と海洋境界は直接当事国が話し合い、南シナ海の平和と安定については、ASEANと中国の共同維持、保護によって、非直接当事国が主権帰属の話し合いに入ることはできないと主張しているのである。つまり、域外国は乱入、関与すべきではなく、彼らが入ることによって、南シナ海問題は国際化し、事情をさらに複雑にしている。
◆ 当事国同士による話し合いが 中国の領土問題解決の原則
では、本当に当事国の話し合いによって領土問題を解決できるだろうか。意外に思われるかもしれないが、中国はその原則で近隣国との領土問題を解決してきた。
中国と周辺14ヵ国中、12ヵ国との国境線は既に確定しているが、これらはすべて双方の関係が良好な時に話し合ったものである。その過程において、中国側もある程度譲歩し、先方に対して配慮もしてきた。
薛部長がかつて中国メディアに語ったところによると、「私は中国外交には次のような特徴があると感じている。『あなたは私と良い関係にあり、私の面子を立ててくれれば、それにふさわしい配慮をして、あなたに譲ることくらいは構わない。しかし、あなたが強硬な態度に出るなら、こちらも態度を硬化していく』」。
南シナ海問題では、アメリカ、日本の参入によって、とくに中国にコストを増やす戦略を日米ともに取っている中、中国に譲歩してもらえるかは非常に難しいかもしれない。米日が中国に圧力をかければかけるほど、中国はますます動かなくなるだろう。
アメリカはややもすれば中国が実効支配している島嶼の12カイリ内に軍艦を進入させている。おそらく日本の軍艦もこれからアメリカと一緒に12カイリ内にわざと進入するだろう。逆に日本の領海に中国の軍艦を進入させたら、はたして日本は歓迎するであろうか?6月の幾つかのテストから見て、まったく歓迎されていないことを中国は理解した。今後は日本が中国による実効支配している島嶼の12カイリ内に軍艦を進入させたら、おそらく中国は同じ反応をし、場合によってはより過激に反応するかもしれない。
今の中国のやり方から見て、話し合いたくないわけではなく、南シナ海問題はカバーする面が広く、ゆっくり話し合わなければならないと思っているのだろう。しかし、外部から見れば中国が明確な態度、解決方法を持っているという印象はなく、結局、関係諸国に与えている印象は、中国が解決を遅らせているというものらしい。
中国の専門家の話を聞くと、南シナ海問題はまず政治問題であり、戦略問題であり、その次に経済と法律の問題であるとのことである。中国は同問題を考える場合、南シナ海自身の問題、台湾との関係、ASEAN諸国の態度などの複雑な要素を入れて考える。さらにアメリカ、日本が入ってくると、その戦略的な狙いは何なのかを調べる。アメリカ軍艦が盛んに来ればレーダーを架設し、空港も急いで作る。はじめからベトナム、インドネシアと同様の空港を持ちたかったのかもしれないが、米軍の行動が国内の世論を形成する材料として使われ、一気呵成に空港を作っていく。
軍事的な行動が出てくると、いままで領土問題解決の際に採られてきた「話し合い」という原則が通用しなくなり、さらに国際裁判が加わると、ますます問題が複雑化していく。中国を批判することは簡単ではあるが、批判されている中国には、まったく批判の意味が分からず、米日の行動が撹乱にしか見えず、徐々に敵愾心が高まってくるわけだ。
◆ 米日以外のASEAN諸国とは 新ルールを模索していく
中国の世論から見れば、南シナ海問題で米日は撹乱したいと思っているのに対して、ASEANの主権主張国は、お互いに問題を処理していきたいと思っているように映る。
今後も、米日が中国に対してますます大きな圧力を加えるようであれば、中国をさらに反発させることになるだろう。
一方で中国とASEANの主権主張国は、問題を解決していきたいという思いでは共通しているが、重点の置きどころが異なる。ASEANの主権主張国はお互いの見解の相違などを詰めていこうと考えているが、中国側はそうして「紛争」という部分に焦点が絞られてしまうことは望まず、中国と当事者国の協力拡大によって双方の共通利益の増進に着目し、共通のパイを大きくし、その過程で徐々に南シナ海問題の解決を模索したいと考えていると、薛部長は見る。南シナ海問題の解決には、現在まだその時が来ておらず、少なくとも数年は必要だろう。最終的な結果は各方面の相互譲歩で得られると中国は思っているが、当事国以外の国が盛んに口を挟むことで、解決にはより時間がかかってしまう。
もっともそれは、米日にとっては悪いわけではない。解決の時間が長ければ長いほど、中国の「一帯一路」政策は海の分野ではスムーズで推進できない。中国が海外市場の開拓によって持続的な経済成長を維持することも難しくなる。そうすると、ASEANは中国より米日に依存してしまう。
現在、中国が行っている埋め立ては、実効支配している島嶼、岩礁だけであり、力を使って他国が占領している島嶼や岩礁まで奪ってまで埋め立てているわけではない。また南沙諸島では石油、天然ガス開発を行っておらず、実力を行使して多くの島嶼、岩礁を占領したこともない。
本当に力で現状を変えようとすれば、中国が実効支配していない島嶼、岩礁も埋め立てを行っていくだろう。中国の世論から見れば、そのようなことをしたいわけではなく、自己規制は効いているのだ。フィリピンから提起された国際訴訟に、中国が簡単に応訴できないのはこれが原因だ。
ただし、当事国の話し合いによって南シナ海問題を解決できるだろうか。陸の国境とは違い、そもそも海となると、航行の権利などがあり、複雑化しやすい。中国の、自己規制さえすればいずれは隣国、国際社会に理解してもらえるという思惑、やり方は、もう限界に来ており、新しいルールを中国から提起する時期に来ている。しかし、その新しいルール(当事国の話し合いによる問題解決)を理解してもらうには、今後もしばらく時間はかかるだろう。
最後に蛇足ではあるが、中日関係はもともと転換期にあり、2010年以降、互いに非常に適合しにくくなっている。そこに日本がこれから、国連、ASEAN諸国、日本国内などいたるところであまりにも熱心に南シナ海問題について提起すると、その日本の思惑が中国にとっては理解できることではないだけに、中日関係も一層険悪にさせていく可能性を孕んでいると思われる。もうこれ以上悪化しないよう、願うばかりである。
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