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NHK「貧困女子高生」報道へのバッシング~ 貧困な「貧困」観が根底に

 「子どもの最貧国・日本」の著者、山野良一氏のコメントを紹介した力強い記事。

 餓死するような「絶対的貧困」も存在する日本だが、同番組でとりあげたのは、その社会において、平均的な暮らしを送ることができていないという「相対的貧困」。病院に行く、塾に通う、友達と遊びや修学旅行を楽しむ、希望する進路に進める、という当たり前のことができない状態を問題にしたものである。

 「子どもの貧困」で阿部彩さんが相対的貧困、相対的剥奪など「貧困」とは何かを、社会に大きく問題提起してから8年の月日がたつが、相対的貧困には、何が当たり前か、という社会の合意が前提にある。つまり、バッシングは、相対的貧困への無理解・無視であり、日本社会で「当たり前」の水準が極めて低いこと。ここが問題なのである。そして「自己責任」論が横行する、すべての人々にとって住みにくい社会である、ということ。
【NHK「貧困女子高生」報道へのバッシングは、問題の恐るべき本質を覆い隠した ヤフー8/28】
 参考まで・・・過去にまとめたもの
【「子どもの最貧国・日本」 山野良一  備忘録2008/11】
「子どもの貧困~日本の不公平を考える」 阿部彩 備忘録 2008/12】
【格差が社会を不健康にする~社会的包摂を/阿部彩(メモ)2012/2】
【貧困な「貧困対策」と生活保護バッシング(メモ)2012/10】
【子どもの貧困  1学年だけで「社会的損失4兆円」2015/8】

【NHK「貧困女子高生」報道へのバッシングは、問題の恐るべき本質を覆い隠した】

NHKがニュース番組で紹介した女子高校生に、ネット上で批判が殺到した。NHKは「貧困女子高生」と報じたが「生活に余裕がある」「捏造」という内容だ。【BuzzFeed Japan / 籏智広太】

片山さつき・参議院議員も報道に疑問を呈したことで、事態はさらに炎上した。

バッシングは、本来、NHKが伝えようとした「子どもの貧困」の問題を覆い隠した。なぜ、このようなことが起きたのか。そして、問題の本質とは。

■「経済的に困難な女子高生」への批判

家計が苦しいために、パソコンを購入することはできない。だから、キーボードだけ買って、タイピングの練習をする。進学だって、諦めざるを得ない。

今回、NHKのニュース7(8月18日放送)で取り上げられたのは、母親と二人暮らしをする、神奈川県内の女子高生だ。

「経済的な壁に直面」しているとして紹介されていた彼女。しかし、その部屋のなかに、アニメグッズやイラスト用のペン、エアコンのようなものが映り込んでいたことから、ネット上で「貧しくない」という批判が渦巻いた。

その後、生徒のツイッターアカウントが「発見」されると、炎上は拡大。「アーティストのライブに行っている」「1千円以上のランチを食べている」などと、生活のあらゆる側面がバッシングの対象となった。

この炎上騒動に加わったのが、自民党の片山さつき参院議員。番組放送後、ネット上で批判が拡散すると、こうツイートした。

”拝見した限り自宅の暮らし向きはつましい御様子ではありましたが、チケットやグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思い方も当然いらっしゃるでしょう。経済的理由で進学できないなら奨学金等各種政策で支援可能!”

片山議員はNHKに説明を求め、3日後にその回答を掲載している。

”本日NHKから、18日7時のニュース子どもの貧困関連報道について説明をお聞きしました。NHKの公表ご了解の点は「本件を貧困の典型例として取り上げたのではなく、経済的理由で進学を諦めなくてはいけないということを女子高生本人が実名と顔を出して語ったことが伝えたかった。」だそうです“

■「相対的貧困」への無理解

そもそも今回、NHKが取り上げたのは、「相対的貧困」に苦しむ子ども達の問題を同世代の高校生や教員に発信するために、神奈川県が主催したイベント。女子高生は、そこに参加していた当事者2人のうちの一人だった。

「相対的貧困」とは、その社会において、平均的な暮らしを送ることができていないことを指す。たとえば戦争で焼け出された難民のように、食べるものや着るものに困窮している「絶対的貧困」とは違う。

病院に行けない、進学ができない、満足な学習を受けられない、友達と遊びに行けないーー。貧困状態にない人が当たり前に送っている、そんな生活が難しい人たちだ。
「絶対的貧困」と比べれば、生活の苦しさは伝わりづらい。そうした見えづらい問題を、当事者の高校生自身が伝えるのがイベントの趣旨だった。

神奈川県子ども家庭課の小島厚課長は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

「子どもたちはスマートフォンだって持っているし、着るものもある。食べられなくて飢餓状態にあるわけではない。それでも修学旅行にいけなかったり、大学にいけなかったりして、将来を諦めている。そうした見えにくい貧困の現状を伝えるためのイベントでした」

「高校生の生の声を広げる機会と思っていましたし、イベント自体は大成功でした。バッシングには正直びっくりしましたし、ショックです。『見た目が変わらないから、貧困じゃない』と、問題そのものが理解されず、現実も伝わらなかった。相対的貧困が社会に理解されていないことが露呈した」

当事者の女子高生は大きなショックを受けているという。小島課長は、こう訴える。「顔を出して勇気を振り絞ってくれた彼女の個人攻撃をするのは、本当に辞めてほしい」

■6人に1人の子どもが貧困

日本の子ども貧困率は、想像以上に深刻だ。所得の中央値の半分(貧困ライン)を下回っている「相対的貧困」の家庭にいる子どもは、実に6人に1人、約325万人いるとされている。

内閣府の子ども・若者白書(2015年版)によると、子どもの「相対的貧困率」は、1990年代半ばごろから上昇傾向にある。2012年は、16.3%と過去最悪を更新。1人親世帯に限ってみれば、54.6%と先進国でも最悪水準だ。

経済的理由により学校に通えないため、「就学援助」を受ける小・中学生は約155万人(2012年度)。率でみれば、過去最高の15.64%となっている。

「そういう家庭の所得を計算してみると、子ども1人の一人親家庭で月に14万円代。夫婦と子ども2人だと、20万円代です。そんな人たちが6人に1人いるという現実があるんです」

そうBuzzFeed Newsの取材に説明するのは、子どもの貧困問題に長年取り組み、「子どもの最貧国・日本」などの著書がある山野良一・名寄市立大教授だ。

「さらに、貧困ライン未満の人の所得の中央値を出すと、月々の所得は10万円とか15万円になる。つまり、12人に1人がそれ未満で暮らしている。東京で家族4人が15万円で暮らすことが、果たしてできるでしょうか」

この金額からは税金が差し引かれているが、児童手当や扶養手当は含まれるという。いかに生活に困窮しているのかが、よくわかる。

このような家庭の子どもたちは、病院に行く、塾に通う、友達と遊びや修学旅行を楽しむなどの「当たり前」な暮らしが送れていない。「ワーキングプア」である保護者は、長時間労働ゆえに子どもとの時間が作れない。

そのため、子どもの学力や健康状態、発達状態に悪影響が及ぶケースが多い。

「貧困とはまさに、(NHKが取り上げた)彼女のような状態のこと。お金はなくて、自分が希望する進路が選べない。本当に必要なパソコンなどが買えない。ごく普通の平均的な家族ができることを、できないことなんです」

では、なぜ相対的貧困の子どもたちは「可視化」されにくいのか。

「親が貧困であることを周りに隠してしまう。無理をしてでも、子どもにはいい服を着せようとか、おいしいご飯を食べさせようとか。今回の女子高生のケースでも、本人には、できる限り周囲と見劣りしない生活をさせて、母親が我慢しているということだってありうる」

「そうすると“普通”に見えてしまいますよね。いろいろなものが安く手に入るようになった今、確かに昔の『食うや食わずや』みたいな、冷蔵庫も持たないみたいな人はすごく減っている。一見貧困かどうかも、わからなくなってきているのです」

■許されない「当たり前」の生活

では、炎上が拡大した理由はどこにあるのか。山野教授は、いまの日本社会が「貧困の人たちは当たり前のことができなくても仕方ない、と思う社会」になっていると、指摘する。

「親が貧困だとなんでお前は進学するんだ、と。それはおかしいですよね。子どもと親は切り離して考えてあげなきゃいけない。どんな親に生まれるなんて誰も選べない。子どもは所得をつくれないし、両親に依存をしなければならない」

「経済的に大変な家に生まれていたって、友達との付き合いや趣味を楽しむこともある。美味しいご飯だって食べたいし、ディズニーランドに行くことだってあるでしょう。それは全然普通のことですよね。貧困家庭の人たちは、普通の暮らしをしてはいけないんでしょうか」

こうした批判は、社会全体に広がる「自己責任論」に依拠しているとも分析する。

「貧困は自己責任だから、真面目にやっていないとか、怠けてばっかりいるとという風潮になっている。これはもはや、弱いものいじめですよね。なんらかの理由で努力をできない人たちが貧困になっている。だから、叩くという論理です」

「それに対し、子どもたちは反論できない。そもそも声をあげられないわけで、反論できるわけはないですよね。そういうところを突いて、追い込められればいいと思っているのではないでしょうか」

そんな「いじめ」に乗じた片山さつき議員の振る舞いにも、「政治家が本来すべきことはバッシングでない」と、苦言を呈した。

「政治家がすべきなのは、いまの子どもをめぐる制度を変えるためにエネルギーを注ぎ、社会合意を形成することのはず。これでは、女子高生のようにようやく勇気を出して声をあげた若者たちが、また、声を出しにくくなってしまう。ネット上だけではなく、学校などでいじめを生み出すきっかけを作ってしまう可能性すらあります」

■日本社会に欠けている視点

山野教授は、「どういう家に生まれたかによって、その子の将来が変わり、学力などにも差が出てしまう社会」を、変えなければならないと強調する。

「子どもを平等にするということは、彼らが将来、納税者になって社会を豊かにしてくれるということを意味しています」

「貧困家庭の子どもたちがそのまま大人になると、税金や年金代が払えなくなったり、医療費や生活保護費がかさんだりする可能性もある。つまり、社会的なコストをもっと生み出してしまうことになります。社会全体にとっても、子どもの貧困を放置することはお得ではない」

日本は、子育て支援に使う予算が、GDP比率で1.0%(2009年)、教育予算が3.5%(2012年)と、いずれも先進国でも最低だ。高齢者に使う予算は10%と、その差は歴然としている。

「貧困とは、努力が報われないこと。生まれたときから、機会が平等でないこと。どんな家に生まれても、努力するための基礎がある、スタート地点には平等に立てる社会を目指すために、子どもの平等を社会全体で考えること。いまの日本には、その視点が欠けていると思うのです」


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