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自己責任社会と「障害者抹殺」事件

 本当にやりきれない事件。被害者と関係者にご冥福とお見舞いを申し上げます。
 それだけに、なぜ・・を考える。加害者は、意思疎通のできない障害者を対象にしたとのべ、障害者の抹殺を主張していたとのこと。
 そこには、生きる価値のある人間とそうでない人間がいる、という価値観が見える。
なぜ、こんな価値観が加害者をとりこんだのか。個別具体の事象があるだろうが、社会現象として社会の在り方を見つめなおす必要を強く感じる(児童、高齢者の虐待事件にも、共通する土壌を感じる)。
 二度とこんな事件を許さないためにも・・・

 今、多くの若者、国民が「自己責任論」に苦しめられている。
有利子奨学金に固執するのも自己責任論。憲法25条を無視し、社会保障を「自助、共助、公助」にすり替えたのも自己責任論。
そうした自己責任の価値観が支配する社会において、障害者はどう捉えられているのか。
自己責任が果たせない存在-- 生きる価値がない存在と短絡的な思考、価値観を形成する回路を生まなかったのか。
 
 農村共同体を軸にした日本文化の中には、障害者への敬意があったとされる。

 たとえば古事記。
伊弉諾(いざなぎ)・伊弉冉(いざなみ)両神の最初の子どもは、どんなに心を尽くして養育しても、体がぐにゃぐにゃしてクビも腰も据わらず、3歳になっても自力で立てない。この子を、両親は「蛭子(ひるこ)」と名付け、葦船に入れて川に流した。
ところがこの子は、海岸に流れ着き、その後、漁労の神、海の幸を人々にもたらす「恵比寿天」という神になった。「えびす」は「蛭子」とも書く。ヒルのようなぐにゃぐにゃしたもの=障害者は、漁労の神様であった。

 七福神信仰もある。ただ1人の女神である弁天を除いた他の6人は障害者の傾向が強い、といわれている。
文献はないが、民衆の伝承として言われ続けた。
 、桂米朝の「桂米朝落語全集」の中に、「外法頭(げほうあたま)」という演目があるとのこと、そのマクラで、米朝氏は「昔の町内には、体の不自由な方を、尊敬して、拝む、という風習が、おました。私たちの原罪をぜんぶ、1人で引き受けて、生まれて下さった方や、言うて、尊敬し拝んだんですな、私が負うべき原罪を、この方が代表して負うて下さった、せやから私、私の子どもが健常や、いう……そういう信仰、感謝で、おましたんやな。」と語っている。
 また、障害を持つ子が生まれた家族は、一致協力するので繁栄する。それを周りは、障害を持つ子が福をもたらしたと、いう民間伝承の分析もある。

 こうした寛容さは、自己責任論が貫徹される社会で、消滅したのではないか(この部門の専門家の分析を期待したい)。

 そもそも生物の進化とは、遺伝子の突然変異により、より環境に適した形態が優勢になることでもたらされている。
 永遠に、昨日とかわらない存在なら、進化はない。その過程で、より環境に適応した進化という突然変異のメダルの裏側で、「不利」と見られる障害という存在も発生する (昨今の化学物質多様による催奇形性と問題は別の課題)。
  また、様々な障害をもちながらも、特別な能力を持つ事例も数多ある。それは特別な例ではなく、その能力を現在化させるだけの環境や技術が圧倒的な不足しているだけかもしれない。
 若いころ読んだ障害児教育の本に、何もできないと思っていた重度障害児が、スタッフの声かけに、目のわずかな動きで反応することを見つけ、その後、飛躍的にコミュニケーションが広がった実践例が紹介されていた。
 障害に対する根本的な理解、そして政治の貧困が原因である、という理解が欠けていたのでないか。

 「いまだけ、カネだけ、自分だけ」の強欲資本主義のもとで、商品として査定される社会、自己責任が貫徹される社会が、役にたたないものは抹殺する、という思考の背景にあるのではないか、と強く感じてしまう。


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