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電力システム改革と原子力延命策 〔メモ〕

 大島堅一・立命大教授の論考〔「経済」2016.8〕の備忘録。
 後半に、奥山修平・中央大学教授の「危機を深める原発事業」より、欧州での「安全性」を高めた原発が高コストで事業危機を深めている部分についてのメモ。

【電力システム改革と原子力延命策】

■進むエネルギー政策の転換

○福島原発事故後の原子力政策への国民的批判を背景に、政権交代を挟んでの政府のエネルギー政策の見直し/「エネルギー基本政策」(2014.4 閣議決定)、「長期エネルギー需給の見通し」(2015.7)

・焦点となったのは原子力。もうひとつは電子システム改革

○東日本大震災で明らかになった既存の電力供給体制~地域独占による「安定性」「経済性」の欠陥
①原発だけでなく、沿岸の火力発電の停止。東日本での電力危機~ 安定供給をもたらすとした電力会社の地域独占体制の結果、電力会社間の融通が適切におこなわれず、全国レベルでは適切な供給体制でなかった。

②東電の賠償能力を調査した政府の「経営・財務調査委員会」により、過剰投資、規制部門で多額の利益をえていることなど経営実態が明るみに。地域独占が「安価な電力」供給の障害となっている事実

○電力システム改革が避けられない方向に
 ~ 電力自由化による、活発な競争を通じ、効率的で安定的な供給体制をつくる/ そのめた送電部門を切り離し、公正・中立的な系統運営をおこなわせ、多様な事業者が参加する公正で開放的な市場を形成する
・問題は、電力システム改革と原子力の関係

■自公政権下での原発回帰

○原子力を「ベースロード電源」として位置づけ
~ 03年エネルギー基本計画「期間電源」、10年計画「基幹エネルギー」となっていた

○「基幹電源」でなく「ベースロード電源」となった意味
・ベースロード電源~発電コストが低廉で、安定的に発電でき、昼夜を問わず継続的に稼動できる電源」
→ もともベースロードとは、供給、需要される電力の最小単位。電力需要が最も小さいときにもゼロにはならず、一定程度のミニマムな需要が存在する。その部分のこと。/その需要を満たす電源がベースロード電源

・「ベースロード電源」という考え方が過去のものに
 電力市場が自由化した欧州てば、メリットオーダー(様々な種類の発電をコストの安い順にならべたもの)にしたがって、限界費用(発電増加分あたりの費用増加分)が安い電源から使われる

→再生可能エネは、限界費用が最も小さく、優先利用され、他の電源が市場から押し出され、電力市場価格が低下する /大規模施設を多く持つ事業者の採算性が悪化

・政府が「ベースロード電源」として、重要性を強調した狙いは、原子力優先の供給体制を構築することにある


■原子力の最大限利用をめざす「長期エネルギー需給見通し」

○原発比率を、2030年時点で、20~22%に設定

○福島事故以前、原発54基

・事故後、福島第一 1~6号機廃炉。美浜1.2、敦賀1、玄海1、島根1、伊方1 ~5年間で、計12基が廃炉に
~ 残り42基、4163.4万kWに減少 /これらすべてが2030年に利用できるわけではない

・現在、電力各社が、規制委員会に、適合申請をおこなっているもの/ 24基2401.3万kW
→ 各電力会社は、新基準にもとづく安全対策を行っても経済性のあるものを稼動させようとしている。

○仮に、原発の再稼動、利用を続けた場合に、2030年時点で、どの程度の発電が見込まれるか

~再稼動を申請した原発がすべて稼働したとして

①40年廃炉… 692億kW時 (大間、島根3号含め852億kW時)/ 総発電量の6% (同8%)
②20年延長…1399億kW時 (同1559億kW時)/ 総発電の13% (同15%)

→ 20-22%の原発比率は、現実には非常に厳しい /現在、申請していないものも稼働し、20年間延長するなどの必要 / 訴訟による稼働停止などもあり、達成不可能なわどに原発を利用することが柱となっている。

■電力自由化による原子力への影響

 発送電分離(法的分離)、多様な事業者に参入、さらに総括原価方式の撤廃
~ 原発に大きな影響を与える改革。

(1)短期的影響
・既存原発…主な投資が終了。発電に追加的費用が少なくてすむ。売電できなくても発生する巨額の維持費
 → 電力会社にとっては、安価に発電でき、競争上有利になる
・が、福島事故をうけ、新規制基準への対応のための多額の投資、/ 追加的安全対策の投資が、残存運転期間中に回収できなければ、採算性がとれなくなる。
・→追加費用の節約、運転期間延長を追及/免震重要棟の建設撤回(川内原発等)、高浜1、2号機の運転延長

(2)中長期的影響
・原発の新増設… 延長期間入れても60年で廃炉。新増設しないと、いずれ原発ゼロに/ 原発の建設。計画段階をふくめれば建設に10-20年必要であり、電力会社は、原発を使い続けるかどうか、早期の決定が迫られる。

○電力自由化のもとでの原発建設

・建設時に多額の費用 従来は4千億円程度、安全性高めた最新の原発・欧州では1~2兆円
イギリス、ヒンクリーポイントC原発 320万kW、2兆9千億円。1kWあたり建設費90万円
・福島事故以前の日本の建設費 1kWあたり37万円(発電コスト検証WG)

→ 仮に90万円なら、発電コストのうちに占める資本費3.1円から7.5円となり、発電コストは10.1円から14.5円に上昇/ 原発の経済性はまったくなくなる

(メモ者 従来は、地域独占、総括原価方式で、多額の費用も安定的な回収/金融機関の安心して融資)

・さらに、原発固有の不確実性。事故やトラブルや事故・トラブル隠しによる長期の運転停止のリスク
・加えて、核のごみ処分、廃炉の費用。見積もりはあるが現実にいくらになるか。ここでもリスクが高い

→こうしたリスクをかかえたままでは新設はおろか、既存の原発の事業継続する困難になる可能性

■原子力延命策の構築①

・「事業環境整備」という名の、公正で自由な競争では存続できない原発へ延命策/3つの延命策

①託送料金をつかった廃炉費用の回収

・13、15年の法改正…廃炉による損失を電気料金の原価に組み込めるようになった。/総括原価主義にもとづく規制料金制度を利用することが前提となっている。
・電力自由化/規制料金がなくなれば、この会計制度の変更では対応できない
・政府は、託送料金(他の事業者が電線利用する料金)の仕組みで、廃炉費用の回収を検討

→ 原発となんの関係の事業者の電気使用にも、廃炉費用を負担させられる

②再処理事業継続のための基金創設

・自由化による競争のもとで、再処理積立金の積立不足や事業者の破綻により、再処理事業継続できなくなる懸念に対し・・・あらかじめ再処理費用を拠出金として徴収し、再処理事業者を認可法人とする法改定
・矛盾にみちた同法 ~ 再処理を自己目的化
 事業者が破綻しても再処理事業を継続できる体制の構築する法

→ 原子力事業者がいない可能性があるにみかかわらず、プルトニウムを取り出し、MOX燃料を製造する現実的意味がない /原発の新増設がなければ原発ゼロとなり、核燃料そのものが不要に

③原発事故の損害賠償の上限設定の検討

■ 延命策の構築② 系統運用における原発優先
 経済面だけでなく、発電の面でも優遇策

・電気は貯めてけないので、需要にあわせて供給を変動 
→電力会社は、需要が小さい場合は、発電機の出力抑制、揚水発電のための揚水なとの調整力で対応
→それでも調整できない場合は、優先度の低い電源から発電を抑制/その順位が「抑制指令順位」
・「抑制指令順位」…電力広域的運営推進機関が策定する「送電等業務指針」174条で規定
~ 原子力は「長期固定電源」…水力、地熱とともに抑制が最後に実施 / 再生可能エネは低い扱い

→ 限界費用が最も低い再生エネから利用するメリットオーダーが歪められる/〔メモ者 これにより、再生エネ事業者は、事業計画を建てることが困難になる〕

■まとめ

・自公政権のもとでの原子力の復権…そのことは実現不可能な原発維持目標に現れている
・他方、電力システム改革の基本路線は変更がないが/ 原発延命策が急速に整えられつつある。~ 電力システム改革が実施されれば、原発が維持できないから。
・原発維持路線…原発のコストとリスクを国民、電力消費者に転嫁すること/電力システム改革の意義を損なうもの


【危機を深める原発事業】より     奥山修平・中央大学教授

■事故対策と原発の設計課題

 TMI原発、チェルノブイリ原発、福島第一原発の事故が原子力技術に与えた影響

①炉心溶融への対応

・TMI原発事故…冷却材喪失による炉心溶融
 →事故について、ヒューマンエラーを強調する意図的安全論も喧伝されたが、真摯な技術者にとっては深刻な課題がつきつけられた。
・「事故は起こるもの」と考えた場合…その事故の拡大を阻止する最終的防護システムの構築が必要とされた
→ 「固有安全炉」という設計概念の誕生/ コアキャッチャーもその1つ
・コアキャッチャー…TMI事故の教訓にもとづくもの。炉心溶融がおこり、放射性物質が圧力容器を貫通するメルトスルーに至った原子炉の核燃料を、冷却装置に導くもの

②テロ対策 9.11同時多発テロの衝撃

・攻撃対象が原発であった場合を「想起」/ アメリカ原子力産業界で「研究」が実施
・02年、原子力エネルギー協会が概要を発表 結論は「航空機の衝突に対し、原発は十分に強靭」
→ 個々の構成要素は強靭でも、原発はシステムで動くもの。衝撃、火災で脆弱部分から破綻すると、影響が全体に及び致命的な結果に発展する可能性をもつ

・09年 アメリカ原子力委員会 航空機突入問題についての結論を公表
→楽観的なものではない/従来の原発は航空機の衝突を想定しておらず、新規建設については航空機の衝突に対する安全な設計を求めることを決定

○当時の日本の対応

・原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会 「航空機落下確率に対する評価基準」(案)/02年7月
~ 航空機が事故を起こし原子炉に衝突する確率を計算/ テロ対策ではない
  アメリカは、航空機が原子炉に正面衝突した場合の計算…堅固な重量物であるエンジンが衝突する仮定

・かつてイスラエルと見られる戦闘機が稼動直前のイラクの原子炉を破壊した事件(81年「バビロン作戦」)
~ この作戦は、核兵器を使用しない「核攻撃」となるもので、関係者に深刻な衝撃を与えた

・福島原発事故は、航空機を使用した大規模テロでなくとも、電気系など脆弱部分が破綻すると最悪事態が発生するという、原発のもつ悪魔的事実を白日のもとにさらし、安全性をめぐる議論は一段と緊張感が増した。

■フランス・アレヴァ社 「真面目」な対応がもたらした経営破たん

・あえて原子炉が満たすべき当面の重要課題に絞れば…
全電源喪失、炉心誘拐、航空機突入等の破壊活動への対策・・・それは事業がおきないよう意味ではない。それは「安全神話」の世界。/万が一、これらの事故がおこっても致命的事態に陥らない対策が必要
~ それほどに原発の潜在的危険性は大きい/ 日本の議論は「安全神話」世界の範疇

・この課題への対応を考えた原発メーカーの1つが、フランスのアレヴァ社

①アレヴァの経営危機

・社の概況/ 仏政府によって誕生。WH社から加圧水型原子炉を導入、持株は仏兵器メーカー・ロワール51%、WH49%。75年フランス資本化。01年ドイツのシーメンスの原子力部門と合併。09年、シーメンスがロシアの会社と合併、アレヴァとの資本関係解消、11年にはロシアとの合併も解消し、原子力事業から撤退。
・アレヴァは世界の原発事業の盟主として事業を推進
→ 直近の5年連続赤字決算。14年度通期決算の最終損益48億ユーロ(6400億円)、15年も20億3800万ユーロ(2517億円)の赤字
・仏政府が救済に乗り出し、フランス電力会社に、原発部門を売却

②新型原子炉EPR ~ 高コストな「安全」な原発

・90年代から開発を進められた「3.5世代」の原発。出力160万kW級で、燃料利用率も向上、ウラン消費を17%節約/ 第二世代の原子炉の設計寿命40年に対し、60年/ 運転サイクル最大24ヶ月、燃料交換機関も16日と稼働率向上/ MOX燃料も使用可能、というもの
・安全対策…コアキャッチャーによね溶融デブリ冷却システム、電源喪失時の自動停止、航空機テロ対策として建屋の壁は2mの強化コンクリート、格納容器も2mの厚さ(最大規模のエアバスA380の衝突にも耐えうる設計)
・アレヴァは、TMI、チェルノブイリ、福島の事故後も「原発」と歩む「覚悟」を示し、安全対策を強化

○導入を決定した各国の状況

《フィンランド》 旧ソ連製のPWR2基、スウェーデン製BWR2基 /80年前後に建設
04年、オルキルオト3号機に、EPR採用を決定~05年建設開始、09年完成予定
設計ミス、部品の強度不足などで完成を18年に先送り。建設費3倍近い90億ユーロに膨張。責任めぐり係争中

《フランス》 フラマンビル3号機。04年採用決定。07年着工、12年運転開始の予定
仏原子力安全局が圧力容器の強度に「重大な懸念」と見解。圧力容器の交換、完成17年に延期。
建設費は約33億ユーロから2倍近い60億ユーロに。さらに完成を20年まで延長。105億ユーロに。

《イギリス》 ヒンクリーポイント原発。2基の建設、23年運転開始予定。13年、出資比率20%を予定していた英最大電力・ガス供給会社のセントリカ社が「採算の見通しが立たない」と撤退表明。
英政府が支援に。建設費用を政府が債務保証。高コスト原発由来の電力の固定価格買取制度 ~欧州委員会が電力市場をゆがめるとの懸念を表明したが強行。(各国政府や民間企業から訴訟が起こされている)
建設費は、当初160億ユーロから245億ユーロ。原発1基が2兆円程度

~ 日本の新基準に対応するための追加工事の事業規模は、欧州の新型原発の対策費に比べるとわずかなものでしかない。きわめて「限定的」

■原子力事業に「展望」はあるか

 民間事業として成り立たず、利用者の価格転嫁と政府資金の投入という2重の負担を国民に強いるものに。

①高まる安全性、経済合理性のハードル

・アレヴァ 原子力部門を売却、米子会社も売却し、原潜、MOX燃料、核燃サイクル…国策事業に特化
・原発メーカーの事業は、独占電力事業者EDFが引き取った~「安全な原発」は高コストという重荷を自ら背負うことに。

・その負担は電力価格に転嫁するしかない… が、ここにも問題
  24時間運転の原発依存度の高いフランスは、余剰電力の売電が前提
→欧州各国は、電力を融通しあっているが、高コストの電気は売れない/ 蓄電ができない状況では、余剰電力は買い手市場に

~より安価で適切な電力生産手段に移行するという、単純な「経済合理性」に原発は対応できない。

②問われる日本の原発事業

・世界の状況とまったく違うのが日本~「原発の電気は安価である」との主張
~確かに「短期的」には、大量の運転要員抱えて停止している、減価償却の進んだ老朽原発の再稼働は、個別電力会社にとっては、収益にプラスとなる。
→ が、設計思想が古く、世界の安全水準に達しない原発の運転継続は、潜在的事故確率、危険性が日増しに増大。問題先送りによる社会的経済的負担が大きくなっていく。
(メモ者 新しいビジネスモデルに切り替えるチャンスを逃し、安全面でも経済面でも負の遺産を拡大する)

・再処理・高速増殖炉という核燃サイクルの破たんは明白
・MOX燃料 高コストを理由に、アメリカが撤退を表明/日本のPt政策にも影響する

○発展途上国への輸出への活路
・他の経済的支援、場合にゆっては軍事的支援もセットにした輸出/ 事業としての健全性の喪失
・中国の国家と一体となった売り込み/ エコノミスト「新興国で需要増えるがアレヴァの受注は望み薄」
・インド WH社が6基建設と発表〔来年6月契約〕/NPT不参加なのに、核開発を支援する自己矛盾
(メモ者  大規模な送電網を必要とする原発は、人口密度の低い発展途上国に不向き。再生エネに適合、)

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