自民党・教員密告フォームの「根拠」…文科省6.1通知 ともに廃止を
自民党の教員密告フォームが各紙で取り上げられ、問題になっている。
この密告フォームの「根拠」となっているのが文科省6.1通知。
これまでも過度に政治活動、選挙活動を制限する内容だったが、今回の通知は、学校の内外を問わず教職員が「その地位を利用して特定の政治的立場に立って児童生徒等に接することなど」が、地方公務員法上の「信用失墜行為」に該当する可能性があるとして、そのような行為を行わないよう求めている。つまり、教員の授業や、教員と児童生徒との日常的なコミュニケーションまでその禁止の対象に含まれる危険が対象にされているのである。
政府の考え、主張以外は「特定の立場」と判断し断罪。まさに戦争できる国づくりの一環、自民改憲案の先取り
この通知の廃止をもとめる自由法曹団の声明。
【文科省の6.1通知(「教職員等の選挙運動の禁止等について」)の撤回を求める声明 自由法曹団 6/21】
【姑息! 自民党が「子供たちを戦場に送るな」教師の取締密告フォームをこっそり差し替え…ごまかしても“魚拓”とってるぞ! リテラ7/9】
【文科省の6.1通知(「教職員等の選挙運動の禁止等について」)の撤回を求める声明 自由法曹団 6/21】1 文科省6.1通知
本年6月1日、文科省は、参議院議員選挙が近くなったことを受けて、教職員の選挙運動及び政治活動に関する通知(「教職員等の選挙運動の禁止等について」。以下「6.1通知」という)を発出した。これまでも文科省は国政選挙や一斉地方選挙において同様の通知を行ってきた。ところが、6.1通知には、これまでの通知で記載されていなかった点が記載されている。
即ち、6.1通知は、学校の内外を問わず教職員が「その地位を利用して特定の政治的立場に立って児童生徒等に接することなど」が、地方公務員法上の「信用失墜行為」に該当する可能性があるとし、教職員に対してこのような行為を行わないことを新たに求めている。
従前より文科省が選挙の度に発出してきた通知も、教職員の政治活動・選挙運動を過度に制限するおそれの高いものではあった。それに加え、今回の6.1通知で付加された上記記述は、教職員の政治活動・選挙運動は言うに及ばず、何ら問題視されるべきでない教員の授業や、教員と児童生徒との日常的なコミュニケーションまでその禁止の対象に含まれる危険がある。かかる6.1通知は、教職員の政治活動、選挙運動、教育の自由を極めて広範に制限し、児童生徒の学習権すら侵害するものであって、断じて看過できないものである。
2 6.1通知の禁止する行為があまりに広範であること
従前の通知で言及されていた教育公務員特例法及び公職選挙法の規定に加え、6.1通知が新たに禁止を求めた行為は、「その地位を利用して特定の政治的立場に立って児童生徒等に接することなど」である。
「特定の政治的立場に立って」や「児童生徒等に接すること」というのは不明確で極めて広範な行為がこれに含まれうる。この文言では、教員が社会的に論争のあるテーマについて特定の意見を持っていることを児童生徒に知られることすらこれにあたるとされかねない。そうなれば、例えば、安全保障法制の廃止を求める集会やデモに参加した教員が、たまたま参加していた生徒やその保護者に挨拶することや、論争あるテーマを扱った授業で、様々な意見を紹介した上で教員が自らの考えを述べることも、「特定の政治的立場に立って」「児童生徒等に接すること」と問題視されうることになってしまう。
3 教員の政治活動・選挙運動自由を侵害する
教員であっても一国民・一市民として政治活動の自由及び選挙運動の自由が保障されていることは憲法上当然のことであり(憲法21条)、その制約は必要最小限度でなければならない。
この点、公職選挙法は教員に対し「教育上の地位を利用して選挙運動することができない」(同法137条)としているが、これは、教員が成績評価など教育者としての影響力を利用して投票依頼を行うことを禁止したものである。裁判例上も、「教育者がその教育上の地位に伴う影響力を利用せずに、一個人として一般人と同様の選挙運動をすることは何ら制限されるものでなく、たとえ教育者が単にその教育者としての社会的信頼自体を利用した場合でも問題の余地はない」(福岡高等裁判所昭和50年5月27日判決)とされている。
6.1通知がいう「特定の政治的立場に立って児童生徒等に接すること」などという、選挙運動以外の行為については同条が禁止するところではない。
また、教職員は、教育公務員特例法が準用する国家公務員法及び人事院規則によって、一定の政治目的をもって、規定された行為を行うことが制限されている。この制限規定そのものが公務員ないし教職員への政治活動の自由を侵害し違憲の疑いが強いものである。
しかも、ここで禁止されている政治的行為は「政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるもの」(最高裁平成24年12月7日判決*)に厳しく限定され、6.1通知のように「児童生徒等に接すること」全般を禁止しているわけではない。
6.1通知は、公職選挙法や教育公務員特例法が禁止していない行為について、「信用失墜行為」による懲戒処分の脅しをもって広範に制限するものであり、教員の政治活動・選挙運動の侵害として許されない。
4 教員の教育の自由を侵害し児童生徒の学習権を侵害する
前述したように、6.1通知によれば、教員が授業で特定の意見を述べること自体が「信用失墜行為」にあたるとされかねない。
児童生徒の学習権(憲法13条・26条)を保障するためには、児童生徒と日々向き合っている教員に、専門性に基づく一定の教育の自由を保障する必要がある。しかし、論争のあるテーマを扱った授業で、教員が特定の意見を述べること一般が懲戒処分の対象となれば、教員に対する萎縮効果は甚だしく、「政治的教養」の教育(政治教育。教育基本法14条1項)を十分行うことはできなくなる。かかる事態は、教員の教育の自由を侵害すると同時に、十分な政治教育を受けることができなくなる児童生徒の学習権をも侵害すると言わなければならない。
5 6.1通知は撤回されなければならない
間もなく行われる参議院選挙は、選挙権年齢を18歳以上に引き下げられてから初めての選挙である。
これまで以上に、学校における政治教育の必要性が高まっていることは明らかである。生徒が政治的教養を育むためには、当然指導する教員が政治的教養を獲得していなければならない。教員が、政治活動・選挙運動の自由を保障されることは、教員として政治的教養を高め、児童生徒に対する政治教育を進める上での基盤として重要な意味をもつところ、懲戒の威嚇によってこの保障が制約されることになる。これではかえって、教員や生徒を政治的な問題から遠ざける結果となりかねない。
6.1通知は教職員の政治活動・選挙運動の自由や教員の教育の自由、児童生徒の学習権を侵害するものであり、自由法曹団は同通知の撤回を求める。
注* 最高裁判決 国家公務員による政党機関紙配布事案1 国家公務員法102条1項の「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められる政治的行為をいう。
2 人事院規則14−7第6項7号,13号に掲げる政治的行為は,それぞれが定める行為類型に文言上該当する行為であって,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものをいう。
3 略
4 管理職的地位になく,その職務の内容や権限に裁量の余地のない一般職国家公務員が,職務と全く無関係に,公務員により組織される団体の活動としての性格を有さず,公務員による行為と認識し得る態様によることなく行った本件の政党の機関紙及び政治的目的を有する文書の配布は,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえず,国家公務員法102条1項,人事院規則14−7第6項7号,13号により禁止された行為に当たらない。
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