年金運用損 15年度に続き4-6月も5兆円。計10兆円
15年度に続き、4-6月期も5兆円の損失で計10兆円となった。
巨額の公的年金資金を市場運用している国などなく、その動きは、株価維持のため、海外投資家と正反対の動きをしていると小池さんが追及していた。
東洋経済で金融アナリストの近藤 駿介氏の指摘も興味深い。
本来、保険料収入と給付の支払いの差を運用するもので、リーマンショックの08年は収入が7兆円上回っていたが、09年度から流出に転じ2014年度の流出額は約4.3兆円。現在の運用は、給付超過となる「成熟度の高い年金はリスクを抑えめに」という定石に反する。資金流入が超過しているときは、リスク資産を安値で買い増し、その後の運用益を確保することが可能だったが、現在は、相場状況に関係なく保有資産を売却し年金給付のための資金を確保しなければならない状況にある。そのため株式下落の主体となる可能性を指摘し、愚かな選択をしたと批判している。
政権維持のために、年金基金の毀損をすすめ、未来に対しなんら責任をもたない。亡国の政治である。
【4~6月も年金運用損5兆円 英離脱で株価急落 東京7/5】
[日本の経済も財政も壊す政治 これ以上続けるわけにいかない 参院予算委 小池副委員長の基本的質疑 3/6]
【巨大機関投資家GPIFは「危機的状況」にある もはや株式市場の「救世主」にはなれない 東洋経済7/5】
【4~6月も年金運用損5兆円 英離脱で株価急落 東京7/5】
国民が支払う国民年金などの積立金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)が、二〇一六年四~六月期に約五兆円の運用損失を出す見通しとなったことが、専門家の試算で分かった。英国の欧州連合(EU)からの離脱問題で株価が急落したのが主な要因。一五年度も五兆数千億円の損失を出す見込みが既に明らかになっており、一四年度末と比較した場合の損失は約十兆円に膨らむ見通しとなった。
GPIFは一四年十月に安倍政権の方針を受け、どの資産にどの程度の積立金を投資するかの基準を変更。株式(国内、海外合計)を24%から50%に上げ、国債などの国内債券を60%から35%に下げた。
試算をしたのは野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリスト。GPIFの一五年度の運用実績について事前に五兆円超の損失を出すと予測した実績がある。
試算によると、運用資産ごとの損益はマイナスだったのが国内株二兆二千億円、外国株二兆五千億円、外国債券一兆六千億円。国内債券はマイナス金利の導入に伴う金利低下(国債価格の上昇)で含み益が出たため、一兆三千億円のプラスだった。西川氏は「株価が大きく戻すのは当面難しい」と話す。
日本総研の西沢和彦上席主任研究員は「政府は株の比率を上げる基準変更の際、株価下落で損失が発生する当然のデメリットの説明をほとんどしなかった。あらためて情報公開を徹底し、損失はすぐ処理する仕組みが必要」と指摘する。
(東京新聞)
[日本の経済も財政も壊す政治 これ以上続けるわけにいかない 参院予算委 小池副委員長の基本的質疑 3/6]■小池 巨額の公的年金資金を市場運用している国などない
―- 厚労相 米国は「市場への政権介入は効率性を損ねる」と運用せず・小池 年金の問題で政府は、次の世代に引き継ぐためだと繰り返すわけです。しかし、その年金資金の株式運用で、将来世代の年金資金が失われるのではないかという不安も広がっているわけです。厚労相にお聞きしますが、公的年金積立金、現在、総額いくらになるでしょうか。
・厚労相 平成26年度末の厚生年金と国民年金を合わせた年金積立金総額、全体の総額は約145・9兆円で、うちGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産額は、約137・5兆円です。
・小池 時価総額で146兆円という数字がありました。これは国民1人当たりにすると114万円、4人家族で456万円分の年金資金となります。これが市場で運用されていることになる。世界で、これだけ巨額な公的年金積立金を、株式などで市場運用している国っていうのは、ありますか。
・厚労相 保険料を原資とする積立金を保有をし、市場で運用している公的年金としては、カナダ、韓国、スウェーデンなどがございまして、GPIFほどの規模ではないにせよ、いずれにしても株式を含めたさまざまな資産への分散投資を行っておるところでございます。
・小池 カナダ25兆円、韓国51兆円、日本とはケタが違うわけです。
アメリカは、一般国民を対象とする連邦政府の年金制度「社会保障信託基金」で、すべて非市場性の国債で運用されているわけです。アメリカの連邦政府の社会保障年金積立金が、市場での株式運用をしていない理由は、アメリカはどういうふうに説明しているでしょうか。・厚労相 アメリカの社会保障信託基金=OASDIは、その資産の金額を、市場に流通していない国債で保有をしているわけでありますが、「完全賦課方式」で、ペイ・ロータックスで入ってきたものを、年金に回すわけでありますが、一時的に資金繰り上、積み上がったものを市場に流通しない形の国債で運用しているわけで、過去にこのOASDIの株式運用について議論が行われたことがございました。その際に、たしかグリーンスパンだったと思いますが、ときの政権の政治介入により、株式市場の効率性を損ねるのではないかとの懸念等が示されたと聞いておるわけでございまして、むしろ株式市場へのインパクトがどうなのかということを考えて、このような形で市場に流通しない国債で資金繰り上、一時運用をしているというふうに私どもは理解をしているところでございます。
・小池 334兆円もの資金を運用しているわけです。それを、非市場性の国債でやっている。その理由は、政府が特定の目的で介入することを回避する。マーケットインパクトを回避する。逆にいえば、日本がやっていることは、これは政府の介入の余地を認めている、リスクにさらすと。マーケットに対して政府が介入するということになっちゃうんじゃないですか。
・厚労相 アメリカと日本はまったく制度が違う。「完全賦課方式」でありまして、「社会保障信託基金」の財政はかなり悪化をしておりまして、2034年には積立金が底をつき、予定している年金金額の給付ができなくなるとのリポートも出されていまして、負担と給付の見直しについて議論がなされているというふうに聞いております。わが国は、一方で積立金も活用しながら、およそ、まあ、100年間で収支が均衡する制度設計となっておりまして、現在、積立金の運用は必要な利回りを十分確保しているというふうになっているところでございます。
■小池 株価のために老後の資産を食いつぶす、誰も責任を取らないしくみだ
-- 株価維持のため、公的年金運用の信託銀は、海外投資家と正反対の動き・小池 その積立金をどんどん、どんどん取り崩すような事態が、足元で起こっているわけじゃないですか、日本だって。
確認ですが、大半、日本の場合は、これは信託銀行で運用されているということなわけですが、ちょっと調べてみました。これは年金積立金の株式運用比率を倍増させた「ポートフォリオ(資産構成)」見直し以降の株式市場の動きを、東京証券取引所のデータでまとめてみたものであります。(図3)
これをみますと、2014年10月末に「ポートフォリオ」を変えて株式運用比率を大幅に引き上げたわけですが、それ以降の68週間で、海外投資家と、それから信託銀行の株の買い越しがどうなっているか。68週のうち、海外投資家と信託銀行が同じ行動をとったのは24週です。ところが、異なる行動をとったのは44週あります。海外投資家が買い越した35週のうち、信託銀行が売り越したのは約半分の17週に対して、海外投資家が売り越した33週のうち、信託銀行が買い越したのは実に8割の27週になっているんですね。
信託銀行の動きは、大半が公的年金の運用であるっていうことは、これは市場関係者の常識だと思います。これが、海外投資家とまったく反対の動きになっているわけですよ。大臣、これは年金マネーが結局、株価を買い支えていることを証明するものではありませんか。(「そうだ」の声)・厚労相 いまの先生の推論は市場でいわれているというお話である、この信託銀行はほとんどGPIFの動きだという誤った認識で組み立てられているというふうに思います。たしかに、GPIFの株式運用は、基本は信託銀行に預けているのは間違いないわけですが、しかし、信託銀行はGPIFとだけ商売をやっているわけではないのであって、企業年金もあり、他の共済もあり、いろいろな年金の資金を運用しているわけでありまして、そのなかの一部であるわけで、このような動きがGPIFかのようなことをいうのは、あまりにもジャンプが大きすぎるというふうに金融のプロは多分考えると思います。
・小池 そんなことない。金融のプロが、たとえばロイターなんかも、この動きは公的年金の動きだとはっきり書いているわけです。みんなそう思っているわけです。しかも、「ポートフォリオ」の変更前にはこんな売り買いは起こっていません。調べてみたんですよ。それ以前はこんな激しい動きはしていませんから、信託銀行は。結局、「ポートフォリオ」を変更して、国内株式の運用比率を引き上げて以来、こういう激しい売り買いが起こっていることは明らかなわけです。
最近でも、株価が1万6000円を割った先々週ですけれども、外国人投資家が4000億円を売り越す一方で、信託銀行はこれまで最高の5000億円買い越している。総理、衆院の予算委員会で、「もっぱら被保険者の利益のために最適な運用を検討した結果なんだ」というふうにおっしゃています。「株価を上げるなど恣意(しい)的なものでは決してない」というふうにいっています。しかし、まさに株価を上げるための売り買いだというふうにみられても仕方ないような動きになっているんじゃないですか。これはどう説明しますか。・首相 そもそも安倍政権が、株価を上げたいからGPIFにどんどん買えなんていうことは、まったく起こっていないわけでありまして、決められた「ポートフォリオ」のなかで最適な運用を行っているわけでございます。かつてデフレ時代には、国債をどんどん買っておけばよかったわけであります。なんていったって、物価が上がっていかないんですから。しかし、物価が上がっていくなかにおいて、それに追いついていく必要があります。たとえばいま国債の金利、これマイナスじゃないですか。これじゃとても将来の世代に年金をお支払いはできないわけであります。しっかりと経済が成長していくなかにおいて国内の株式あるいは海外の株式との適切な「ポートフォリオ」を形成していま運用をしているわけであります。ちなみに、リーマン・ショックを入れたとしても、現在の「ポートフォリオ」でずーっと運用していればいままでの運用よりもはるかに運用益は出ているわけでありますし、安倍政権ができて3年ちょっとで38兆円のプラス(債券なども含めた運用益総額)になっているわけでございます。最近の株価の下げ局面を入れてもそうなっているわけで、そこのところはぜひ、党派性を超えて冷静に見ていく必要があるのではないのかなと思います。
■アベノミクスのために株式の運用拡大をすすめた
・小池 私は、冷静な議論をしているんです。単に下がった、損したっていう、そういう話をしているんじゃないんですよ(「そうだ」の声)。こんなリスクにさらしておいて、足元は安倍政権になってからいいとおっしゃる。短期的な結果でみちゃいけないといっていたのに、安倍政権だったらよくなった(笑い)、矛盾しているじゃないですか、いっていることが。
安倍政権だって1月に入ってから株価が下落していますから、これは第3四半期はたしかに4・7兆プラス(運用益総額)になった、一昨日発表されました。しかし、この1月に入ってからの株価下落で5兆円マイナスになっているわけですよ。そうなると、4~6月はプラス1・9、7~9月でマイナス4・3、10月から12月で3兆プラスになってちょっと取り戻したけれども、今年度末はこのままでいけばマイナスになる可能性は高いですよ。国民の財産を、ジェットコースターのような、こんな相場にさらしていいのかと。その比率を引き上げたのが安倍政権じゃないですか。さきほど、国債の利率が下がったというけど、じゃあ、だれがやったんですか。マイナス金利で自分でやった話じゃないですか。本当にいまのは天にツバする話だというふうに思います。
しかも、国債の運用部分についてみれば、プラスになっているわけですよ、明らかに。アメリカは市場にさらせば特定の政府の意思が介入してマーケットを荒らすからといってやっていない。ところが日本はそれをやった。安倍首相がいいだしたんですよ、あなたが。安倍首相が2年前の1月にダボス(会議)で、5月にはロンドンのシティーで、「世界最大の年金基金、1兆5000億ドルを超す運用資産を持つGPIFがフォワードルッキングな改革を進めていく」と、この演説をしたあとで、上限ぎりぎりまで株を買うようになって、さらにポートフォリオの変更までやったんじゃないですか(「そうだ」の声)。世界最大の年金ファンドが、政府保証つきで、マーケットに参入する。そのことを宣言したのは、まさに総理、あなたではないですか(「そうだ」の声)。この議論のときに、ダボスやシティーで、総理が演説したときに、「年金のためだ」なんてひとこともいっていないんですよ。「成長戦略のためだ」、「アベノミクスのためだ」と、「バイ・マイ・アベノミクス」と、こういう演説をしたんじゃないですか。結局、年金積立金を、年金加入者の利益のために運用しているなどということではなくて、アベノミクスを支えるために、株価に投入したと、株式市場に投入したと、これがあなたのやったことではありませんか。・首相 安倍政権のときに年金積立金を削っているんじゃないかという趣旨のご発言をされましたが、そうではなくて、削っているどころか増えていますよと、誤解を解こうとしたわけでございまして、たしかに短期の話をしたって意味がない話であって、先週までの話をすれば、下がっていますが、今週はまたちがっているわけでありますから、足元の話をしたってあんまり意味がないわけであります。
年金積立金の運用は、デフレから脱却して物価が上昇していく局面では、運用を変えていくのは当然のことでありまして、運用を変えなければ、年金被保険者の利益にはならない。マイナスになってしまうわけでありますから、ポートフォリオを変えるのは当然だろうと。ポートフォリオの変更は、このような想定のもとで、GPIFの運用委員会において最適な組み合わせを選定したものであります。ポートフォリオ変更後の運用収益は、今年度第2四半期がマイナス7・9兆円となったものの、第3四半期はプラス4・7兆円となっておりまして、一昨年10月以降の累積はプラス8・9兆円、仮に現行のポートフォリオで、リーマン・ショックを含む過去10年間にもし当てはめてみると、名目運用利益は4・3%になって、従前のポートフォリオよりも1・1%高い収益率が得られえるわけであります。ちゃんとプラスになっているんですから、ご安心をいただきたい、このように思うしだいでございます。(与党席から拍手)■戦前は戦費調達、戦後は公共事業、今度は株式市場だ
・小池 いや、拍手するどころじゃないですよ、ここは。年金について国民は不安をもっているんですよ(「そうだ」の声)。年金の積立金というのは、戦費調達のためにつくったわけですよ。戦後は、公共事業のために、あるいは「グリーンピア」(年金積立金を活用した保養施設)などをつくるために、積立金がさんざん食い荒らされてきた。そういう歴史をもっているわけですよ。そして今度は安倍政権になって、株式市場にこれだけ大量に投入する。アベノミクスを支えるために使っているんじゃないかという不安が広がるのは当然ではありませんか(「そうだ」の声)。あなた方のやっていることが、まさに年金不安をあおっている。安倍政権の株価の維持のために、国民の老後の資産を食いつぶすようなことは絶対に許されない。運用に失敗したって、だれも責任を取らない仕組みですよ(「そこが問題だ」の声)。巨額の資金を株式市場に投入して経済をゆがめる、そういう指摘だってあるわけです。だからアメリカだってやっていないわけでしょう。こんな無責任な、こんな国民の不安をあおるようなやり方は直ちにやめるべきだということを申し上げておきたいというふうに思います。(拍手)
【巨大機関投資家GPIFは「危機的状況」にある もはや株式市場の「救世主」にはなれない 東洋経済7/5】近藤 駿介 :金融・経済評論家/コラムニスト
「英国EU離脱ショック」は、世界の金融市場に予想以上の大きな衝撃を与えた。株式市場と為替市場の一日の下落幅が2008年9月のリーマン・ショックの時よりも大きかったこともあり、日本のマスコミからは「リーマン・ショック以上」という声も上がった。だが、こうした見方をよそに、翌週から金融市場は安定的に推移した。
震源地となった英国の代表的株価指数であるFT100は6月24日に3.1%下落したが、6月27日からの1週間は主要国の中で最大の7.2%上昇を記録し、年初来高値を更新してきた。■GPIFは「リーマン以上の衝撃」に見舞われた
また、ニューヨーク(NY)株式市場も同様だ。NYダウが「英国EU離脱ショック」前日の水準をほぼ回復したのをはじめ、新興国の株式市場(MSCI Emerging Markets)もショック前の水準を上回るところまで反発してきている。「英国EU離脱ショック」に伴う市場の混乱は、「リーマン・ショック以上」になることなく、思いのほか早く鎮まったといえる。
こうしたなか、間違いなく「リーマン・ショック以上の衝撃」を受けたといえる分野がある。
それは日本の公的年金の運用である。
多くのメディアが「英国EU離脱ショック」に伴う円高・株安によって、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が大きな運用損失を抱えた可能性を報じている。そんな中、7月1日にはGPIFが2015年度の決算で5兆数千億円の運用損失を計上することが明らかになった、と報じられている(公式発表は7月29日の予定)。■ 問題の本質は「巨額の運用損失」ではない
ここから何が推測できるだろうか。GPIFの5兆数千億円の運用損失は、国内株式が約12%下落し、約6.5%の円高が進んだ2015年度でのものだった。「英国EU離脱ショック」などで、4月以降国内株式が10%超下落し、円高が8%強進んでいることからすると、GPIFがこの4-6月期に2015年度と同規模の損失を出していても不思議ではない。
こうした状況を受け、2014年10月から実施された「基本ポートフォリオの変更」(国内株式を25%(±9%)にまで引き上げるなどの運用見直し)に対する批判や、「アベノミクスそのものの失敗」を指摘する声も強まっている。
確かに、「基本ポートフォリオの変更」は結果からみて失敗だったことは明らかである。しかし、運用損が膨らんだから「基本ポートフォリオの変更」は間違いだったという批判も、「安倍政権発足以来の3年間では約38兆円の運用益が出ている」という反証も、必ずしも建設的なものだといえないし、本質的問題を見誤らせるものでもある。
簡単に言えばGPIFは、国民が納めた年金保険料と、給付する年金額の差額を運用している。それゆえ、GPIFの運用資産は、現役世代が多く年金保険料収入が年金支給額を上回る局面では増加し、逆に高齢化が進み年金支給に伴う支出が年金保険料収入を上回る局面では減少していくことになる。
GPIFの資金流出入状況をみると、リーマン・ショックが起きた2008年度にはネットで7兆円を上回る資金がGPIFに流入している。しかし、リーマン・ショックの翌年2009年度から流出に転じ、2014年度の資金流出額は約4.3兆円となっている。
つまり、リーマン・ショックの際は、リスク資産の下落に見舞われたが、GPIFに新規資金が流入していたため、リスク資産を安値で買い増すことが可能だった。
これに対して資金流出主体に転じている現在のGPIFは、相場状況に関係なく保有資産を売却し年金給付のための資金を確保しなければならない状況にある。
保有資産を売却して年金給付のための資金を確保する必要に迫られているGPIFは、たとえリスク資産が下落し安い価格になっても、保有資産を売却しなければならない。株価が下落するなかで必要な資金を確保するために保有資産を売却するということは、自らの行動がさらなる株価下落を招き、売却する資産の数を増やさなければならないという悪循環に陥ることになる。
こうした状況の違いを考えると、今回の「英国EU離脱ショック」は、日本の公的年金の運用に「リーマン・ショックをはるかに上回る衝撃」を与えたといえる。
しかも問題なのは、GPIFが「リーマン・ショック以上の衝撃」を受けたのは、自ら招いた「人災」というところにある。■「年金運用の定石」に反する運用を行うGPIF
基本ポートフォリオが、国内債券35%(±10%)、外国債券15%(±4%)、国内株式25%(±9%)、外国株式25%(±4%)に変更されたのは2014年10月であり、GPIFが資金流出主体に転じたのは2009年度からである。
つまり、基本ポートフォリオの変更を検討する時点でGPIFは資金流出主体だったのだ。資金流出主体に転じたGPIFのポートフォリオを、株式への投資比率を増やすことでリスクを高めていくという方針は、「成熟度が低い年金はリスクを多めに、成熟度の高い年金はリスクを抑えめに」という年金運用の定石に反するものである。
資金流出主体がリスク資産への配分を増やせば、今回のようにリスク資産が急落する局面で、価格の下落を追いかける形で資産売却に追い込まれることは、「政治的不確実性」とは異なり、「運用上確実なこと」なのである。
GPIFが資金流出主体に転じていたことを考えれば、リスク資産を増やすという投資方針の変更を行うのであれば、もっと慎重な検討と議論が必要だったはずだ。
資金流出主体となっているGPIFは、株価が下落すればするほど必要な年金給付金を確保するために、売却資産の量を増やさなければならないし、それは若い世代の残す資産の量を減らしていくことだからである。
また、次世代に残す資産の量が減るということは、今後市場が落ち着きを見せて元の水準に戻っても、資産の金額は元に戻らないということである。量が減ってしまっているのだから。
日本の財政に関しては「次世代にツケを残すな」と叫ばれているが、公的年金の分野では「次世代にツケを残す運用」が平然と行われている。
2009年度以降、GPIFは毎年4~6兆円を年金特別会計に納付等をしている。仮にこの先もGPIFが年間4兆円の納付金を納め続けるとしたら、その資金を確保するために、ポートフォリオ上、毎年1兆円(=4兆円の25%)もの日本株を売却することになる。■年金資金が「売りの主体」として登場する可能性
これまで多くの人が「年金資金は株式市場における買いの主体」だと考えていたはずである。しかし、基本ポートフォリオの変更を終えた今後は、「株式市場での売りの主体」として登場してくる可能性があるという発想の転換が必要な時期に来ている。
日本では、6月23日の国民投票で、英国民の多くが「EU離脱後」を真剣に考えずに安易に「離脱」に投票したことを疑問視する意見が多くなっている。閣僚の間からも、国民投票はポピュリズム(大衆迎合主義)に陥る危険性があり、議会制民主主義にそぐわない手法であるという声も上がっている。
しかし、日本の公的年金の分野で、英国と同じような「安易な選択」が行われたことを問題視する声はなぜか上がってこない。
円安・株高という安易な期待から、国民の多くはGPIFの基本ポートフォリオの変更を好意的に受け入れてきた。「基本ポートフォリオの変更後」を全く考えずに。
しかも、実際に「基本ポートフォリオの変更」を主導したのは大学教授や専門家たちを中心とした有識者会議であり、英国のように大衆ではない。
ポピュリズムのリスクに陥ることを防ぐ立場であるはずの有識者会議が、一般大衆と同じように「基本ポートフォリオの変更後」を考えずに安易に「基本ポートフォリオの変更」を行ったという点では、日本社会が抱える問題の根は英国よりも深いといえる。
「EU離脱後」まで真剣に考えたとはいえない国民投票の結果は、英国のみならず世界中を混乱に陥れることになった。そして、それに端を発した金融市場の混乱による影響が、「基本ポートフォリオの変更後」を真剣に考えたとはいえない世界最大の機関投資家GPIFが生息する日本市場に最も大きく表れた。これは、当然の報いだったのかもしれない。
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