定着した原発ゼロの電力需給 中西日本・夏のピークも予備率23% ISEP
ISEPによる電力小売自由化後の今夏のピーク電力需給の評価。
政府は、節電、太陽光・風力、揚水発電の実績を過小評価し、需要の課題評価、需要側管理などの対策の後退、電力余裕からの火力の長期停止の増加など・・・と指摘。
全国的にも原発なしで十分対応できる。特に、中西日本は、強力な地域間連系でむすばれており、予備率23%なると指摘している。
【定着した原発ゼロの電力需給 ――電力小売全面自由化後のピーク電力需給の評価――ISEP 6/30】
■ 概要 l 再稼働は無用 福島第一原発事故から6 年目の夏を迎えるが、原発稼動ゼロを前提とする電力需給が全国的に定着しており、原発稼動ゼロでも、関西電力・四国電力・九州電力をはじめとする全ての電力会社で2016 年夏のピーク需要時の電気は十分に足りると評価される。電力需給の観点からは、川内原発も高浜・伊方・玄海原発もいずれも再稼働を急ぐ必要はない。l 太陽光発電がピーク時7%・1300 万kW 以上を担う
昨(2015)年夏は、約2600 万kW の太陽光発電がピーク時に7%・約1000 万kW を担ったと推計された。今(2016)年夏にはおよそ3500 万kW の太陽光発電が導入される見通しから、およそ1300 万kW ものピーク削減効果を期待できる。l 供給の過小評価・需要の過大評価を続ける国
経産省の電力需給検証小委員会での2016 年夏の電力需給検証は、これまでの考え方を前提にピーク需要を過大に評価し、揚水発電や再生可能エネルギー等の供給力を過小に評価している。しかし、九州電力の川内原発以外の原発の再稼動は想定していなくてもピーク需要時の供給予備力は十分に確保されることが示されており、ピーク時でも電力需給を十分に確保することができる。l 節電政策・需要側管理をサボタージュする国
政府からの節電要請は行われていない。拡大してきた太陽光発電に加え、定着してきた節電効果をさらに強化するために、経産省や各電力会社がこれまで取り組んでいない「現実的な対策」や節電政策により、いっそうの深掘りができるはずだが、国はサボタージュしている。l 原発稼働停止は化石燃料輸入費増大の真因ではない
経産省の電力需給検証では、原発稼働停止に伴う電力会社の化石燃料費用の増大を過度に強調している。
化石燃料費用の増加分の7 割は円安や化石燃料価格の上昇によるものであり、昨年までの減少傾向は、原油価格の下落による影響が大きい。経産省や電力会社が経済や経営への影響を懸念して原発の再稼動に固執し、原発に依存しないエネルギー政策や電力システム改革を迅速に進めてこなかったことが、化石燃料費用の追加負担が継続している真因である。l 国は原発・環境エネルギー政策の方向転換を!
政府は時代錯誤のエネルギー基本計画や2030 年のエネルギーミックスではなく、東京電力福島第一原発事故の教訓に真摯に学び、世界的な気候変動問題や原発の限界を踏まえて、自然エネルギー・エネルギー効率化・地域分散型を「3 本柱」とする統合的なエネルギー政策を目指すべきである。
■政府予測が過大需要・過小供給となる要因政府予測での夏の電力ピーク時の電力需給見通しでは、報告徴収により各電力会社から提出されたデータを基礎にしているため、電力需要は大きめに、電力供給は小さめに試算されている。このように政府予測が過大な需要、過小な供給となる要因について、以下に示す。
〔1〕節電に対する無策
政府予測の電力需要では、前年実績分の中で節電の「定着」が何%程度あるかと想定(今年は節電を継続するかのアンケート結果を採用)、節電は前年実績より常に小さく予測されてきた(図7)。
一方、経済拡大、猛暑、など需要拡大要因は幅広く想定された。
安全側にみて節電の想定は保守的に小さい方が良いという考え方を政府予測では採用している。しかし、政府予測では、政策手法や電気料金制度などによって需要は大きく変わりうるという視点が欠けており、昨年実現した省エネを後押ししてさらに拡大する実効的な節電の政策手法の具体化の検討も遅れている。それどころか、これまで実施されてきた需要抑制対策さえ後退している。例えば需給調整契約のうち計画調整契約は、2012 年夏の529 万kW から2016 年夏には420 万kW と109 万kW の減少、随時調整契約(需給逼迫時に停止する)は、2012 年の511 万kW から2016年夏には486 万kW へ25 万kW 減、あわせて134 万kW が対策として実施されていない(図8)。
〔2〕太陽光および風力の供給力の過小評価
2015 年夏の実績で、太陽光発電の供給力が最大電力全体の7%に成長したことを示したが、政府予測では太陽光、風力の供給力について過小評価されている。
2015 年夏の実績では全国の太陽光発電の設備容量2603 万kW に対して、その4 割を超える1093 万kW の供給力があったが、政府予測ではその半分の510 万kW しか見込まなかった。
2016 年夏には全国の太陽光発電の設備容量は前年比35%増の3519 万kW となる見込みだが、政府は2016 年夏の供給力を設備容量の約2 割に相当する737 万kW しか見込まない(図9)。特に北海道電力では夕方にピークが発生するとし、太陽光の供給力はゼロと最も極端に想定しているが、北海道電力の2015 年夏の実績では最大電力の1割に迫る41 万kW、設備容量比で55%の供給力が得られた。風力発電についても、2015 年夏の実績では全国の設備容量292 万kW に対し、その約7%にあたる19 万kW の供給力があった。しかし2016 年夏には設備容量が約10%増加し321 万kW になる見込みだが、政府は供給力を設備容量の約1%しか見込んでいない。
よって、太陽光および風力の供給力も、過小評価といわざるを得ない。また、太陽光の昼間の出力ピークを活かした需要側対策なども検討されていない。・太陽光 15年 想定509.8 万kW、実績1093.2 万kW 16年政府予測 736.6 万kW(想定設備容量3519.3 万kW)。出力想定は昨年実績より約3割小さい。
・風 力 15年 想定2.4 万kW、実績19.8 万kW、16年 想定出力3.2 万kW(想定設備容量321.2 万kW)想定出力比率は1%。想定出力比率は昨年実績より遙かに小さい。
〔3〕揚水発電の供給力の過小評価
政府予測の電力供給では、揚水発電の供給力を、昼間の発電時間の長さなどを理由に、設備容量と比べた供給力を8 割程度、昨年最高電力時の実績と比較しても175 万kW も小さく想定している。
これは昼間の揚水発電の運転を出力一定とするなど柔軟性のない運用を想定していることによる。・15年実績 2231 万kW 16年政府予想2056 万kW(設備容量は2747 万kW)
〔4〕火力定期検査等、他の供給力の過小評価
政府予測の電力供給では、火力発電などの夏季の定期検査等の実施(7~8 月にかかるものは9 社50 基、7~8 月全休となるのは6 基)を容認し、真夏の火力発電供給力を小さくしている。また、2016 年夏の需給の余裕を反映してか、旧型火力発電の長期計画停止が東京電力と中部電力で365 万kW、これと別に4電力で火力と揚水をあわせて548 万kW が廃止または長期計画停止になった。自家発電買取も最も多かった2012 年の311 万kW の約半分にあたる155 万kW に減少すると見込んでいる。緊急設置電源も最も多かった2012 年の289 万kW の約4 分の1 の77 万kW に減少すると見込んでいる。
〔5〕ISEP予測と政府予測との電力需給の差
本レポートで示したISEP 予測と政府予測との電力需給の差を予備率(供給力と需要の差)で示したものが図6 である。
差の多くは、政府予測における需要の過大想定(節電対策の過小評価)、火力発電所による供給の過小予測(主に真夏の定期検査や工事による)、揚水発電の供給力の過小想定、再生可能エネルギー供給力の過小想定の4 点である。
追加的な対策などでこれらの想定を見直すことで、図4 および図5 でISEP 予測が示すような余裕をもった2016 年夏季のピーク時の電力需給を実現できる。さらに、再生可能エネルギー(主に太陽光)の増加、需給調整契約のさらなる活用など表2 に示された対策の実施により、需要と供給の両面での追加対策が可能である。これらの対策により、このまま原発を再稼働しない原発稼働ゼロを前提としても、これまでのスマートな節電で、全ての電力会社の管内で2016 年夏のピーク時の電力需要を賄うことが可能である。
■ 中西日本6社の電力需給中西日本6社は、節電が2014 年以降進み、2015 年夏には最大電力が2010 年夏に比べて約13%低下した。また、太陽光発電設備の増加とともに太陽光の供給力も増加、2015 年には2010 年夏の最大電力に比較して約6%を太陽光発電が担い、2015 年には2010 年最大電力比で節電による最大電力減少分と太陽光発電で19%を占めた(図10)。
2016 年はさらにこれらが増加すると予測され、こうした構造変化により、原発稼働ゼロでも電力需給に一定の余裕が十分得られる。2016 年夏には、本レポートの予測では、こうした節電と太陽光発電設備の導入を反映し、供給予備力1947 万kW、予備率23%となった(図4c)。供給予備力1947 万kW は関西電力で予測される夏の最大電力の8 割に相当、また四国電力と九州電力の夏の最大電力予測の和に匹敵する。これにより、仮に関西電力、四国電力、九州電力で需給がやや厳しくなることがあったとしても、広域での電力融通が可能である。
本レポートでの予測と政府予測との差を図11 に示す。主に過大需要、夏の工事等による火発停止、揚水未活用、太陽光発電供給力過小評価(図では再エネ過小評価)の是正により、政府予測より大きな予備率が得られる。
■ 四国電力の電力需給
四国電力は伊方原発3号の再稼働を進めようとしている。この原発は巨大地震発生が懸念される中央構造線断層帯に近い。佐田岬半島の付け根に原発があり、地震などで事故トラブルが発生した際の避難計画は他にも増して困難を極める。
一方、原発稼働ゼロの状況で、四国電力でも節電が進み、2015 年夏には最大電力が2010 年夏に比べて14%低下した。また、太陽光発電設備の増加とともに太陽光の供給力も増加、2015 年には2010年夏の最大電力に比較して約7%を太陽光が担い、節電と太陽光発電で2010 年最大電力の21%を占めた(図14)。2016 年夏はこれらの増加が予測され、こうした構造変化により、原発稼働ゼロでも需給に十分な余裕が得られる。2016 年夏には、本レポートの予測では、節電と太陽光発電で2010 年最大電力の約26%を賄い、原発再稼働無しに供給予備力145 万kW、予備率28%とさらに十分な余裕が得られる(図15)。
本レポートと政府予測との差は図11 に示した通りで、主に過大需要、夏の工事等による火発停止、揚水未活用、太陽光発電供給力過小評価(図では再エネ過小評価)の是正により、原発稼働ゼロでも政府予測よりさらに十分な予備率が得られる。
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