ILO 日本のジェンダー平等とディーセントワーク研究
「日本が直面しでいる少子化や活躍する女性が少ないといった問題の原因が、只単に仕事と家庭が両立しやすい環境が整備されていないという問題にとどまらず、雇用制度そのもののなかにある。」「日本の雇用制度は、専業で家事や育児を担っている妻がいるという前提で、男性(夫)が会社の命令にしたがって長時間働く男性稼ぎ主世帯が前提とされている。会社からの転勤などの命令にしたがう「無限定正社員」としての働き方を選択しない限り、企業の中核的業務や管理的業務に従事するために求められる教育・訓練や業務経験を積みがたい。このような、拘束性を前提とした職業キャリアの設計・運用のあり方が女性の活躍を阻んでいる。」
と原因分析をしている。
「無限定正社員」という拘束性を前提とした男性中心の雇用制度の行き詰まりを示している。
単に安くつかおう、そのために質の悪い託児所に子どもをつめこめ、基幹労働者は残業代セロにしろ、と考えている「総活躍」では、未来はない。
以下に「まとめ」の部分を掲載。
【日本のジェンダー平等とディーセントワーク研究 ILO2016/6】
ただし、同レポートは、、“生み出した価値による差によって処遇が決まる同一価値労働同一賃金の適用を検討する必要がある”と、生計費原則ではなく、経営者側の恣意的評価できまる成果主義賃金を原則とするようにも見える。この点は、注意が必要。
6章 まとめと今後に向けた提言経済の構造変化とともに働く女性がふえ、ディーセントワークにつく女性が増加している。好事例もふえており、女性の活用が企業の業績の向上に不可欠であるという認識が企業のあいだに広がり:はじめている(第5章参照)。
さらに女性労働者の権利を守るための法整備も進められてきた。裁判においても女性労働者の主張が認められるようになっている。たとえば、最近の最高裁判決において、本人の合意がない場合の出産による降格は違法であるという判決が下っている。さらに、会社がコース別人事管理制度を導入し、男性は総合職、女性は(総合職を補助する)一般職とし、総合職と同等の仕事をしながら一般職として賃金に差が生じていたケースの判決が下り、企業の賠償命令がくだされている。
加えて、働く女性の権利の向上のための草の根の運動も活発化している。1995年にはワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)が発足し、15年にわたって、日本の女性労働者が置かれた状況に改善すべき点があるという発言を積極的におこなっている。その発言が、国連やiLOの日本政府に対するレポートの内容にも大きな影響を与えている。とはいうものの、課題もあり、識者からは他の先進国に比較して均等法の実効性が弱いという指摘もなされている、違反企業への罰則がない。都道府県労働扁長には企業への助言や指導、勧告の権限はあるものの、働く側が損害賠償を求めるには裁判をおこすしかない。
また、日本において、女性と男性とのあいだに処遇格差が生じているのは、女性が職場において直接的に差別されているというよりは、雇用制度そのもののなかに、家庭責任を負っている女性が不利になるような制度が存在している。
日本の雇用制度は、専業で家事や育児を担っている妻がいるという前提で、男性(夫)が会社の命令にしたがって長時間働く男性稼ぎ主世帯が前提とされている。会社からの転勤などの命令にしたがう「無限定正社員」としてめ働き方を選択しない限り、企業の中核的業務や管理的業務に従事するために求められる教育・訓練や業務経験を積みがたい。このような、拘束性を前提とした職業キャリアの設計・運用のあり方が女性の活躍を阻んでいる。
それを変えるためには、均等法において間接差別を禁ずることが重要になる。日本では2006年の均等法改正において間接差別の禁止事項が追加された。しかし、これが適用される事例が限定されている。2012年10月から均等法の見直しがおこなわれたが、法改正にはいたっていない。今後は間接差別の禁止を限定的ではなく拡大していくことが必要になっている。最近の研究では入社時に仕事へのモティベーションの高い女性ほど離職しているということが指摘されている(中野(2014)、杉浦(2015))59。その理由は、女性が結婚や出産で離職することを前提として、男性と同じキャリア形成機会を提供しないこと、初期キャリアの段階から自らのキャリアの発展性を展望できるようなやりがいのある仕事が割り当てられないことが背後にある60。
さらに、活躍している女性の多くが結婚を遅らせたり子供をもたなかったりしている。それが若い女性が社会で活躍することに積極的になれない理由にもなっている。
つまり、日本が直面しでいる少子化や活躍する女性が少ないといった問題の原因が、只単に仕事と家庭が両立しやすい環境が整備されていないという問題にとどまらず、雇用制度そのもののなかにある。これを克服していくためには、企業の昇進昇級を含めた働かせ方、ひいては人事処遇のあり方にまで踏み込んだ大改革である。たとえ、各種の制度や慣行の変更に伴う一時的コストが伴ったとしても、これまで女性の活躍を阻むことに繋がってきた社会要因や諸制度を前提自体に踏み込んだ改革をいかに推進し、性別に関わらず人材を生かす制度を構築していくかに関する具体的な施策を策定し、実行していくことが必要になっている。第3章で詳しくのべているように。女性の活躍を阻んでいる理由のひとつとして、働き方の選択肢が少ないという問題がある。正社員には雇用の安定があるが、勤務地、職務の内容、労働時間などは、会社の命令にしたがうことが暗黙のうちに想定:されている。他方、非正規社員は、そのように(会社の命令によって)拘束的に働かなければならないわけではないが、その分、雇用保障もなく、処遇も低く、能力開発の機会もない。非正規社員の多くは女性であり、現在は女性労働者の過半数が非正規労働者として働いている。
そのために、結婚や出産で仕事をやめた女性が再就職をするときの仕事が非正規の仕事に偏る傾向がある。また。保育環境が十分でないために。実際ははたらきたくても働けない女性も多い、300万人以上の女性が働きたいと希望しながら実際には働いていないといわれている。
女性が活躍するには、正社員と非正社員とのあいだの中間的な働き方が必要ではないかということで、限定正社員という新たなカテゴリーが作られた。これが限定正社員とよばれるものである。
限定正社員とは、雇用の保障があるという面では正社員と同じであるが、地域や勤務時間、勣務内容などについては「限定」した形の契約を結ぶ。いわゆる正社員と非正社員の中間に位置する働き方をしている社員のことである。
雇用者のうち約3割がこのような働き方をしているといわれている(厚生労働省(2O12)『「多様な形態による正社員」に関する研究会報告書』)。 2O13年には雇用契約法:が改正され、職場で5年以上はたらく非正規労働者が希望すれば正社員として登用しなければならなくなったことや、近年は非正規労働者不足が探刻化していることから、優秀な非正規労働者をキープするために、非正規労働者の限定正社員化を進めている会社もふえている。
限定正社員のメリツトはいうまでもなく、雇用が安定しているということである。それがはたらくもののやる気を高める。他方、デメリツトは,処遇格差が依然としてあることである。それが労働者の階層化を進めてしまう。また、雇用保障の程度においても正社員ほどではない。
また、女性の活躍が企業にとって不可欠な時代になってきており、無限定正社員の残業時間を削減し、生産性をあげることが求められているにもかかわらず、それを標準的な働き方としながら、限定正社員という例外的な働き方を認めている。これでは問題の本質的な解決にはつながらず。かつ男性の育児参加も進まない。限定正社員という働き方が標準的な働き方である、という認識からスタートするとともに、正社員と非正社員の待遇格差を解消するために、同一価値労働同一賃金の原則を確立することが求められているのである。正社員と非正社員とのあいだに大きな賃金格差が存在することは、本レポートによって紹介されている。それは生産性の格差だけでなく、働き方の格差によって生み出されている。2008年のパート労働法の改正においてはじめて正社員とパ一トタイマーとの均等待遇がうたわれている。しかし、この均等待遇が法によって認められているのは、職務内容と人材活用のしくみが同じであるなど、全体の1割にも満たない労働者に留まっている。2015年にもさらに改正され、その適用が拡大されたとはいうものの、いまだに狹い範囲に限られている。
今後は、働き方による処遇格差ではなく、生み出した価値による差によって処遇が決まる同一価値労働同一賃金の適用を検討する必要がある。大きな男女間の賃金格差が合法的に認められている限り、男女間の役割分業を変えることはむずかしい。税・社会保障の改正が不可欠になっている。第2章で指摘しているが、所得税制度や社会保障制度において、ある一定の所得において税負担が軽くなり、社会保険費用負担が免除される制度が存在している。そのような制度が、パート賃金を下げ、企業にパート労働者を採用するインセンティブを提供している。また、既婚女性にとっても非正規労働者として働き、就労時間を調整することが合理的な選択となっている。このような制度の改正も不可欠となっている、
以上のべてきたように、日本においてはいまだに女性の活躍を妨げる要因が多岐にわたって、複雑に絡み合って存在している。課題の改善・解決のためには、どこに構造的な問題があるのかを把握し、包括的かつ強力な措置を講じていく必要がある。
女性の人材活用を難しくしている相互補完的な諸制度を抜本的に変えようとしない状況が続けば、両性が平等の条件で最大限にその能力を発揮する機会の促進を阻害しかねない。それができなければ、少子高齢化が進行する現在の日本において、介護や育児さらには地域社会の維持・活性化の担い手としても大きな力を発揮することが期待されている男女労働者双方のワーク・ライフ・バランスが実現できない。
日本は男性が働き一家を支える片働き社会から男女ともに働き一家を支える共働きモデルに転換する転換点に立っている。その実現ができなければ、そのことによって社会が支払うことになる負担(社会的コスト)は、否がおうにも増すことになろう。・59中野丸佳(2014)『「育休世代」のジレンマ』光文社、2014)、杉浦浩美「就労意欲と断続的キャリアー初職離職と転職・再就職行動に着目して」岩田正美・大沢真知子編著「女性が仕事を辞めるとき」(青弓社、2015)
・60 この点に関する詳細は。大沢[2015:21127】に詳述されている。
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