日本では特に生きづらい発達障害
法学館憲法研究所のコラムから。
6月県議会では、4月に施行された障害者差別解消法にのっとり、県の職員採用試験の受験資格を、発達障害者、難病患者にも拡大すべき、と提案。
県は、障害児雇用率は2.66%と法定の2.3%を上回り、今年度から、「自力による通勤ができること」「口頭による試験に対応できること」との要件を取り除くなどの努力をしている。提案にも「どのような職務が可能か、まずは研究したい」と答弁があった。
【「日本では特に生きづらい発達障害」6/6 金子磨矢子さん(Neccoカフェ)】
◆6月県議会~障害者差別解消 発達障害、難病の採用試験資格 「先行自治体調査し、研究する」
4月に施行された障害者差別解消法は、行政機関等は、 障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合 その実施に伴う負担が過重でないときは合理的な配慮をしなければならない」ことを義務づけており、発達障害を含む精神障害も法の対象となりました。
しかし、障害者雇用促進法の対象には、発達障害や難病患者は含まれておらず、兵庫県明石市を例に、職員採用試験の受験資格を、発達障害者や難病患者にも拡大すべきではないか、と提案。
総務部長は、知事部局の障害者雇用率は、07年度の2.13%から2015年は法定雇用率の2.3%を大きく上回る2.66%となり、全都道府県でも第9位となっていること、今年度からの採用試験では、「自力による通勤ができること」「口頭による試験に対応できること」の要件を受験資格から取り除くことにしていると、積極的に取り組んでいることを報告し、提案にも「先行して取組を行っている自治体の例に学びながら、本県において、どのような職務に従事していただくことが可能かということをまずは研究したい」と答弁しました。
【「日本では特に生きづらい発達障害」6/6 金子磨矢子さん(Neccoカフェ)】発達障害を持つ人たちは日本では人口の1割くらい存在するのではないかと推測される。発達障害の中にはASD(自閉症スペクトラム障害、自閉症、アスペルガー症候群)、ADHD(注意欠如・多動性障害)、LD(学習障害)、トゥレット症候群、吃音が含まれる。
◆いったいどんな人たちなのだろう。
発達障害の当事者たちに聞いてみた。
感覚が過敏、思い過ごし、勘違い、オタク、ひきこもり、天然、不安、遅刻魔、チック、無神経、キレる、だらしない、恐い人、神経質、どもる、生真面目、KY、天才、不器用、じっとできない、ばか正直、片付けられない、几帳面、しつこい、暗い人、懲りない、気持ちを汲めない、対人恐怖、ガンコで融通がきかない・・・など、いくらでも出てくる。しかしそれって誰にでもあることではないか、と思われるならば全ての単語の前に「超」の字をつけて頂ければ少し分かりやすくなるかもしれない。
発達障害というのは、ひとりひとりが皆違う特徴を持っている。大雑把に似たもの同士で分類をすることはできるが、100人いれば100通りのタイプがあると思ってほしい。例えば発達障害の象徴の如く使われている、アインシュタインの舌を出した写真をご存じの方はいると思う。レオナルド・ダビンチ、エジソン、モーツァルト、ウォルト・ディズニー、ケネディ大統領、クリントン大統領など、科学や芸術または政治など、あることに飛びぬけて秀でた才能を持つ人は多い。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、トム・クルーズ、ジム・キャリー、スピルバーグ監督なども発達障害だといわれている。
日本では坂本竜馬、織田信長がよく例に出される。最近では黒柳徹子がカミングアウトし「トットてれび」の中で発達障害の魅力をアピールしてくれている。そのほか長嶋茂雄、さかなくん、ディスレクシアの麻生元総理、サヴァン症候群の山下清は有名である。市川拓司、栗原類、勝間和代は啓蒙の意味も込めてカミングアウトしてくれているありがたいお仲間である。
発達障害をなるべく身近に感じて頂きたくて有名人を挙げてみた。
実はカミングアウトしていなくても発達障害の人は周りに大勢いる。アスぺルガー症候群率№1は東京大学だという説もほぼ定着してきた。大学教授、医師、弁護士などの職業には多くいることがわかる。社内のコミュニケーションがうまく取れず、勤務ができない人でも経営者になって成功する場合もある。好きな仕事ならとことん極めたいという人が能力を発揮すれば、優れた研究者になったり、職人や名人になったりする。ノーベル賞受賞者の中にも発達障害の人は多い。しかしながら、自分の才能に気づくことができる人は僅かであり、更に成功できる人はその中のほんの一握りにすぎない。ほとんどの人たちは社会の底辺に追いやられ、声を上げることもできない弱い立場の人たちなのである。
幼少期からいじめに遭いやすく、不登校からひきこもりに移行していく人。まだひきこもる部屋のある人はましな方で、発達障害の遺伝的な連鎖と貧困の連鎖も加わり劣悪な境遇に陥っていく家庭もある。
生活保護受給者の中には、社会から追い出されて働けなくなった発達障害の当事者も多い。また、ホームレスや犯罪を犯した受刑者の中にも発達障害や知的障害を持った人たちは高い割合でいる。勉強が好きなら大学、大学院まで進学する者も多い。新卒で企業に就職しても一度躓くと、その後転職を繰り返しながら障害者就労に行く人もこのごろは多い。
また昨年度からは大学新卒の即障害者雇用が増えてきた。障害者雇用の枠が厳しくなったせいで企業からのオファーが増え、就労移行支援事業所が発達障害を持つ大学生の支援も始めているのだ。
しかし一方で、発達障害の当事者であっても仕事が継続できて暮らしが成り立っている場合は、診断を受ける必要もなければ、なにも障害を名乗る必要もない。極端な話、資産家の家に生まれ、働かなくても生きていける人も同様でなのである。
世の中には、自分が発達障害と気づいていない人の方が圧倒的に多くいるであろうが、生きていくためにたいして困ってさえいなければ、わざわざ発達障害と気づかなくてはならない理由がないのだ。
発達障害は生まれもってのその人のタイプであり個性であるともいえるのだから。しかし、近年になって発達障害者が増えてきているという。
それはやはり発達障害の診断や支援が広がってきたことに関係している。
自分でも自分の特徴を客観的に知ることは大切であると同時におもしろいことだ。自分のタイプを知っていることでより生きやすくなるのである。
私は、カミングアウトをするかしないかは別にして、もしかして発達障害と似ていると感じた方は、検査を受けてみることをお勧めする。◆発達障害の歴史はまだ浅い
2016年5月25日「改正発達障害者支援法」が参院本会議で可決、成立した。発達障害者支援法は2005年に施行され改正は約10年ぶり。今までは子どもの療育や小中学校における環境整備が主であったが、これからは大人の発達障害者にも着目し、生涯に亘った支援体制を構築していくとした。見た目で分かりづらい発達障害が、周囲からの理解を得られるよう『社会的障壁』を取り除く必要があるとした前向きな法改正なのだ。
この法改正により、我々にもやっと生存権が認められたように感じた。未だに立ち位置の決まらない発達障害者は、この先の社会にはどのような認知をされて行くのであろうか。
2010年、障害者自立支援法が改正されるまで、発達障害は障害と認められていなかったのである。晴れて障害者として障害者手帳を持ち、福祉のサービスが受けられるようになった。だが、それは「精神障害者」になるということであった。
定義では、発達障害とは脳の機能障害なのである。
しかしながらそれほどの違和感はない。発達障害者のほとんどは、精神症状を悪くした経験をもって生きている。
生まれたときから育てにくい子どものため、親も手を焼いて厳しく躾を試みる。返って子どもは酷くなるし家族関係は悪化する。社会の中では差別と偏見に晒され、幼少時から大人になってもなお、仲間外れにされたり、いじめを受けたりという経験を繰り返して生きている。
神経が過敏すぎるところと鈍麻すぎるところを持ち合わせているため、日常の生活でも不適合を起こす。
従って多くの人が何らかの「二次障害」といわれる症状に陥ってしまうのである。私自身も睡眠障害や鬱を経験しており、既に精神科クリニックには掛かっていたため精神科に対するアレルギーは少なかったのだが、発達障害を診断できるドクターを探しあてるのは至難の業であった。特に大人の発達障害を診てくれるドクターは今現在でもまだまだ足りない状況だ。
では発達障害の概念が入ってくる以前はどうだったのかというと、当時は全てが精神病というカテゴリーに分類されていたと考えられる。統合失調症を患い、長期入院を余儀なくされている患者の中に、どれだけの発達障害者が入っているのかと想像する。
しかしそれらが全て誤診であるとは言えない。彼らは病気にもなりやすいのだと感じるからだ。発達障害を持つ人の心は、繊細で透き通っているのである。
更に昔の文献を紐解けば、座敷牢に入れられてしまったり、人身御供に差し出された時代もあったのだ。果たして現代はその時代よりは好くなっているのだろうか。
昨年、ある教育委員から「障害児の出産を減らせたら」との発言があった。「妊娠初期にもっとわかるようにできないのか。減らしていける方向になったらいい」と。とても悲しかった。◆Necco(ネッコ)ができるまで
私が自分の発達障害に気づいたのは1996年、初めて一般書店に並んだ一冊の本を手にしてからだった。そこには今まで解明できなかった自分の説明が書かれてあり、呆然と立ち尽くした。生まれてからずっと自分はダメな人間だと戒めてきたが、それは自分のせいではなかったのだ。自分自身の努力が足りなかったのでも、怠けていたからでもなかった。なんと生まれつきの障害だったのだ。人生でこんな嬉しい発見のできる日に遭遇することができるなんて、つくづく生きていてよかったと感激した。
その日を境に私の人生は発達障害と共に歩き始めた。2004年頃から当事者の知り合いが少しずつ増え、SNSを通じたグループのオフ会なるものに参加するようになっていった。
どの人も自分の発達障害に気づき、同じような人と会って話がしたいと思っていた。人数が増えるに従って区民センターの広い部屋を借りた。
午後から夜まで通しで借りても、いくら話しても話は尽きなかった。月1回のオフ会では物足りない。いつでも行ける居場所がほしい。それはみんなの悲願だった。◆Neccoカフェの誕生
発達障害の当事者たちは、それぞれの困り感の解決方法など積極的に情報交換をして盛り上がっていた。そんな2010年の秋、西早稲田の貸店舗に出会った。Neccoカフェの始まりだった。何もないがらんとした部屋の床に座り連日のように夢を語り合った。それ以来今日に至るまで毎日欠かすことなく必ず誰かが訪れる居場所になっている。
Neccoカフェは毎日12:00~18:00がカフェタイム18:00~22:00まではフリースペースとして開いている。土日も祝日も年末年始以外は年中無休である。
スタッフは全員が発達障害の当事者、お客様もほとんどが当事者というめずらしいカフェである。発達障害の関連書籍がぎっしりと詰まったBookCafeでもある。
コーヒーは生豆から焙煎し、1杯ずつ丁寧にドリップした美味しいオリジナルブレンドを提供している。アイスコーヒーも本格24時間水出し。発達障害の人たちのために作られたハーブティも人気がある。
イベントも年100回以上開催される。勉強会、研究会、講演会、交流会、相談会、読書会、音楽会、鑑賞会などがある。なかでも、アナログゲーム会、ほんわかカフェなどは人気。Necco音楽祭、ドローイングクラブ、創作同好会、フラワーアレンジメントの教室、ハーブの教室も定期的に開催されている。ひきこもり大学、LGBTの会、かんもくの会、トゥーレットの会もある。
イベントを開催したい人は企画書を持ってきて、スタッフと相談をしながら作っていく。
やりたい人がやりたいことをできるように、私たちはできるだけ主催者の自主性を尊重しながらお手伝いをしている。◆発達障害の人たちを排除しない社会を
発達障害の人たちにとって、人と同じことが是とされる日本はとても暮らしにくい国だ。場の空気を読むことが正しく、自分の意見をストレートに言うことは好まれない。
社交辞令やお世辞が日常的に交わされ発達障害の人にはどの言葉が真実なのか分からない。大半が単一民族である日本ならではの文化や習慣に合わせることはとても難儀なのである。
今の日本は発達障害者に限らず健常者にとっても暮らしにくい世の中になってきている。
自己責任という言葉が聞こえるようになってから、弱者は切り捨てられるのがあたりまえになってしまったようだ。生産性のない人はいらないと言わんばかりに福祉の予算は減らされていく。
少子化で人口が減り続けている日本は、この先外国人の力も借りる必要が出てくるのに、助け合っていくどころか反対の方向に向かっているのではないだろうか。我々は多文化共生の気持ちを大切に育て、争いのない世界をめざすことこそが肝心だと考える。発達障害の人たちのことは、外国人だと想定して接してくれるのがありがたい。
ちょっと変な人たちだけど、その人その人の文化があるのだと、変なところも含め尊重し、温かい眼で見てもらいたいと願う。発達障害の人たちを排除しない社会は全ての人にとって優しい社会になると信じる。
日本は70年以上戦争をしていないことを堂々と誇れる素晴らしい国なのである。これから生きていく子どもたちに託していくことを肝に銘じ、愚かな歴史を繰り返さないために、今、日本中の大人たちはしっかりと考えなければならない。
戦後を更新し続ければ、ほんもののノーベル賞もギネスも獲得できる。日本は今からなら間に合う。
Necco(ネッコ)のご案内
Neccoカフェ●金子磨矢子(かねこ まやこ)さんのプロフィール (Neccoカフェ)
1953年東京生まれ。一般社団法人発達・精神サポートネットワーク前理事長
発達障害当事者として当事者による当事者のための「居場所」Neccoカフェを作り、発達障害の啓発とピアサポートをおこなっている。ひきこもり大学、ひきこもりフューチャーセッションIORI、発達障害当事者協会の活動にも参加している
ASD,ADHD,睡眠障害、慢性疲労症候群、線維筋痛症を抱えながら日夜悪戦苦闘している
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