小規模経営の方が持続的で農業成長に寄与 欧州議会・研究
農業情報研究所の最近の欧州議会の研究についての情報提供・・・「公的政策の観点からして、小規模経営はむしろ推奨すべきものであり、中小規模経営は大経営以上に農業部門の成長に貢献している」「農業の成長(農業所得増大)と農村開発は大多数の中小規模家族農業に立脚する必要がある」としている。
災害の多発、土壌の劣化・・・持続可能な農業・農業政策が必要である。
【小規模経営の方が持続的で農業成長に寄与 ヨーロッパ農業モデルに関する欧州議会の研究 農業情報研究所 6/26】「EU共通農業政策(CAP)はどうすれば21世紀のヨーロッパ農業モデルを支援することができるのか」、このように題する最近の欧州議会の研究*が、「農業経営規模拡大は一直線に進んでいるわけではなく、小規模経営は必ずしも消滅の運命にあるわけではない」ことを明らかにした。公的政策の観点からして、小規模経営はむしろ推奨すべきものであり、中小規模経営は大経営以上に農業部門の成長に貢献しているという。研究は、農業政策は大経営の支援に焦点を当てるのではなく、もっと包括的なものでなければならないと結論している。
*http://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/STUD/2016/573428/IPOL_STU(2016)573428_EN.pdf
この研究によれば、農業経営の持続性は経営規模により条件づけられるものではない。小経営は逆境からすぐ立ち直る弾力性を持ち、自分自身の資源(労働、経営資本、土地)で稼働し、価格の乱高下に対抗するための有効な<低コスト>戦略を持ち、社会の要請、景観・生物多様性保護の要請にもうまく対応できる。逆に、メガ経営は直接援助の大部分をせしめることで家族農業を脅かし、社会の要請と矛盾するという。
研究は、農業の成長(農業所得増大)と農村開発は大多数の中小規模家族農業に立脚する必要があるとして、次のように勧告する。
・CAPの第一の柱(個別経営への直接支払)と第二の柱(農村開発)の関係の再考。第一の柱は第二の柱に包含・統合されねばならない。
・歴史的生産基準(面積)に基づく援助は廃止し、景観の管理と生物多様性の保護の基準で条件づけられた新たな一括援助を設ける。
・景観維持と生物多様性の保護を自己統御の新たな形態である<協同地方自治>に委ねる。
・生産者と消費者の直接的関係による新たな市場の構築。
・農業者の交渉力を強めるために、例えば競争の権利の一定の例外を反映する食料チェーン(食料品流通)に関する新たな規制の開発。この研究における小経営の定義は必ずしも明確でないが**、ヨーロッパ農業モデルの中核をなす「家族経営」の危機に対する抵抗力が、過剰生産とスーパーの買いたたきからくる価格低迷でこれでは破産だと大騒動を引き起こす企業的大経営(何百頭もの牛を飼う工場畜産農家がその典型)に勝ることは確かである***。
私有財産制の基礎である家族零細土地所有を脅かしてまで、ひたすら大規模化を追求する(そのうち旧社会主義国の大規模集団農場に接近?)安倍農政は、まさに21世紀のヨーロッパ農政と真逆の方向を向いている****。
**経営面積と家畜頭数に一定の係数をかけて評価される経済規模を基準(EU統一基準)とすると、2013年、フランスでは小規模経営(2万5000ユーロ未満、ほぼ300万円未満)が32%、大規模経営(10万ユーロ以上)が39%で、中小規模経営が半数以上(61%)を占める(Agreste Premieur,juin 2015)。
ただし、労働の観点から定義される「家族経営」(労働力の大半が家族から提供される経営)はフランスの農業経営全体の95%に上るという(L’agriculture familiale en France métropolitaine : éléments de définition et de quantification - Analyse n° 90 - mai 2016)から、小経営と家族経営とは必ずしも一致しない。
***小稿 フランス山地農業 「日本型」の経営モデルに(日本農業新聞 16..4.8 第2面 万象点描)を参照
****この点、より詳しくは、来月刊行予定の「農業成長産業化という妄想―「安倍農政」がヨーロッパ共通農業政策から学ぶべきこと―」 (世界 2016年8月号)を見られたい。
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