電力自由化と「公共料金」としての電気料金
議会と自治体2016.4.5号 薄木正治「電力自由化と国民の暮らし(上)(中)」より
全体的な流れと課題をつかむ上で参考となる。なお、各種団体から、原発温存、再エネ制限をもたらす「電力システム改革」に、専門的な提言、意見が提出されている。
【自然エネルギーの選択が可能な小売全面自由化を実現すべき(パブコメ意見) 環境エネルギー政策研究所】
【電力システム改革に関する提言 自然エネルギーを中心とした電力システムの実現に向けて 自然エネルギー財団】
【電力自由化における原子力発電の問題点~原発ゼロ電気は選択できるか 原子力市民委員会】
【電気・ガス全面自由化と国民のくらし】
◆ 電力システム改革と電気事業法3段階「改正」の全体像
1.「瞬間生産・瞬間消費」という電力生産の特性
・電気は、水とともに公共的な「インフラのなかのインフラ」
・他の商品・サービスとは違った「瞬間生産・瞬間消費」という著しい特性
~ 周波数を一定の範囲に維持するために、需給が多すぎても、少なすぎてもいけない
→ このため電気供給事業について規制している。
2.電力システム改革の目的および電気事業法「改定」の内容
・「電力全面自由化」 90年代半ば以降議論され「部分自由化」の改正、3.11後に改定
・電力改革システムに関する改革方針〔閣議決定〕による全体像〔①広域系統運用の拡大、②小売および発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性のいっそうの確保〕
・3段階〔13年11月、14年6月、15年6月〕による電気事業法等改正/電気、都市ガスの自由化
・システム改革の3つの目的 ①電力の安定供給確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家の選択肢と事業者の事業機会の拡大
《 第一段階――改革プログラムの決定と広域機関設立 》
・「電力広域的運営推進機関(広域機関)」の設立
発電事業者、送配電事業者、小売電気事業者で構成され、電気の送電網を全国ベースで系統運用する機関
→地域毎の10電力会社が、営業エリアを超え、電力の過不足を調整して地域間で融通し合うようにするとともに、場合によっては、電力の焚き増しを発電開始やに支持する権限を発動できる(15年4月より運用)
*HPより
{電源の広域的な活用に必要な送配電網の整備を進めるとともに、全国大で平常時・緊急時の需給調整機能を強化することを目的に設立されました。
主には
・需給計画・系統計画を取りまとめ、周波数変換設備、地域間連系線等の送電インフラの増強や区域(エリア)を超えた全国大での系統運用等を図る
・平常時において、各区域(エリア)の送配電事業者による需給バランス・周波数調整に関し、広域的な運用の調整を行う
・災害等による需給ひっ迫時において、電源の焚き増しや電力融通を指示することで、需給調整を行う
・中立的に新規電源の接続の受付や系統情報の公開に係る業務を行う 等
が業務内容となります。}
《 第二段階――小売参入全面自由化、料金は自由・規制が当面存続 》
・電力会社の地域独占と規制料金制を改め、電気事業者を発電・送配電・小売の3つの類型にわけライセンス化
→ 異業種大企業の参入が可能
→料金 自由料金と規制料金が当面共存(完全撤廃は18-20年の予定。が、小売段階の「競争状態」が「確認」されるまでの間、「経過措置」が設けられる)
《 第三段階――発送電分離(法的分離)、送配電網中立性確保 》
・送配電網~「電気の道路」の中立化/電力会社が自社に有利に運用しないよう中立・公平を義務づける
・方式~欧州のような完全分離し資本関係まで断ち切る「所有権分離」まで行わない持株会社方式(法的分離)
・「電力取引監視等委員会」の設置~委員長は、新自由主義者の八田達夫・元政策研究大学院大学学長
・発電~届出制、送配電~許可制、小売~登録制
→10電力会社による地域独占の電力システムの「大改革」/ 戦争体制の解体の1つ
3.国民の期待と市場獲得競争の思惑が錯綜
・原発ゼロにむけたエネルギーシフトの側面/ 安倍政権の「成長戦略」の柱~最大の問題は、原発温存のためのシステム改革 /原子力市民委員会「声明」参照
◆「小売自由化」のポイントと問題点① 料金について
1.中長期的には、値上げの危険
・現在の料金プラン~比較的電力使用量が多い世帯がターゲット
・「選べる」というが ~大都市では小売電気事業者が数多く進出。四電館内では3社
→ 競争の高い分野は下がる可能性もあるが、しわ寄せがいく地域、分野が生じかねない
→ イギリスなど寡占化が進み、「価格操作」による値上げに対し、小規模事業者優遇の税制改正で対応
アメリカ、自由化15州、料金規制33州/自由化州の方が3割高い(10年)
2.料金水準は適正か――料金原価のブラックボックス化
・原発事故以降、7社が値上げ~一般家庭料金 平均25%、産業用料金 平均約40%
・値上げの理由/火力発電の焚き増し、円安による燃料費の増加
→ 料金原価には、原発再稼働が織り込まれている / 値下げは再稼働が条件
◎そもそも現在の水準は適正か /判断基準はどこにあるか
・現在でもほとんど開示されていない料金原価の内訳が、完全にブラックボックスかされる/公共料金なのに?
→ 消費者の「知る権利」、電力の「選択権」という観点から問題はないのか
*この間の「値上げ申請」における経産省・消費者庁の審査の経験/ 一部が明らかなった料金原価の内容
①日本原電の発電していない料金相当分を電力各社が消費者に転化/「広告費」名目での不当な費用/「原発賦課金」(電源開発税、廃炉費)、核のゴミ代、福島原発の賠償金の1部、役員の高額給与など
②部門別収支。販売電力量は自由化部門が7割、利益は家計部門が7割(東電に関する経営・財務調査委員会)
→ 自由化でブラックボックス化/認可料金制が残される送配電部門の託送料金の公聴会も廃止
3.託送料金(「電気の道路」使用料)もブラックボックス化
・自由化のもとで、事業者の新規参入を大きく規定するのは、送電線網の使用料=「託送料金」
→ そのあり方で、小規模事業者等の参入、再生エネなど分散電源の普及に大きくかかわる重要問題
・現状の仕組み
大規模発電所-基幹送電網-超高圧変電所→一次変電所→配電用変電所→柱上変圧器→家庭用引込み線
・託送料 電気料の総原価の2-3割を占める ~ 現在の水準が適正か、検証が必要
東電 試算値 1kW時 低圧8.88円、高圧3.81円、超高圧1.95円 /平均5.14円が、4倍差
→ 産業部門と家計との格差は、市場メカニズムでは解決せず、逆にブラックボックス化のもと拡大の懸念
4.問われる「公共料金」のあり方
・産業と家庭との格差、都市と過疎地や家庭でも多少世帯と単身・高齢世帯との格差の懸念
・今回のシステム改革では、本土とつながっていない離島に格差がでないよう規程しているだけ
・現在の料金 最低料金/基本料金/従量料金(東電など) もしくは、最低料金/電力量料金(四電など)
~ 電気は「公共料金」として、国民のナショナル・ミニマム保障として供給されるべきもの /省エネの観点から、使用量が多いほど高くなる体系をとりつつ「ユニバーサル・サービル」という考え方を踏まえ、使用量が少ない低所得層に配慮した料金体系
★料金規制が全廃され、格差が拡大し、省エネに逆行するとすれば、重大問題/ 根本的対策が必要
・「電力取引監視等委員会」/競争が適正に実施されているか監視が仕事/料金の適正水準監視は対象外
・「公共料金」とは「物価問題に関する関係閣僚会議」(93/8/24)の「口頭了解」では「国会・政府・地方公共団体など公的機関が、商品・サービスの価格決定に直接関与するもの」
→政府の許可料金制/公聴会手続きを経て経産省で審査。消費者基本法に基づき経産省と消費者庁の協議で決定
5.「電気の卸市場」は未成熟
・北欧、欧州連合 EU指令により、公正・自由・透明な卸取引市場を前提にした電力市場の制度を設計
~発電事業者と消費者の相対取引ではなく、発電電力をすべて市場に卸し、小売事業者が調達し、消費者に販売
→ この実現のためには、発電、送電、小売の完全分離が必要/ 欧州では発送電の完全分離/所有権分離
・日本 「法的分離」止まり、持ち株会社での一体経営を事実上容認
卸売市場 13年時点 北欧77%、英国19%、独32%、米27%、日本0.6%(15年末1.8%)
・第二段階では、一定の要件が整えば「先物市場」を創設すると規定~が、同市場は不健全な状況
・未成熟な卸市場の現状で、経産省は、4月よりFITに、市場連動型の仕入れ取引価格を導入 /その際の値決めに、JPEX(日本卸電力取引所)の価格を利用する/ が、取引量が2%未満しかない段階で導入
→ 価格変動が激しすぎるため、「無謀」「ヤミ鍋相場」との批判(市民・地域共同発電所全国フォーラム・シンポ 2015.11.14)、地方自治体が経営する「中之条町電力」(群馬県)は、再エネ普及に「水差さないで」と懸念
・原発再稼働の「口実」に――卸電力取引所の「取引玉」(電力)が不足している現状を変えるため、原発を再稼働して「余剰電力」を取引玉として優先的に投入しようとする経産省の思惑
・再生エネの爆発的な普及による電力取引の活性化こそ王道
( 原発再稼動を前提とし、再エネ購入の制限を実施されている )
◆小売自由化」のポイントと問題点 ~電源は選べるか
1.電源表示を義務付けない「小売営業指針」
・電源構成の表示は、「努力義務」
→ 欧州 法的義務/ドイツの例 電源構成、1kW時当たりの温暖化ガス排出量、原発の放射性廃棄物
→ 日本 「CO2ゼロ・エミッション電源」の表示も可能/ 原発も該当
経産省「非化石エネルギー」として再エネと原発を一くくりに扱っている/是正させるべき
・電源を「選べる」ためには… 構成表示の義務化/とともに、再生エネの爆発的な普及 / 「パリ協定」の温暖化ガス削減目標達成のためにも、日本の排出量の4割を占める電力部門の改革が重要
2.“九電ショック”~ 再エネ買取ルールの改悪
①再エネ「優先接続ルール」の改悪
・FIT法9条 再エネ接続への「応諾義務」/が、「技術的に支障があればこの限りでない」の規定
・九電が接続保留、14年9月~ 「拒否」があり得ることを示し、再エネ事業者に衝撃
・ 九電の「理由」/太陽光の認定設備合計出力が送電要領を超過、“電力過剰で、大停電をおこしかねない”
→
・技術的に対応可能/ 地域間連系を通じた運用 /国際的に見て利用比率が低い巨大揚水発電所の活用(約3%)。北欧では積極的な活用
・接続可能量のごまかし/原発フル稼働を前提に「接続可能量」を過小に設定 / 認定量と発電量との差(制度の悪用。政府が行政指導で対応すべき問題) ~ 公明・富田茂之議員「経産省として対応遅れた」「与党としてもそう思います」14/10/17
・運用ルールの脱法的に改悪(15年1月施行) 「30日ルール」を「無制限・無補償に」
接続抑制の場合「30日以上」になれば「経済的補償」を廃止/ 事業計画の見通しを立てることも困難に
→ 「再エネ発電に急ブレーキ」/ 日弁連「接続義務の原則と例外の逆転」、法の趣旨を「骨ぬき」(15年2月13日、院内集会)
⇔ 国会に提出されているFIT法の改定案で、さらなる再エネ制限にならないよう監視が必要
②原発、石炭火力の「優先接続」
・03/3 経産省審議会~ “大規模な長期固定電源である原発など(ベースロード電源)の出力抑制を回避し、巨額の投資回収を安定的におこなうため”に、これ以外の大規模な一般水力、石油・LNG火力(ミドル電源)や太陽光、風力等の再エネ(ピーク電源)から抑制する
~ その後、自由化の進展をふまえて優先順位を検討する、となっているが、現在も基本は踏襲されている
*「無制限・無補償ルール」は、原発「優先給電ルールを補強・固定化し、再エネ普及の障害となるもの
3.再エネ電源の電線の費用負担
・再エネを「選べる」状況をつくるには、小規模な再エネ発電事業者の経営が成り立つことが必要
→その1つがFIT制度 /2つめ 電線に接続する場合の電線の費用負担~高額料金を要求された例も
・欧州各国 全需要家の電気代に含めて回収する「一般負担」が少なくない(ドイツ 送電設備が総発電建設コストの25%以内なら一般負担)
~ 再エネ普及のためには、設備事業者負担の「事業者負担」の改善が必要
◆「小売自由化」のポイントと問題点 ~停電はしないか?
・発電、送電の分離、小規模事業者の多数参加、再生エネの「不安定性」から、心配の声も
→ 「絶対ない」とは断言できないが、海外の経験、法律上の規定からも「まず心配ない」
1.広域送電網による系統運用で安定化、海外でも実績
・新規の小規模発電事業者の倒産に際し、既存の10電力会社 バックアップする責任(電気事業法「最終保障サービス」)
・再エネ 大量かつ多様な電源確保と広域での系統運営で、全体として安定化
すでに3~4割も再エネを導入しているドイツ、フランス、北欧で安定した運営
(メモ者 問題となるのはピーク時対応/需給調整契約、デマンドレスポンス、揚水発電など活用も)
・現在の各電力会社の中央給電指揮所の非常に大きな役割~瞬時生産、瞬時消費」を支える公共的中枢機能
~ 電力各社で構成する「電力系統利用協議会」で、地域間連系線をとおした融通/東日本大震災でも活躍
→ 「電力広域的運営推進機関」(13年11月)は、法律上の権限をもって、より発展されたシステム
2.送電網めぐるそもそも論
・現在の費用負担~「特定負担」=事業者負担 /福島原発事故、FIT制度以前に決定したもの(11/1/13)
→ 電力システム改革の中で、あらためて、そもそも論が議論されている
「(大規模集中長距離電源という従来型の)ビジネスモデルだけに一方的に有利な託送料金体系を、このまま維持していいのか」(電力監視委第一回制度設計WG、15年10月9日 松村敏弘)
・大きくことなる欧州の電力供給体制・送配電網/ ドイツ
小売事業者のシェア 大手4社の系列 約37% /地方自治体営企業 約46% /その他 約17%、
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