新たな冤罪を生み出す刑事訴訟法等改定案は廃案に
都知事の政治資金をめぐる報道があふれる中で、盗聴の濫用、司法取引の導入による無辜の第三者を巻き込む棄権、自白強要後に都合のよい部分だけを録画して証拠として提出できるなど、人権侵害と新たな冤罪を生みだす危険な法改正がなされようとしている。
同改定は、いわゆる郵便不正事件で逮捕され、その後、無罪が確定した村木厚子厚生労働次官の事件を契機に、冤罪をなくす目的で議論されてきたが、真逆の内容となっている。
参院で可決されたが、衆院で廃案に、と自由法曹団の声明。
【刑事訴訟法等の改正法案の参議院本会議での可決に抗議し廃案を求める声明 自由法曹団5/20】
【刑事訴訟法等の改正法案の参議院本会議での可決に抗議し廃案を求める声明 自由法曹団5/20】1 本日午前、参議院は、盗聴法(通信傍受法)の対象犯罪の大幅拡大・要件緩和、司法取引制度(「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」)の導入、取調べの録音・録画制度の導入などを内容とする刑事訴訟法等の改正法案(以下、「本法案」という。)を賛成多数で可決した。
しかし、本法案は、国民の人権を侵害し、冤罪を新たに生み出す危険をはらむ法案であり、自由法曹団は、参議院での可決に強く抗議するとともに、本法案の廃案を求める。2 本法案は、もともと冤罪の根絶を目的として設置された法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」において審議されていたものである。しかし、実際に採決された本法案の内容は、冤罪防止どころか、新たな冤罪を生み出す危険をはらみ、捜査権限の拡大強化と国民監視を図るだけの制度を法制化するものとなった。
本法案は、盗聴法の組織犯罪に限定されていた対象犯罪を窃盗や詐欺などの一般犯罪にまで拡大し、濫用をチェックすることが期待されていた通信事業者の立会も不要とする。
本来、盗聴法の拡大は、冤罪の防止という目的とは無縁であり、本法案にて一括採決する必要のない制度である。この本来の目的とは無縁の盗聴法の拡大による捜査機関の権限拡大強化は、憲法が保障する国民の通信の秘密やプライバシーを侵害する危険性をより大きくしている。また、被疑者が他人の犯罪の捜査等に協力する見返りに、検察官が起訴を見送ったり求刑を軽くしたりすることができる証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度(司法取引)は、虚偽供述による無辜の第三者の引っ張り込みなどが危惧され、冤罪を引き起こす重大な危険を内包する。本法案には、この冤罪の危険を払拭するための制度的保障はなく、弁護士の関与を必須とするが、関与する弁護士は司法取引により有利な結果を得る者の弁護人であって、司法取引による証拠により裁かれる者の弁護人ではない。しかも証拠開示もなされていない段階での判断を求められる可能性があり、無辜の第三者の引っ張り込みの危険は大きい。冤罪を生み出す重大な危険を有する法制度の導入を認めた本法案には重大な問題がある。
さらに、取調べの録音・録画制度は、その対象事件が、裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件といったごく限定された範囲でしか義務化されておらず、かつ将来において、録音録画の義務化の対象となる事件を拡大する保障は何もない。しかも、捜査機関の大幅な裁量を認める例外規定もあり、捜査機関が自身に都合の良い供述や状況だけを録音録画し、法廷に証拠として提出する危険性を法律上は否定できない。実際、係争中の殺人等被告事件(今市事件)では、別件での起訴後勾留期間を利用して行われた3カ月半にも及ぶ警察での自白強要というべき殺人事件に関する取調べが録音録画されていないにもかかわらず、それによって得られた自白場面等を記録した録音録画媒体(81時間分)のうち7時間分のみが、裁判員裁判法廷で取調べられ、それが有罪判決の基礎となる(実質証拠として機能する)といった事態が生じた。取調べの録音録画は、自白に至る全過程が可視化されてこそ、その過程を客観的に検証できることから冤罪防止に寄与するとされるのであり、政府答弁でも一部のみの録音録画が肯定されるような本法案では、自白のシーンのみが強調される一方で、その自白に至る過程が検証できない事態を容認することになる。このことは、取調べへの過度の依存からの脱却を図ることを目的とした今次の刑事司法改革の元来の目的たる冤罪防止に逆行するものというほかない。
その他にも、法案は、ビデオリンクによる証人尋問の拡大、証人の氏名・住所の非開示等の慎重な議論を要する事項を含んでいたが、十分な議論がされないまま参議院での可決に至った。
3 本法案は、昨年の国会に一括法案として提出され、当初、政府与党は短時間の審議での早期成立をもくろんでいた。
しかし、冤罪の被害者や支援者、多くの市民から、法案に対する批判がなされる中で、昨年の衆議院法務委員会では論点毎の慎重な審議を行うことが合意され、参議院へ移っても本法案の問題点が次々と明らかになったことで、昨年の参議院法務委員会では継続審議となった。本年の国会で審議入りした後も、冤罪被害者や多くの市民、法律家、刑事法研究者の間で本法案に反対する運動が巻き起こり、新たな冤罪を生み出さないことを求める痛烈な声が広がっている。
国会及び政府は、冤罪被害者やその家族、周辺の人々の生活や人生を奪う冤罪を根絶するという原点に立ち返って、本法案を廃案にすべきである。4 自由法曹団は、取調べの全過程の録音録画を制度化しないまま、国民の通信の秘密・プライバシー権を侵害する盗聴法を拡大し、新たな冤罪を生み出す危険性をはらむ司法取引制度の導入等を含む本法案を参議院が可決したことに抗議し、衆議院で更に審議を尽くし、廃案にすることを強く求める。
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