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中高の部活動指導に伴う顧問教諭の負担問題

部活動が圧迫しブラック企業のような実態になっている状況に、「部活に良い面があり,意義を認めるからこそ,部活が生徒や教師などに不幸や不利益を生むものとならないよう,現在の部活の在り方に改善を求めていきます」とはじまった取り組みが反響を広げている。
助言者的役割でかかわってきた元中学校教諭でもある長沼豊さん(学習院大学教授)が、問題点や課題などわかりやすく解説している。
 教員の多忙化解消には体制充実による根本的な対策が求められている。
【中高の部活動指導に伴う顧問教諭の負担問題  長沼豊さん(学習院大学教授)法学館憲法研究所5/9】
【部活問題対策プロジェクト】

【中高の部活動指導に伴う顧問教諭の負担問題  長沼豊さん(学習院大学教授)法学館憲法研究所5/9】

1.現場の実態から

「年間で8日程しか休めない地獄を体験しました。家庭が壊れ授業や分掌業務も綱渡りで何とか生き延びたという体験は誰にもして欲しくありません。」(三重県)
「部活のために連日の早朝出勤と深夜帰宅、盆・暮れ・正月以外は全土日祝も部活のために出勤や遠征引率を余儀なくされている先生方がいます。部活の顧問をすることはそういう生活をするということなのです。青少年と接している先生方であるからこそ共稼ぎであっても祖父母世代に家事、育児、家庭教育を丸投げせずとも子どもを2~3人は生み育てられる職業であって欲しい。部活未亡人・部活孤児・部活離婚などという言葉が聞かれなくなり、結婚や子育てを先生方に諦めさせない教育現場であって欲しいと思います。」(岩手県)
「初任で中学教員をしています。野球部顧問です。毎日ある朝練習や放課後の午後練習などが本来の業務の圧迫となり平日では、学校から帰宅するのは午後11時を過ぎます。毎日15時間労働です。また、毎週末の土日は一日中部活に拘束され、休養がとれないまま月曜日を迎え、今でも倒れそうです。日本にある学校の部活動の体制を統一して変えていただくことを希望します。助けてください。明日にも倒れそうです。」(都道府県不明)

 これは、後述するサイトchnge.org の署名活動の自由記述欄に記された教員および関係者の声である。中高の部活動指導に伴う顧問教諭の負担問題は切実である。
 運動部の場合であるが、1997(平成9)年の文科省「運動部活動の在り方に関する調査研究報告」によれば、中学校では72.4%が週6~7日活動し、高校では77.8%が週6~7日活動している。それらをふまえ「中学校の運動部では、学期中は週当たり2日以上の休養日を設定」「高等学校の運動部では、学期中は週当たり1日以上の休養日を設定」「練習試合や大会への参加など休業土曜日や日曜日に活動する必要がある場合は、休養日を他の曜日で確保」「長くても平日は2~3時間程度以内、休業土曜日や日曜日に実施する場合でも3~4時間程度以内で練習を終えることを目処」と提言している。この提言どおり遂行されていれば、上記のような教員はいないはずである。

2.教員の勤務実態(部活動が圧迫しブラック企業のように)

 2014(平成26)年のOECDによる国際教員指導環境調査(TALIS)によると、日本の教員の1週間当たりの勤務時間は参加国最長(日本53.9時間、参加国平均38.3時間)で、このうち教員が授業の指導に使ったと回答した時間は参加国平均と同程度である一方、課外活動(スポーツ・文化活動)の指導時間が特に長い(日本7.7時間、参加国平均2.1時間)という結果が出た。
 週53.9時間というのは一日換算11時間弱であり、これはあくまでも平均値であるから、実際には先述した教員のように15時間労働の教員もいる。仮に一日12時間労働、つまり4時間の残業とすれば月80時間の残業となり、いわゆる過労死ラインに達している。企業等に適用される労働基準法36条に記された「三六協定」(45時間を超えると違法とされ労働基準監督署の指導が入る)により守られることもなく、生徒のためにというお題目のもとで、サービス残業を強いられているというのが中高の教員の勤務実態である。
 しかも後述するが、一切残業代は出ない。何時間働いても固定給、土日に4時間程度部活動の指導や引率をしても、自治体にもよるが日額3000円が支給される程度だ。ブラック企業(社員に低賃金で過酷な労働を課す企業)という言葉があるが、学校の教員は業界全体で「ブラック学校」「ブラック部活顧問」といえる状態になっているのである。

3.部活動の位置づけは教育課程外

 では、部活動の教育課程(カリキュラム)における位置づけはどうなっているのか。中学校学習指導要領の総則には以下のように書かれている。
「生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際、地域や学校の実態に応じ、地域の人々の協力、社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行うようにすること。」
 これによると、部活動は生徒の自主的、自発的な参加によるものであり、生徒全員を強制入部させる必要はないこと、また部活動は学校教育の一環ではあるが教育課程との関連を図る活動、つまり「教育課程外の教育活動」であることがわかる。オプションなのである。にもかかわらず、多くの学校では長時間にわたる活動を行い、顧問教諭が指導にあたるというシステムが出来上がっている。全員顧問制の名の下で、顧問を引き受けることは当たり前というのが日本の学校(中高)の一般的な空気だ。
 しかも運動部の場合、自ら経験したことのない競技の顧問になっているケースも多い。2014(平成26)年の日本体育協会の調査では、運動部活動の顧問の競技経験の有無は、中学校で「経験あり」47.9%、「経験なし」52.1%、高校では「経験あり」55.1%、「経験なし」44.9%である。つまり中高の教員の半数近くは競技経験のない運動部の顧問を担当しているのである。

4.教員は残業代なし

 そのようなオプションとしての勤務であれば当然手当や残業代が豊富に支給されていると思うだろう。教員の残業代はどうなっているのか。
 「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」によれば、教職調整額を月給の4%を支給するが、時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しないとされる。つまり、部活動で長時間残業しても一切の手当は支給されない。4%多く支給されているから8時間の4%に当たる19.2分の残業はあってもよいだろう。しかし実態は大きくずれている。仮に16時から部活動を指導するとして、朝8時からの勤務であれば、途中の休憩時間を加味した単純計算でも1時間以上指導すれば確実に残業の域に入る。逆に言えば、所定の勤務時間に収めるためには部活動の指導は1時間以内に終了しないといけない。先に引用した平日2~3時間という提言も、実は無理な注文ということになる。
 2007(平成19)年の中央教育審議会初等中等教育分科会教職員給与の在り方に関するワーキンググループ(資料2−1)によると、1966(昭和41)年の1ヶ月平均の残業時間は約8時間であったが、2006(平成18)年は約35時間になっているという。この「8時間」は上記の法律を策定する際に「4%」を算出する根拠となったものである。つまり当時と比べ残業時間が4倍以上になっているにもかかわらず教職調整額はそのままの状態が放置されてきたのである。実態に合わせれば17.5%に変更し支給してもよいはずである。日本の教育の成功は、長年にわたる教員のサービス残業によって成立してきたといえる。

 また、2003(平成15)年の「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」によると「教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務を命じないものとすること」(抜粋)、「教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。
 イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
 ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
 ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
 ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務」となっている。これがいわゆる「超勤4項目」である。

 読んでいて空しくなるほど実態とかけ離れていることが理解できるだろう。
 果たしてこれでよいのか。今こそ教員のワークライフバランスをしっかり考えなければならない。

5.なぜそのようなシステムが作り上げられたか

 顧問教諭なら自分で練習日を決めて活動時間を短くすればいいという指摘もあるだろう。そのような方策をとる教員ももちろんいる。しかし事はそう簡単ではない。部の生徒や保護者から「前の先生はもっと親身に指導してくれた」「大会に勝つために隣の学校はもっと長く練習している」などの声が強いと教員の思うようにはならない。「生徒のためなら」とわかっていながら長時間勤務を許容してしまうのである。そのような教員の姿勢を他の教員も賞賛する空気があると、さらに助長される。「生徒のためなら」という水戸黄門の印籠のような指導観を、生徒も保護者も教員自身も同僚も校長も当たり前のこととして最優先に考える以上、部活顧問制は慣習として位置づき、何十年もかかってシステムとして構築されてきたのである。しかもそれは全国大会を頂点として、部活動で活躍する生徒が、やがてプロの選手やオリンピック等に出場する選手として育つシステムとしても機能しているから、そう簡単にはやめられないのである。
 大会で成果を挙げることがステイタスだと感じている教員や、部活動だけに生きがいを見いだしている教員にとっては、たとえ何時間残業しようとも、残業代はなくとも構わないと言うだろう。ただし、そのような教員の中には教科の授業がいい加減な人もいると現場の教員たちは言う。それでも成り立つのは、学校には部活動賞賛主義のようなものがあって、本来メインの業務であるはずの教科の授業の成果よりも部活動で成果を上げればよしとする文化が出来上がっているからではないか。さらに言えばそのような教員がマジョリティーになっていて、他の教員にも同じことを強いていることも問題ではないか。「部活動の指導は当たり前」「残業も当たり前」という意識が全体として醸成されてしまっているのだ。筆者もかつてはそう思っていた。そのような価値観にNOを突きつけることはタブーとも思われるが、そうではなかった。

6.署名運動に立ち上がった教員たち

 このような現状に対して、Twitterで知り合った30代の教員6名が2015(平成27)年末に「部活問題対策プロジェクト」を立ち上げ、サイトchnge.org で署名活動を開始した。「部活がブラックすぎて倒れそう… 教師に部活の顧問をする・しないの選択権を下さい!」という要望である。賛同の署名は約2ヶ月で2万3000人を超え、2016(平成28)年3月3日に文科省に要望書と署名を提出した。筆者もTwitterで彼らと知り合い、助言者的に関与してきたこともあって、文科省に提出する際は付き添った。要望書の内容は、顧問教諭を引き受けるかどうかの選択権を与えてほしい、それを文科省から教育委員会、各学校へと通知してほしいというものであった。またそれに付随して外部指導員をチーム学校の一員として位置づけ導入することなども盛り込んであり、実現可能性に配慮したものになっている。一人の教員が選択権を行使しても、そのしわ寄せが他の教員にいけば顧問を兼部する事態になったり、顧問がいないという理由で廃部になって生徒に影響が及んだりすると新たな問題が生じるからである。
 この要望書に対して文科省の馳大臣は記者会見で「問題意識は共有している」と話し理解を示している。ただし、要望通りに顧問の選択権を付与する通知を出しているわけではない。今後の同省の動向を注視していかなければならない。

7.解決に向けて

 筆者は顧問としての経験から、部活動そのものに教育的意義はあると考えている。しかし30代の教員たちから新たな考え方に気づかされたことを契機として、2016(平成28)年を「部活動改革元年」と位置づけ、種々の方策を展開すべきと考え発信している。
 彼らは、その後第2弾の署名活動として「生徒の強制入部制度の廃止」を訴えているが、筆者は引き続き顧問の負担軽減を図るべく「全国一斉NO部活動デー」を掲げ推奨を始めた。これは毎月ゼロのつく日(10日、20日、30日)は生徒も教員も部活動をやめて、そのあり方を考える日にしようというものである。この日が平日であれば放課後は部活動以外の仕事、つまり授業の準備等に時間を充てることができる。土日であれば、少なくとも何十連勤という教員は全国からいなくなるだろう。一人でもできるところから実施をというメッセージである。同調圧力が働いている学校現場でも月に3日ならなんとかなるだろうという意図もある。賛同する教員は勝手に始めてくださいとTwitterやサイトで呼びかけており、いずれは実践してくれた教員の声を掲載し発信していく予定である。
 行政によるトップダウンによる改革、教員一人一人によるボトムアップの改革、両者が絡まってこそ、何十年とかけて構築されてきたシステムを見直す契機になるだろう。

◆長沼 豊(ながぬま ゆたか)さんのプロフィール

 学習院大学教授。文学部教育学科で教員養成に携わる。
 学習院中等科教諭を経てH11年4月から学習院大学教職課程助教授。その後准教授・教授を経てH25年4月から現職。教育学科の立ち上げにかかわる。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。特別活動、ボランティア学習、シティズンシップ教育を中心に研究を進める。
 文部科学省「中学校学習指導要領」作成協力者会議(中学校特別活動)委員(H20年)、国立教育政策研究所「評価規準、評価方法等の研究開発に関する検討委員会(小学校特別活動)」委員・副座長(H22年)、板橋区教育委員会第三者評価委員(H27年度)などを歴任。
現在は日本特別活動学会会長、日本福祉教育・ボランティア学習学会理事などを務める。
 著書は『改訂第2版 特別活動概論』(久美出版、編著)、『社会を変える教育 Citizenship Education −英国のシティズンシップ教育とクリック・レポートから−』(キーステージ21、編著)、『実践に役立つボランティア学習の基礎理論』(大学図書出版、単著)、『新しいボランティア学習の創造』(ミネルヴァ書房、単著)、『親子ではじめるボランティア』(金子書房、編著)など多数。
 全国各地で講演やワークショップを行う。自称「ボランティア学習仕掛人」。趣味は水泳、鎌倉歩き、特撮ヒーロー。特技は姓名占い。似ているといわれる有名人は多数。
サイトはhttp://naganuma55.jimdo.com/

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