高浜1.2号基準適合決定 規制委の役割放棄 自由法曹団
難燃ケーブルの設置魅了、耐震評価の変化など実証実験なども行わず、適合決定。再稼働ありき」で、40年ルールを骨抜きにした規制委。政府から独立した権限を与えられた第三者機関として役割を放棄。
「原子力行政への信頼回復」どころか、不信・反対拡大になっている。
【高浜原発1・2号機の新規制基準適合決定に強く抗議する声明 自由法曹団5/6】
【高浜原発1・2号機の新規制基準適合決定に強く抗議する声明 自由法曹団5/6】1 2016年4月20日、原子力規制委員会(規制委)は、運転開始から40年を超えている関西電力高浜原発1号機、2号機について、新規制基準に適合しているとする審査書を正式に決定し、設置変更申請を許可した。
高浜原発1号機は1974年11月に、2号機は1975年11月に、それぞれ運転を開始した老朽原発である。このように経年劣化した高浜原発1・2号機について、新規制基準に適合するとして設置変更申請を許可することは、福島第一原発事故を受けて導入された原発の運転期間を40年とする原則(原子炉等規制法43条の3の32第1項)を骨抜きにするものにほかならない。福島第一原発事故による凄惨な被害を直視し、国民の生命・身体の安全を第一と考え、原発依存政策からの撤退を求める自由法曹団は、規制委の決定・許可に対し、強く反対し抗議する。
2 2016年3月9日、大津地方裁判所は、滋賀県の住民の申立を認め、1ないし2月に再稼働した高浜原発3号機及び4号機の運転を差し止める仮処分決定をした。決定は、高浜原発3・4号機について、福島第一原発事故により原子力発電所の危険性を実際に体験した現段階においては、過酷事故対策などで危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残るなど、住民の人格権を侵害するおそれが高いにもかかわらず、その安全性が確保されているとはいえないと指摘し、新規制基準に適合すると判断されて再稼働した同原発の運転停止を命じたものである。同決定は、事実上、新規制基準が安全基準として不十分であることを指摘したものにほかならない。
このような決定が出た後にもかかわらず、規制委は、新規制基準の見直しをすることもなく、高浜原発3・4号機よりさらに経年劣化し、安全性に重大な疑念がある高浜原発1・2号機について、新規制基準に適合しているとの審査書を正式に決定した。
このような規制委の姿勢は、司法からの警告を無視するものであり、強い非難に値する。
3 原子炉等規制法は、福島第一原発事故後に改定され、原発の運転期間を原則として40年とし(43条の3の32第1項)、例外的に規制委が認めれば1回に限り20年まで延長できる(同条2項、3項)とのルールが盛り込まれた。その趣旨は、長期間の運転によって、発電用原子炉その他の設備が経年劣化するため、運転期間を限定し、もって原子炉施設の安全性を確保することにある。
そうだとすれば、40年超の老朽原発に関する運転延長の審査は、特に厳格に行われなければならない。法の趣旨からして当然のことである。
しかし、規制委は、今回、新規制基準が、安全機能を有する構築物等のケーブルについて、実証試験により難燃性が確認されたものを用いることを要求しているにもかかわらず、防火シートをケーブルに巻き付けることで、難燃ケーブルと同等になるとの関西電力の主張を受け入れ、実証試験を先送りにしたまま、新規制基準に適合すると決定した。また、耐震性に関する審査でも、関西電力は、従来の手法では許容値を超えてしまうことから、これと異なる手法で評価を実施していたが、規制委は、後に試験を実施して手法の妥当性を確認するとして、新規制基準への適合を認めてしまった。このように規制委が、運転開始から40年を超え、経年劣化した原発に対し、実証試験等の先送りを認めつつ、新規制基準に適合すると決定したことは、審査を厳格に行ったものとは到底いえず、「運転延長」という「結論先にありき」の対応として、厳しく批判されなければならない。
4 また、高浜原発1・2号機は、運転開始から40年という経年劣化した原発であることに加えて、耐震設計指針が出された1978年より前に設計された原発である。その耐震性には、そもそも、大きな疑問がある。
2016年4月14日にはマグニチュ-ド6.5(最大震度7)、16日にはマグニチュ-ド7.3(最大震度7)の大規模な地震が熊本で起こり、多数の家屋が倒壊し、交通網が寸断されるなど甚大な被害がもたらされたばかりである。
この点、気象庁は、この熊本地震について「大きな地震が2回起こり、震源が広域に広がる過去に例がない形で、今後の予測は難しい」と述べるなど、地震についても現在の科学では十分な予測ができないことが改めて明らかになった。すなわち、高浜原発1、2号機に重大な影響を与える大規模地震等の自然災害が今後起こりえないとは誰にも言えない。安全神話を過信した結果、福島第一原発事故による未曾有の被害を経験した我が国は、その教訓を忘れることは許されない。人間の力で自然の脅威から安全性を確保できるなどという驕りは捨て去る
べきである。5 規制委の役割は、「規制」の文言どおりであるならば、福島第一原発事故の教訓を十分に踏まえ、二度と原発の過酷事故を繰り返さないように、原発の安全性審査を厳格に行い、とりわけ安全性の担保されない原発の稼働を許さず、もって国民の生命、身体の安全、環境の保全を図るところにある。その役割は、決して原発の再稼働を推進することではない。
今回、規制委が、老朽化した高浜原発1・2号機について、新規制基準の適合決定をしたことは、今もなお原発再稼働を推進する国、電力事業者の姿勢に追随するものであり、政府から独立した権限を与えられた第三者機関としての役割、使命を放棄したに等しい。40年超の老朽原発について新規制基準への適合を認める最初のケースであるが、はじめから「40年ルール」を骨抜きにして、新たな原発安全神話の創造に加担するものとの非難を免れない。
自由法曹団は、規制委が、運転開始から40年超の高浜原発1・2号機について、新規制基準に適合するとして設置変更申請を許可したことに対し、強く反対し抗議する。
2016年5月6日 自由法曹団 団長 荒 井 新 二__
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