「米軍出て行け」は×で「沖縄への中傷」は○? ヘイトスピーチ対策の与党法案
自民、公明両党が参院に提出した法案。法案について、自民党の長尾敬衆院議員は「沖縄の米国人に対するヘイトスピーチにも関連する」「米国軍人に対する排除的発言が対象」と説明している。同議員は、沖縄メディアについて「左翼勢力に完全に乗っ取られている」などと発言した人物。
また、表現の自由との関係で罰則はなく「努力義務」となっている。「違法」との規定もない。「違法」の規定があれば地方自治体等で対応できることは多々ある。また、行政の「努力」次第で、基地建設に反対する正当な抗議行動も対象にされかねない。
同法案は、滞在の適法性が問題となる外国人やアイヌ民族や琉球・沖縄の人々など国内のマイノリティに対してヘイトスピーチをしても適用対象外となっている。
以下、沖縄紙の記事、ヒューマンライツ・ナウ。外国人人権法連絡会の声明。
【「米軍出て行け」は×で「沖縄への中傷」は○? ヘイトスピーチ対策の与党法案 沖縄タイムス4/24】
【「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」に対する声明 ヒューマンライツ・ナウ 4/18】
【ヘイトスピーチに関する与党法案に対する緊急声明 外国人人権法連絡会4/9】
【「米軍出て行け」は×で「沖縄への中傷」は○? ヘイトスピーチ対策の与党法案 沖縄タイムス4/24】人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)対策として自民、公明両党が参院に提出した法案で、米軍人が保護の対象となることが分かった。法案は「本邦外出身者」への「不当な差別的言動は許されない」と宣言する内容。日米地位協定上の特権を持つ米軍人が、マイノリティーである在日コリアンと同様に保護される。一方、沖縄の人々は「本邦外出身者」ではないためヘイトスピーチを受けても保護されない。
法案は19日に審議入りした。そのまま成立すれば、「米軍は沖縄から出て行け」という訴えが米軍人へのヘイトスピーチとされる恐れがあり、専門家から懸念が出されている。
法案について、自民党の長尾敬衆院議員(比例近畿)は自身のフェイスブックやツイッターで「沖縄の米国人に対するヘイトスピーチにも関連する」「米国軍人に対する排除的発言が対象」と説明している。
法案を審議する参院法務委員会が在日コリアンへのヘイトスピーチがあった川崎市を視察したことに関連し、「普天間、辺野古基地のゲート前、地域住民のお声にも耳を傾けてください」と求める書き込みもあった。
本紙の取材申し込みに対し、長尾氏の事務所は「どなたの取材も遠慮している」と応じなかった。長尾氏は昨年、自民党の「文化芸術懇話会」で沖縄メディアについて「左翼勢力に完全に乗っ取られている」などと発言し、党から厳重注意を受けた。
与党のヘイトスピーチ対策法案は、表現の自由との兼ね合いから罰則を設けていない。旧民主党など野党も昨年5月に対策法案を参院に提出し、継続審議になっている。国籍を問わず「人種等を理由とする不当な行為」を「禁止」する内容で、やはり罰則規定のない理念法になっている。
【「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」に対する声明 ヒューマンライツ・ナウ 4/18】1. 2016年4月8日に、自民・公明両党から「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」(以下「本法案」という。)が参議院に提出された。
近年、ヘイトスピーチをはじめとして、在日外国人や外国にルーツを持つ日本人などに対する深刻な人種差別が横行しており、これに対する抜本的な施策が求められてきた。ヒューマンライツ・ナウは、2014 年にヘイトスピーチの実態調査を実施すると共に、包括的な差別禁止法の制定を勧告してきた[1]。また、2015年に、民主党、社民党及び無所属の議員から、「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案」が提出された際には、日本における人種差別撤廃法制の最初の一歩として歓迎し、必要な修正をしたうえで、速やかに可決成立することを求めてきた[2]。
本法案は、あらゆる人種差別の撤廃に向けた施策を推進するものではなく、いわゆるヘイトスピーチの解消に向けた取組の推進に限定している点で野党案から見ると後退しているものの、ヘイトスピーチの解消が「喫緊の課題」(第1条)であるという認識に立って、与党がヘイトスピーチへの対処を課題とする姿勢を示したこと自体は評価に値する。
2. しかしながら、本法案には看過できない問題がある。本法案は、「不当な差別的言動」の対象となる被害者の範囲を不当に狭めている。すなわち、本法案は、差別的言動の対象者となる者を、「専ら本邦の域外にある国又は地域の出身者である者又はその子孫であって適法に居住するもの」(本法案では、「本邦外出身者」と称される。)と定義する(第2条)。これでは、在留資格なく日本に滞在している、あるいは滞在の適法性を争っている外国人(この中には多くの難民申請者も含まれる。)は適用対象外とされ、これらの外国人に対する「不当な差別的言動」を野放しにすることになりかねない。人種差別撤廃委員会が「市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30」の中で、「人種差別に対する立法上の保障が、出入国管理法令上の地位にかかわりなく市民でない者に適用されることを確保すること、及び立法の実施が市民でない者に対する差別的な効果をもつことがないよう確保すること」(第7段落)を求めていることを踏まえて、かつ、日本が人種差別撤廃条約を批准していることを想起して、在留資格のない外国人に対する人種差別をも撤廃する施策を実施するべきである。
また、日本の先住民族であるアイヌ民族や琉球・沖縄の人々、また被差別部落といった国内のマイノリティに対してヘイトスピーチをしても適用対象外とされることも大きな問題である。
本法案の適用対象は、人種差別撤廃条約の定義にならい、「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づく」(同条約第1条)不当な差別的言動にまで及ぶとするべきである。
3. さらに、本法案には下記のような問題がある。
本法案は、前文で「不当な差別的言動は許されないことを宣言」しながら、本文では「本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」(第3条)として、努力義務を定めるにとどまる。しかし人種差別撤廃条約は、締約国に対して「すべての適法な方法により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる」義務を課している(2条1項(e)等参照)のであり、実効性のあるヘイトスヒーチ抑止のために、「違法」若しくは「禁止」の文言を明確に規定する必要がある。
また、本法案が、第4条から第7条の各2項において、地方公共団体の努力義務しか定めていない点も問題てある。罰則なとの制裁かないまま、しかも相談体制の整備、教育の充実、啓発活動等ですら努力義務に過ぎないとされているのて、本法案の掲げる施策は実効性に乏しい。他方、2016年4月に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」では、「国及び地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施しなければならない。」としていることを見ると、本法案も、これにならって、地方自治体に不当な差別的言動の解消に向けて充実した施策の実施を義務付けるべきである。
4. ヒューマンライツ・ナウは、今後、与野党の協議を通じて、以上の諸点、とりわけ上記2.記載の「不当な差別的言動」の対象について、人種差別撤廃条約の要請を踏まえて、修正することを求めるものである。この法律案が成立しても、これはあくまでも人種差別撤廃法制の最初の一歩に過ぎないことを銘記すべきである。ヒューマンライツ・ナウは、 人種差別撤廃委員会の勧告に従い、ヘイトスピーチ以外の人種差別にも対処する包括的差別禁止法の制定を引き続き求めていく所存である。
以上
【ヘイトスピーチに関する与党法案に対する緊急声明 外国人人権法連絡会4/9】4月8日、自民・公明両党から「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」が参議院に提出された。
与党が、近年外国などの「出身であることを理由として……不当な差別的言動が行われ」ている事実、ならびにそれにより対象者が「多大な苦痛を強いられるとともに、当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせている」(前文)というヘイトスピーチの害悪を認め、「喫緊の課題」(1条)であるとして許さないことを宣言する(前文)法案を提出した意義は大きい。また、与野党で協議の上、各会派一致で、今国会で成立させることをめざす姿勢も、国がヘイトスピーチ対策をとるべき事態の緊急性の点から評価しうる。
他方、差別的言動は差別の一形態であり、差別的言動をなくすためには、本来、差別全体に対して取り組む必要がある。日本も加入している人種差別撤廃条約は、ヘイトスピーチを含む人種差別を禁止し、終了させることを求めており、国連の人種差別撤廃委員会が最優先で求めているのは人種差別禁止法である。
仮に、緊急対策として、与党案のようにヘイトスピーチ対策に限定するなら、何より実効性が求められる。そのためには少なくともヘイトスピーチを違法と宣言することが不可欠である。違法としないと、地方公共団体が具体的な制限を躊躇する危険性が高い。前文で指摘されている極めて深刻な害悪を許さないなら、法治国家においては違法とすることが筋である。また、日本は自由権規約および人種差別撤廃条約により、ヘイトスピーチを違法とする国際法上の義務を負っており、かつ、その旨何度も勧告されているのである。
明確な定義規定を定めれば、違法とすることは違憲とはならない。また、禁止規定をおくとグレーゾーンの表現を適法とする危険性があるとの指摘もあるが、実効性ある措置をとれない不利益のほうが大きい。緊急対策法として、特に深刻なものに限定してでも、それらに対する実効性ある対処にすぐに取り組むことを要請する。
このヘイトスピーチ対策法は、差別のない社会を作るため、国際人権基準に合致する包括的な法制度整備に向けた第一歩として明確に位置付けるべきである。法務省も2016年度方針として「新たな人権擁護施策の推進」を掲げた背景として国連の自由権規約委員会等からの是正勧告をあげている。
定義規定については、「適法に居住する」との要件は、「不法滞在者」とされた外国人に対する差別の煽動を促す危険性がある。また、ヘイトスピーチの実態から見ると「本邦外出身者」では狭すぎ、人種、皮膚の色、世系もしくは社会的身分、または民族的もしくは種族的出身を理由とするものも対象とすべきである。さらに、実態に即して「著しく侮蔑」する場合も、「不当な差別的言動」の対象に含めるべきである。そして、「日本から出ていけ」とのヘイトを除外しないよう、「地域」社会に限定せず、社会一般からの排除を対象とすることを求める。
実効性を確保するためには、地方公共団体の責務は努力義務では足りない。人種差別撤廃条約上も、国のみならず地方公共団体も差別撤廃義務を負っているからである。
以上のほか、取組を推進する審議会の設置、定期的な実態調査の実施、被害当事者の意見の聴取、警察への人種差別撤廃教育、インターネット対策など、いくつかの点の検討を求めたい。
与野党の協議の上、この国会で、実効性あるヘイトスピーチ緊急対策法を成立させることを、私たちは強く要請するものである。
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