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ヘリコプターマネー 日本国民に大惨事招くとJPモルガンら警告

 ブルームバークの記事。政府が日銀を財布代わりに使ってお金をばらまく「ヘリコプターマネー」。マイナス金利で国債発行のコストが大幅に低減したことで、大型の財政出動できる環境をととのったが、この路線は、国民に大惨事を招くと。JPモルガンの警告だけでなく、BNPパリバ証券、英銀スタンダードチャータード、ドイツ銀行の担当者の「すでに財政ファイナンス状態」「ヘリコプターマネーだ」など、日本経済がきわめて危うい局面にあるとの声を紹介している。


【ヘリコプターマネーの誘惑、日本国民に大惨事招くとJPモルガン警告 ブルームバーク4/20】

【コラム:ヘリコプターマネーの悲劇=佐々木融氏 ロイター 3/24】

【ヘリコプターマネーの誘惑、日本国民に大惨事招くとJPモルガン警告 ブルームバーク4/20】

野沢茂樹、Kevin Buckland

日本銀行の黒田東彦総裁による前例のない金融緩和でも景気回復とデフレからの完全脱却を果たせない中、安倍晋三内閣と日銀の経済活性化策が「ヘリコプターマネー」的な色彩を強めていくのではないかとの懸念が市場で浮上している。

 政府の景気刺激策の財源を中央銀行の紙幣増刷で賄うヘリコプターマネーは、ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマン氏が1969年に提唱した。20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は第2次世界大戦の遠因にもなった通貨安競争をけん制し、金融緩和効果の限界に言及。有望視される財政拡張の資金源として、ヘリコプターマネーをめぐる議論が世界的に広がっている。

 JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、日本政府がヘリコプターマネーに踏み切る「環境が完全に整った」とみる。円安要因となる金融緩和の強化とは異なり、財政拡張は「基本的に国内政策であり、他国から批判されにくい」と説明。ただ、ひとたびヘリコプターマネーの領域に踏み入れば、日本経済、とりわけ国民は最終的に「大惨事」に見舞われる恐れが強いと懸念する。

 ヘリコプターマネーには、米連邦準備制度理事会(FRB)の議長に就任する前のベン・バーナンキ氏も2002年の講演で言及。金融不安とデフレ下の日本に対して提案した経緯があり、市場では「ヘリコプター・ベン」とも呼ばれる。中銀による財政ファイナンスは日米欧とも法律で原則禁止されているが、英銀スタンダードチャータードは日本が早ければ年内にも国債の日銀引き受けに踏み切る可能性があると読む。

 BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「財政が拡張方向にあり、追加的な赤字が国債増発でファイナンスされればヘリコプターマネーだ」と言う。日本は13年に10兆円規模の補正予算と異次元緩和の導入で「アベノミクスの初期段階からヘリコプターマネーに手を染めていた」と指摘。今年度も日銀の国債保有増が財政赤字の2倍超に上るため、「追加財政を打つ分だけヘリコプターマネー的になる状況だ」とみている。

 今月15日のワシントンG20会合後の記者会見で、ルー米財務長官は日本の為替介入をけん制し、財政出動や構造改革による内需主導の成長押し上げを要望。増税の時期にも配慮を求めた。国際通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しで、広範囲な長期停滞局面に陥るリスクが高まっていると警告。今年の成長率を3.2%、来年は3.5%に引き下げた。特に日本は16年が0.5%に半減、17年は円高や消費増税を背景に0.3%からマイナス0.1%に下方修正した。

◆事実上の財政ファイナンス

 自民党の山本幸三衆院議員は熊本地震前の13日、10兆円規模の国費を投入する財政拡大策を主張。来年4月の消費増税も延期が当然だと述べた。14日付の日本経済新聞朝刊は、政府・与党がインフラ整備に使う資金をほぼゼロ%の金利で民間企業に融資する仕組みを検討すると伝えた。日銀のマイナス金利政策で発行コストが大幅に低下した国債を増発し、政府系金融機関を通じて最大3兆円を貸し出すとしている。

 日銀は2%の物価目標の達成に向けて13年4月にマネタリーベースを積み増す量的・質的金融緩和を導入し、翌年10月末には国債保有増を年80兆円に拡大する追加緩和を実施した。今年1月末には金融機関の当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用することを決定。金利低下を促し、結果的に債務残高や利払い負担の増加を抑えてきた。

 スタンダードチャータードでグローバルマクロ戦略・為替調査の責任者を務めるエリック・ロバートセン氏(シンガポール在勤)は「世界中の先進国に必要なのは財政支出、インフラ投資だ」とみる。日銀は物価目標を達成できず、景気低迷や円高・株安などが続けば、究極の選択を迫られると分析。「日本はすでに事実上の財政ファイナンス状態にあると多くの人々が考えている」と言う。

 財政ファイナンスとは、厳しい財政状況にある国の政府が多額の国債を発行して中銀に引き受けさせ、紙幣の増刷で財政赤字を穴埋めする状況を指す。財政破綻懸念から国債相場の暴落リスクにつながるほか、通貨の信認低下で為替相場が下落し、輸入物価急騰などを通じた高インフレが国民生活に深刻な打撃をもたらす恐れがある。

◆日本は「炭鉱のカナリヤ」

 財政法の第5条は公債の日銀引き受けを禁止。ただ、「特別の事由がある場合に、国会の議決を経た金額の範囲内」なら例外としており、日銀法にも第34条に同様の規定がある。日銀法は第43条で同法が規定していない業務を禁じているが、日銀の「目的達成上必要がある場合に、財務相及び首相の認可を受けた時」は例外扱いだ。
  黒田総裁は20日の国会質疑で、ヘリコプターマネー政策について「全く考えていない」と述べた。財政は政府と議会、金融政策は政府や議会から中立的な中銀が行うので、「一体としてやるのは法的枠組みと矛盾する」と指摘した。一方、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は同政策について「興味深い」と発言しているが、第1次大戦後に極度のインフレに苦しんだドイツのバイトマン連邦銀行総裁は、政府と納税者がツケを払うことになるだろうと猛反対している。

 ドイツ銀行で外国為替調査の共同責任者を務めるジョージ・サラベロス氏らは15日付のリポートで、日本は既存の経済活性化策が限界に近づいており、次の世界的な政策の革新をめぐって「炭鉱のカナリヤ」的な位置付けにあると指摘。財政ファイナンスの確率は大方の予想より高そうだとみる。

 世界経済は1929年10月に発生した米国株の暴落をきっかけに恐慌に陥った。日本では31年に発足した犬養毅内閣の高橋是清蔵相が金本位制からの離脱や円の切り下げ、国債の日銀引き受けによる財政拡張というリフレ政策を断行。英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズが「雇用・利子及び貨幣に関する一般理論」を発表する数年前に、他の主要国に先駆けて景気回復とデフレ脱却を果たした。

 サラベロス氏らはヘリコプターマネーを分析したリポートで、高橋蔵相が「日本のケインズ」と呼ばれていると紹介した。麻生太郎財務相は第2次安倍内閣発足から間もない2013年2月にNHKのインタビューで、デフレ脱却については「歴史に学ぶ以外に方法はない」と発言。高橋蔵相の対応策を「いろいろ工夫しながら模倣している」と明かし、日本経済を数年で健全な状態に戻せるとの自信を示していた。
 高橋蔵相は前例のないリフレ政策で成功を収めた後、インフレを抑えるため軍事予算など財政の膨張抑制に転じた。これが遠因の一つとなり、1936年の2・26事件で落命。日本は財政面でも軍部の暴走を抑えきれなくなり、翌年からの対中全面戦争を経て第2次世界大戦に突き進み、45年に敗戦を迎えた。

 日本銀行百年史によると、国の一般会計歳出は戦時下の35-44年度の10年間に約10倍に膨張。政府債務残高の国民総生産(GNP)に対する比率は62.9%から204%に上昇した。日銀はこの間「国債の無制限引受機関に化して」おり、「敗戦後に爆発するに至った悪性インフレーションの十分な下地を形成した」と自己批判している。

 預貯金等残高と日銀券発行残高の合計は45年8月末に37年末の約8倍まで膨張し、公定価格に準拠する卸売物価指数は20年12月に前月比55%上昇、小売物価指数は94%上昇と高騰。実勢を映す消費財の闇物価の水準は公定価格の約37倍に達した。

 JPモルガン・チェース銀の佐々木氏は、日本がヘリコプターマネーの状況に至る確率を「10年以内に5割超」と読む。国債利回り急騰への懸念から巨額の買い入れを止められない日銀を見て、政府は国債発行を増やしていくと予想。株式や外貨建て資産に資産を移すのが難しい平均的な国民ほど、インフレ加速による預金の実質的な目減りに苦しむことになりかねないと言う。

 終戦後70年余りを経た日本では、国の債務残高が昨年度末に1087.3兆円に膨らんだもようだ。国際通貨基金(IMF)は日本の政府債務残高が今年、名目国内総生産(GDP)の249.3%に達すると予測。19年には251.9%に上昇し、少なくとも21年までは高止まりが続くと見込む。

 BNPパリバ証の河野氏は、政府が財政拡張を進めると規律の低下を懸念して市場金利が上昇する「債券自警団」が働くはずだが、ゼロ金利やマイナス金利下では機能しないと指摘。世界経済が拡大して海外の物価・金利が上昇すれば、円安が進んで国内物価も上がり、国民は「インフレ税」を負う一方、海外の経済が停滞して物価・金利が低迷すれば国内も同様でマイナス金利が続くため、いずれにせよ「金融抑圧的になる」と語った。

【コラム:ヘリコプターマネーの悲劇=佐々木融氏 ロイター 3/24】

佐々木融JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長  3月24日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、政府が中央銀行を財布代わりに使ってお金をばらまくヘリコプターマネーは、多くの国民にとって悲劇的な結果を生むと指摘。(2016年 ロイター)

[東京 24日] - 最近、国内外を問わず、投資家とのミーティングで「ヘリコプターマネー」の可能性について議論することが非常に多くなった。

ヘリコプターマネーとは、文字通り、ヘリコプターからお金をばらまくように、国民に対して現金をばらまくような政策のことを言う。もともとは経済学者のミルトン・フリードマンが1960年代に用いた言葉だが、近年ではバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)前議長がまだ理事だった時代に、デフレに関する講演で「デフレ克服のためにはヘリコプターからお札をばらまけば良い」と発言したことが有名だ。

これまで、日銀やその他主要国の中央銀行も、量的緩和と呼ばれる金融緩和政策を行ってきた。この量的緩和もお金をばらまいているような印象を与えるが、そうではない。

中央銀行はお金を銀行に渡す代わりに国債やその他の資産を受け取っている。つまり、ただで銀行にお金をあげているわけではない。銀行も我々にただでお金をくれるわけではない。どんなに金利がマイナスになっても、銀行は我々に対してお金をくれるわけではなく、貸しているだけだ。つまり、実際には金融政策でヘリコプターマネーを行うことはできない。

ヘリコプターマネーを実行できるのは政府だ。中央銀行は我々の財布の中にお金を入れることはできないが、政府にはできる。交付金、商品券、地域振興券、子育て支援金、高齢者補助金など、名目は何だったとしても、政府はやろうと思えばいつでも国民に対してお金をばらまくことができる。
通常の場合、ばらまきを思いとどまらせるのが、国債価格の下落、つまり長期金利の上昇である。政府はお金をばらまくためには、新たに国債を発行し、お金を市場から借りてこなければならない。

その結果、市場は財政赤字増大に対する懸念を強め、国債価格は下落し、長期金利が上昇、結果的に政府の資金繰りは苦しくなる。格付け機関から格下げもされてしまうため、なおさら金利は上昇する。だから通常のケースでは、ばらまきを実行するのは難しい。

しかし、日本では今、事情が異なっている。期間10年までの国債であれば、政府は国債を増発し、借金を膨らませても、金利を払うどころか、金利を受け取れるような状態になっている。
また、日本の中央銀行である日銀が、国債発行額の90%以上を市場から購入しているため、国債価格の下落を心配する必要がないように見える。おそらく、今の日本政府は日本国債が格下げされても気にしないのではないだろうか。

つまり、現在の日本では、政府が借金を膨らませることを思いとどまらせるメカニズムが正常に機能していないため、政府が中央銀行を財布代わりに使って、お金をばらまくことが可能になっている。まさに、ヘリコプターマネーを実現することが容易な状況なのである。

何か対価となるものがありさえすれば、中央銀行はその気になれば、いくらでもお金を発行することができる。したがって、歴史的教訓から中央銀行は政府から独立していなければならないとされてきた。時の為政者が国民からの人気を高めるために、お金をばらまこうとするのを防ぐためである。

しかし、中央銀行の独立性は、今の日本では形骸化してしまっている。日銀の議事要旨によれば、マイナス金利導入を決定した1月29日の金融政策決定会合は、16分間中断している。政府側の出席者から、財務大臣および経済財政政策担当大臣と連絡を取るため、会議の一時中断の申し出があったからだという。

<出口のない泥沼>

一般的には政府が日銀からお金を受け取って、国民に対してばらまいてくれたら嬉しいと思う人もいるかもしれない。しかし、政府がお金をばらまき始めると、結果的にはお金の価値が下がることになり、大多数の国民にとっては悲劇的な結果を生むことになる。

例えば、日本にいる全労働者に対して、給料と同じだけの補助金が配られ、それがしばらく続くと政府が約束したとしよう。そうなると、単純に言えば、お金の価値は半分になってしまうと想像がつくだろう。
今まで月30万円の給料をもらっていた人が月60万円の給料をもらうことになるわけだから、町の商店街の店主は商品価格を倍にするだろう。お金の価値が半分になるということは、物価が倍になるということと同義だ。
給料が倍になって、物価が倍になるなら、何も変わらないから別に良いのではないかと思う人もいるかもしれない。ただ、なぜこれが大多数の国民にとって悲劇になるかというと、大多数の国民は預金を持っているからだ。残念ながら、この場合、保有している預金の価値も半分になってしまう。預金金額は変わらないが、物価が倍になってしまうからだ。

つまり、ヘリコプターマネーは、国民にお金をばらまいているように見えるが、実際には、押しても引いても出てこない日本国民の大量の預金を巧妙に引き出す政策であるとも言えるのだ。

ならば、それほど大規模に行わずに、少しだけやれば良いではないかとの意見も聞かれそうだ。しかし、今の日本で消費が盛り上がらないのは、明らかに経済構造に問題があるからであって、一時的に「棚からぼた餅」的な収入があっても、ほとんど預金されてしまうだけだろう。

だから、継続的にやらなければ目に見える効果は出ない。したがって、政府は目に見える効果が出るまで、ばらまきを継続してしまうだろう。何しろ、借金を膨らませれば膨らませるほど、収入が増え、国債価格の下落も気にする必要がないのだから、継続するインセンティブが強くならない方がおかしい。

そうしてお金の価値が下がった時、物価は上昇する。この時、普通に考えれば、日銀はマイナス金利どころか量的緩和政策も止めることになる。しかし、それでは、日本の長期金利が急騰し、大量に超長期債を購入している日本の金融機関が、これらの債券投資から膨大な損失を被ることになる。

そのため、たとえ物価が上昇したとしても、日銀はマイナス金利や量的緩和政策を簡単には止められないだろう。そうなると、政府は、ばらまき政策を容易に続けることが可能になってしまう。つまり、いったんヘリコプターマネーを始めてしまうと、出口のない泥沼にはまってしまう可能性があるのだ。

日本は1930年代にも似たような過ちを犯している。筆者は1年ほど前に某政治家にこうした懸念をぶつけてみたところ、「1930年代は、金融政策や経済のことをよく分かっている人が少なかったが、今は何が危険かを分かっている人は多い。だから、政府が危険な政策を取ろうとしたら皆で止めるだろう。よって、同じような結果にはならない」と言われたことがあった。

その指摘が正しいことを願い、ヘリコプターマネーの悲劇を止める側の一人として、とりあえず本コラムを執筆した。


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