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電力自由化における原子力発電の問題点 市民委員会声明

 大島堅一立命大教授、吉岡斉九大教授らによる「原子力市民委員会」の声明[

 4月からの「電力自由化」においても、原発延命のための優先利用がさだめられ、再処理事業を原発コストからはずしたり、損害賠償の「有限責任」を導入する「原子力発電介護策」がとられようとしていることを批判。廃炉費用の原発コストからの分離され国民負担となる懸念も指摘。
原発リスクが「市場で正常に判断されれば原子力発電は生き残れない」として、持続可能な再生可能エネルギーの本格的普及こそ「電力システム改革」のめざす方向であることを明らかにしている。

【声明「 電力自由化における原子力発電の問題点~原発ゼロ電気は選択できるか」3/31 原子力市民委員会】

【 声明「電力自由化における原子力発電の問題点 ~原発ゼロ電気は選択できるか」】

2016年3月31日
原子力市民委員会め原発ゼロ行程部会(第3部会)

1. はじめに

電気事業は、発電、送電、配電、小売の4つの事業からなっている。日本の電気事業は、この4つの事業が垂直に統合された地域独占の大手電力会社(一般電気事業者)が電気を供給するという体制で行われてきた。これらの4つの事業のうち、発電と小売を自由化した上で、送電と配電の事業を発電や小売から切り離す発送電分離を行うことを、日本では「電力システム改革」と呼んでいる。

本年4月1日には、家庭を含めた電力の小売り全面自由化(以下、「電力自由化」)がスタートする。2011年3月の東京電力福島第一原発事故(東電福島原発事故)以降、電力システム改革の実現に向けた法制度や実施体制の整備が進んだ。巨大なリスクが明白となった原子力発電に依存せず、気候変動の観点から問題が多い石炭火力発電にも依存せず、再生可能エネルギーによる電気を選ぶことができるようになると期待されている。

電力自由化に伴い、2015年9月に、経産省に新たな規制機関として「電力取引監視等委員会」が設立され、小売り営業や電力取引のガイドラインが定められた。しかし、消費者にとって選択の目安となる電源構成表示の義務化は見送られた。

2020年度までには、送配電部門の法的分離が行われることが予定されており、大手電力会社の送配電部門は地域独占が認められた「一般送配電事業者」となり、託送料金には料金規制がなされる。大手電力会社が所有する送電網を広域で公平・中立に調整・運営するために「電力広域的運営推進機関」(OCCTO)が2015年4月に設立された。ところが、原子力発電はベースロード電源として重視され、他方で、FIT制度により増加し始めた再生可能エネルギー(太陽光や風力など)には多くの制約が課せられるといった問題が生じている。

原子力発電は、もともと、これまでの地域独占の大手電力会社による電気事業のあり方を前提として政府が全面的に支援して「国策民営」として開発や利用が進められてきた。すなわち、大手電力会社の中で発電において優先的に利用されるとともに、総括原価主義に基づく電気料金制度よって必要な資金が消費者から強制的に調達されてきた。電力システム改革によって発電部門での公平な競争が始まり、かつ総括原価主義も2020年度までに完全に撤廃されるため、原子力発電に大きな影響が及ぶと思われる。しかし、大手電力会社の経営問題に発展することを恐れて、経産省(政府)や大手電力会社は「原子力発電介護策」にますます力を注いでおり、電力システム改革やそれに伴う電力自由化の本来の意義を歪めようとしている。はたして多くの国民が望む「原発ゼロ電気」は選択できるようになるのだろうか。2


2. 電力自由化による原子力発電への影響

電力自由化による競争下では、本来、原子力発電は大きな影響を受ける可能性がある。しかし、既存の原発は、主な投資が終わってしまっているため、電力会社が発電事業をおこなうにあたり追加的にかかるコストは少なくてすむ。つまり、既存の設備を前提とすれば発電に必要な追加的費用(限界費用)は、燃料費と運転保守費のみである。それゆえ、既存の原発に限ってみれば、原子力発電を利用することによって電力会社は安価に発電できると大手電力会社は考えている。この意味において既存の原子力発電は競争上有利になるだけではなく、ベースロード電源(長期固定電源)として優先的な利用を認められているため、ますます有利になってしまう。

一方、原子力発電の追加的安全対策投資に関してはリスクがある。東電福島原発事故後、原子力規制委員会により新規制基準が策定され、少なくともこれに適合しなくては再稼働できなくなった。新規制基準をみたすためには、津波対策やシビアアクシデント対策等のために多額の投資が必要となる。この投資が、残る運転期間で回収できなければ発電所の採算性は確保できなくなる。

さらに原子力発電には固有の不確実性がある。不確実なリスクの代表例は事故やトラブルである。東電福島原発事故のようなシビアアクシデントにいたらなくとも、事故やトラブル、ないしは電力会社の事故・トラブル隠しなどで原発が長期にわたって運転停止に陥るリスクがあり、そうなれば採算がとれなくなる。加えて、放射性廃棄物処分と廃炉の費用負担においてもとても大きな不安要因が残る。

原子力発電は、一旦トラブルになったときのコストが非常に大きいという特徴がある。電力自由化の下で競争にさらされた場合、この種のリスクをかかえたままでは、原子力発電の継続自体が困難になる可能性が高い。ましてや新増設(リプレース)については、原子力発電事業者としても大きな投資リスクを背負わねばならない。またそのために投資資金の確保が困難となることが予想される。

3. 原子力発電の問題点

電力自由化の下の競争でも原子力発電を継続させるために、経産省(政府)によって「事業環境整備」という名の「原子力発電介護策」が講じられようとしている。これは東電福島原発事故を受けて定められたエネルギー基本計画やエネルギーミックス(長期エネルギー需給見通し)など一連のエネルギー政策の見直しなどに追加する形で導入されると見込まれる原子力政策である。その問題点を以下に示す。

(1) 廃炉会計制度の見直し

解体費用の引き当て不足と、廃炉にともなう損失の問題である。これらは、2013年と2015年の廃炉会計・電気料金制度の変更によって、電気料金の原価に組み込むことが可能となった。だが、この制度は総括原価主義に基づく規制料金制度を利用しており、電気自由化で2020年度までに総括原価方式が完全に廃止されるため、廃炉会計制度の変更だけでは対応できなくなる。そのため電力自由化後は、原発を保有している大手電力会社のみに存在するコストとして、電力自由化の下での経営上のリスクとなる。そのため電力自由化後は、託送料金への廃炉会計制度の組み入れなどで、原子力発電所の電気を調達しない小売電気事業者からも回収可能な法制度が整備される可能性がある。


(2) 核燃料サイクル(再処理事業)の事業環境整備

電力自由化が進展すると、原子力発電事業者自身が競争にさらされ、再処理積立金の積立が十分におこなわれなかったり、ときには破綻してしまったりする可能性がある。そうなると資金確保に支障を来し、再処理事業が継続できなくなる。政府はこれを危惧し、再処理費用をあらかじめ拠出金として徴収し、さらに、再処理事業者を認可法人とする「再処理等拠出金法案」を閣議決定した(本年2月5日)。この国会で審議されているこの法律が成立すれば、電力自由化の影響は再処理事業には及ばなくなる可能性がある。しかし、将来、再処理費用が現状の拠出金の金額を大幅に上回り、拠出金水準の大幅引き上げなどの対処が必要となった場合、原子力発電事業者(大手電力会社)の経営悪化要因となり、その救済のためという利用で、託送料金に含めて徴収したり、再処理費用の不足を防ぐべく巨額の税金の投入を行うなどの措置が浮上してくることも考えられる。

(3) 損害賠償制度の見直し

過酷事故がひとたび起こると、その費用が莫大になることは東電福島原発事故で明白になった。これに対し、原子力事故の損害賠償額に限度額を設ける「有限責任」の検討が政府の原子力委員会でおこなわれている。仮に有限責任となれば、それを超える原子力損害賠償のリスクをすべて国民が負うことになり、原子力発電事業者の経営リスクは大幅に低減され、原発の延命を助ける結果になる。

4. 再生可能エネルギーへの影響

高い再生可能エネルギー導入目標を設定した上で、その実現に向けた電力系統の整備が不可欠である。再生可能エネルギーの発電所を優先的に送電網につなぐ「優先接続」と、優先的に電気を供給する「優先給電」の双方が不可欠である。日本では、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(再生可能エネルギー特措法)によって条件付きの「接続義務」が定められているものの、欧州のような系統接続の費用負担まで考慮した「優先接続」とはなっていないことが問題である。

(1)優先接続と優先給電の問題

原子力については、「長期固定電源」として位置づけられ、OCCTOの「送電等業務指針」において、太陽光や風力等の再生可能エネルギーよりも優先的に利用することが定められている。原子力が優先される分、再生可能エネルギーの入る余地が少なくなるのは自明である。本来であれば、最も限界コストが低い電源(燃料費のかからない風力、太陽光等)から利用するという、欧州各国で行われている「メリットオーダー」の原則にもとづいて給電されるべきである。

原子力発電の稼働を前提として「接続可能量」が設定された結果、無制限無保証の出力抑制が太陽光や風力に対して実施され、欧州各国で実現されている再生可能エネルギーの優先接続や優先給電は、事実上放棄されている。さらに、この国会で審議される再生可能エネルギー特措法案では、再生可能エネルギーの送電網への接続義務の条項が削除され、電気事業法で定められた他の電源と共通の「オープンアクセス」(託送の義務)に置き換えられようとしている。このようなことは到底許されず、むしろ逆に優先接続、優先給電の原則を実質化する必要がある。

(2) 発送電分離と電力市場の課題

消費者が小売電気事業者から原発ゼロや再生可能エネルギーの電気を選べるようになるためには、再生可能エネルギーの優先接続や優先給電の原則を改めて確立すること、公平・中立な送配電網の拡充や運用の体制を確保することが必要である。2020年度までに実施が予定されている送配電部門の発電部門からの分離は、法的分離にとどまらず、欧州のような各地域での配電部門の分割や送電部門の所有権分離にまで進むべきである。あわせて、卸電力市場(卸電力取引所JEPXなど)の取引規模や内容を大幅に拡充し、欧州のように小売電気事業者が自由に必要な種類や量の電気を調達し、販売できるようにする必要がある。

5. 電力自由化と原子力発電の方向性

電力システム改革における電力自由化は、原子力発電に対して競争上の影響を与える。それは、既存の原発については一定の優位性をもたらす側面もあるが、原子力発電に特有のリスクもある。原子力のリスクには、大事故発生のリスクだけでなく日常的トラブル、廃炉や放射性廃棄物処分におけるリスクのほか、最近では、周辺地域の住民からの訴え等で裁判によって運転停止を命じられるリスクも高まった。リスクが市場で正常に判断されれば原子力発電は生き残れないだろう。

本来であれば、原子力も他の既存の火力発電などの電源と同じ条件で競争するべきである。だが、現実には、原子力には政策上高い位置づけが与えられ、「原子力発電介護策」としての事業環境整備のための法制度が整えられつつあり、ベースロード電源として系統運用上も最も優先順位が高くなっている。このような状況が続けば、原子力発電を保護・延命した上で、その他の火力発電などの電源については競争させ、再生可能エネルギーの電力系統への接続を阻害することになり、持続可能なエネルギーシステムへの転換を進めるという電力システム改革の意義そのものを大きく減じることになる。

原子力発電は国民利益に反するものであり、それを聖域として保護するための「原子力発電介護策」は不要であり、ましてや新たな補強になってはならないと、原子力市民委員会は考える。電力自由化により多くの国民が望む原発ゼロの電気が選択できることも求められるだろう。再生可能エネルギー普及促進のためのインフラストラクチチャーとして、電力システム改革を活用することが適切であると考える。

以上
執筆担当者:大島堅一、吉岡斉、竹村英明、松原弘直


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