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「多面的機能」の重視 EUと日本の違い~G7農相「新潟宣言」によせて

 24日、G7農相会合の「新潟宣言」に、「食料自給率向上」の文言がなかった点について、農業情報研究所の解説。
 日本もEUの農業・農村の「多面的機能」の重要しているが、EUは、食料増産ではなく、農業生産の農業・農村を維持する直接支払いを正当化するためのものであり、日本は「食料安全保障」の文脈の中に位置づけたため政策的には、大規模化、選別的な支援で、農村を疲弊させるという真逆の方向に進んでいるとの指摘。
 日本人の職からコメから小麦、肉にかわったもので、自給率向上がどこまで現実味があるのか、真剣に検討し、農村の持つ他面的機能、特に中山間地の農村を維持していくための直接的な支援の必要性を示している。

【食料安全保障のためのG7農相会合 「食料自給率向上」の文言なしの新潟宣言 農業情報研究所4/25】

【食料安全保障のためのG7農相会合 「食料自給率向上」の文言なしの新潟宣言 農業情報研究所4/25】

 昨4月24日、新潟市で二日間にわたって開かれたG7(先進7ヵ国)農相会合が世界の食料安全保障と栄養摂取のさらなる強化に向けた「新潟宣言」(原文、仮訳)を採択して閉幕した。宣言は、 農村地域の活性化と農業者所得の向上、持続可能な農業生産と生産性及び食料供給力の改善、持続可能な農林水産業の実現のための17分野における政策の共有や共同行動を謳う。

 ところが「『食料自給率の向上』という文言は見当たらない」。「なぜか。農水省に聞くと、『G7各国に共通する課題ではないから』という理由のようだ」、「日本には食料自給率向上という重い課題が別にある。途上国を含め世界中から食料を輸入しておきながら、食料安全保障の重要性を指摘するのは矛盾も感じられる。まず国内生産をふやし自国で食料を賄うことが第一だ」(日本農業新聞 16.4.25 第3面)。

 もっともな言い分だ。しかし、日本は自分の足もとも冷静に見直す必要もある。 

 WTOドーハランドに臨むに当たり、EU・ハンガリー・韓国・スイス・トルコと共に「フレンド・オブ・マルティファンクショナリティ」(多面的機能グループ)を形成した日本が何よりも強調したのは、「農業の多面的機能が農業生産と密接不可分に発揮される公共財的性格を有していることから、そのための政策的介入(国内支持)は生産から完全に切り離すことができない(デカップリングできない)性格を有しているが、食料安全保障を含む農業の多面的機能を発揮させるためには、一定の政策的介入(国内)を行うことが不可である」(農林水産省 「次期交渉における日本の提案<農業> 小稿 「WTO農業交渉における農業の「多面的機能」『レファレンス』2000年3月号参照」というものであった。

 しかし、EUの言う「多面的機能」に食料増産=自給率向上による食料安全保障はない。そもそもEUなどが「多面的機能」を強調するようになったのは、どれほど生産しても高い価格が保証され、余ったものは補助金付きで輸出に回すというEU共通農業政策(CAP)が米国やオーストラリアのような輸出国や輸入による国内農業破壊を恐れる途上国からの激しい批判に曝されたからだ。
EUはこのような外圧に加え、EU財政危機克服のためのCAP支出削減要求、CAPに支えられて専ら増産を目指す集約化・専門化・大規模化農業がもたらす農業人口減少→農村空間の維持・管理の困難、環境劣化に対する市民からの批判などの高まる内圧にも直面していた。

 こうして、ウルグアイ・ラウンドを迎えるに当たり、ついに専ら生産を助長する国境保護(輸入課徴金)に基づく価格保証を放棄(関税化と保証価格引き下げ)、それによって減少する農家所得を直接支払で補償するという抜本的改革(マクシャリー改革)に踏み切った。そして、このような「直接支払」を正当化するためにこそ、「多面的機能」が強調されることになったのである。それは生産を刺激し・貿易を歪曲する補助金ではない。

 ヨーロッパは農業保護削減によって農業の生産機能増強をあきらめるとしても、農業を失うわけにはいかない。なぜなら、「農業活動とその農業内外での多角化は農村地域の活性を維持することによって均衡の取れた地域発展に寄与する。健全な農業部門は健全な社会と経済を支えるために必要であり、農民はますます基礎的農産品に加え、あらゆる種類の財を生産するようになっており、また環境・建築・文化遺産の維持のようなサービスを供給するようになっている」(欧州委員会、1998年9月 前掲小稿52頁 )からである。直接支払は、まさにこのような農業の多面的機能を維持または増強するためのものあった。

 EU諸国同様、世界的にみれば天賦の土地資源に恵まれない日本の農業も、輸入制限や関税による手厚い国境保護とそれに依拠する価格保証やこれら保護措置に代わる生産・貿易歪曲的補助金のはしごを外されては転落を免れない。そこで、農業基本法に代わる99年食料・農業・農村基本法が政策理念として掲げる「食料の安定供給の確保」を増産による食料自給率引き上げ→食料安全保障と読み替えて「食料安全保障」を最優先の「多面的機能」に祭り上げた。そうすることで高まる国際的風圧を和らげようとしたわけである。

その結果、同じく基本法の政策理念をなした多面的機能の維持・増強のための「直接支払」は、そのために必要な農業方法の改善(粗放化、モノカルチャー→多作物栽培・養畜システム、肥料・農薬の投入削減・・・)の奨励にも目もくれないEUとは似てもつかない「日本型」直接支払*に矮小化された。

 こんな主張をEUがバックアップするはずがない。 アメリカも、一国が適切の量の食料を確保する基本的方法は貿易自由化だ、食料自給では食料安全保障は達成できないと一蹴した。 日本は本当に食料を自給できますかと問うたのである(前掲。小稿)。

 日本が足もとを見直す必要があるというのはこのことだ。日本の食料自給率がG7諸国の中でもダントツの最下位にある最大の要因は、生産減少よりも日本人が古来主食としてきたコメを食べなくなり、ほとんどを輸入に頼る小麦や飼料(原料)で生産される肉の消費を著しく増やしたからだ。他のG7諸国はすべて、もともと食べていた小麦・肉のもともとの生産国だ。日本は米食が減り続けるかぎり、もともと自給などしていなかった小麦や飼料(原料)の生産を何倍にも増やさないかぎり、他のG7諸国並みの自給率は達成できない。そんなことは可能か、食料自給による食料安全保障を言うなら、日本の食料生産増加がどんな手段でどこまで可能なのか、改めて十分にアセスする必要がある。

 G7会合後、わが農相は、『水田フル活用を頑張り抜いていくことが、世界の食料事情に貢献することにつながる』と述べた、『麦・大豆・飼料用米による「水田フル活用」で食料自給率を向上させる重要性を強調した格好だ』という(日本農業新聞 前掲)。しかし、そんなことがどこまで可能か、それを十分にアセスすることこそ肝心だ。

 *日本型直接支払は、①水路の泥上げ、農道の路面維持、植栽やビオトープづくりなど農村環境活動、水路や農道などの補修や更新などの地域の共同活動を支援する「多面的機能支払」と、②農業生産条件の不利な中山間地域等において、集落等を単位に、農用地を維持・管理していくための取決め(協定)を締結し、それにしたがって農業生産活動等を行う場合に面積に応じて支払われ「中山間地域等直接支払」、③環境保全効果の高い営農活動を行うことに伴う追加コストを支援する環境保全型農業直接支援」からなる。

 支払対象者は①の場合は個別農家ではなく当該活動を行う農業者や地域住民等からなる「共同組織」、②の場合は「集落等を単位とする協定を締結し、5年間農業生産活動等を継続する農業者等」で、これは多面的機能を発揮するために必要になる「農業の持続的な発展」(基本法)は農業者個人ではなく、農村・地域住民の共同活動によって初めて実現できるという日本に独特「の思想 を反映している。「日本型」と言われる所以である。③の場合にも、支払対象者は複数の農業者等により構成される「任意組織」か、市町村が特に認める単独で事業を実施しようとする農業者(個人・法人)と、集団の縛りがある。

 このように、個別農家(農業経営)の安定・持続を図る個別(戸別)所得補償を欠く直接支払では農地放棄・離農に歯止めをかけることができない。加速する農家の減少は支払対象である共同組織や集落そのものを解体・消滅に追い込む。2015年度、中山間直接支払は農業者の高齢化と集落機能の脆弱化で取り組み面積が激減、複数の集落の連携・協力などの対応策が模索されている。しかし、肝心の農家減少が続く限り、それも弥縫策にしかならないだろう。

 わが国農地の40%を有する中山間地農業の危機を救えない「日本型」直接支払」は、日本の食料自給率の一層の低下に寄与するのみである。よくも言ったものだ。

日本は瑞穂の国です。息をのむほど美しい棚田の風景、伝統ある文化。若者たちが、こうした美しい故郷を守り、未来に「希望」が持てる「強い農業」を作ってまいります」。 農業者、地方のみなさま、参院選挙に向かってますます飛び交うだろうこんな言葉にくれぐれ騙されませんように。

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