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TPP協定の全体像と問題点 Ver.3

 市民団体による分析チームのレポート。第三弾。
前書きより~「昨年10 月に「大筋合意」をし、2 月4 日に12か国での署名が行われたTPP 協定。日本政府は暫定仮訳を公開していますが、そもそも協定文は本文と付属書だけでも5000 ページを超える膨大な量であり、付属書や二国間交換文書など関連文書すべてが公開・翻訳されているわけでもありません。TPPの全体像を十分に把握し、私たちの暮らしや日本社会にとっての問題や懸念を精査することはまだまだ時間がかるといえます。米国はじめ各国でも、協定文の公開以降、国会議員や市民団体が分析と問題提起を続けています。
TPP は農産品の関税だけの問題でなく、投資や金融、食の安全基準や食品表示、サービス貿易全般も含んでおり、さらには国有企業や電子商取引などこれまでの貿易協定になかった分野もカヴァーする実に多岐にわたる内容です。日本政府は関連法案をまとめ、3 月中にも特別委員会を設置し4 月から批准のための審議を本格化するといわれています。しかし十分な情報公開と議論、専門家・各自治体による詳細な影響評価もなされないまま「批准ありき」で審議が進むことは絶対に避けなければなりません。」

 VER.3となり、ずいぶん読みやすく、わかりやすなった。また「政府調達」「保険・共済」など分野を広げた他、「TPP問題と中小企業の課題」「地域経済・地方自治体への影響」の論考も加わり、充実している。感謝。

【TPP協定の全体像と問題点 Ver.3 分析チーム】

ちなみに「目次」にならんでいる項目は・・・

1.TPP 農産物市場アクセス
(第2章内国民待遇及び物品の市場アクセス章と関連附属文書)
2.食の安全とTPP 
(第7章「衛生植物検疫(SPS)措置」、第8章「貿易の技術的障害(TBT)措置」)
3.投 資4.金融サービス5.保険・共済
6.越境サービス貿易7.政府調達
8.国有企業9.医療分野10. 知的財産(著作権)11. 労 働
12. 規制の整合性
13. 【論考】TPP問題と中小企業の課題
14. 【論考】地域経済・地方自治体への影響

【論考】地域経済・地方自治体への影響 

 岡田知弘(京都大学・地域経済学)

はじめに

①本レポートの課題 地域経済学の視角から、TPPが地域経済、地方自治体に及ぼす影響を検
討する。

②以下、政府の「TPP関連政策大綱」に潜む基本的考え方の批判を行ったうえで、地域経済や
地方自治体に関わる条文を検討することで、上記の課題にアプローチしてみたい。

Ⅰ 安倍内閣によるTPPと地域経済に関わる言説批判

1)「総合的なTPP関連政策大綱」(2015 年11月25日TPP総合対策本部)の言説

①TPPはアベノミクスの「成長戦略の切り札」となるもの

②本政策大綱は、TPPの効果を真に我が国の経済再生、地方創生に直結させるために必要な政策、及びTPPの影響に関する国民の不安を払拭する政策の目標を明らかにするもの

③対策の柱として「新輸出大国」(中小企業、農業分野)、「グローバル・ハブ」(生産性向上、対内直接投資促進、地域の「稼ぐ力」強化)、「農政新時代」(「攻めの農林水産業」)、ISD 応訴体制の強化(著作権、国際経済紛争処理に係る体制整備)

2)基本的考え方の問題点

①TPPそのものが、現状の地域経済、中小企業、農家に対して経済的便益を与えるものではないことを明らかにした。(対策を講じなければ負の影響しかないと認識したうえでの「対策」必要論となっている)。

②最も影響がでる分野を政策ターゲットとしている。農業、中小企業、ISD応訴。従来からのTPPへの懸念や不安を「対策」によって「払拭」することに腐心。

③「輸出」によって一国の経済が発展するという認識の誤り
○アダム・スミスの『国富論』で論破された「重商主義」の俗論との共通性
・世界経済レベルでは、輸出額と輸入額は同額であり、貿易そのものでは富は増加しえない

○アダム・スミスは、各国国内における分業の発展、自然と労働の結合による経済的富(付加価値)の生産と相互交換によって、一国経済のバランスある発展ができるし、それが最も望ましい方向であると提言。逆に、重商主義政策をとると、かつてのローマ帝国と同様、農産物の輸入が途絶した都市国家は瞬く間に崩壊すると警告した。現在の日本の食料及びエネルギー自給率の極端な低さ、荒廃した国土の広がりによる災害の激発を見た場合、スミスのいうように農山村への国内投資こそが重要であるといえる。

○ついでに言えば、戦後の高度経済成長を作り出したのは、大企業による輸出ではなく、都市部で増大した労働者による内需の拡大と中小企業・農家の所得向上であった。表1 からは、60年代後半の高度経済成長期において、輸出の寄与率は14.3%であるが、輸入のマイナス寄与率14.0%を控除すると貿易による寄与率はわずか0.3%となり、圧倒的に個人消費支出、個人住宅投資が大きな寄与をして、設備投資が誘発されたことがわかる。表2からは、雇用者報酬及び企業所得のなかでも中小企業と農家から構成される
「個人企業所得」の増加寄与率が高く、大企業中心の民間法人企業所得の比重は本社が立地している東京都、大阪府以外では少ないことがわかる。

○さらに、1995 年以降の各国の雇用者報酬の動向を付表で見るならば、日本のみが95 年を割り込んでいることがわかる。雇用者の減少に加え、非正規低賃金労働の増加によって、国民経済そのものが縮小するという異常な国となっている。同じくグローバル競争の下にありながら雇用者報酬総額を増加させている欧米諸国との対照性に注目するならば、地域経済、国民経済の発展のためには雇用者報酬の増加による内需の発展こそ、基幹に置かれるべき戦略であるといえる。

④1980 年代半ば以降の貿易・投資の自由化が地域経済、国民経済に与えた影響についての検証がなされていない

○日本では、1986 年の経済構造調整政策の開始以来、日米構造協議、ガット・ウルグアイランド(1994 年)、WTO(1995年)等のなかで、順次、商品貿易、サービス、投資の自由化をすすめてきた。その結果、海外生産比率の上昇とともに、貿易赤字が構造化している(図1)。
地方において農林水産業、鉱業などの第一次産業だけでなく、工場閉鎖や地場産業の崩壊、大型店の進出による商店街の崩壊がおき、「地方消滅論」が登場するほどの地域産業の衰退、地方での人口減少が進行し、他方で多国籍企業の本社機能が集積する東京への海外売上高(輸出額+投資収益)の集中が加速した(図2)。TPP は、この動きを一層加速・拡大するものであるが、過去の政策レビューがなされないまま、さらに同じ道を歩もうとしている。

⑤政策大綱や政府文書の言説では、個別中小企業や農家のレベルで、輸出拡大の可能性が広がったとしているが、ミクロ視点での「可能性」の指摘に留まっており、日本の中小企業や農業の全体構造を捉える視点が欠如している。とりわけTPPについては、輸出や海外進出など「出る」方だけが強調されているが、関税撤廃や非関税障壁の撤廃によって、「入ってくる」問題については軽視ないし無視していることが問題。

○ちなみに、政府は中小企業分野の対策として4000社の中小企業の海外展開を支援するとしているが、国内の中小企業の数は350万社(2014年「中小企業実態基本調査」)であり、うちすでに海外展開している企業数は1万数千社程度である。しかも、海外進出にはリスクがつきまとい、撤退数も増加している。はたして、このような方策で地域経済の発展につながる保障はどこにあるのだろうか。

○また、農林水産分野においては、1 兆円の輸出が目標とされている。最近、農産物貿易額が増えていることが意識的にマスコミを通して広報されているが、2014年の農林水産物合計の輸出額は6117億円、うち農産物輸出額は3569億円である。13年からみると増加しているものの、それ以上に増えているのは輸入である。農林水産物合計の輸入額は9兆2408億円、農産物では6兆3223億円であり、桁違いである(農林水産省「農林水産物輸出入概況」2014 年版)。国全体の食料自給率を引き下げながら、商社やアグリビジネスの貿易取引額・収益を増やす農産物輸出政策が、地域農業にプラスの波及効果をもたらす根拠がどこにあるのかも、示されてはいない。

⑥「地方創生」と「地域経済の再生」とは同義ではない。
○最後に指摘しておくべきは、現在、安倍内閣が進めている「地方創生」は、決して、一般の人々が期待するような「地域経済の再生」ではないことを確認しておく必要がある。「地方創生」には、この内閣特有の政策目標と内容がある。ここでは、2014年9月に石破地方創生担当大臣を指名した際の安倍首相の記者会見、及び2014年総選挙の際に自民党が掲げた公約文書『政権公約2014』からの引用でとどめたい。「地方創生」は、農業、労働、医療分野での規制緩和による外資系企業を含む企業の進出をすすめ、「新たな発展モデル」をつくろうという地方自治体を国が支援する施策である。いわば、TPPの先行形態であり、そこでは現に地域経済を担っている中小企業や農家、協同組合等を重視する視点は極めて薄い。(詳細は、岡田知弘他『地域と自治体 37 集地方消滅論・地方創生政策を問う』自治体研究社、2015 年、参照)。

○石破地方創生担当大臣の使命
「今回、地域活性化のほか、地方分権、道州制改革など、ありとあらゆる地方政策に関わる権限を集中して、新たに地方創生担当大臣を創設いたしました。政府全体にわたって、大胆な政策を立案・実行する地方創生の司令塔であります」(安倍首相、2014年9月3日記者会見)

○道州制導入までのつなぎとしての「地方創生」の位置づけ
「道州制の導入に向けて、国民的合意を得ながら進めてまいります。導入までの間は、地方創生の視点に立ち、国、都道府県、市町村の役割分担を整理し、住民に一番身近な基礎自治体(市町村)の機能強化を図ります。」

○「国家戦略特区」と「地方創生」との関係性
「地方創生を規制改革により実現し、新たな発展モデルを構築しようとする『やる気のある、志の高い地方自治体』を、国家戦略特区における『地方創生特区』として、早期に指定することにより、地域の新規産業・雇用を創出します。」


Ⅱ TPPと地域経済・地方自治体

1)TPP協定と地域経済・地方自治体

①地域経済への直接的・間接的影響
TPP協定は、30 章からなるが、各分野別の物品市場、サービス市場アクセス、投資、国境を越えるサービス、金融サービス、政府調達、国有企業、知的財産、労働、環境、中小企業、紛争解決等、多岐に及ぶ

②地方自治体への影響
地方自治体に対する影響も、地域産業政策から住民福祉、さらに第三セクターがからむ国有企業、投資、政府調達、そして運用及び制度に関する規定、紛争処理、最終規定など、分野横断的である。

2)関税撤廃による影響

①農業や中小企業への影響や問題点は、すでに別の章で述べられているので省略。

②TPP参加によって確実に利益が増えるのはごく一部の自動車、IT家電、インフラ系企業と商社。地域経済を担う圧倒的な産業は、「原則無関税化」の長期にわたる衝撃を受ける。
○鈴木宣弘教授の試算では、農林水産物1.5 兆円、全産業3.6兆円、雇用76.1万人減

③TPP では、国民全体の経済的利益は得られない。ただし、多国籍企業にとっては、確実に収益増加の条件が確保できる。
○米国タフツ大学の推計では、米国も含めて関税撤廃の結果、GDPも雇用も減少すると推計


3)非関税障壁撤廃

①非関税障壁の撤廃は、中央政府レベルだけでなく、地方自治体レベルでの地域経済政策、法制度(条例類)、施策にも影響を及ぼす。ここでは、直接の影響があると考えられる投資(第9章)、及び政府調達(第15 章)を採り上げて、見てみよう。

②「投資」における「ローカルコンテンツ」規制を禁止
○すでに、本報告書の「投資」分野についての批判的検証でも指摘されているように、9.10条「特定措置の履行要求」が盛り込まれ、「いずれの締結国も、自国の領域における締結国又は非締結国の投資家の投資財産の設立、取得、拡張、経営、管理、運営又は売却その他の処分に関し、次の事項の要求を課してはならず、又は強制してはならず、また、当該事項を約束し、又は履行することを強制してはならない」とされた。

○その事項として、「一定の水準又は割合の現地調達を達成すること」、「自国の領域において生産された物品を購入し、利用し、もしくは優先し、又は自国の領域内の者から物品を購入すること」がリストアップされている。

○これは、ローカルコンテンツ(現地調達)といわれる規制であり、米国や多くの途上国が法制度として定めているだけでなく、現在、日本の地方自治体の多くが制定している中小企業振興基本条例、地域経済振興基本条例のなかに「大企業の役割」規定として盛り込まれているものであり、工場立地や大型店立地の際の自治体との協定文書のなかでも含まれている例も多い。TPP は、多国籍企業の自由な立地移動と収益の最大化をねらっているので、これらの諸規制の排除を求めているといえる。

○もし仮に、TPP が発効した場合、これらのローカルコンテンツ規制がISDS 条項の対象として、国あるいは地方自治体が外国投資家によって訴えられる可能性がある(ISDS については、本報告書の「投資」分野の分析参照)。これによって、地方自治体による地域経済振興政策に大きな制約がなされることが懸念される。

③「政府調達」(第15章)において対象機関、対象基準額の拡大を盛り込む
○「政府調達」に関する検証は、他の章で行われているので、ここでは地域経済政策との関係で検討してみる。

○今回の協定文案では、「政府」の対象として、WTO と同じく、国の諸機関に加えて、都道府県、政令市が、附属書15-Aで明記されている。

○同じく附属書15-Aでは、対象基準額が以下のように示されている。
【中央政府】 物品10万SDR(1300万円)、建設サービス450万SDR(6億円)、その他のサービス10万SDR(1300万円)
【地方政府】 物品20 万SDR(2700 万円)、建設サービス1500 万SDR(20 億2000 万円)、その他サービス20万SDR(2700万円)

○これらの金額は、WTOの政府調達規定にある対象機関、基準額と同じである。

○15.4 では、「一般原則」として「内国民待遇及び無差別待遇」が掲げられ、各締結国(その調達機関を含む)は、対象調達に関する措置について、他の締結国の物品及びサービス並びに他の締結国の供給者に対し、即時にかつ無条件で、次の物品、サービス及び供給者に与える待遇よりも不利でない待遇を与える」とした。また、締結国は、「電子的手段の利用」の機会の提供に努めるものとされた。

○15.23 では、政府調達に関する小委員会を置くとして、15.24 において、この小委員会で、追加的な交渉を行い、「調達機関の表の拡大」「基準額の改定」「差別的な措置を削減し、及び撤廃すること」を議題にすると明記している。

○さらに重要なのは、15.24.2において「締結国は、この協定の効力発生の日の後3年以内に、適用範囲の拡大を達成するため、交渉(地方政府に関する適用範囲を含む)を開始する。
また、締結国は、当該交渉の開始前又は開始後においても、地方政府の調達を対象とすることについて合意することができる」とされている点である。つまり、TPP の初期設定においてはWTOと同等とされているが、今後の追加交渉において、地方自治体を中心に対象機関の拡大と適用基準額の引下げが当初から想定されているということである。
 現在、先行するTPP(P4)においては、630 万円以上の物品・サービス、6 億3000 万円以上の工事については、TPP 参加国の内国民待遇が求められている。この水準でいくと、ほとんどの市町村も対象になるということになる。

○現在、日本の地方自治体では、中小企業振興基本条例や公契約条例によって、地域経済振興を目的に、地元中小企業向け発注を積極的に行うところが増えている。TPP が発効し、さらに対象機関の拡大や適用基準額の引下げがなされれば、公財政を活用した地域経済振興策に大きな障害を生み出す可能性が強いといえる。

○併せて、TPP 第17 章「国有企業及び指定独占企業」において、「地方政府が所有し、又は支配している国有企業等」に関わる規定も、5 年以内に小委員会で追加的な交渉を行うことが明記されている(附属書17Ⅽ)。第3セクターや直営の施設等が対象になり、政府調達条項と同じく、調達において無差別待遇が強制されることが懸念される。

4)国民主権・国家主権・地方自治権を脅かすエンドレスの「自由化」装置

①非関税障壁の撤廃は、多国籍企業の経済的利益のために、これまで各国で国民生活の安全や福祉の向上、国土の保全をはかるために採られてきた諸制度の改廃を求めるものである。

◆おわりに

○TPPは、関税撤廃や非関税撤廃によって、地域産業、地域経済の衰退だけでなく、地方自治、国家主権、国民主権を侵害する危険性の方が大きいことが明らかとなった。

○今回検討した条項にとどまらず、地域経済や地方自治に関わる問題(労働、中小企業、越境サービス、食品安全、国民の健康等)は多岐にわたる。

○少数の多国籍企業の経済的な利益のために、国民益や国民主権を侵害するようなTPP を批准することは断じて許されない。

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