高浜差止め 「福島に学んだ判断」「重く受け止めよ」 地方紙社説
大津地裁の差止め判断。規制基準、避難計画に対し疑義を示し、原発に「いかに効率的であり、コスト面では経済上優位であるとしても、その環境破壊の及ぶ範囲は我が国さえも越えてしまう可能性さえある。単に発電の効率性をもって、これらの甚大な災禍と引き換えにすべき事情であるとは言い難い」と断じている。「効率より安全、経済より命-。憲法が保障する人格権に基づいて住民を守るという基本への回帰。司法の常識が働いた」判断である。〔効率・経済性でも破綻しているが…〕
地方紙の多くが社説にとりあげ、そのほとんどが差止め決定を積極的に評価し、政府に「重く受け止める」ことを迫っている。
【高浜原発に停止命令 フクシマを繰り返すな 東京・社説3/10】
【「高浜」差し止め 決定を重く受け止めよ 北海道・社説3/10】
【高浜差し止め 福島踏まえた合理的判断だ 京都・社説3/10】
【高浜運転差し止め 国は脱原発にかじを切るべきだ 愛媛・社説3/10】
以下に 他の地方紙の社説「タイトル」のみ紹介
「高浜原発運転差し止め/なし崩し的な再稼働へ警鐘 河北新報」
「福島原発事故から5年 現実から目をそらすな デーリー東北 時評」
「社説:[大震災5年]原発対策 事故に学び「脱依存」を 秋田魁】
「<震災5年>原発の「解禁」 福島の原点に立ち戻れ 岩田日報」
「【論説】高浜原発運転差し止め 原発のリスクに向き合え 茨城新聞」
「高浜差し止め 決定を重く受け止めよ 信濃毎日」
【高浜原発運転差し止め 事故リスクに厳格な姿勢 福井新聞】
「高浜差し止め/原発の安全見直すべきだ 神戸新聞」
「高浜原発差し止め 「福島」踏まえた重い警鐘 山陽新聞」
「【高浜差し止め】再稼働の在り方再検討を 高知新聞」
「[高浜差し止め] 原発回帰に見直し迫る 南日本」
「社説[大震災5年 原発事故]教訓生かされていない 沖縄タイムス」
【高浜原発に停止命令 フクシマを繰り返すな 東京・社説3/10】稼働中の原発を司法が初めて止める。関西電力高浜3、4号機の安全性は不十分だからと。国民の命を守る司法からの重いメッセージと受け止めたい。
3・11から五年を前に、司法の良識を見たようである。住民の安堵(あんど)の声も聞こえてくるようだ。
3・11後、再稼働した原発の運転の可否をめぐる初めての司法判断は、原発は「危険」と断じただけでなく、事故時の避難計画策定も十分でないままに、原発の再稼働を「是」とした原子力規制委員会の「合理性」にも、「ノー」を突きつけた。◆よみがえった人格権
大津地裁の決定は、高浜原発3、4号機が、そもそも危険な存在だという前提に立つ。
その上で、最大の争点とされた基準地震動(耐震設計の目安となる最大の揺れ)に危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残るとし、住民の「人格権」が侵害される恐れが高い、と判断した。
昨年暮れ、福井地裁が危険性は「社会通念上無視し得る程度まで管理されている」と切り捨てて、同地裁が下していた両機の運転差し止めの判断を覆したのとは、正反対の考え方だ。
一昨年の十一月、大津地裁も「避難計画などが定まらない中で、規制委が早急に再稼働を容認するとは考え難く、差し迫る状況にはない」と申し立てを退けていた。
ところが、規制委は「避難計画は権限外」と、あっさり容認してしまう。
今回の決定からは、そんな規制委への不信さえうかがえる。危険は現に差し迫っているのである。
住民の命を守り、不安を解消するために、今何が足りないか。3・11の教訓を踏まえて、大津地裁は具体的に挙げている。
▽建屋内の十分な調査を踏まえた福島第一原発事故の原因究明▽事故発生時の責任の所在の明確化▽国家主導の具体的な避難計画▽それを視野に入れた幅広い規制基準-。私たちが懸念してきたことでもある。
県外住民からの訴えを認めたことで、原発の“地元”を立地地域に限定してきた電力会社や政府の方針も明確に否定した。
そして、その上で言い切った。
「原子力発電所による発電がいかに効率的であり、コスト面では経済上優位であるとしても、その環境破壊の及ぶ範囲は我が国さえも越えてしまう可能性さえある。単に発電の効率性をもって、これらの甚大な災禍と引き換えにすべき事情であるとは言い難い」◆過酷事故が具体論へと
効率より安全、経済より命-。憲法が保障する人格権に基づいて住民を守るという基本への回帰。司法の常識が働いた。
五年前、東日本大震災による福島第一原発の事故が起きる前まで、司法は原発事故と真剣に向き合っていたといえるだろうか。「起きるはずがない」という安全神話に司法まで染まっていたのではないだろうか。
震災前までは多くの原発訴訟の中で、二〇〇三年のもんじゅ訴訟控訴審(名古屋高裁金沢支部)と〇六年の志賀原発訴訟一審(金沢地裁)の二つの判決以外は、すべて原告が負け続けていた。
この二つの判決も上級審で取り消され、原告敗訴に終わっている。原発差し止め-という確定判決は一つも存在しなかった。
ただ、「レベル7」という福島原発の事故を目の当たりにして、司法界でも過酷事故は抽象論から具体論へと変質したはずだ。
司法は原発問題で大きな存在だ。経済性よりも国民の命を守ることの方が優先されるべきなのは言うまでもない。司法が国民を救えるか-。
その大きな視点で今後の裁判は行われてほしい。
現に動いている原発を止める-。重い判断だ。しかし、国会、行政とともに三権のうちにあって、憲法のいう人格権、人間の安全を述べるのは司法の責務にちがいない。
繰り返そう。命は重い。危険が差し迫っているのなら、それは断固、止めるべきである。◆規制委は変われるか
対策も不十分なままに、四十年を超える老朽原発の再稼働が認められたり、再稼働の条件であるはずの免震施設を建設する約束が反故(ほご)にされてしまったり、規制委の審査にパスした当の高浜4号機が、再稼働直前にトラブルを起こしたり…。
再稼働が進むのに比例して、住民の不安は増している。
規制委は、司法の重い判断を受け止めて、審査の在り方を大きく見直すべきだ。
政府は福島の現状も直視して、再稼働ありきの姿勢を根本から改めるべきである。
【高浜差し止め 福島踏まえた合理的判断だ 京都・社説3/10】東京電力福島第1原発事故から5年を前に、原発の再稼働を進める政府と電力会社の姿勢に、司法が重大な疑義を呈した。
大津地裁が、関西電力高浜原発(福井県)3、4号機の運転を差し止める仮処分を決定した。山本善彦裁判長は「福島の原発事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や耐震基準策定に問題点があり、津波対策や避難計画にも疑問が残る」と指摘した。
原発の再稼働や運転を禁じた司法判断は事故後、3例目になる。特に今回は、原子力規制委員会の新規制基準に合格して再稼働した原発に対する初の判断となった。
決定は直ちに効力を持つため、関電は営業運転をしている3号機を停止する。稼働中の原発を仮処分で停止させるのも初めてだ。■新基準への重い疑義
政府は、規制委の新規制基準を「世界一厳しい」と強調して、合格した原発を再稼働させる方針を掲げてきたが、新規制基準そのものに疑問が投げかけられたといえる。その意味は重い。
福島の事故はいまなお収束が見通せず、多数の被災者が長期にわたって避難を続ける甚大な被害をもたらした。大津地裁はその過酷な事実から、事故の原因究明も道半ばの状態で原発を再稼働させるならば、極めて厳しい新規制基準が必要だと指摘している。納得のいく合理的な判断といえよう。
高浜3、4号機をめぐっては、福井地裁が2015年4月に再稼働を認めない仮処分を決定した。その後、関電が異議を申し立てて同地裁が12月にこの決定を取り消し、今年1月に3号機が再稼働した。2月には4号機の運転を始めたが、原子炉が緊急停止するトラブルが発生、冷温停止状態になっている。
これほど司法判断が分かれる状態では新規制基準や再稼働方針の妥当性も揺らぐ。規制委による原発審査を中断して、再検討する必要があろう。
仮処分は、滋賀県の住民が、事故が起きれば原発立地県以外の広域にも被害が及ぶ恐れがある、と主張して申し立てた。
大津地裁は、原発の危険性の立証責任は住民側にあるとしたが、関電側が原発の資料を保持していることなどを考慮して、関電に対し「事故を踏まえた原子力規制行政の変化や、原発設計、運転規制がどう強化されたかを具体的に説明すべき」と求めた。
そのうえで、緊急時の電源確保や、使用済み燃料ピットの冷却設備、原発の耐震性能などに問題があると指摘し、「住民の人格権が侵害される恐れが高いにもかかわらず、安全性確保について関電は説明を尽くしていない」と判断。運転差し止めを命じた。■避難計画は国の義務
さらに、注目すべきは、避難計画についての判断だろう。
関電の直接の義務ではないとしながら、避難計画は個々の自治体がつくるのではなく、「国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要であり、避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれる」と指摘している。
しかも、国には「そのような基準を策定すべき信義則上の義務が発生しているのではないか」とも述べている。
高浜原発では避難計画が必要な半径30キロ圏に福井、京都、滋賀の3府県が入る。対象人口は福井の約5万4千人に対し、京都は約12万5千人だ。
昨年12月、政府は周辺自治体の避難計画を了承したが、バスの確保や高齢者ら要支援者への対応もめどがつかず、実効性が確保されているとはいえない。
こうした状況に対し、事故の重大性を踏まえた問題提起がなされたといえる。政府は謙虚に受け止めるべきだ。
関電は10日に3号機の停止作業を行うとしているが、決定に対し、「極めて遺憾。到底承服できるものではない」として、速やかに不服申し立ての手続きを取るという。■政府方針揺るがす
ただ、4月の電力小売り全面自由化を前に、高浜3、4号機を再稼働させ、5月から電気料金を値下げするとしていた戦略は見直しを迫られよう。
運転開始から40年を超えた高浜1、2号機について、規制委は先月、新規制基準に適合しているとの見解案をまとめた。関電は2基の運転延長を目指すが、新規制基準や同社の安全対策の説明を疑問視した今回の決定を踏まえれば、ハードルはさらに高くなったと考えなければならない。
菅義偉官房長官は記者会見で、「規制委が専門的見地から十分時間をかけて世界最高水準と言われる新規制基準に適合すると判断した。政府としてはその判断を尊重する」と強調し、原発の再稼働を進める方針に変わりはないと述べたが、司法からの警告はこれで3度目だ。説得力のある言葉とはとてもいえまい。
脱原発を望む国民世論に反して安倍政権は原発をベースロード電源に位置づけてきた。その方針を揺るがす事態といえる。司法判断を軽視してはならない。
【高浜運転差し止め 国は脱原発にかじを切るべきだ 愛媛・社説3/10】立地県以外の住民の不安を正面から受け止めた重い判断といえる。関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転禁止を滋賀県の住民が申し立てた仮処分で、大津地裁が運転を差し止める決定をした。停止中の4号機は再稼働できず、運転中の3号機は停止させることになる。
山本善彦裁判長が重視したのは、東京電力福島第1原発事故を踏まえた過酷事故対策の不十分さだ。「設計思想や外部電源に依拠する緊急時対応、耐震基準策定の問題点がある」と指摘し、津波対策や避難計画にも疑問が残ると断じた。
3、4号機の事故対策が原子力規制委員会の審査に「合格」していることを考えれば、政府が「世界一厳しい」と強調する新規制基準に疑問を呈したとも映る。避難計画の実効性を含めて全国の多くの原発に当てはまる可能性があり、原発回帰の動きに対する司法の警鐘だと肝に銘じるべきだ。政府は原発に依存しない社会へと、速やかにかじを切らねばならない。
決定は、事故の懸念について「環境破壊が国外に及ぶ可能性さえある」と述べた。住民らは放射性物質の拡散で琵琶湖が汚染され、近畿一帯の飲み水に影響が出ると訴えていた。ひとたび事故が起きれば、立地県も隣接地域もないのは当然だ。立地か隣接かで再稼働の同意手続きなどに差をつけてきた姿勢を、政府や原発事業者は真摯(しんし)に省みるとともに、周辺住民の不安に向き合う必要がある。
福島の事故後、原発の再稼働や運転を禁じた司法判断は3例目だ。昨年4月には福井地裁が「新規制基準は合理性を欠く」などとして高浜3、4号機の再稼働を認めない仮処分決定を出し、12月に別の裁判長が取り消した。今年1月には3号機が再稼働。4号機も先月再稼働したが、原子炉が緊急停止するトラブルで運転を止めていた。
未曽有の原子力災害から、あすで5年になる。教訓を未来に生かすことは、国策として原発を推し進めた政府や電力会社はもちろん、社会に突きつけられた重い課題のはずだ。
ところが政府は今、まるで事故がなかったかのように原発回帰を加速させている。エネルギー基本計画では、将来にわたり重要なベースロード電源と位置付けた。避難計画の実効性向上や事故対応拠点整備を棚上げして再稼働を急ぐ政府や電力会社の姿勢からは、教訓を生かそうという意思が感じられない。山本裁判長は「単に発電の効率性をもって甚大な災禍と引き換えにすべき事情だとは言い難い」とも指摘した。経済性に重きを置くのは関電だけではあるまい。「安全性の確保について説明を尽くしていない」と批判されたことを、電力業界全体で受け止めてもらいたい。
差し止めを申し立てた住民からは「福島に学んだ判断」と決定を評価する声が上がった。政府は福島の教訓に鑑み、脱原発への道筋を早急に示すべきだ。
【「高浜」差し止め 決定を重く受け止めよ 北海道・社説3/10】関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを求めた仮処分申請で、大津地裁が差し止めを認める決定をした。
3、4号機は原子力規制委員会の新規制基準に合格し、再稼働した原発だ。
だが、決定は新基準そのものへの不安を指摘し、「過酷事故対策に危惧すべき点があるのに、安全性の確保について説明していない」と断じた。
再稼働直後の原発が司法判断によって止まるのは異常事態だ。
政府と関電は判断を重く受け止め、再稼働の是非を含めて、抜本的な安全対策の見直しを進める必要がある。
3、4号機の差し止め仮処分をめぐっては、2014年に同地裁が「規制委が早急に再稼働を容認するとは考えがたい」として、申請を却下していた。
いわば、関電に対し、再稼働までに十分な安全対策を講じるよう「宿題」を出した形だった。
今回はその同じ裁判長が、安全とする根拠について関電は十分説明していないと厳しく指摘した。
その上で、新基準や3、4号機の再稼働許可は「公共の安寧の基礎になると考えることをためらわざるを得ない」とし、安全性に大きな疑問を投げかけた。
決定は、安全かどうかの立証責任は電力会社側にあるとし、原発による発電コストより、原発事故が生じた場合の環境破壊の方が重いと言及した。
関電は異議を申し立てる方針だ。あくまで関電が再稼働するというなら、あらためて安全性の根拠について、納得できる説明を尽くさねばならない。
決定は、事故が起きた場合の避難経路などを定めた地域防災計画は、市町村などではなく国が主導して策定すべきだとも強調した。国はこれに応える責任がある。
今回、差し止めを申し立てたのは、福井県民ではなく高浜原発から30キロ以上離れた滋賀県民だ。
函館市は、最短23キロの電源開発大間原発(青森県大間町)の建設差し止めを求めて係争中だ。
現在、市が原発立地県外であることから、訴える資格があるかどうか争っている。今回の判断は、この訴訟にも影響を与えよう。
東日本大震災から5年。東京電力福島第1原発事故によって、避難が長期化するなどの広域被害は収束の見通しが立っていない。
原発に対する国民の不安は根強い。大津地裁の決定は、それに応えたものといえる。
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