高校就学、技能習得など、広く活用したい「生業扶助」
生業扶助は、困窮して最低限度の生活を維持できない世帯だけでなく、法律上は「そのおそれのある者」も対象となり、厚生労働省保護課も「現在の生業扶助の制度は、保護を受けている世帯を想定した内容になっているが、考え方としては確かにありうる」という回答したとのこと。実際の適用がもとめられる。
税、保険料の負担を考えると、保護基準の1.4倍からの所得がないと、同等にならない。故に生活保護からふけだすと生活が悪化する「貧困のわな」と呼ばれる問題点がある。
この点も踏まえ、記事は「低所得世帯の税金、保険料、医療費、公共料金などの負担を軽減するしくみをつくるほうが肝心ではないか」と、適切に指摘している。
【貧困と生活保護 高校就学、技能習得など、広く活用したい「生業扶助」 読売2/21】
【貧困と生活保護 高校就学、技能習得など、広く活用したい「生業扶助」 読売2/21】あまり知られていないのですが、生活保護制度による8種類の扶助の中に「生業扶助」という給付があります。これは、最低限度の生活を保障する他の扶助とは、異なる性格を持っています。働く能力を引き出したり高めたりすることによって、収入を増やすか、自立を助けるのが目的です。
具体的には現在、高校などに通う費用をまかなう「高等学校等就学費」、就労に役立つ技能や資格を身につける費用を支給する「技能修得費」、小さな事業を営むための資金を提供する「生業費」、就職が決まって働くときの初期費用を出す「就職支度費」があります。◇「おそれのある世帯」も対象になりうる
注目したいのは、生業扶助は、困窮して最低限度の生活を維持できない世帯だけでなく、「そのおそれのある者」も対象になることです(生活保護法17条)。「おそれのある者」は、2015年度から施行された生活困窮者自立支援法の支援対象と重なります。したがって、考え方としては、保護基準より収入の多い生活困窮世帯も、必要があれば、生業扶助だけを「単給」の形で使えることになります。
そうした生業扶助の単給は、実際には行われていないようですが、厚生労働省保護課に尋ねたところ、「現在の生業扶助の制度は、保護を受けている世帯を想定した内容になっているが、考え方としては確かにありうる」という回答でした。生活困窮者自立支援の現場では、住宅確保給付金しか独自の給付制度がなく、家計支援や就労支援の具体的な手だてに困ることが多いのが実情です。「高等学校等就学費」や「技能修得費」などの生業扶助を利用できないか、支援スタッフは福祉事務所と交渉してみてはいかがでしょうか。
なお、生業扶助は、自立助長のための「上乗せ給付」なので、保護の申請を受けて保護の要否を判定するときの最低生活費の計算には入りません。ただし、すでに保護を受けている世帯の保護を打ち切るかどうかを判断するときは、「高等学校等就学費」を必要な生活費に含めて計算します。
◇ 2005年度から始まった高等学校等就学費かつては、生活保護世帯の子どもが高校に通う費用は、家計の中でやりくりする、奨学金を利用する、アルバイトでまかなうといった方法しかなかったのですが、05年度から、必要な費用が保護費として給付されるようになりました。義務教育段階で給付される教育扶助とは異なり、生業扶助の形を取っており、広い意味での「技能修得費」の一種です。生活保護の利用者には働く能力の活用が求められますが、高校段階では、能力の活用より自立助長のための就学を優先してよいわけです。
具体的な支給の項目と金額は、次の通りです。
<高等学校等就学費の内容>
・基本額 月5450円(学用品代、見学費などを想定したもの)
・学習支援費 月5150円(参考書代、クラブ活動費などを想定したもの)
・入学考査料 公立高校の条例上の額以内(1回分のみ支給、併願分は出ない)
・入学料 公立高校の条例上の額以内
・授業料 公立高校の条例上の額以内(高専の4・5年生は年29万7000円まで)
・教材代 正規の授業で使う教科書や教材の実費
・学級費等 月1960円以内(全生徒が支払う学級費、生徒会費、PTA会費など)
・通学交通費 必要な最小限度の額(自転車購入費、特別支援学校の付き添い交通費も対象)
・入学準備費用 6万3200円以内(制服代、カバン代などを想定したもの)
・学用品の再購入費 2万7250円以内(災害などの不可抗力で消失したとき)
対象は、高校(全日制・定時制・通信制)のほか、中高一貫校の後期課程、高等専門学校(5年生まで)、特別支援学校の高等科(別科を除く)、高校に準じる専修学校・各種学校です。このうち専修学校・各種学校は、修業年限が3年以上で、普通教育科目を含む年800時間以上の授業のある教育課程が対象で、それにあてはまる外国人学校も入ります。高校を出ておらず、現に就労していない人が高校などに通う場合も、自立に役立つときは対象になります。状況によっては、親が将来の勤労収入の増加につなげるために高卒の資格を得ようとするケースも認められます。各種の費用は原則として事前に支給され、実費支給の分は事後精算します。通学定期代などで必要な場合は、数か月分まとめて支給されます。留年して通常の修業年限を超えたら、お金は出ません。
授業料については現在、授業料負担を軽減する文部科学省の「高等学校等就学支援金」の制度があるので、所得制限以下の世帯では、そもそも公立高校の授業料分の負担は生じません。このため、生業扶助による授業料の支給は通常ありません。私立高校や専修学校・各種学校では、公立高校の授業料を超える額は自己負担になり、生業費によるカバーはありません。高専の4・5年生や一部の専修学校・各種学校は就学支援金による軽減がないので、生業扶助で上限額までの授業料が支給されます。
なお、授業料以外の経済的負担を軽くするため、低所得世帯の子どもを対象に「高校生等奨学給付金」が14年度から始まりました。生活保護世帯または住民税の所得割が非課税の世帯が対象です。生活保護世帯の場合、全日制・定時制だと年額で国公立3万2300円、私立5万2600円が支給されます。この支給分は、自立更生にあてるものとして、収入認定から除外されます。
◇ 幅広く使える「技能修得費」
生計の維持に役立つ仕事に就くための技能や資格を得る費用が支給されます。いろいろな学校や講座の授業料、訓練費、教科書・教材費、その他の義務的な費用、資格検定の費用(同じ資格の支給は1回限り)などです。特別支援学校高等部の別科も、技能教育の課程なので、対象になります。
技術系のものだけでなく、就職で有利になるパソコン講座、働くための基礎的な能力を養う対人コミュニケーションやマナーの講座なども含まれます。すぐに就労につながらなくても、職場適応の訓練や就労意欲を高めるセミナーのように、就労をめざすものなら認められます。運転免許の更新など資格の更新にかかる費用も出ます。
原則は1年以内で7万7000円が上限ですが、自立更生の効果が高い内容なら、2年間にわたって1年あたり7万7000円まで支給されます。やむをえない事情があれば1年あたり12万7000円まで認められます。生活保護の受給者を対象にした自立支援プログラムで複数の講座や訓練を受けるときは、年間20万4000円まで認められます。それらとは別に、交通費の実費も支給されます。
さらに、もう1段階あって、次のいずれかの場合は計38万円までの支給が可能です。
・専修学校、各種学校での技能取得(自立助長に役立つことが確実に見込まれる場合)
・自動車運転免許の取得(確実に就労するために免許取得が必要な場合)
・雇用保険法による厚生労働大臣指定の教育訓練講座(自立助長に効果的な資格が得られる場合)ただし、高校を出た人がすぐに昼間の課程の専修学校・各種学校に進学する場合は、働く能力の活用を優先すべきだとして、厚労省は認めていません。その場合は大学進学と同様に、本人を生活保護世帯から外す「世帯分離」という扱いで、自力で学費を調達して進学する方法になります。
一方、職業訓練に伴って給付を受けたときは、「技能修得費」を受けたものとして扱い、実質的に収入認定から除外されることがあります。離職者向けの公共職業訓練に伴う受講手当(1日500円)・通所手当(交通費)、求職者支援制度による職業訓練の通所手当(交通費)、その他の職業訓練に伴って自治体から支給される技能習得手当が、そういう扱いになります。
ケースワーカーは目先の就労を求めがちですが、中長期的に見ると、技能、資格、能力を高めることが自立に重要です。「技能修得費」の制度は、もっと広げて活用したいものです。
◇小さな事業の資金を提供する「生業費」
「生業費」は、もっぱら生計の維持のために小規模の事業を営むときに、起業または事業の維持に必要な設備・器具・資材の資金や運転資金を一時的に提供します。商店、飲食店、大工、左官、製造・加工・修理業、サービス業などが想定されており、金額は1回4万6000円以内(やむをえない事情があれば7万7000円以内)。返済は不要です。複数の人の出資による共同事業も対象になりえます。
◇就職が決まったときの「就職支度費」
就職が確定したら、働くのに必要な衣類、道具などの費用として2万9000円以内の額が支給されます。それとは別に、初任給が出るまでの通勤交通費も、手持ちのお金が足りなければ支給されます(初任給で通勤交通費が出ると収入認定され、実質的には返還する)。
◇求職活動の費用をカバーする「就労活動促進費」
実際には、就職が決まってからだけでなく、仕事を探すためにも費用がかかりますよね。そのうち交通費・宿泊費・食費は、臨時の生活扶助である「移送費」として支給されます。けれども衣服、理美容、履歴書用紙、写真、郵便、電話、情報収集といった費用は長年、本人の持ち出しで、積極的な求職活動の妨げになっていました。
そこで、そうした費用をまかなう「就労活動促進費」の制度が、13年8月から設けられました。これは生業扶助ではなく、臨時の生活扶助の一種です。月5000円が原則6か月間、延長を重ねた場合は最長1年間、支給されます。とはいえ、対象は、早期に就労による保護脱却が可能と福祉事務所が判断した人に限定されているうえ、やたらと細かな条件がついています。<1>「自立活動確認書」を事前に福祉事務所と取り交わす <2>原則として求人に月3回以上応募するか、企業などの面接を月1回以上受ける <3>原則として月1回以上、ケースワーカーと面接する <4>それらを組み合わせた活動を原則として週1回以上、月6回以上やっている <5>「求職活動状況・収入申告書」を毎月、提出する――ことが求められます。過去に支給された人は対象外です(いったん保護廃止になり、過去の支給から5年たてば可能)。
そこまで対象者を絞り込むべきなのか、条件が厳しすぎるのではないか。疑問です。
◇就労自立したときの積み立て型の給付金
就労による保護脱却を促進するため、「就労自立給付金」という制度が13年8月に新設されました。
保護を受けながら働いて得たお金は、基礎控除や必要経費を除いて収入認定され、保護費の支給が減りますが、その収入認定額の一部を福祉事務所のほうで積み立て、安定した職業に就いて保護から抜け出したときに、まとめてもらえるしくみです。毎月の積み立ては、収入認定された就労収入の30~12%で、保護廃止前の6か月間の積み立て総額を支給します。上限は単身で10万円、複数世帯で15万円です。早期自立を促すため、働き始めて早い時期ほど積み立て割合を高くしてあります。厚労省によると、支給実績は14年7月~15年10月の1年4か月間で,計4億4841万円。1人10万円ずつと仮定すると4400人余りなので、それなりに利用されているようです。
もともと、生活保護を外れると税金、保険料、医療費、公共料金などの負担が急に増えるため、保護から脱却しにくいという問題があり、「貧困のわな」と呼ばれます。就労自立給付金は、その問題を一時的に和らげる意味もあります。
ただし、「貧困のわな」への対処としては、低所得世帯の税金、保険料、医療費、公共料金などの負担を軽減するしくみをつくるほうが肝心ではないかと思います。(読売新聞大阪本社編集委員 原昌平)
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