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利益追求に最大の自由! TTPがもたらす社会  内田聖子さんに聞く

  NPO法人アジア太平洋資料センター事務局長・内田聖子さんへのマガジン9のインタビュー記事。
  小見出しは・・・
■政府発表のTPP概要は、全体の30分の1!?  ■情報公開されないまま、なぜ批准が急がれるのか  ■TPPだけじゃない。日米間で進められた取り決め  ■「そんな社会を本当に選択した意の課?」  ■こんなはずじゃなかった」と気づいても手遅れ  ■利益追求の企業に、最大の自由を与えていいのか?  ■市民からの反対が、議員を動かしている  ■何のために、日本はTPPを批准したいのか?  ■安保法制もTPPも根っこにあるのは同じ問題

 安倍首相の日本茶の輸出の話〔*〕は、戦争法での「米艦で避難する親子」の例えと同様・・・まったくインチキ。
戦争法とTPPで、国の形が激変。国民主権は否定され、米国の属国化が完成する。あと戻りできないという点では、戦争法以上にTPPは毒薬といえる。

【①TPPがもたらすものは、本当にメリットなのか?「参加を決めるかどうかは、まだこれから」11/25】
【②暮らしや安心より、利益優先? TPPが問うのは、「どんな社会を選択したいのか」12/2】

*安倍首相 10月6日、記者会見 「日本茶にかかる20%もの関税がゼロになる。静岡や鹿児島が世界有数の茶所とされる日も近いかもしれません」
 が、現在、お茶の輸出先の1位アメリカ、3位シンガポール、5位カナダは、すでに関税ゼロ。
 首相の言う20%の関税をかけている国はメキシコ。その輸出額はわずか174万円(財務省「貿易統計」 2014年度、日本茶輸出総額78億円)。お茶の輸出全体に占める割合、0.03%というもの。
 

【①TPPがもたらすものは、本当にメリットなのか?「参加を決めるかどうかは、まだこれから」11/25】

■政府発表のTPP概要は、全体の30分の1!?

★編集部   TPP(環太平洋経済連携協定)の協定文書がニュージーランド政府のHPで公表され、日本でも、和訳の概要が掲載されました。交渉開始から5年、日本が参加してからは2年が経ちましたが、TPPの全容がこれで明らかになったといえるのでしょうか?

★内田  ようやく秘密裏に進められてきた協定内容が公表されました。しかし、ニュージーランドが公表した英語の協定文書は第30章まであって、それだけでも約1000ページ。細かい取り決め内容が書かれた「付属書」は約5000ページで、あわせて約6000ページもあります。一方、日本政府が掲載した和訳の概要は、たったの約200ページ。全体のたった30分の1です。条文も飛び飛びにしか訳されていません。この概要で合意内容の評価をしろと言われても、出されていない情報が多すぎます。意図的に訳していないところがあるのではないかと、疑いたくなります。

★編集部  協定文書全文の和訳は、政府からいつ出るのでしょうか?

★内田  日本政府は来年早々に国会でのTPPの審議を進めて、2月頃には署名をしたい考えだといわれています。その直前には全訳を出すといわれていますが、明らかになっていません。署名直前に出されても判断できませんよね。交渉の過程で全文訳に近いものは作っているはずなので、審議に間に合うように、早くきちんとした協定文書の全文和訳を出してほしいと要求しているところです。

★編集部  新聞などの報道を見ると、発表された概要を基にした分析が出てきています。懸念されているISDS条項(※)にも一定のブレーキがかけられたなどと評価していて、大きな批判の声はあがっていないようですが、実際はどうなのでしょうか?

*ISDS条項:国や自治体が、市場参入規制や国内企業保護を行ったとみなされる場合に、外国投資家に国家を訴える権利を与える条項。国内で起きた問題であっても、国内法に基づく国内裁判ではなく「国際投資紛争解決センター」などの国際仲裁機関で判断が下される

★内田  ISDS条項についても、食の安全についても、政府はずっと「大丈夫だ」と言い続けてきました。そうした政府の見解をメディアがそのまま書いてしまう傾向があって、それがミスリードの原因にもなっています。しかし、本当に大丈夫なのかどうかは、協定文章の文言を詳しく分析してみないとわからないことです。まるでもうTPPは決まったかのような印象ですが、まだ協定の内容がやっと出てきた段階。本当に日本が批准すべきなのか、国会で審議するのはこれからです。

★編集部  まだ詳細が分らない部分も多く、市民の多くが合意内容を理解できているとは到底思えません。

★内田  「大丈夫だ」といくら政府が言っても、協定文書に「日本の食の安全は守ります」などとはっきりと書かれているわけではありません。書かれているのは一般的な原則であって、文言の“解釈次第”で意味が変わってしまうこともあります。政府の言うことが本当に正しいのか、実は将来的に日本のデメリットになる可能性のある文言が埋め込まれていないかということを、専門家の協力を仰ぎながら分析していかないといけない。
 たとえば、報道でも取り上げられましたが、日本は決められた5カ国から要求されれば、7年後に再協議に応じるという内容があります。いま「聖域を守った」などと言っていても、7年後には変わってしまう可能性があるんです。

★編集部  将来的にデメリットになり得るような可能性を残した文言になっていないか、概要を鵜呑みにせず、きちんと確認する必要がありますね。

★内田  貿易文書の文言には、裏の意味がこめられている場合が多いんです。その真意を読み解くには、「どの国が何を主張したことで、文言がどう変わったのか」という交渉の経緯を明らかにする文書が重要です。しかし、そうした交渉文書や交渉にかかわるメール、資料などは、TPP発効後4年間も秘密にされることになっています。発効してからでは遅すぎる。大体、交渉経過を隠したいということは、明らかになると反対されるようなことがあるからじゃないでしょうか。

■情報公開されないまま、なぜ批准が急がれるのか

★編集部  そもそも、すべての情報が市民に公開されていない状態で、TPPに参加するかどうかを判断しなくちゃいけないことが問題ですね。

★内田  その通りです。TPPほどの秘密主義が貫かれている協定はあまり例がありません。これだけ多岐にわたる分野の取り決めがあり、11月に大量の協定文書が出されたばかりなのに、政府は来年の参院選の前には批准したいと急ピッチで進めようとしています。まだ国会議員でさえ中身を把握できていないのに、時間が足りなさすぎます。アメリカでは議会の力が強いので、これまでも国会議員が請求すれば文書を見ることができていましたが、日本はそうではありません。国会も市民も無視して、進められようとしているのが一番問題です。

★編集部  なぜ、そんなに政府は手続きを急いでいるのでしょうか?

★内田  中身はどうであれ、アベノミクスの“成果”として、来年の選挙に向けたアピールがしたいのでしょう。10月に開催されたアトランタのTPP閣僚会議で、12カ国の合意を急いだのは日本だといわれていますが、それも政権の株をあげたいという気持ちがあったからではないでしょうか。農家がTPPで大きなダメージを受けることは間違いありませんが、早く農業対策費をばらまいて、選挙までに反対の声を抑えたいと焦っているはずです。「国のため」とか言いながら、結局は自分たちのことだけを考えているのではないでしょうか。

★編集部  TPPでは、最初から日本の農業は打撃を受けるといわれてきましたが、一方で攻めの分野といわれていたはずの自動車でも関税の撤廃期間が25~30年と非常に長く、今回の合意内容で、日本が大きなメリットを得られたようには感じられないのですが。

★内田  2013年3月に、日本が他国に遅れて交渉に参加を決めた時点から、すでに自動車分野でかなりの譲歩をのまされていました。
 では、なぜメリットが少ないTPPに参加したのか。それは、アメリカからのプレッシャーがあったからでしょう。辺野古新基地問題や安保法制にも共通する日米関係のおかしさがここにも表れています。
 自動車業界も政権との関係があるので大きな批判はしていませんが、合意内容を冷ややかに受け止めています。個別でみればTPPで利益をあげる業界もあるでしょうが、それを「国益」と呼べるのかといえば違いますよね。10月中旬に日本農業新聞が行ったTPP大筋合意に関する意識調査では、安倍内閣への支持率は18%にまで落ちこみました。しかし一方で、政府からの農業対策費が必要になるという矛盾があって、組織としての反対運動はあまり盛り上がっていません。表立って声をあげるのは難しいという農家からの苦しい声も聞きます。

■TPPだけじゃない。日米間で進められた取り決め

★編集部  与党がこれだけ圧倒的多数だと、反対しても仕方がないという気持ちがあるのでしょうか…。もうひとつお聞きしたいのですが、TPPに参加する12カ国全体での協定以外に、これまで二国間での協議も進められてきました。「交換文書(サイドレター)」と呼ばれるものは、どういうものなのでしょうか?

★内田  TPPでは、12カ国の全体協議だけでなく、その過程で二国間でもいろいろな取り決めを交渉してきたわけです。日本の場合は、その相手国のほとんどはアメリカです。今回公表された「交換文書(サイドレター)」に、その取り決めの内容が記されているのですが、これも和訳されているのは短い概要だけ。しかも、公表されているものがすべての内容なのかどうかもよくわかりません。
 日本はTPP交渉に遅れて参加したときに、並行してアメリカと二国間協議を進め、TPPの発効前からその内容を実行するという約束をさせられています。「サイドレター」と呼ばれるのは、その約束が書かれているのが協定文書などではなく、ただの“手紙”だからです。要するにアメリカからの日本への要望書です。これこそが日米の関係性を表していて、協定なんか結ばなくても、アメリカからの強い要望があれば日本はやらなくてはいけないのです。非対称、不平等な関係を象徴するものです。

★編集部  日本政府は言い訳のように、「法的拘束力を有するものではない」と交換文書に書き添えていますが、実質的には拘束力があるってことですよね。

★内田  日本は自ら「どうぞどうぞ」といろいろな条件をのんで、差し出しているようにしか思えない。たとえば、今回のTPPで、日本は自動車に関してかなり長い関税削減期間を認めていますが、並行協議のなかで日本が協定違反を犯した場合には、アメリカはさらに期間を延長できることになっています。また、投資の分野では、規制改革について日本国政府が外国投資家等から意見及び提言を求める、とも書かれているんですよ。規制改革会議は、これまでも雇用、医療などの規制緩和に口を出して政策を進めてきましたが、なぜそこに、わざわざ外国投資家を入れなくちゃいけないのでしょうか? こんな文言がさらっと入っているんですよね。協定文書や交換文書の全文をちゃんと読み込んでいくと、こうした問題がいろいろ隠されているのではないかと思います。

■「そんな社会を本当に選択したいのか?」

編集部  そもそも農業のようなものを「商品」として競争にさらしていいのか疑問があります。国内自給率を高めることは安全保障上も重要ですし、食の安全性が、輸出入をメインとした利益追求型の市場で守られるのか不安を感じている人は多くいると思います。同じことが、農業や食品だけじゃなくて、医療や保険、雇用などにもいえますね。

★内田  経済の数字だけでは示せないものがあるはずですよね。国内の食料自給率を下げる代わりに、外国産の安いものが入ってよかったねと喜ぶ。一部の国内農家だけが付加価値のある和牛や果物を海外の富裕層向けに売る。政府が言っているような、そんな農業の在り方って、ものすごく不自然です。
 TPPは、まさに「そんな社会を選択したいのか?」という問いかけなのです。そして、おそらく日本の多くの人たちはそれを選択したいとは思っていないのではないでしょうか。「TPPについてどう思いますか?」と聞かれると、「よくわからないけど、損しないならいい」という人もいる。でも、「自給率についてどう思うか」「食の安全基準についてどうしたいか」「農業の多面的機能の重要性についてどう考えるか」とひとつずつ聞いていくと、TPPによって進められようとしている流れとは矛盾する回答をする人が多いんです。TPPに批准してしまう前に、そういう議論が必要じゃないでしょうか。

★編集部  「規制緩和」、「自由化」と言われると、時代の流れには逆らえないのかな、というムードもありますが。

★内田  全部の規制を残せといっているわけではありません。でも、競争原理にあてはまらないものがあるのは当然です。社会は強い者だけが生き残ればいいというものではありません。ある程度、国が責任をもって守るべきものがあるのは、当たり前。特に、農業、雇用、医療、食の安全は、規制緩和で危機にさらされかねません。
 それからTPPだけではなく、同時に国内の規制緩和の流れもちゃんと見ていく必要があります。協定文書には書かれていないからと安心していても、アメリカや投資家などからのプレッシャーで、日本が自主的に規制緩和していく可能性もあります。
 安保法制の反対運動の最中に、「患者申出療養」という医療制度が通ってしまったのをご存知でしょうか? 保険外の診療を可能にする混合診療の事実上の解禁です。国民皆保険制度をおびやかし、医療格差につながるのではと懸念されています。私たちが当たり前だと思ってきた暮らしの基盤が、まさに足元からくずれようとしている。
 アメリカでは格差が大きく広がっていますが、それが私たちの望む社会のあり方なのでしょうか。TPPは、いまそのことを私たちに問うているのです。

【②暮らしや安心より、利益優先? TPPが問うのは、「どんな社会を選択したいのか」12/2】

■こんなはずじゃなかった」と気付いても手遅れ

★編集部  前回は、情報公開が充分にされていないまま、TPPの批准が進められようとしているというお話をうかがいました。各分野から懸念があがっている割には、日本ではTPPの反対運動がいまひとつ広がっていない印象があります。他国での状況はどうなのでしょうか?

★内田  議会での批准がもっとも難航するだろうと言われているのはアメリカです。IT、医薬品、農業など、アメリカはさまざまな業界からの要望をTPPに反映させようとしました。でも、すべては実現できていません。
 日本が譲歩をしたので、農業の輸出団体は結果に比較的満足しているといわれていますが、一方で製薬業界は特許期間の譲歩にかなり怒っています。製薬会社から献金を受けている議員が代弁者となって、「こんなTPPは絶対通さない」と言っており、議会ではもめることになるでしょう。アメリカだけでなく、他の国でも議会が通さないとなった場合には、協定内容の再交渉という可能性もでてきます。

■利益追求の企業に、最大の自由を与えていいのか?

★編集部  アメリカでは、市民からの反対の声も大きいのでしょうか?

★内田  非常に大きいです。日本と違うのは、環境や人権に関しての市民からの批判も強い点ですね。環境面でいうと、多国籍企業が、他国に進出して投資したり工場をつくったりする中で、現地で環境被害や健康被害を及ぼしたという事例はいくつもありますよね。
 たとえば、シェブロンというアメリカ石油会社が、アマゾンの川に廃棄物や原油を放出して、エクアドルの先住民たちに深刻な健康被害を起こしたことがありました。こうしたことが、環境団体による自由貿易への批判の理由になっているのです。このケースでは、シェブロン側に賠償金の支払いを求める判決が出たのですが、シェブロン側は賠償を逃れるために、反対にISDS条項を利用してエクアドル政府を訴えて、争いは20年以上も続いています。

★編集部  多国籍企業を相手に何十年も訴訟で闘い続けるのは大変なことでしょうね。他人事ではありません。

★内田  人権問題に関していうと、たとえばマレーシアは、昨年アメリカ国務省が出した「人身売買報告書」で、シリアや北朝鮮と並ぶ最低ランクに位置づけられていました。強制労働のための人身売買が横行しているのに、政府が充分な対策をせずに放置しているからです。今年の5月には、人身売買被害者とみられる数百人の遺体も見つかっています。本来ならアメリカは経済制裁を行ってもおかしくないくらいです。しかし、そのマレーシアはTPPに参加している。このことで、アメリカの議会はすごくもめました。結局、今年公表された「人身売買報告書」では、状況が改善されていないにもかかわらず、マレーシアの格付けがひとランク上げられたのです。

★編集部  改善されていないのに? つまり、経済を人権問題より優先したということなのでしょうか。

★内田  企業に最大限の自由を与えれば、利益の追求と引き換えに、環境を汚したり、人の健康を害したりする可能性があります。しかも儲からなくなったら、さっさとその国から撤退してしまえるわけですよね。反対しているアメリカの市民団体は、そうした「自由貿易協定の不正義」を批判しているのです。アメリカの利益うんぬんというだけの問題ではなくて、時間をかけて国際社会が確立してきた環境や人権や健康といった価値を、経済や貿易といったものの下に従属させるのかという問いかけです。こうした意見は、ヨーロッパではさらに強いです。

★編集部  ヨーロッパやアメリカには、そうやって反対運動を行う環境団体や人権団体があり、そして、それを支えている市民と、応援している議員がいるということですよね。

★内田  そうです。日本では、政策提言や議員へのロビー活動をしている市民団体はまだ少ないので、こうした動きはイメージしにくいかもしれませんが、経済がグローバル化すればいいことばかりではなくて当然負の側面も出てきます。その影響を受けるのは弱い人たち。環境も同じです。そのことを放置して、ただひたすら「利益が生まれるから」と自由貿易を促進していくことに対して、「ちょっと待って」という批判の声が、さまざまな市民団体からあがっているのです。

■ 市民からの反対が、議員を動かしている

★編集部  日本では農業や食の安全のことばかりが取り上げられがちですが、アメリカでは反対運動も多様なんですね。

★内田  労働組合もすごく反対しています。アメリカでも、日本と同じように「TPPで経済成長するんだ」とか「雇用が生まれる」と、政府は言っているんです。でも、過去の自由貿易協定の経験で、自由化するほど外に雇用が逃げていくことが分っている。アメリカはNAFTA(北米自由貿易協定)を結んで20年になりますが、大量の雇用がアメリカから失われました。
 雇用を守るための労働組合からの強い反対は、アメリカの民主党をTPP反対へと傾ける大きな原動力になりました。いまの民主党の次期大統領候補者たちは、ほぼ全員がTPP慎重派か反対派ですが。それは巨大な労働組合が、次の選挙に向けて議員に強いプレッシャーをかけているからです。

★編集部  日本でも市民の声が議員へのプレッシャーになればいいのですが…。

★内田  それはこれから私たちが頑張っていかないといけないところです。日本は、ちょっと特筆すべきくらい変な国。政府がこんなに議会を無視してTPPを進めるなんて普通じゃないですよ。政府は、一体何を「国益」だと考えているのか、このTPPでどれだけ日本にメリットが生み出されるのか、ちゃんと私たちに伝える義務があるはずです。数字だけでなく、社会の価値観にかかわる話でもあります。

■ 何のために、日本はTPPを批准したいのか?

★編集部  国益は、経済の数字だけで計れるものではない、と。

★内田  そうです。私たちは、本当に全部を市場にまかせてしまっていいのでしょうか。交換文書では、かんぽ生命保険についても触れています。すでに郵便局の窓口ではアフラックの保険が売られるようになりましたが、ほかのアメリカの保険会社も日本郵政の全国ネットワークを利用したいと思っています。そうしたときに、かんぽ生命保険は、アメリカの企業からみれば「不当に優遇されている」とみなされてしまう。しかし、かんぽや共済には、「助け合い」という非営利の側面も強い。それを「利益追求の企業と比べて平等じゃない」といわれて、「そうですね」と市場に放り投げていいものなのだろうかと思います。誰のために、何のために、日本政府はTPPを批准しようとしているのか、疑問がたくさんあります。

★編集部  日本のメディアなどでも「TPPによって企業や消費者にどれだけのメリットがあるのか?」という議論はありますが、それ以前に、このまま規制緩和や自由化の方向を進めていっていいのかという議論が必要だと感じます。

★内田  そうした社会の価値観にかかわる議論は、これまでされてきませんでした。私たちは5年近く、TPPの問題を訴えてきましたが、TPPを「自分の問題」としてとらえてもらうことの難しさを感じています。貿易のことって、どこか自分とは無関係の遠い話だと思われがちなんですよね。
 また、日本では高度経済成長時代に、家族ぐるみで企業に面倒をみてもらってきた時期が長いので、企業への信頼感や幻想が根強く残っているように思います。「企業の成長=個人の利益」みたいなイメージがあるのかもしれない。でも、実際にはグローバル化するなかで、企業のもつ暴力的な側面も明らかになっています。営利を追求するあまり、環境破壊や人権問題、食品偽装なんかも起きてくる。それに対してどう社会は考えるのか? やはり、ちゃんと規制や監視をして、消費者として意見を言っていく必要があると思うのです。

★編集部  TPPは、逆にその監視や規制や口出しする権利を自ら放棄してしまうような内容ですよね。発効されれば、国内の法律よりTPPで決めたことのほうが優先されます。これも国の主権を揺るがす問題ですね。

★内田  TPPによって自分たちの国のことを自分たちで決められなくなるのが一番怖いこと。協定には「ラチェット条項」というのがありますが、これは一度規制緩和したものは、以前の状態に戻すことはできないという取り決めです。あとで「これはまずかった」と世論が変わっても、一部の例外分野を除いて、元には戻せません。たとえば、私たちも反対してきた安保関連法案ですが、これは政権が変われば廃案にできる可能性があります。しかし、TPPは政権が変わっても、世論が変わっても、もう止めることができない。発効したら、自由化や規制緩和の方向へと一方通行に進むしかないんです。

★編集部  それだけの重要な決断を、いま私たちが政府から問われているという気がしないのですが…。

★内田  ほとんどの人が、きっとピンと来ていないですよね。本当はマスメディアが「この内容で、本当に大丈夫なのか」とひとつずつ取り上げて世論に問うことをしてほしい。TPPの本当の怖さを知らないまま、このまま批准してはダメなんです。

■安保法制もTPPも根っこにあるのは同じ問題

★編集部  情報がきちんと公開されず、検討する時間もないままに、このまま政府が強引に批准へと進めていきそうで心配です。今後、内田さんたちは、どのように行動していく予定ですか?

★内田  来年の国会から、TPPの審議が始まると思いますが、ここはとにかく、野党の議員に頑張ってもらうしかありません。安保法制のときに野党間ではある種の連携ができましたが、ああいう形で、党ごとに分野を分担するなどして、疑問のあるところをつっこんで、政府に答えさせて、抜け道をつくらせないように、はっきりとさせないといけない。少なくとも、安保法制の議論以上の時間が必要だと思っています。

★編集部  市民もそうした議員を動かすだけの後押しをしていかないといけませんね。

★内田  TPPに反対する市民団体も、ここ数年で連携を広げてきました。私たちがかかわっている範囲でも、「STOP TPP!! 市民アクション」という40〜50の団体が集まるネットワークがあります。TPP反対で一致する市民団体、NGO、農業団体、労働組合、消費者団体、医療団体、生協などが参加しています。また、大学教員や弁護士の団体もあります。こうした団体で集まり、市民にも広く呼びかけて、来年1月から国会の外でも声をあげていきたいと思っています。

★編集部  憲法9条も実質的に手放して、TPPで国の主権も手放して、それが政府のいう「普通の国」になるということだとしたら、代償が大きすぎますね。私たちの意見は耳を傾けられることなく、いろいろなことが急激に変えられていっているように感じます。

★内田  結局、安保法制もTPPも根っこは同じ問題なんだといえます。圧倒的多数である与党の力を利用して、日米関係や企業の利益など、私たちの声と関係ないところで政治が進められている。だからこそ、次の参院選は本当に大事になってきます。明確な候補者を立てて、特に地方できちんと私たちの意思を示す必要があります。
 私たちは、国会が始まる頃までには、協定文を読み解く分りやすい冊子を作りたいと考えているのですが、それを使っていろいろな方に各地で学習会をしてもらいたいんです。TPPの批准阻止と参院選に向けて、地元の候補者に質問しに行くとか、議員にプレッシャーをかけるためのツールを作りたい。そうやって市民一人ひとりが活動して世論や議員を動かすことで、状況を変えていくことが大事なのです。

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