日印原子力協定 核不拡散の願いに背く
安倍首相は、インドと原子力協定で大筋合意した。インドは、核兵器を保有。核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)に参加していない。核実験した場合、協力を停止すると規定が入ったというが、被爆国日本のとるべき行動ではない。
一方、インド反核運動全国連が日本政府に協定締結をしないよう、申し入れをしている。
「原子力は多額の投資にもかかわらず、インドのエネルギー生産の2.8%でしかない」「。インド政府が原子力を求めるのは、核を保有したいがため」と指摘するとともに、インドでは、すでに人々がウラン鉱山での健康被害をうけている、原発に反対する住民への弾圧が行われていると、大きなポテンシャルをもっている再生エネへの協力を訴えている。
【日印原子力協定 核不拡散の願いに背く 京都新聞社説12/12】
【インドの反核グループが、日印原子力協定に反対する書簡提出 「原子力ではなく、再生可能エネルギーへの協力を。核なき世界の達成を」 FOEJAPAN 11/26】
【声明 経団連の“日インド原子力協定推進”に抗議 一部の企業の利益追求のために、核拡散リスクを無視し、日本の信用を損ねていいのか FoE Japan 2015年11月19日】
【日印原子力協定 核不拡散の願いに背く 京都新聞社説12/12】安倍晋三首相がインドを訪問している。新幹線システムの売り込みとともに、日本の原発輸出を可能にする原子力協定締結の合意に向け前のめりだ。
ちょっと待ってほしい。インドが核兵器の保有国であり、さらに核拡散防止条約(NPT)に加盟していないのは、先刻承知のはず。それでもなお、ビジネスを優先させるのか。
戦後日本が掲げてきた「核廃絶・核不拡散」の願いを、ないがしろにするのは許されない。
安倍首相は出発の前に、「世界で唯一の戦争被爆国の立場から交渉に当たりたい」と述べたが、すでに気がかりな協議が進められている。
原発から出る使用済み核燃料の再処理を日本が容認したというが、再処理で生成されたプルトニウムは核兵器に転用できる。プルトニウム量を確認できる措置を求めても、インド側は難色を示しているようだ。
転用への歯止めが協定の条件とされるが、そもそも再処理技術を持つインドに歯止めをかけることは可能なのか。
思い起こすべきは、1974年のインド初の核実験だ。カナダから輸入された原子炉の使用済み核燃料を再処理して得たプルトニウムが使われている。
インドはNPTだけでなく、包括的核実験禁止条約(CTBT)にも加盟していない。条約の義務を負わない一方で、ウラン輸入禁止など制裁を受けたが、米国が2008年に例外扱いでインドと原子力協定を締結。フランスやカナダ、韓国などが続き、原発の売り込みを競い合うようになった。
日本がインドと協定交渉を始めたのは民主党政権時だ。世界の原発建設で日本製資機材は欠かせないと言われ、原発建設を急ぐインドにとっても、日本との協定は魅力らしい。
しかし、隣国のパキスタンや中国とは領土問題を抱え、いずれの国も核保有国であることを見過ごすわけにはいかない。核拡散につながりかねない原発輸出より、むしろ3国には非核を働きかけるのが、日本の役割ではないのか。
先月、国連の委員会で採択された核兵器廃絶決議は、日本が主導した。各国指導者らに被爆地の広島、長崎訪問を呼びかける内容だが、片方で核拡散に手を貸すようでは説得力を欠く。
福島第1原発事故の災禍を忘れて、海外に原発を売り込もうとする姿も、どう見られるか。
【インドの反核グループが、日印原子力協定に反対する書簡提出
「原子力ではなく、再生可能エネルギーへの協力を。核なき世界の達成を」 FOEJAPAN 11/26】来月12月の安倍首相訪印時に、日インド原子力協定が締結される可能性が報道されています。核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)に参加せず、核兵器を保有するインドと、戦争被爆国である日本との原子力協定締結は、いままでの日本の核不拡散に関する政策をくつがえし、世界の核不拡散の努力を損なうとして内外から批判の声があがっています。
このたび来日中の、インドで核廃絶に取り組むクマール・スンダラム氏とヴァイ シャリ・パティル博士が、11月26日、日本政府に対して、原子力協定を締結しないように求める申し入れを行い、「インド反核運動全国連合」(NAAM: National Alliance of Anti-Nuclear Movement)からの書簡を提出しました。
書簡は、安倍総理および日本の国会議員宛てとなっており、「原子力は生命、人々の生活、そして環境に様々な形で危険をもた らす」と指摘、「原発は環境的に持続可能なエネルギー源ではない」とし、日本政府に原子力ではなく再生可能エネルギーに投資するよう求めています。
内閣府・外務省との会合の中で、パティル博士は、「原子力は多額の投資にもかかわらず、インドではエネルギー生産の2.8%しかしめていない。インド政府が原子力を求めるのは、エネルギー生産のためではなく、核を保有したいがため」と指摘。
ジャイタプールの原発反対運動の中で、住民たちが弾圧されてきた状況を語り、「こうした状況の中で、インドとの原子力協力を行うことはどういうことなのかよく考えてほしい」と語りました。
スンダラム氏は、日印原子力協定の締結は「世界のNPT体制をゆるがすもの」と批判し、また、大規模集中型で巨大資本を利する原子力発電の導入は、「富めるものを富ませ、貧しいものをさらに貧しくする。現地の住民たちを危険にさらす」と指摘しました。
また、この書簡提出をサポートした FoE Japanからは、 「政府は、このようなひどい人権抑圧を”内政問題”でかたずけようとしているが、日本の協力によって生じる他国の人権問題が”内政問題”ではなく、日本側の責任もとわれることは、数十年前に一定の合意をえていたはず」と指摘。また、「NPT外のインドへの原子力協力は、インドの核保有をみとめたことになり、日本の信用も損なわれる。日本人としても強く反対する」と訴えました。
■日本国内閣総理大臣 安倍晋三 様、国会議員の皆様 〜原子力ではなく、再生可能エネルギーへの協力を。核無き世界の達成を〜 11/26】私たちインドの市民は、日インド原子力協定に対し重大な懸念を抱いています。いくつかのメディアがこの12月にも日インド原子力協定が締結される見込みであると報道しています。私たちは、日インド原子力協定締結に対する反対を表明し、核なき世界というより良い共通のゴールのために、日本政府にこの二国間協定を締結しないように求めます。
私たちは主に3つの理由により、原子力協定に反対します。
第一に、私たちは福島のような悲惨な原子力事故を世界のどこでも二度と繰り返してはなりません。原子力は生命、人々の生活、そして環境に様々な形で危険をもたらします。このことはチェルノブイリや福島の事故ですでに明らかです。チェルノブイリ原発事故の後、原発事故が人々の生活と環境を破壊すると私たちに教えてくれました。インドでは、すでに人々がウラン鉱山での健康被害をうけています。事故が無くても、核技術そのものは生来的なリスクと非人間的な特徴を持つのです。ひとたび事故が起きれば私たちの土地を回復させるのは不可能です。
私たちのうち何人かは、すでに福島原発事故によって被災者となった方々の苦しみを直に目撃しています。生計手段を失い、自国で難民状態となってしまった人々を見ています。福島原発事故の被災者の困難から立ち直る力を、彼らが暗黙に原発を受け入れていると読み替えてはなりません。
それは地に足をつけ、力強く立ち直っていく日本の力です。日本が引き続き立ち直っていくために、原発は去らねばなりません。原子力技術に内在する破壊という特徴は、日本人の元来の困難に直面しても立ち直っていく力とは真っ向に対立します。私たちは日本の首相に原発を推進する事をやめるよう、強く求めます。第二に、原発は環境的に持続可能なエネルギー源ではありません。インドや日本のような国は、エネルギー需要と気候変動対策のために、再生可能エネルギーを用いていく可能性を模索すべきです。インド政府はエネルギー安全保障と、安定したエネルギー供給のために原発は不可欠であると主張しています。ですが、原発への巨額の投資とは裏腹に、原発から来るインドのエネルギーはたった3%です。原発は高価で危険な技術です。さらに、インドは再生可能エネルギーのポテンシャルを高くもち、その大部分がまだ開拓されていません。私たちは、日本政府に原子力ではなく再生可能エネルギーに投資するよう求めます。これは、気候変動と環境的に持続可能な開発のため、日本インド両国にとって利益となるでしょう。
第三に、私たちは核無き世界を達成するため、原発の使用をやめなくてはいけません。日本は原爆の被害と原発事故の被害両方をうけた世界唯一の国です。即ち、日本ほど核なき世界に向けて国際社会を導いていくのにふさわしい国はありません。私たちインド市民は、日本とともにこのゴールが達成できる事を強く願っています。私たちは常に、核兵器の被害者、原子力事故の被害者、そして原子力そのものの被害者と連帯していきます。日インド間の原子力協定は、核の被害をうけているすべての人にたいしての侮辱です。有害な核の技術を拡散させることにしかなりません。
インドには核に反対する人々が長年たたかってきた歴史があります。ある人々はすでに土地を失い、ある人々は放射能に苦しんでいます。反原発活動に従事する活動家らが情け容赦なく、権力によって抑圧されているという現状もあります。
私たちは日本の人々に、インドの一般の人々の声が届く事を祈っています。福島や広島の被害者のように、私たちは原発に真剣に取り組んでいます。
私たちは、安倍首相、そして日本の国会議員の皆様が、私たちの日本への親愛の情を理解し、日本とインドの一般の人々両方に取って一番ためになるように、日インド原子力協定を取りやめるという形で一致していく事を望んでいます。
インド反核運動全国連合(National Alliance of Anti-Nuclear Movement) 一同
提出者 クマール・スンダラム
Dr. ヴァイシャリ・パティル
【声明 経団連の“日インド原子力協定推進”に抗議 一部の企業の利益追求のために、核拡散リスクを無視し、日本の信用を損ねていいのか FoE Japan 2015年11月19日】日本経済団体連合会(以下、経団連)は2015 年11 月17 日に「戦略的なインフラ・シス テムの海外展開に向けて主要国別関心分野ならびに課題2015~」と題した調査報告・提 言書を発表し、その中で日本がインドに対して原子力協力を行うために“直近の日印首脳会 談に併せて、原子力協定を締結することが求められる”としています1。
こ の経団連の姿勢は、NPT(核不拡散条約)やCTBT(包括的核実験禁止条約)を批准せず、核兵器を所有するインドとの原子力協定は、非NPT加盟国と原子力協定を結んでこなかった日本の従来の立場と大きくかけ離れるものであり、核拡散を促進するものとして、強く抗 議します。
インドとの原子力協定の締結は、日本が守ってきた核廃絶という姿勢を損ない、国際的な信用をおとすものであり、南アジアの、そして国際的な軍拡競争を刺激しかねません。
インドはIAEAの追加議定書を批准していますが、民生利用と軍事利用の核施設を峻別し、 前者のみをIAEAの査察対象としており、原子力の軍事利用に歯止めをかけられる保証とはなりません。
また、2015年10月に 原子力関係閣僚会議において「原子力施設主要資機材の輸出等に 係る公的信用付与に伴う安全配慮等確認の実施体制の再構築について」が決定され、その中 に安全確認等を行う新たな主体を内閣府中心で設立するとされていますが、新たな安全体制も核拡散を防ぐための方策がとられた内容ではありません2。核拡散の観点だけではなく、福島原発事故を起こし、事故の収束も見込めない状況で原子力協定を推進し、原発を輸出する非倫理性は到底看過できるものではありません。
原発輸出による社会的環境的影響は無視できません。現在インドでは22の原発が稼動し、新たな建設計画も複数存在します。多くの原発立地で市民による反原発抗議活動が展開されていますが、クダンクラムなどでは建設に反対する市民の非暴力行動を、警察が暴力的に鎮圧しました3。
こうした状況での原発輸出は、新たに人権尊重が明記されたOECD コモンアプローチ上でも、そして民主主義の理念からも、大きな問題があります。送電ロスが大きく、分散型の再生可能エネルギーの潜在力が高いインドにおいて、日本が協力できる分野はたくさんあります。日本が協力すべきは、日本の一部の企業の目先の利益追求のための、中央集権的で危険な 原子力の推進ではなく、環境的に持続可能な社会の実現と核の脅威無き世界の実現です。
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