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在沖・米海兵隊への勝手な期待と大きな誤解―辺野古代執行訴訟の愚

 「海兵隊はほとんど沖縄を留守にし、巡回先では中国軍を招いて共同演習を実施している」、海兵隊は「アジア地域で近年頻発する大規模災害に各国軍が協力して対処できるシステムを構築する取り組みこそが、アジア地域の安全保障ネットワークを強化するという発想」で活動している。
その実態を無視し、「沖縄の民意を無視して基地を提供して、米軍の機嫌をとっていれば、一緒に中国とケンカしてくれるはずだ、という日本政府の本音が訴状から読み取れます。そんな内弁慶では国際社会の尊敬は得られないでしょう。」と的を射た論説。
簡潔だが、安全保障政策の中心点をわかりやすく説いている。
【日本国民が抱いている米海兵隊への勝手な期待と大きな誤解―辺野古代執行訴訟の愚 屋良 朝博・沖縄タイムス11/19】

 なお、政府は「尖閣も安保条約の適用範囲」ということを米に確認しているが、該当の第5条は、互いの国の手続きにしたがった対処する・・・というもので、米国なら参戦権を有する議会に提案するということまでしか規定していない。小さな無人島のために、中国と正面から対決し、米国の若者の血が流れることを、米議会が賛同すると考えるのはナイーブ過ぎる。
 昨日紹介したエネルギー分野、また以前紹介した軍事分野の共同など、個々の対立はあっても、もっと大きな視野の中で、米中は動いている。

【日本国民が抱いている米海兵隊への勝手な期待と大きな誤解―辺野古代執行訴訟の愚 屋良 朝博・沖縄タイムス11/19】

 名護市辺野古へ米海兵隊普天間飛行場を移設する計画で、埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事を相手に政府は福岡高裁那覇支部に代執行訴訟を起こしました。埋め立て事業の合理性はない、と翁長知事は主張していますが、国は「それは国が判断するもので、地方はそれに従うだけだ」と言わんばかりの強権的な論理を展開しています。

 国はこう主張しています(いつも同じ議論で新味はありません)。
 周辺国の軍事拡張に対応しつつ安全保障を確かにするには米軍が日本国内に駐留し、抑止力を維持することが極めて重要だ。沖縄は南西諸島のほぼ中央にあり、極東の潜在的紛争地域から「近いまたは近すぎない」位置にあり、シーレーンにも近く、日本の安保上の戦略的見地から地理的優位性を有している。その沖縄に即応力、機動性に富む海兵隊がひとかたまりで駐留することが日本の防衛だけでなく、アジア太平洋全体の平和と安定に不可欠である。

 こうした検討を行えるのは国以外にはない。従って、沖縄県が普天間飛行場の県外、国外移転を主張することは論外である。地方自治体が事業合理性を判断する能力はないため、知事は政府が指定した辺野古における埋め立ての可否を判断すればいい。これらの条件下で普天間の危険性を除去するために辺野古移転が唯一の解決策であり、その実現が最大の公益である。

 ここからは筆者の反論です。

 抑止力の維持、地理的優位性はいずれも根拠が乏しいのです。そもそもここで議論される抑止力は「米海兵隊」を指しています。他国軍の抑止力を日本が勝手に維持するとか、強化すると主張する自体、議論が倒錯しています。

 抑止力は(1)意思(2)能力(3)抑止する相手の合理的判断―の3要件で規定されます。領土侵害などには毅然と立ち向かい、相手に対して徹底的な報復を与えるという意思を絶えず表明していなければ、権益は守れません。報復を与える能力がなければ、相手になめられてしまうので抑止は効きません。さらにその意思と能力を相手が十分に理解し、合理的な判断をしてくれなければ抑止はまったく意味をなしません(分別のない幼子が泣くのを止めるのに威嚇しては逆効果です)。 

 例えば尖閣諸島を中国から守るため、地理的に近い沖縄に海兵隊を駐留させることが不可欠だ、という議論があります。米国が尖閣を死ぬ気で守るという意思を絶えず表明し、実行できる能力を持ち、中国もそのメッセージと米軍の実力をちゃんと理解して合理的は判断をしてくれたときに初めて抑止は効いている、と言えるわけです。米国は果たして小さな無人島を守ることを自国の利益と考え、若い兵士らの命をかけてでも軍事的な行動を起こしてくれるのでしょうか。もし読者がアメリカ国民だとしたらそのような戦闘を支持しますか。

その確証が得られないから、日本の外務・防衛閣僚に限らず、総理大臣までもが米大統領らに「尖閣も日米安保の適用範囲ですよね」と何度も念押しするわけです。米国は他国の領土問題に首を突っ込まないことを基本政策としており、当事者間で平和的に解決してください、という立場です。

 尖閣防衛は一義的に日本の責務であることを日米両政府は確認済みですので、政府が繰り返す抑止力とはいったいどこを対象にしているのでしょうか。

 政府は海兵隊がアジア太平洋地域の平和と安全に役立っていると主張しています。ところがその任務を海兵隊がどのように果たしているのかを政府は説明しないので、議論そのものが成立しません。

 米軍再編によって海兵隊は主力部隊をグアムへ撤退させます。沖縄に残る兵力2000人の第31海兵遠征隊(31MEU)が唯一の即応力、機動戦闘力になります。長崎県佐世保に配備されている米海軍強襲揚陸艦に乗ってアジア太平洋を常時巡回しています。1年のうち7~9カ月間、揚陸艦で洋上任務に就き、同盟国を訪ねては共同演習を実施しています。

 沖縄に滞留している時間は限られており、それを日本防衛の抑止力と呼ぶことは理屈が通りません。

 2013年にフィリピンで実施された共同演習に中国軍は司令部要員を初派遣しました。フィリピンと中国は南沙諸島をめぐる領土紛争を抱えています。しかし大規模な自然災害は国家を超えた全人類的な問題であり、そこは手を携えようという考えです。災害を想定した机上演習に中国、ベトナムや豪州、日本、韓国など11カ国が参加しました。アジア地域で近年頻発する大規模災害に各国軍が協力して対処できるシステムを構築する取り組みこそが、アジア地域の安全保障ネットワークを強化するという発想なのです。

 その国際協力体制の中に中国も引き込もうとしています。2014年にタイで実施された米タイ共同演習「コブラゴールド」で中国軍は陸軍兵士を初参加させ、他国軍とともに災害救援や人道支援活動の演習を行っています。

 これが沖縄の海兵隊がアジア地域で行っている安全保障の取り組みです。 中国脅威を引き合いに沖縄に海兵隊を駐留させる必要性を強調する日本政府は海兵隊の任務をまるで理解していないように思えて仕方ありません。海兵隊はほとんど沖縄を留守にし、巡回先では中国軍を招いて共同演習を実施しているのだから、中国脅威論に基づく日本政府の主張は論理が破綻しています。米国が中国を巻き込んでアジア太平洋地域の集団安全保障を模索しているときに日本だけ隣国と仲良くできない。しかも安倍晋三首相は靖国参拝で周辺諸国を刺激し、米政府から「失望した」(disappointed)と強く非難されました。困った同盟国ですね、と米国から見られているかもしれません。

 アジア全域を活動領域にしているのが海兵隊です。その部隊が沖縄の基地がなければお仕事できません、と言うはずもありません。海兵隊の機動展開力は日本政府が考えるほど柔なものではありません。だから政府が主張する「沖縄の地理的優位性」はどうにも理解できない議論なのです。

 日本は個別的自衛権や集団的自衛権で議論沸騰しますが、これはいずれも有事にどうケンカしようか、という技術論です。その議論の中に沖縄の米軍基地をはめ込んでいます。しかし米海兵隊がアジア太平洋で行っているのはケンカを未然防止する集団安全保障です。中国も巻き込んで争いのない地域にしようと海兵隊はアジア太平洋地域を絶えず巡回しているのです。

 仮に米中が対決する事態に沖縄基地はミサイルの格好の餌食になるだろう、と米側の多くの専門家が指摘しています。その時日本は沖縄をどう守ってくれるのでしょうか。70年前の悲劇が想起されます。

 沖縄の民意を無視して基地を提供して、米軍の機嫌をとっていれば、一緒に中国とケンカしてくれるはずだ、という日本政府の本音が訴状から読み取れます。そんな内弁慶では国際社会の尊敬は得られないでしょう。

 この裁判が形式的な審査で終わり、政府の無理な主張が一方的に認められるのであれば、沖縄への構造的差別は永続化する、と危惧します。それは日本の民主主義が破壊されることを意味します。

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