中国人を魅了した「ヤマモモ」「ツガニ」 食材インバウンドの可能性
たびたび高知県の観光についても発信している作家・ジャーナリスト莫 邦富さんのダイヤモンドオンラインのコラム〔以前には、中国では「龍馬」でなく「よさこい」を、と進言〕。
県花のヤマモモだが、長江デルタ地域のソールフードであり、ツガニは、安価な上海ガニであり、来高した在日新華僑の企業経営者、撮影協会や在日中国人女性団体の幹部など10数人が「興奮」したとのこと。地元ではありふれた食材が、インバウンド観光にとっては有力なツールとなる、という指摘。先日、通販で地方から全国区に成長させた高田氏の「地元には資源がいっぱいある」との話にも通じる。
相手社会の歴史・文化・風土を知り、そして地元を知ること・・・平和友好にとっても重要。
【中国人を魅了した高知の意外な名産品! 地方創生は食材インバウンドで 莫 邦富モー・バンフ [作家・ジャーナリスト]】
【中国人を魅了した高知の意外な名産品! 地方創生は食材インバウンドで 莫 邦富モー・バンフ [作家・ジャーナリスト]】
高知県に行ってきた。今回は在日新華僑の企業経営者、撮影協会や在日中国人女性団体の幹部など10数人を連れて行った。
足摺岬、四万十川、観光物産センター、仁淀川、中津渓谷、池川茶園、仁淀川の畔にあるレストランあおぎ、高知市内、ひろめ市場、よさこいで知られるほにや社などを2泊3日の日程で訪問し、市長から市場で偶然知り合った一般の市民までいろいろと交流ができた。
来日30年の私を例外とすれば、その他のメンバーたちは最低でも来日して10年以上だ。しかし、はじめて高知県を訪れた人が大半を占めた。これだけ高知県は遠かったのだ。
どうりで高知県に到着した早々、出迎えに来られた県観光コンベンション協会の方も「東京から公共交通機関を利用して、もっとも時間がかかる移動を強いられるのが高知」と自嘲したのだ。
しかし、遠く離れていて交通事情もなかなか不便なだけに、高知県はなんとなく秘境の地という神秘的な色彩を帯びている。最後の清流と言われる四万十川、仁淀ブルーで知られる仁淀川はまさにそのイメージをもっている。時々の雨模様も川や山の景色を墨絵の世界へと演出した。メンバー全員が興奮してカメラ撮影に没頭していた。
■ 参加者を興奮させた 高知の特産品「ヤマモモ」
四万十市に泊まった夜は中平正宏・四万十市長や植田英久・四万十川観光開発株式会社社社長らとの交流に燃えに燃えた。そこで出てきた話が意外だった。これまでメンバーの皆さんがなぜ高知県を訪問しなかったのかというと、自然が豊かで見るべきポイントがこんなにあるとは知らなかったから、というものだった。
10数名のメンバーの大半が上海出身なので、そこで私は、「実は高知県が知名度を上げるのは簡単だ。ヤマモモの産地と強調すれば、日本にいる上海をはじめ長江デルタ地域出身の中国人はみんな興奮してしまう」と口を挟んだ。私の発言を聞いて、食事の会場は興奮のるつぼと化した。
高知県ではおなじみの果物「ヤマモモ」
楊梅つまりヤマモモは南方出身の中国人にとっては郷愁を引き起こす果物だ。来日20年のある女性は「この20年間、一度もヤマモモを食べたことはない。日本でも入手できるとは知らなかった」と感想を述べた。IT会社を経営している男性は、自分のルーツが江南のヤマモモの産地にある、と述懐した。
中にはヤマモモを焼酎に付けて自家製薬酒にすると、お腹を壊したりしたとき、その薬酒を飲めばいい、といった中国社会に広がる民間の知恵を披露する人もいた。
高知県ではありふれたフルーツなのに、こんなに中国人の心の琴線に触れられたのを見た中平市長も植田社長も驚いたようだ。なにしろ、高知県はヤマモモを県の花にしている自治体なので、ヤマモモにこんな神通力があるのであれば、その力を借りない手はない。
そこで私は山梨県での体験を披露した。小渕沢で真菰(まこも)を栽培しだした農業法人がある。しかし、せっかく収穫した真菰をどこに売ればいいのかがわからない。それを知った私はfacebookの友達に声をかけ、一度に数十キロもの真菰を集団で仕入れてみんなに分ける販売方法を試してみた。結果は大成功だった。この販売方法はすでに数年も続いている。
「その真菰のヤマモモ版を作ればいいのでは」と提案したら、みんなが歓声を上げて賛成してくれた。中国系銀行日本支店の幹部である男性は「うちの会社だけで一度で100キロのヤマモモをさばけるよ」と心強く発言してくれた。
■ 四万十川のツガニは安く手に入る天然の上海蟹!
もう一つの話題も食材である。ツガニだ。
四万十川に上海蟹がいるという私の発言にメンバーの皆さんはまた興奮してくれた。養殖ものばかりの上海蟹とは違って四万十川の汽水に生きるツガニは天然ものだ。ツガニは秋になると繁殖のために海の方に向かい、汽水域で交尾をする習性をもつ。その時期がツガニの旬となる。繁殖前のツガニが一番美味しいとされる。
ツガニは、上海蟹と同族種で見た目も変わらない
そのツガニは、上海蟹よりかなり安く入手できる。その情報を知ったメンバーの全員が大興奮した。「ツガニを買えるところに立ち寄りたい」という強い希望が出てきた。
翌日、仁淀川の上流にある中津渓谷を訪れたあと、日程に入っていないあおぎというレストランに立ち寄った。以前の高知県訪問で、仁淀川の畔にあるこのレストランでは、ツガニも販売していることを知っていたからだ。
私の顔を覚えてくれていた女将さんが私たち一行を温かく迎えてくれた。そして私たちの要望を理解した女将さんは快くツガニをいっぱい詰め込んだ籠を持ってきて、蓋を開けてくれた。蓋が空けられると、周辺から嘆声が上がった。みんなが我先にと、元気の良さそうな蟹を選んだ。
その蟹の話はのちにfacebookやWeChatなどのSNSを賑わす材料となった。
蟹の威力に驚いた高知県の関係者の皆さんは、来年からもっと力を入れてツガニをアピールする、と言い出した。
食材もインバウンド観光にとっては有力なツールだ。とにかく、四万十川での初日の夜はヤマモモとツガニこと上海蟹の話がメインの話題となった。「目から鱗。インバウンドの宣伝はこういう形でもやれるんだ」と、高知県の関係者は喜んだ。
さて、来年の高知県の対中国PRには、ヤマモモと上海蟹が有力なツールとして加わるのではないか、と思う。
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