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民営委託の顛末  武雄市TSUTAYA図書館

 自治体の業務で、民間が力を発揮できる場所は限定されている。たとえば、自治体がホテルや観光施設を運営している例などは、民間のノウハウが力と発揮すると思う。

 が、図書館は単なる貸本屋ではない。市民の文化的要求に答えることはもちろん、郷土の歴史・文化の集積など文化の発展に寄与するとともに、市民の情報源であり、課題解決の取り組みをサポートする役割を担う。その地域の住民自治を支えるソフパワーの拠点である。
その要は、司書などマンパワーの専門性、力量をどれだけ高められるか、そのための雇用の安定など働く環境の整備が重要となる。 民間委託は、まったくなじまない分野である。

 それを、図書館「改革」として積極推進した前・市長が委託先の子会社に代表取締役に就任するなど民間委託の実態がよくわかる。 PFI、指定管理者など、公務の市場化路線はことごとく失敗している。

 【関連会社から“疑惑”の選書 武雄市TSUTAYA図書館、委託巡り住民訴訟に発展  週刊朝日 9/3】

【批判多数のTSUTAYA運営武雄図書館 市教委は「わからない」 女性セブン 8/27】

【関連会社から“疑惑”の選書 武雄市TSUTAYA図書館、委託巡り住民訴訟に発展  週刊朝日 9/3】

2013年4月に市の図書館運営を全国で初めてTSUTAYAとコラボし、注目を浴びた武雄市図書館(佐賀県)。しかし、そこに並ぶのは「公認会計士第2次試験2001」や、シリーズものだが全巻そろっていない「ラーメンマップ埼玉2」など、出版年度が10年以上前で市場価値が低いものばかり。市民から疑惑の声があがっている。

 これらの選書について、市の教育委員会は「TSUTAYAを運営する『カルチュア・コンビニエンス・クラブ』(CCC)に委託して選書していただき、その後、市が確認しました」と話す。CCCに選書した本の購入先について聞くと、こう説明した。

  「ネット中古大手『ネットオフ社』より調達。中古流通からの調達は、事前に武雄市にも承諾を得ています」

 ネットオフの運営会社とは、10年にCCCが株式の30%を取得したCCC傘下のグループ企業で、なんと疑惑の選書は全て“身内の新古書店”から購入したものだったのだ。

 ネットオフに、選書された本の費用や当時の単価について問い合わせたが、期限までに回答がなかった。

 ネットオフのHPから、疑惑がもたれている選書の単価を調べてみると、最低価格の108円で購入できるものが多数。1万冊のうち、本誌記者が各ジャンルから抽出した計100冊の平均価格を出すと、なんと一冊あたり“272円”。

  「108円は最低価格なので、簿価としては0に近い。ネットの新古書店で流通し、売れなかった本が多数含まれていることになり、公共図書館の蔵書にふさわしくないことは明らかです」(市立図書館の司書)

   図書館問題に詳しい慶応大学の糸賀雅児(まさる)教授は言う。

  「選書はどんな本であれ、図書館の『裁量権』の範囲と考えられていますが、税金を使う以上、なぜ購入したのか説明責任がある。蔵書の中身より、“20万冊の蔵書”にこだわり、短期間で書架を埋めてオープンに間に合わせることを優先した結果ではないか」

 CCCに選書基準を尋ねると、「『趣味実用』『料理』『旅行』『ビジネス』等のジャンルを中心に選書を行い、幅広く導入することを意識した」。「公認会計士第2次試験2001」や“Windows98”の本の選書については、「蔵書の増加にあたっては過去のアーカイブも含めて幅広く選定。結果、『幅広く』を意識しすぎた在庫が一部導入されており、更なる改善の余地があったと反省しています」。

 選書が「在庫処分ではないか」という声には、「全くの事実無根」と否定し「初期蔵書入れ替えで導入した1万冊については、開館後に累計8万6500回の貸出実績があり、幅広い読書機会の提供ができていると認識している」と回答。

 市民の疑問や不満の声は、選書だけにとどまらない。改修にあたり、書物や視聴覚資料など合計8760点が除籍、廃棄処分された。

  「郷土資料『みを』『温泉博士』などが除籍されましたが、これらは県立図書館にも所蔵がない資料で貴重なものだった。さらに、武雄にしかない蘭学資料が詰まった『武雄蘭学館』は、TSUTAYAのレンタルコーナーに改修されてしまったのです」(「武雄市図書館・歴史資料館を学習する市民の会」の代表世話人・井上一夫氏)

 蘭学館には、国産第1号の大砲など蘭学資料が常設で展示され、昨年8月には2千点もの資料が国の重要文化財に指定された。電気通信大学の佐藤賢一准教授が、こう解説する。

  「明治以前の西洋技術導入の歴史をひもとく武雄の蘭学資料は、非常に価値のあるもの。戊辰戦争の際に明治天皇からいただいた“錦旗”の現物も展示され、全国的に注目度は高かった」

 さらに、TSUTAYAのポイントカード「Tカード」が利用でき、自動貸出機を使うと1日1回3円分のポイントがたまるシステムも疑問視されている。

  「ポイントがたまって使えるなら、提携している店を自然と利用するようになり、その店を優遇することになる。自治体が設置している図書館だが、結果的に利用者の購買をある特定のお店に誘導しているわけで、公共施設としては公平性を欠いている」(糸賀教授)

 選書をはじめ、図書館運営のずさんさに疑問を持った住民らが、市に対し、樋渡啓祐前市長に1億8千万円の損害賠償を求めるよう、訴えを起こしている。

 CCCが約3億円、市が約4億5千万円、計7億5千万円をかけてリニューアルした図書館。公共施設の中で最も活用される図書館だからこそ、“住民”を第一に考えることが大切ではないか。

(本誌・牧野めぐみ)


【批判多数のTSUTAYA運営武雄図書館 市教委は「わからない」 女性セブン 8/27】

「私、本好きやけえ、よく図書館に行くんやけど、新しい図書館は本が探しにくいんよ。棚も高くて、取りにくいのよ。販売する本や文房具のスペースがあるから本の量が減っている気もするし…」(70代女性)

 佐賀県西部に位置する武雄市は、歴史のある温泉地として知られるが、知名度は決して高くなかった。しかし、2013年4月に武雄市図書館がリニューアルオープンすると、全国的に大きな注目を集めた。その手法は、DVDレンタル大手の「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が約3億円、武雄市が約4億5000万円の計7億5000万円をかけて改装し、運営はCCCに委託するというものだ。

 図書の貸し出しにはCCCのポイントカード「Tカード」も利用できて、自動貸出機を利用すれば1日1回3円分のポイントが貯まる。CCCの蔦屋書店とスターバックスコーヒーが併設されており、コーヒーを飲みながら雑誌を読むことも可能だ。他にも、館内でのインターネット利用のためiPad端末の無料貸し出しを行っており、年中無休で朝9時から夜9時まで利用できる。こうした民間会社に運営を委託するケースは、全国で拡大しつつある。

 計画当時には、小泉進次郎議員が、「武雄モデルを構築して各行政が参考になる形を残してもらえれば」とエールを送るなど、武雄市図書館は“地方創生”のための画期的手法と評価された。しかし、リニューアルオープンから2年経った今、その評価には疑問の声が上がっている。冒頭の女性が続ける。

 「時代小説が好きやけえ、いつも読んでるんやけど、好きだった本は図書館が新しくなったときになくなってしまったの。昔から置いてある、誰も借りないような小説だけが残っているけれど、新しい本はまったく入ってこない」

 そもそも図書の選定は、各図書館が独自に基準を定めて司書などが決めるのだが──。

 実用的な新しい本が減って、古い本が目立つ――武雄市図書館に対するそうした声は次第に大きくなった。8月5日には、図書館がリニューアルする際に購入されたとされる資料の一覧がネット上で出回り、“不要な書物ばかり購入している”、“TSUTAYAの在庫を買い取っているのでは”、“TSUTAYA商品の販売促進のためなのでは”と、疑惑の声が上がるほどの問題になっていった。

 さらに、図書館改革を積極的に推し進めていた前・武雄市長の樋渡啓祐氏が7月に、CCCの子会社である「ふるさとスマホ株式会社」の代表取締役に就任していて、“天下り”ではないかと週刊誌で報道されたことで、事態は一気に“炎上”した。

 炎上騒ぎは、裁判にまで発展している。武雄市に購入リストの情報開示請求をした武雄市民の川原敏昭さんは、市に度重なる開示請求をしたものの、開示された資料からは説明責任が果たされていないとして、7月16日、武雄市に対し、「前市長に1億8000万円の損害賠償請求を求める」よう訴えを起こした。川原さんが言う。

 「情報開示をしたら、2013年のリニューアル時に、1999年版の『「エラー」がわかるとWindows98/95に強くなる』や、『東京おいしい店ガイド2000~2001』、『公認会計士第2次試験2001』といった10年以上前の本がリストに入っていることがわかりました」

 そんな武雄市図書館の、そもそもの問題点はリニューアルによって、図書館が使いにくくなった点にあると言うのは、リニューアルに異議を唱え、「武雄市図書館・歴史資料館を学習する市民の会」を立ち上げた、同会代表世話人の井上一夫さんだ。

 「改修後、図書館の2階には5m近い書架が配置されましたが、それは1階にある蔦屋書店から見た時の装飾壁です。高すぎて、閲覧するのも取り出すのも事実上不可能。また、2階には空調設備がなく、これでは図書館としての機能を果たしているとはとてもいえません。子供たちのための『読み聞かせ室』や専用トイレは取り壊され、スターバックスコーヒーに変えられました。

 そして、『武雄蘭学館』も取り壊されて蔦屋書店のレンタルスペースに改修された。蘭学館には、技術立国日本の原点といわれる28代武雄領主・鍋島茂義候の洋学資料や、国産第1号の大砲が常設で展示されていたのです。2000点を超えるそれらの資料は、昨年9月に国重要指定文化財に指定されました。私たちはそうした武雄市の歴史文化を大切にまちづくりを進めてきたのに、“地方創生”という名のもと、“東京コピー”のようになってしまった。その本質は、地方創生とはとてもいえるものではありません」

 市教育委員会の担当者は、「リニューアルオープン時の整理はCCCに委託したので細かいところはわからない」などと回答した。

※女性セブン2015年9月10日号

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