雇用増も、投入労働総量は、リーマンショック後と変わらず
正規雇用がへり、増えたのは低賃金な非正規、パート --- 「雇用者数×労働時間で見た労働投入量はリーマンショック直後とほぼ変わらない低水準にとどまっている」ことを指摘し、実質雇用者報酬は、「これほど雇用者数が伸びているにもかかわらず、賃金の伸び悩みや円安による物価上昇をカバーしきれず、減少に転じているほどだ。こうした雇用の内容の変化が、雇用者数と消費の温度差につながったとみられる。」と分析している。
公共事業など財政出動してこの結果である。 海外も「アベノミクス失敗」と評価しつつある。
WSJは、“経済成長を目指した日本政府の経済政策は当初奏功する兆しがみられたものの、(アベノミクスが)この低下傾向を今後2〜3年で好転させる可能性は低い」”とS&Pの格下げの説明を紹介している。
【雇用は増えているのに、消費も賃金も伸びない理由 第一生命経済研 9/17 柵山順子 [第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト]】
【アベノミクス、日本格下げで実効性に疑問符 WSJ 9/17】
【雇用は増えているのに、消費も賃金も伸びない理由 第一生命経済研 9/17】雇用者増が続けば消費は回復し、労働需給の逼迫でいずれ賃金も上昇、景気は好循環に入る、との見方は少なくない。だが実際には、雇用好調にもかかわらず、依然として消費は低迷し賃金も期待ほど上がらない。このギャップはどこから来るのか、いつ解消されるのか。第一生命経済研究所の柵山順子主任エコノミストは、「労働時間の短縮化」という観点から分析した結果、そこには構造的な問題があり、先行きは楽観できないと指摘する。
◆雇用が増えても消費は伸びず 問題は雇用増の“中身”
9月8日に公表された4~6月期GDPで、個人消費は前期比▲0.7%と、消費税率引き上げ直後の昨年4~6月期以来、一年ぶりの前期比マイナスとなった。その後についても、7月分の月次統計や8月分の業界統計もさえない結果となるなど、足元でも消費の停滞感は続いている。
一方で、労働市場に目を向けると雇用者数は引き続き堅調に増加しており、水準で見てもリーマンショック前を大きく上回るなど、回復目覚ましい。これまで雇用者数の増加基調を背景に、消費の回復基調は崩れない、いずれ消費も回復基調に戻るとの見方が多かった。だが、足元では雇用と消費の温度差は大きく広がっている。
この背景には、雇用者増の多くにおいて、短時間労働者で賄われていることが挙げられる。雇用者数は増えても、その多くが短時間労働者であるため、雇用者数の伸びで見るほど、労働投入量(雇用者数×一人あたり労働時間)は増えてこなかった。結果、雇用者報酬(雇用者数×一人あたり賃金)の増加幅も限定的となり、消費は伸び悩んできたのだ。
本稿では、足元までの雇用増の中身を労働時間という切り口から振り返ってみることで、先行き、この雇用と消費の温度差が解消されるのかについて考えていくことにしたい。◆総労働時間はリーマンショック直後並み 実は雇用の回復感は強くない
2012年末の円安転換をきっかけに、雇用者数は増加に転じた。2012年末に5485万人であった雇用者数は、2014年末には5634万人に増加し、2015年入り後も増加基調が続いている( 図表1)。
雇用者数は水準で見てもリーマンショック前を大きく上回るなど、その回復力は非常に強い。
一方で雇用者数の前年差を雇用形態別に見てみると、正規雇用者については減少が続いていたのが、足元でようやく増加に転じたに過ぎない。こうした中、正規雇用者の減少以上にパートアルバイト労働者が増加してきたことで、雇用者数全体の増加基調が続いてきたことが分かる( 図表2)。パート労働者の増加が牽引役であったため、雇用者に占めるパート労働者の割合は2012年以降も高まっている。
また、パート、アルバイトなどの短時間労働者の労働時間を見ると、ここのところ減少基調が続いており、短時間労働者の中でもより労働時間の短い労働者が増えていることが分かる( 図表3)。パートタイム労働者の一ヵ月あたりの平均労働時間は、2000年代初頭にはおよそ100時間弱であったが、足元では90時間を割り込む水準に低下している。
雇用形態の変化は平均労働時間にも影響を与えた( 図表4)。まず短時間労働者が増加し、そのウェイトが高まったことが、雇用者全体の一人あたり平均労働時間を押し下げた。さらに、短時間労働者の中でもより労働時間の短い労働者が増えたことが、一人あたり平均労働時間をもう一段押し下げることになった。こうした影響で、足元の平均労働時間はリーマンショック前から5%近くも減少した。
その結果、雇用者数は大幅に増加したにもかかわらず、雇用者数×労働時間で見た労働投入量はリーマンショック直後とほぼ変わらない低水準にとどまっている( 図表5)。労働投入量で見ると、雇用の回復感はそれほど強くないことが分かる。
(出所)厚生労働省「毎月勤労統計調査」、総務省「労働力調査」◆ 労働時間の短縮が平均賃金を下押し 短時間労働者しか雇えないほど人手不足
人口高齢化、人口減少が進む中、従来のようにフルタイムで働ける労働者が減少しており、企業は短時間雇用者を複数雇うことで労働力を維持している。雇用者数で見れば、リーマンショックはもちろんのこと、これまでの景気拡大局面すらも大きく超える高水準にあるが、マクロで投入された労働量はリーマンショック直後からほぼ変わっていない。
そのため、名目雇用者報酬も増加こそしているものの、いまだにリーマンショック前の水準には及ばない。実質ベースでは、これほど雇用者数が伸びているにもかかわらず、賃金の伸び悩みや円安による物価上昇をカバーしきれず、減少に転じているほどだ。こうした雇用の内容の変化が、雇用者数と消費の温度差につながったとみられる。実際に足元の賃金統計を確認しても、雇用者数の増加ペースに対して、賃金は回復こそしているものの、ペースは鈍い。一般労働者について見れば、春闘の効果もあり、ここのところの所定内賃金(いわゆる基本給部分)は上昇基調が続いている。また、人手不足もあり、パート労働者の時給も上昇している。しかし、パート労働者の平均労働時間減少により、月給ベースではパート労働者の所定内賃金は伸び悩んでいる。
こうしたパート労働者の賃金低下や、相対的に賃金水準の低いパート労働者の比率の高まりにより、雇用者全体で見れば所定内賃金の上昇率は大幅に抑制され( 図表6)、物価上昇を考慮した実質ベースでは7月にようやく前年比マイナスを脱したにすぎない。
(出所)厚生労働省「毎月勤労統計」
(注)確報ベースで作成しているため、最新値は2015年6月これまでも企業はコスト削減を図ってパート労働者を増やしてきた。しかし、足元の労働時間の短時間化については、必ずしも企業の狙い通りではないのではないかと考える。雇用の柔軟化や人件費抑制のために、正社員よりもパート労働者を選好することはあっても、同じパート労働者であれば労働時間が長いパート労働者で労働需要を満たす方が人数が少なくて済む分、管理コストが低下し効率的であると考えられるからだ。
パート労働者の労働時間の短時間化は、企業がより短時間のパート労働者しか採用できないほど、労働市場が人手不足であることを示している。つまり、労働力全体で見ればまだ供給余力があるものの、一定以上の労働時間働ける労働力に限ればすでに供給は不足しているといえよう。◆シニアや主婦の雇用拡大は ますます労働時間を短縮化させる
先行き、このパート労働者の労働時間の短縮化に歯止めはかかるのであろうか。
筆者は平均労働時間の減少は今後も続くと考える。企業の人手不足感はなお非常に強く、今後も雇用者数の拡大が期待される。一方で、すでに足元の失業率は、ほぼ均衡失業率に等しい水準にまで低下しているとみられ、先行きの雇用拡大は非労働力化している人の労働市場参入に頼らざるを得ない。となれば、今後の雇用者増は、労働力率にわずかながら上昇余地のあるシニア男性か、現在非労動力化している専業主婦などの有配偶女性に頼ることになる。しかし、両者ともに先行きの平均労働時間を押し下げることになると予想される。
まず、シニア男性について見てみたい。公的年金の支給開始年齢引き上げなどを背景に、65歳になっても労働市場に残る人が増える中、ボリュームの大きな団塊世代が65歳を迎えたため、ここのところの非正規雇用者の増加には65歳以上男性の影響が強まっていた。彼らの多くは、契約社員や嘱託として働いており、賃金動向などから見る限り、いわゆるパートよりも勤務時間は長い者が多く、短時間労働者の労働時間短縮化にとって歯止めになっていたとみられる。
しかし、こうした波も、団塊世代効果が一服する中、弱まっており、今後は非正規雇用の中でも労働時間のより短い層のウェイトが高まりそうだ。
次に、有配偶女性についてであるが、非労働力化した有配偶女性、専業主婦の多くは今後、仮に働くとしても短時間労働を望むとみられる。
(出所)総務省「労働力調査」実際に、すでに非正規労働者として就業している有配偶女性についても正規労働を望むものはたった7%と非常に少なく( 図表7)、非正規労働者として就労している理由について家庭との両立が可能であることを挙げている。働いている有配偶女性でも家庭との両立を前提に短時間勤務を望み、夫の扶養の範囲内である103万円や130万円の壁の内に就労を制限している人が多いのである。
いわんや、現在非労動力化している有配偶女性といったところで、こうした女性をうまく就業に結びつけることができたとしても、短時間労働になる可能性が高いだろう。
さらに、すでに働いている女性パート労働者でも今後一段と労働時間が短縮される懸念がある。来年10月に大企業で実施される厚生年金や健康保険の短時間労働者への対象拡大により、これまで社会保険上の扶養範囲である130万円以下に就労調整してきた人の多くが106万円以下に調整するようになるとみられ、これも労働時間短縮につながる。◆現状のままでは消費回復は望み薄 税・社会保障の改革や生産性向上が不可欠
もちろん、すでに均衡失業率水準に低下している労働市場に鑑みれば、雇用増加が労働市場の逼迫を強めることで賃金が上昇する可能性は十分にある。しかし、それも雇用増加がより短時間のパート労働者に限られる中、時給上昇の一部は労働時間の減少が打ち消すことになるだろう。
また、今後の労働供給の中心になるとみられる有配偶女性は、税や社会保険上の扶養家族でいるために就労調整を行う人が多い。そうした就労調整は、103万円など年収が基準となっており、時給上昇はその分の労働時間短縮につながる。
総じて、今後も平均労働時間の減少は続き、雇用者数の増加ほど労働投入量は増えず、消費と雇用に温度差が生じる状況は続こう。現状のような雇用の回復だけでは消費の回復力は強まりにくく、税や社会保障による就労抑制の解消や生産性上昇による賃金増、家計の金融ストックのフロー化などの対応が不可欠となろう。
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