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「原発」維持の経済優遇措置導入 日弁連・反対の意見書 

 電力販売自由化をうけて、原発維持のたに「マーケット価格を元に算定される市場価格と,廃炉費用や使用済燃料の処分費用も含めた原子力のコスト回収のための基準価格の差額について,全需要家から回収し,原発事業者に対して補てんすることにより,一般的に事業者の損益の平準化を目指す制度」の導入が検討されている。
 今の電気料金も総括原価の中には、適正利益が含まれている。それを自由化のもとで担保する仕組み。原発政策の破綻をしめすもの。
 安全性のリスクを抱えるうえ、使用済み核燃料など問題山済みの原発からは撤退しかない。
 なお、モデルとされる英国の支援制度は、オーストリア政府から欧州版ISD条項違反として訴えられている。

【 原子力事業に対する経済的優遇措置に関する意見書 日弁連8/21】


【 原子力事業に対する経済的優遇措置に関する意見書 日弁連8/21】

2015年(平成27年)8月21日

日本弁護士連合会

第1 意見の趣旨

 政府は,原子力事業者に対し,原子力事業の維持,継続を支援する経済的優遇措置を導入すべきではない。

第2 意見の理由

1 当連合会のエネルギー政策に関する考え方

 東京電力福島第一原子力発電所事故は,今日なお11万人に及ぶ人々が避難を余儀なくされているなど広範な地域に深刻な被害をもたらし,これまでの原子力発電に依存した我が国のエネルギー政策の抜本的な見直しを迫るものであった。
 そうした被害の実態を踏まえ,当連合会は,2013年10月4日,第56回人権擁護大会において,「原発の新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を止め,再処理工場,高速増殖炉などの核燃料サイクル施設を直ちに廃止すること。既設の原発について,安全審査の目的は,放射能被害が『万が一にも起こらないようにする』ことにあるところ,原子力規制委員会が新たに策定した規制基準では安全は確保されないので,運転(停止中の原発の再起動を含む。)は認めず,できる限り速やかに,全て廃止すること。今後のエネルギー政策につき,再生可能エネルギーの推進,省エネルギー及びエネルギー利用の効率化と低炭素化を政策の中核とすること。原発輸出は相手国及び周辺諸国の国民に人権侵害と環境汚染をもたらすおそれがあるため,原発輸出政策は中止すること」等を決議した。

 また,2014年10月3日,第57回人権擁護大会においても,国に対し,再処理施設等の核燃料サイクルを速やかに廃止すること,電源三法交付金制度のうち,原子力施設に関する部分を廃止すること,再生可能エネルギーの利用を促進する制度を整備すること等を求めた。

 当連合会は,上記の基本的考え方の下に,我が国のエネルギー基本計画及び長期エネルギー需給見通しの策定等に関し,原子力発電・核燃料サイクル政策からの速やかな撤退及び原子力に代わる再生可能エネルギーの飛躍的推進を繰り返し求めてきたところである。

2 電力システム改革の下の政府の原子力推進政策

(1) 電力システムに関する改革方針

 2013年4月に閣議決定された「電力システムに関する改革方針」に基づき,2016年4月から小売電力も全面自由化され,2020年4月からは発送電の分離及び電気料金に関する規制が廃止される予定となっている。

 これまで,原子力発電事業者は,地域独占の下で,原発運転に要する燃料費,人件費のほか,使用済燃料再処理費,高レベル放射性廃棄物処理費用,廃炉費用,その他原発維持・運転・廃炉にかかる莫大な費用と事業報酬を電気料金として回収することができた(総括原価方式)が,今後,このような電気料金規制が撤廃されて,電気料金が自由化された場合,競争上,厳しい立場に置かれることになる。そこで,上記閣議決定において,「改革を進める上での留意事項」として,「自由化後の電力市場において活発な競争を促す観点から,原子力政策をはじめとするエネルギー政策を含め,何らかの政策変更等に伴い競争条件に著しい不利益が生じる場合には,これを緩和するため,別途その必要性や内容を検討した上で,必要な措置を講じる。」とされていた。

(2) 第4次エネルギー基本計画

 政府は,2014年4月に「第4次エネルギー基本計画」を閣議決定し,「原発依存度については可能な限り低減させる」としつつも,原子力を,「優れた安定供給性と効率性を有しており,運転コストが低廉で変動も少なく,運転時には温室効果ガスの排出もないことから,安全性の確保を大前提に,エネルギーの需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付け,「我が国の今後のエネルギー制約を踏まえ,安定供給,コスト低減,温暖化対策,安全確保のために必要な技術・人材の維持の観点から,確保していく規模を見極める。」としていた。 また,上記エネルギー基本計画においては,「原子力利用における不断の安全性向上と安定的な事業環境の確立」として,「原子力事業者は,高いレベルの原子力技術・人材を維持し,今後増加する廃炉を円滑に進めつつ,東京電力福島第一原子力発電所事故の発生を契機とした規制強化に対し迅速かつ最善の安全対策を講じ,地球温暖化対策やベースロード電源による安定的な供給に貢献することが求められている。このため,国は,電力システム改革によって競争が進展した環境下においても,原子力事業者がこうした課題に対応できるよう,海外の事例も参考にしつつ,事業環境の在り方について検討を行う。」ともされた。

(3) 原子力小委員会の中間整理

 これらを受けて,総合資源エネルギー調査会原子力小委員会は,2014年12月に,エネルギー需給における原子力の位置付け及び発電事業・廃炉・再処理等の核燃料サイクル事業・最終処分事業などを広く原子力事業と称し,これらにかかる環境整備等について「原子力小委員会の中間整理」(以下「中間整理」という。)を取りまとめた。

 そこでは,原子力を,エネルギー基本計画に位置付けられた「エネルギーの需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」として「活用していく」とし,「競争環境下における原子力事業の在り方」において,「原子力事業環境整備の考え方」(18ページⅥ)として,「あるべきエネルギーミックスを達成することが国全体のメリットとなることから,それぞれのエネルギー源に対して適切な政策的措置を講じていくことが必要」とした。

 その上で,「原子力発電については,投資額が巨額で廃棄物の処理も含め事業期間が長期であるといった原子力特有の特徴があり,また,安全規制ルールの見直し,原発依存度の低減,電力システム改革の進展(小売全面自由化,料金規制撤廃)といった直近の状況変化などの課題に直面している。このため,原子力発電について,原子力事業の予見可能性を高め,民間事業者がリスクがある中でも主体的に事業を行っていくことができるよう,必要な政策措置を講ずることが必要である。」とし,「具体的には,競争が進展した環境下においても,原子力事業者が,民間事業を行う中で,安定供給の確保や,円滑な廃炉,規制強化に対する迅速かつ最善の安全対策,使用済燃料の処理といった諸課題に対応できるよう,事業者の損益を平準化し,安定的な資金の回収・確保を図るなど財務・会計面のリスクを合理的な範囲とする措置を講じるとともに,共同実施事業について安定的・効率的な事業実施を確保することが必要」との考え方を示した。

 さらに,資金の回収・確保を安定的に図ることができる制度の例として,英国の「差額決済契約」(CfD=Contract for Difference)と呼ばれる電力事業者支援制度1に言及している。これは,英国で2002年に導入された再生可能エネルギー普及拡大のための再生可能エネルギー使用義務制度(RO =Renewables Obligation),再生可能エネルギー証書制度及び2010年に導入された小規模発電施設用の固定価格買取制度に代わるものとして,低炭素化政策の一環として,2014年に導入された長期固定価格買取制度である。資源エネルギー庁によれば,「マーケット価格を元に算定される市場価格と,廃炉費用や使用済燃料の処分費用も含めた原子力のコスト回収のための基準価格の差額について,全需要家から回収し,原発事業者に対して補てんすることにより,一般的に事業者の損益の平準化を目指す制度」と説明されている。

 英国においては,原子力発電所の閉鎖が続き,経済的に新設が困難な実情の下で,原子力発電所にも適用されることになったものである2。

  なお,2014年10月に欧州委員会はこれを承認したことから,2015年7月6日,オーストリア政府は,CfDにおける権利行使価格と参考価格という二つの価格による財政的支援措置は,新しく現代的技術に対して認められるものであり,原子力発電所への適用は競争上不公正として,欧州司法裁判所に提訴している。

1 CfDとは,電力事業者が国営企業であるLow Carbon Contracts Company(低炭素契約会社,「LCCC」)との間に締結する契約であり,電気の買取制度の一種である。CfDでは,低炭素電力を導入するための投資費用を加味したStrike Price(権利行使価格/基準価格)を決め,Strike Priceが電気の市場価格を元に算定されるReference Price(参考価格)を上回った場合はその差額をLCCCが電力会社に支払い,下回った場合はその差額を電力会社がLCCCに払い戻す制度である(英国政府ホームページ:https://www.gov.uk/government/collections/electricity-market-reform-contracts-for-differenceより)。

2 2014年に合意されたHinckley Point原子力発電所の新規プラント(Hinckley Point C)のStrike Priceは89.50英ポンド/MWh(2015年7月1日時点で約17.18円/kWh)であり,買取期間は35年である(ただし,別の新規原子力発電所であるSizewell Cの建設が前提で,この前提がなくなると92.50英ポンド/MWh (同約17.76円/kWh)となる。これに対して2015年に太陽光発電施設に対して,50.00~79.23英ポンド/MWh(同約9.6円/kWh~15.21円kWh)でStrike Priceを契約している(ただし,こちらは競争入札の結果による)。

(4) 長期エネルギー需給見通し

 2015年6月に資源エネルギー庁から「長期エネルギー需給見通し(案)」が公表され,「安全性,安定供給,経済効率性及び環境適合に関する政策目標を同時に達成する中で進めていった場合の将来のエネルギー需給構造の見通しを策定することを基本方針とする」とした上で,2030年の「エネルギー需給のあるべき姿」として,2030年の原子力比率を20%から22%程度とした。さらに,「電力システム改革後などを見据え,円滑な廃炉や核燃料サイクル事業の安定的・効率的な実施等のための原子力発電の事業環境整備を図る」ことも盛り込まれた(長期エネルギー需給見通し(案)10ページ)。経済産業省は,2015年7月16日,原案どおり,長期需給エネルギー見通しを決定した。

(5) 原子力小委員会における検討

 これらを受けて,2015年6月から,原子力小委員会における検討が再開された。資源エネルギー庁による資料(第12回原子力小委員会(2015年6月26日)参考資料7)では,原子力発電及びその関連の原子力事業を民間事業者が担っていくに当たっての課題・懸念点を挙げ,これらに対応する環境整備として考えられる例として,英国における上記CfDを提示し,原子力小委員会の下に原子力事業環境検討専門ワーキンググループを設置して,同年7月14日から審議を開始している。そこでも,原子力事業環境整備として考えられる対応例としてCfDが示されていることから,このような安定的な資金の回収・確保を支援する経済的優遇措置の導入が想定されているものと思われる。

3 原子力発電依存の継続ではなく,そこから脱却すべきである

(1) 国民の原子力の安全性への懸念

 福島第一原子力発電所事故により,莫大な量の放射性物質が原発施設外に放出され,極めて広範囲かつ多数の人々が被ばくし,環境が汚染された。当連合会が重ねて指摘してきたように,幸福追求権,居住の権利,職業選択の権利,生存権,教育を受ける権利及び財産権など,原発事故の被災者・被害者の数々の基本的人権が奪われ続けている。今も,11万に及ぶ人々が福島県内外で長期に及ぶ避難生活を強いられ,生活再建の確たる展望を描けない中で,その生活は以前にも増して苛酷なものとなりつつある。放出された放射性物質は,無害化するまでに極めて長い期間を要し,その被害は,将来の世代も含め,広範囲,長期間にわたって極めて重大な権利侵害を生み出し続ける。このような事故が二度とあってはならないことは,もはや誰の目にも明らかである。

 NHK放送文化研究所が2014年11月に行った「川内原発とエネルギーに関する調査」においても,原子力発電所を全て廃止すべきとの意見が30%,減らすべきとの意見が37%であるのに対し,現状維持は21%,増やすべきとする意見は3%に過ぎない。国民の多数が原子力発電所の再稼働にも反対しているのは,何よりも安全性に対する信頼が欠けているからである。政府は原子力規制委員会が策定した規制基準に適合した原子力発電所について再稼働を進めるとしているが,この規制基準では原子力発電所の安全性は確保されないことは,当連合会がこれまで繰り返し指摘してきたところである。

(2) 原子力発電なしでも電力の安定供給は確保される

 福島第一原子力発電所事故後,順次,原子力発電所は停止し,2013年9月以来,稼働している原子力発電所はなかったが(ただし,2015年8月11日に川内原子力発電所が再稼働した。),節電が進んだことなどから,停電等の電力供給における支障は生じていない。
そもそも,原子力発電は決して供給安定性に優れた電源ではない。福島第一原子力発電所事故前にも様々なトラブルやトラブル隠し,地震などにより運転が停止され,2000年以降の稼働率は60%から70%にとどまってきた。
 さらに,原子力発電所は大規模電源であることから,むしろ,一たび停止すれば,その影響も甚大であり,安定供給性に欠けるというべきである。

(3) 原子力は低廉な電源ではない

 エネルギー基本計画では,原子力は低廉な電源であると位置付けているが,政府のコスト等検証委員会の検証においても,現時点でも低廉とはいえない。原子力小委員会において,英国のCfDを例示して,原子力発電に対して経済的優遇措置を導入しようとしているのも,原子力が決して低廉な電源ではないためである。今後,設備等の老朽化に伴い,規制基準への適合の費用が増加し,使用済み燃料処理・処分の費用や廃炉の費用もますます増加する。将来的にそのコストは増大するものである。

 化石燃料輸入コストの増加により電気料金の上昇と貿易収支の悪化がもたらされているとして,原子力発電所の再稼働を求める意見もある。しかし,省エネルギーや再生可能エネルギーへの転換を推進していくことによって,中長期的に,電気料金の低減を図るべきである。

(4) 使用済燃料の再処理事業は破綻している

 再処理技術は未確立であり,再処理後に残る高レベルガラス固化体の処分方法も,いまだ確立されておらず,最終処分のめどは全く立っていない。しかも,高速増殖炉が運転する可能性がない現状では,再処理を継続することは,更なるプルトニウム余剰に拍車をかけ,核不拡散と核物質防護の観点からも強い国際的非難を招く。また,六ケ所再処理工場の建設,運転及び後処理に投じられる巨額の費用は,国民に高い電気料金の負担を強いてきた。必要性,経済性,安全性に多くの問題を抱える再処理は直ちに廃止すべきである。

(5) 原子力偏重のエネルギー政策は,実効性ある温暖化対策の導入を妨げる

 原子力発電は,ウラン採掘,廃棄物処理,核拡散など,通常の稼働プロセスにおいても放射能汚のリスクが大きいエネルギー源であり,重大な環境問題を抱えている。
温暖化対策においても原子力発電の拡大に依存してきたことが,国内排出量取引や再生可能エネルギーの拡大など実効性ある温暖化対策の策定,導入を妨げてきた。このような原発依存の電源構成は,温暖化対策としても不適切である。

(6) ベースロード電源という考え方からの脱却が必要

 長期エネルギー需給見通しにおける原子力比率は,エネルギー基本計画等で,原子力・石炭と大型水力及び地熱が「ベースロード電源」と位置付けられ,過去の「国際水準」を基に,これらで2030年においても電力供給の約6割を賄うこと,原子力を国産電源として,一次エネルギーの自給率を25%程度に高めることを前提に,導かれてきたものである。 しかしながら,こうした従来型の大規模なベースロード電源の考え方は,国際的には過去のものとなっている。世界で気候変動への取組が急務となっている中,欧米先進国は再生可能エネルギーへの転換と石炭火力発電からの脱却を政策目標に掲げ,気象予測やIT技術を活用して,太陽光や風力,バイオマスなど再生可能エネルギーの最大限の利用を中核とする電源構成へと大きく転換させつつある。石炭火力発電についても,既に規制を導入し,減らしてきており,電力自由化が進む中,出力調整を前提としない原子力も,対応を余儀なくされている。

 しかるに,原子力と石炭火力をともに重要なベースロード電源とし,これらの確保のために経済的優遇措置までもとることは,再生可能エネルギーの拡大の余地を制限するものであり,一層,国際社会の趨勢から乖離することとなる。

4 原子力事業の維持,継続を支援する経済的優遇措置は導入すべきではない

(1) 原子力事業への経済的支援は不当

 経済産業省は,長期エネルギー需給見通しにおいて,「重要なベースロード電源」である原子力の2030年の電源比率を20%から22%とし,その達成が必要であり,また,原子力事業は投資額が巨額で,事業期間が長期であることから,電力自由化の進展の中で競争下に置かれる原子力事業の予見可能性を高め,安定的な資金の回収・確保のための措置が必要としている。

 しかしながら,原子力が「重要なベースロード電源」とされたことに理由がないことは既に述べたとおりである。

 しかも,福島第一原子力発電所事故後に核原料物質・核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律が改正され,原子力発電施設の運転期間は原則40年とされた。福島第一原子力発電所を含む11基の原子力発電所の廃止が決定され,政府は,現在のところ,設置許可済みの3原子力発電所以外の新増設について予定していないとしている。このような状況の下で,2030年の電源構成における原子力比率を20%から22%とすることは,およそ現実性を欠くものといわざるを得ない。

 しかるに,その達成のために,例えば,英国のCfDのような制度措置を導入して,原子力事業の維持,継続を支援しようとすることは,電力自由化の下での公正な競争を阻害するものであり,原子力依存度を可能な限り低減させるとしたエネルギー基本計画にも反するものである。

(2) 安全性の確保に必要な技術・人材の維持は経済的優遇措置の理由とならない

 エネルギー基本計画及び中間整理において,原子力事業の事業環境整備の必要性の理由として,もう一つ挙げられているのが,「安全性の確保に必要な技術・人材の維持」である。

 「中間整理」は,「原子力の自主的安全性の向上,技術・人材の維持・発展」の中で,「安全性確保に必要な技術・人材の維持」として,日本の原発の継続的な安全性向上・確保を図るためには国内で必要な技術・人材を確保していかなければならない。そのためには一定規模のサプライチェーンを確保しつつ,実プラントを通じたOJTを可能とする環境整備が必要であり,これらの点に留意した上で,確保すべき原発の規模を見極めることが必要であるとし,原子力小委員会の下の「自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ」は,2015年6月17日に「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」を策定し,発電所における事故対応能力の向上や安全運転の実現・維持のため今後開発していく技術として,「軽水炉の設計技術」を位置付けるに至った。

 しかしながら,「技術・人材維持のために原子力の事業規模を定め,これを確保する」という発想自体が本末転倒である。原子力依存度を低減していくことが求められており,そのためには,まずもって,既存原子力発電所の廃炉を進め,事業規模を縮小する方向へと向かうべきである。その上で,廃炉を目的とした技術と人材の確保を図るべきである。

 また,「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」では,2020年までの目標として,軽水炉安全技術及び人材を継続的に維持・発展できる枠組みの構築を掲げ,その後,原子力利用国が増加する2030年までに,国際機関において他国をリードする人材と技術レベルをもって原子力の安全に貢献することを目指し,さらに,2050年までに技術・人材の両面で国際社会に貢献するとしている。すなわち,技術の維持・人材育成の主要な目的は,むしろ,原子力発電の海外輸出にあることを示している。当連合会は,海外への原発輸出に反対してきたところであるが,上記のような不確実な将来像の達成のための技術・人材の維持を目的として,そのための事業規模の確保を理由に,原子力事業に対する経済的優遇措置を設けるべきではない。

5 原子力ではなく,再生可能エネルギーを拡大し,地域分散型の持続可能なエネルギー政策をとるべきであること

 長期エネルギー需給見通しにおける再生可能エネルギー比率は,2030年においても22%から24%にとどまり,国際的に見てもあまりにも消極的な目標である。とりわけ太陽光や風力は気象条件に依存し,安定性を欠くとして,導入が抑制されている。

 我が国は安全で環境適合性に優れた再生可能エネルギーの豊かな国である。国内に存するエネルギー源であり,国際情勢にも左右されず,中長期的に石炭や石油などの化石燃料の輸入による貿易赤字を削減できる。さらに,再生可能エネルギーは,大都市ではなく地方に地域分散型で存在し,その地域における利用の拡大は地方経済の活性化にも資するものである。

 近年,世界で再生可能エネルギーへの投資と導入が飛躍的に拡大し,コストも急速に低下してきている。我が国においても,固定価格買取制度により導入が拡大し,規模の経済の効果により設備費用が低下しており,中長期的には更に発電コストの低減を図っていくことができる。再生可能エネルギーの固定価格買取制度は,その普及拡大の過渡期における政策であり,賦課金も一定期間にとどまるものであるが,コストの低減が見込めない原子力への同様の制度の適用は将来にわたって継続することになる。

 風力と太陽光発電に関しては,気象状況の変化によって供給量が変動することをデメリットとして,不安定性が強調されてきたが,既に海外諸国では,系統の運用エリアをより広域化し,給電指令所と個々の発電源が双方向通信システムによって結ばれ,気象予測技術の向上もあいまって,給電指令所が発電量をリアルタイムで把握しつつ,遠隔操作で電力引取量(給電量)を調整する体制によって,安定的な系統運用が可能になっている。

 エネルギー需給の在り方や国民負担については,中長期的視点で捉えることが不可欠である。原子力発電を,長期にわたって固定化し,さらに増大する国民負担をもってこれを維持させるというのは,全くもって不合理というほかない。

6 まとめ

 政府は,国民の多数が原子力依存からの脱却を求めていることを真摯に受け止め, 再生可能エネルギー発展のための具体的な政策を立案・実施すべきであり,原子力事業の維持,継続のために,原子力事業者に対して,英国におけるCfDのような資金の安定的な回収・確保を支援する措置等の経済的優遇措置を導入すべきではない。

以 上


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