「異次元金融緩和」 の階級性 大企業の業績回復、米国への所得移転(メモ)
松本朗・立命館大学教授(経済2015.8)の「『異次元金融緩和』と円安・株高 ~ アベノミクスは国内景気回復をもたらしたのか?」からのメモ。
円安のもとで、輸出数量が伸びていないが、輸出大企業は空前の利益。そして、円安なのにアメリカの日本からの所得収支の受け取り(ドル建て)増加・・・
「異次元の金融緩和」は、日米大企業(多国籍行)に、日本国民の所得が移転し、格差構造が拡大させるという金融政策の「階級性」を現れている。
( なお、11-15年のドル建てGDPは3割減少。 ドル建ての対世界輸出額も11-14年で15.4%も減少。安倍政権下で、日本経済の国際的地位は大きく低下している )
【「異次元金融緩和」と円安・株高 ~ アベノミクスは国内景気回復をもたらしたのか?】
松本朗・立命館大学教授 経済2015.8
◆ はじめに
・アベノミクスでまっさきに注目にあびた「異次元の金融緩和」と円安
2012年1月 1ドル76円 → 14年12月 120円に接近 60%もの円安
・筆者 12年松からの円安は、過度の円高と空洞化を原因としてアベノミクスが発動される前にすでに発生していた貿易収支が原因/ が、その後の急激で持続的な円安の要因の1つとして「異次元の金融緩和策」
・FRB リーマン恐慌を機に、「失われた20年」の日本を教訓に、貨幣供給量を増加させる超金融緩和策を採用
~ 同時に、国内景気の回復と失業率を背景に、「出口」を探り始めている /これも円安加速の原因の1つ
→ 日本 超金融緩和策を継続 / 高い金利を求める資金の動きはアメリカへ。これが円安へ
・本論考 異次元の金融緩和の影響と作用を明らかにすること
1.異次元の金融緩和と円安による輸出企業の業績回復は何を意味するか
◆ 今次の円安効果の考察
・一般的な「円安効果」・・・
輸出数量が伸びて輸出企業の業績が良くなる。
その結果、設備稼働率が高まり、中間財の売り上げと雇用の増加につながる
さらに、設備投資が増え、マクロ経済的にみて、景気が良くなる
→ 過去、政府・日銀が円安による輸出拡大を期待した理由 / 円安誘導策の目的
90年代の2度の円安局面では、輸出数量も増加
・現在の「円安」・・・
急激な円安にもかかわらず、輸出数量の伸びはほとんど見られない。むしろ減少
→ では、企業業績の好転の要因は?
輸出数量はかわらないが、一単位の製品の価格が円表示で拡大したから。「名目的な収益増」
(外国での価格を下げず、外貨表示の業績は同じでも、円表示では、円安分だけ増加)
◆ 為替相場と貿易の関係
・外国為替相場・・・ 邦貨と外貨との交換比率(邦貨による外貨建て為替手形〔債権〕の購入価格)
~ 円安は、一定単位の日本円で購入できるドルの額が小さくなること / 円高はその逆
・商品の輸出入への現れ方
単価100円の日本製品のアメリカへの輸出 ~ 円安が進むと、アメリカの販売価格は低下
1ドル100円 → 120円の場合 : 1単位1ドルのアメリカ製品は、0.83ドルへ下がる可能性
・円安(1ドル100円から120円)の場合 2つのケース
①日本で、100円で製造されている商品 は アメリカに0.83ドル で輸出できる
自社製品のアメリカでの価格が0.83ドルに下がっても、手取りの円価は以前とおなじ
→ が、価格競争力が強まり、売り上げが増え、円建ての利益は増加
②アメリカ国内での販売価格を、以前と同じく1ドルで販売しつづければ、円建ての利益幅は拡大する
以前と同じ1ドルで価格競争力は変化しない ⇒ 販売総量は変化しない
→ 一個の製品の円での手取りは、円安の分だけ増加
*「異次元金融緩和」下の円安効果と言われる収益増は「②」のケース
◆ 利潤はどこから生まれるか
・ケース① 販売総量の増加 → 売り上げ増加、収益の増加
利潤は、外国で実現 ~ 外国の所得が国内へ移転 ~ その所得が、国内で再分配され国内景気を押し上げ
~ 輸入価格も上昇するが、国内の経済主体の所得増で、吸収される
・ケース② アメリカでの売り上げは増加していない/外国で実現した利益は以前と同じ
では収益増はどこから発生したか ~ 外国でないとすれば、日本国内しか考えられない。
→ 外貨を手に入れるために以前より多くの円(邦貨)を手放さなければならない経済主体(輸入企業、個人)が、輸出によって得たドルを円に交換する経済主体(輸出産業)が手に入れる儲けを補填。
~ 国内の所得移転 輸入企業・中小企業・個人 → 輸出企業 への移転
◆国内の景気回復に限定的な円安効果
・今次円安の特徴 輸出産業を中心とする企業業績・株価の回復/ 国内消費の低迷、景気回復が実感されない
→ 日銀は「出口戦略」を見出せず、(「マインド」に働きかけるために)さらに「サプライズ追加緩和」を実施せざるを得ないところに追い込まれている。
・国内景気が回復せず、輸入価格高を転化できない企業の利潤圧迫 ~ 円安倒産の増加
・円安が輸出数量の増加をもたらさなかった要因 生産拠点の海外移転、経営戦略
~ 輸出数量が伸びず、国内労働者の購買力低下・・・輸出大企業中心の「名目的収益拡大」の実相
→ その行き着き先は? その1つは、出口なき「異次元緩和」の継続と、その先のインフレーション
2 量的緩和政策と円安は国内購買力の海外移転を促進する要因
・円安が、国内経済を縮小させるもう1つの要因の考察
・株価上昇 その中心的な買い手は、海外投資家 ~ では「異次元緩和」は、この投資行動にどう影響したか。
◆ 外国投資家の日本株売買と為替相場
・外国投資家の売り買いと、ドル相場の変動が、「異次元の量的緩和」以降、相関関係を持ってきている。
外国人投資家が株を傾向的に売却している局面で、円安が進んでいる状態が見られる
→仮説) 株を売却し、キャピタルゲインを獲得 → 獲得した円をドルに換えて送金。それが円安促進の1つの要因
◆対外支払いの増加と為替相場の関係
・仮説の検証 ~ 日本の国際収支から所得収支における対外支払いと為替相場の関係を見る
・異次元の量的緩和とともに、日本の所得収支の対外支払いが増加
2012年 1兆円前後 → 2014年12月 3兆円突破 /85円前後 → 115円超
→ 日本から送金される所得収支の増加は、外国人投資家が獲得した投資所得の純増を意味する
・アメリカの国別国際収支 日本からの所得収支の受け取り状況 と 円相場の関係
2012年第4四半期以降 円安傾向にかわらず、対日所得収支の受け取りが増加
2012年Ⅲ期 60億ドル → 14年Ⅳ期 90億ドル超
円安 ・・・日本国内のアメリカ資本の所得の円での受け取りが同じなら、ドルでの受け取りは減少するはず
→ つまり、ドル建ての受け取りが純増していることを示す。その示すところは・・・
① 日本での投資環境の好転( 超金融緩和と株高 )
②日本で稼いだ円を、ドルに換え送金。円安推進
・アメリカの対日所得収支受け取りの伸び率の内訳 ( 11年Ⅰ期を基準 )
直接投資所得( 親会社と子会社の間の配当金・利子収入 )
円安とともに減少 14年Ⅱ期 50%に ( ただし14年Ⅲ、Ⅳ期は、120、140%に急増 )
証券所得収支 140%以上の水準まで、一貫して上昇
→ 日本国内の証券所得の純増、本国への送金、円安の加速
◆異次元緩和と金融向け貸し出しと株価の動向
「異次元の金融緩和」後の外国資本の日本の証券投資に向けた資金の調達先
~ 銀行の貸し出し先別の動向調査(日銀)を参考 11年1月を基準に、15年1月比較
・国内銀行の国内法人への貸し出しの伸び率 10%以下 /保険・金融は、110%台後半
・外国銀行在日支店向け 12年10月前後 80%台。その後回復、13年9月に100%突破、14年末より110%水準に
・類推されるプロセス
超金融緩和 国内の金融資本の貸し出し増加、在日銀行による在日米資本への貸し出し増加
→ 証券資本に流れ込み株価を上昇( 円安効果による輸出大企業の収益増加を背景に )
→ 国内外の金融資本のキャピタルゲインの獲得
→ 在日米資本の獲得したキャピタルゲインのドルへの換金、本国送金 → 円安加速
・その意味・・ 緩和マネーは、外国資本にとって為替変動リスクフリーの円資金として供給され、円安を加速
( 略 )
3. まとめ
◆異次元の金融緩和の「効果」
①「円安」を促進
輸出量増加にならず。が、輸出大企業の業績好転( 株価上昇へ )
→ 一般家庭・中小業者の国内所得が移転したにすぎない。国内の格差構造の拡大
②超金融緩和による資金は、在日外国資本への貸し出し増、株価上昇の要因に
~ キャピタルゲインの獲得した外国資本は、所得収支の移転という形で、アメリカに送金
◆「効果②」の日本経済への影響
①日本国内の新価値(日本で生産された「価値」)=賃金所得+剰余価値の一部をアメリカに移転
→ 国内の購買力の縮小、国内景気の足かせ /アメリカの景気回復を加速
(今次「円安」は、国内所得を総体では増加させていない。所得移転にすぎない。にもかかわらずアメリカへの所得移転が増加 → その分、国内の所得は減少)
②所得移転の増加が、円安をますます進行させる
輸出大企業の業績拡大・株価押し上げ/ 国内所得移転による格差構造の拡大
* グローバル経済のもとでの金融政策は、このような形で、国民から所得を奪い、多国籍企業の利益確保するという「階級的な作用」をもたらしている。
★メモ者
こうした結果、過去最高の政府予算を実施してもGDPf低迷。14年の「実質」はマイナスに。
特にドルベースのGDPは、極端に減少している。今次「円安」は、所得の実質的拡大をもたらさず、国内所得移転を拡大するとともに、アメリカへ所得移転を通じ、日本経済の国際的地位を著しく低下させていると言える。
《 GDP推移 2011-14年 》
◎名目GDP 単位10億円
482,384.40 471,310.80 475,110.30 480,128.10 487,882.30
◎実質GDP
512,364.20 510,044.60 518,989.30 527,362.10 527,049.70
◎名目GDP(USドル換算) 単位10億ドル
5,495.39 5,905.63 5,954.48 4,919.56 4,616.34
15年IMF推計値 4,210.36 ・・・15年/11年の比較で、71.3%
◎ 日本の対世界輸出額(ドル建て)
11年がピーク。その後、継続的に減少し、14年は11年の比で15.4%も減少
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