戦後70年に何を教訓とするか~日本人の戦争観と課題(メモ)
「戦後70年に何を教訓とするか」 吉田裕・一ツ橋大学教授 前衛2015.8 の論考に、「植民地支配の反省がなぜ欠落してきたか」 内海愛子・恵泉女学園大学名誉教授から一部引用し、備忘録に加筆したもの。
安倍首相が否定する「東京裁判史観」「押しつけられた憲法論」・・・それは戦争法、TPPに、卑屈なまでに従属しているアメリカの世界観を否定するという根本矛盾を含む。それが歴史修正主義を強化し、そのことで生まれる矛盾が属米を加速する。ということでしょう。
以下、備忘録
【戦後70年に何を教訓とするか】
吉田裕・一ツ橋大学教授 前衛2015.8
■ 何が問題か ・・・ 重要な論点
(1) 日本政府の軌道修正
・日本政府が、戦争責任、戦後処理の問題にどう対応してきたか知ることが重要
・具体的には、80年代以降、日本政府なりに軌道修正を行ってきた
82年、教科書検定の国際問題化 官房長官が見直し約束 ・・・「近隣国条項」の設置
85年、中曽根首相の靖国参拝と、その後の中止
(メモ者 政教分離を守るため、正式の参拝の形でなく、外から拝礼。右翼から批判された)
93年 細川政権誕生 「侵略戦争であった。間違った戦争であったと認識」と記者会見で発言
終戦記念日の首相式辞で、初めてアジアの犠牲者に哀悼の意を表明
93年 河野談話発表 軍関与、強制性を認め、「慰安婦」に謝罪
95年 村山談話 「殖民地支配と侵略によって・・・とりわけアジア諸国の人々に多大な損害」と謝罪と反省
(メモ者 韓国80年台~民主化闘争、87年民主化 、中国 78年~ 「改革開放」路線 フィリピン 86年マルコス独裁崩壊、77年SEATO解散・76年TAC発足、91年ソ連崩壊。81年女性差別撤廃条約発効 ~ 独裁政権・「内乱」の終結、「冷戦」体制の崩壊などで、これまで抑え付けられてきた国民の声・運動が顕在化〔91年、慰安婦の実名での証言など〕 ・・・ 戦争責任・戦後処理問題が、国民レベルの問題として初めて顕在化し、外交問題に。 )
(2) 歴史認識問題の国際化
・日本政府の意に反して、日韓、日中だけでなく欧米、特にアメリカとの間でも国際問題化
「慰安婦問題」~国際的には女性の人権に対する侵害という問題として共通認識化
~ 時代逆行の日本政府 人権問題を軽視し、「人狩り」のような強制連行の有無、しかも日韓問題だけに矮小化
(3) ドイツとの比較
2015年 「朝日」がドイツで共同で実施した世論調査(4/18掲載)
Q1 戦争などで被害を与えた周辺国と、どの程度うまくいっているか
日 本 「大いに」 1%、「ある程度」45%、「あまり・・ない」45%、「全く・・ない」5%
ドイツ 「大いに」39%、「ある程度」55%、「あまり・・ない」 3%、「全く・・ない」1%
~ ドイツは、成功に自信。日本は、成功せず、むしろ孤立を感じている
(4) 流れに逆行する安倍政権
・13年12月26日 靖国参拝 アメリカ「失望」表明
・終戦記念日 首相式辞 13年より、アジアへの加害への言及を削除
・侵略戦争を認めない発言 「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国との関係でどちらから見るかで違う」(13.4.23参院)「ポツダム宣言をつまびらかに読んでおらず、承知していない」(15.5.20党首討論)
(・歴代政府も否定してきた「集団的自衛権行使」の容認 )
■平和意識とナショナリズムの現状
持続する面と変化する面の見極めが重要
(1) 持続する面
◇NHK 「平和観についての世論調査2014」
Q 憲法9条が戦後はたした役割
「非常に評価」35.2% 「ある程度」41.3% 「あまり・・ない」11.5% 「全く・・ない」4.6%
Q 今最も重視すべきこと
「武力を背景にした抑止力」9.4% < 「武力に頼らない外交」53.4% 「民間レベルの交流」26.0%
Q アジア諸国との協調、日米同盟 今後、重点を置くのは
「日米同盟」12.8% < 「アジア諸国」43.9%
◇進んで自国のために戦うか? 国際的に有名な世論調査(95-08にかけて実施)
日本「はい」24.6% ~ 調査した90カ国・地域の中で、「ダントツの最下位」
・「朝日」・ドイツ調査でも Q・「外国が攻めてきたら」 「戦う」 日本31%、ドイツ52%
★日本は相対的に、国家への軍事的貢献の意識が希薄。非軍事的で平和的な政治文化を築きあげてきた
(2) 変化していく面
・反韓・反中感情の高まりなど、ナショナリズム昂進の事態
・ 背景 新自由主義的改革の進行による社会的な秩序の弛緩・動揺、地域・家族が解体していくという実感
→ 新しい求心力として「伝統」の重視
◇ 「日本の国、国民について誇りに思うこと」 読売世論調査08年
「歴史・文化・伝統」 最多の72%(複数回答) / 86年調査との比較 19ポイント増
◇ 「日本人の意識」調査 NHK (73年より、5年毎に実施)
Q 日本、日本人について感じていること
「日本は一流国」 03年35.8% → 13年54.4%
「他の国民よりすぐれた資質」 98年51.0% → 13年67.5%
「外国から見習うべきことが多い」 思わない 98年12.7% → 13年17.8%
~ 21世紀に入り、新しい状況
(メモ者 格差社会の中での貧困・孤立化の拡大を背景に、中国の台頭など日本社会の相対的地位の後退への苛立ち・不安への「自己防衛」的意識か? その攻撃的な現れ方が、ヘイトスピーチではないか )
◇ 天皇への尊敬の念の増大 88年-13年比較
・「尊敬の念」27.5%→34.1% 「好意」22.1%→35.3% 「特に何も」46.5%→28.4% 「反感」2.1%→0.5%
・「即位20年 皇室に関する意識調査」09年
「大いに関心」19%、「多少は関心」51%、「あまり・・ない」25%、「全く・・ない」5% と、「弱い支持」
(メモ者 戦争責任を持つ昭和天皇と、憲法と平和主義を重視る現天皇との比較。単純に「天皇制」の意識ではない。この調査項目の言及が必要か? )
■ 戦争観の問題
日本の戦争認識の特殊性、その歴史的背景をとらえることが重要
(1) 戦争の結果としての植民地の放棄
・自動的な放棄~独立運動との闘争を経て、国内的にも十分な議論を積み重ねて上での決断ではない
→ 植民地主義の問題と正面から向き合わず、戦後をスタート
・東京裁判も、植民地統治責任は除外(英、仏、蘭など植民地保有大国)
・サ講和会議 韓国が参加を要請したが、日本、イギリスが反対。招聘されず /中国も2つの「中国」で不参加
イギリス 1910年の日韓併合を合法とする立場(植民地大国としての自らの立場の擁護)から同調
吉田 在日韓国人も含んだ労働運動の高揚を恐れ猛烈に反対
(メモ者 安保条約をめぐり、「日本防衛」「基地提供」を双務とする当初方針を突如転換。日本の要望で「駐留」。中国革命に続いて、日本でも革命がおこり、天皇の戦争責任は問われる、という危機感から、その事態をアメリカの力で防止する--「内乱条項」はその典型--、急いで「単独講和」にもちこむ天皇の強い意志があった/ 豊下)、
(2) 寛大な講和
・戦争責任の問題 直接の言及はなく、第11条で、東京裁判の判決の受諾という形の間接的なもの
~ 日本政府は、ジャッジメント=「判決」ではなく、「裁判を受諾」と、不自然な翻訳
・賠償の問題 アメリカの圧力で、大部分の国は請求権を放棄
フィリピンなど賠償の請求権を行使しようとした国は、二国間交渉に丸投げ
~ 「経済協力」による方法 賠償金は動いていない。生産物・役務の提供(製鉄所、ダム、道路の建設)
日本に原材料が不足している時は、その国が原材料を提供する仕組み~「賠償という名の商売」
《 ヨーロッパに支払われた個人補償 》
捕虜 日本の在外資産を処分して、それを赤十字が各国の捕虜一人ひとりに現金で賠償
民間人抑留者 オランダ9万人 1000万ドルの賠償 一人3-4万円
~ 欧米人、連合国の人には、現金を支払って賠償。アジアは、経済協力方式
《 個人補償をもとめる裁判 》
91年3月 外務大臣官房審議官 シベリアに抑留された日本人補償で、日ソ共同声明の請求権の放棄について
「わが国国民個人からソ連またはその国民に対する請求権まで放棄したものではないむ
91年8月27日 柳井条約局長
「日韓請求権協定におきまして両国民の請求権の問題は、・・・日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということ・・。いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません」
→ この結果、弁護士、市民団体の協力のもと、個人の賠償を求める運動がもりあがる。
政府の「条約で解決済み」は、従来の態度を変更したもの。最高裁がそれに追随したもの
韓国では、憲法裁判所で政府の不作為を認定 「個人賠償の請求権は失っていない」の立場
双方に意見の相違がでた場合に日韓条約にもとづき「協議」する必要あり
《 台湾・韓国の「日本兵」 44万人 》
植民地化で「日本兵」として徴用され、連合国の軍事裁判で「BC級戦犯」として裁かれた人もいる。/ 一方、戦後は「外国人」として、補償・救護の対象外にした / 人間としての尊厳の踏みにじる行為
・背景に冷戦。「反共の砦」として、安定した親米保守政権の誕生を最優先させた
・米戦略 ハブ・アンド・スポーク構想 ~ 二国間の安全保障条約網をはりめぐらす構想
~ マイク・モチヅキ教授 「(この構想によって)冷静時代の日米関係では、歴史認識が安全保障とリンクして問題となることは比較的なかった。米国には日本とアジア近隣諸国との歴史和解を自ら促進しなければならないという説得力ある理由はまったくなかった」(「未完の課題としての歴史的和解」)
・ダブルスタンダードを基本とした日本政府
アメリカの世界戦略のもと、日本政府は、
対外的には、サ条約11条で最小限の戦争責任の明示/ 、国内的には、封印・棚上げ
~ 教科書検定が、もっとも典型 50年代後半ごろから「侵略戦争」という表現が消えていく
(3)戦争受忍論
・厚労相の私的諮問機関報告書「原爆被爆者対策の基本理念および基本的在り方にについて」(80年12月)
被爆者への国家補償拒否の「根拠」 ~ 「戦争という国の存亡をかけた非常事態」「犠牲を余儀なくされたとしても・・・国をあげての戦争による『一般の犠牲』として、ひとしく国民が受任しなければならない」
・受け入れる土壌の存在
「戦争だからしかたがなかった」
(メモ者 みんな協力した状況。日本人の規範意識の基準は「他人の目」。宗教的摂理、哲学的価値観という相対化できない「目」から内省する文化の希薄さ )
→ そこから、「悪いのは戦争」「戦争は悪」 、
(メモ者 戦争責任問題の不徹底 /反戦貫いた共産党員への謝罪・賠償も視野からはずされる)
→ すべての戦争を否定する「絶対的平和主義」につながる
★戦争受忍論 「戦争は悪」とする平和主義のすそのを広げた面と、責任や戦争の性格の問題の曖昧さ・被害者意識中心の平和主義となった、2つの側面に注目する必要がある。
(4)ダブル・スタンダードの長期化に伴う問題
・アジアからの批判という形で戦後保障問題が噴出した80年代・・・
①戦後生まれが多数派。しかも教科書検定のもと、まともな歴史教育を受けていない /戸惑い・反発の生み出す
②戦争体験を持ち、アジア諸国へのある種の贖罪の意識をもつ層が少数派になり、軍事化への歯止めのり弱体化、
~ 反韓・反中ナショナリズムが簡単にひろがる土壌を形成
◇ 「朝日」・ドイツ調査
Q 日本のおこなった戦争の性格は?
「侵略戦争だった」30% 「自衛戦争だった」6% 「両方の面がある」46%
~ 侵略戦争と断定することのどまどい。戦後60年(05年)からの傾向
Q 日本の政治家は、今後も謝罪のメッセージを伝えるべきか
「伝え続ける」46%、「必要はない」42% と拮抗
Q 「痛切な反省」「心からのお詫び」を述べた談話は妥当だったか
「妥当だった」74%、「なかった」13%
~ 談話は支持されているが、この辺りで打ち切りたいという意識が見え隠れしていることに注目する必要
■ 歴史修正主義の矛盾
(1) アメリカへの波及
・05年より、駐日大使館、対日政策担当の外交官が、遊就館の展示内容を問題視 (不破講演が契機)
~ 日米開戦の原因は、米大統領の陰謀と位置づけた展示、東京裁判を批判する展示
07年1月、靖国神社が展示内容を部分的に変更
・07年 欧米各国で、「慰安婦」問題で、日本政府に対し謝罪、補償を求める議会決議
・13年 国務長官・国防長官が千鳥ヶ淵の戦没者墓苑に献花。このメッセージを無視して靖国参拝
オバマ政権「失望している」と異例の声明
・歴史修正主義が抱える根本的な矛盾~「東京裁判史観」の克服は、アメリカ批判にならざるを得ない
(2) アメリカとの歴史的和解
・防衛力増強、9条改憲を唱える勢力の多くは、「東京裁判史観」を批判し、首相の靖国参拝を支持し、侵略戦争を否定する勢力
~ アメリカの東アジア戦略からすれば、日中、日韓の激しい対立があることは深刻な問題 / ここに来て、歴史認識問題と安全保障問題がリンクし始めた
→ 安定した国際秩序の中に中国を組み込むという米政策のもとで、安倍政権そのものが深刻な問題になっている。/ アメリカが主導した戦後の国際秩序の基本理念と衝突する危険がある
・保守の側の危機感 「アメリカが主導した戦後の国際秩序の基本理念と衝突する危険がある」とし、日米関係は戦後最大の危機 (米国在住の作家 今泉彰彦)~ 相互献花外交の提案 ハワイのアリゾナ記念館、広島平和祈念式典
~ 4月、アメリカ議会での首相演説で、硫黄島に出兵したスノーデン元海兵隊中将と、栗林陸軍大将の孫にあたる新藤・前総務大臣を紹介し、傍聴席で2人が握手、拍手喝采につつまれた
→ そうした「日米和解」の演出が必要なほど、歴史問題で、日米関係が不安定化している。
(3) 連帯する研究者
学究分野で、歴史研究者の国際的・国内的な連帯が動きが急速に拡大している。
①「日本の歴史家を支持する声明」 5月5日 米国を中心とする日本研究者187人(賛同457人に)
「慰安婦」問題などで正確・公正な歴史研究を行っている日本の研究者への連帯を示すとともに、歴史認識問題の解決を日本政府に促す内容になっている。
~ 日本の歴史修正主義者が国際的にも突出し孤立していることの現れ
②16の日本の歴史学会・歴史教育者団体が声明発表 5月25日
「日本軍『慰安婦』問題に関し、事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアがとり続けるならば、それは日本が人権を尊重しないことを国際的に発信するに等しい」
久保亨信州大学教授 「標準的な歴史学者の多数の意思」
③ 「2015年日韓歴史問題に関して日本の知識人は声明する」6月8日 歴史学者を中心にした学者・文化人
■今後の課題
(1)当面の課題
・70年談話 侵略の反省とお詫びの言及
(有識者会議が、満州事変以降を「侵略」と提言。台湾の植民地化、韓国併合も「合法」とする立場、)
・8月15日首相式辞における、加害責任への言及
・戦争法の阻止 日本の国際社会の復帰は、東京裁判と日本国憲法という2つが前提
・レイシズム、ヘイトスピーチへの毅然とした対応
・領土問題 偏狭なナショナリズムの負のスパイラルの防止、外交による解決
(2)長期的課題
・戦争の悲惨な現実に対する想像力の低下~ 戦争のリアリティをどのように社会的に共有していくか
歴史学が戦場を主題化することが大事。戦争体験の継承が大事
→ 加害と被害の重層性を明らかにすることが大事
・中国戦線で残虐行為の実行者として現れた日本兵は、同時に、補給のないまま飢えにさいなまれた兵士。そして、 動くことができない重傷者を「処置」称して殺害すること/ 「玉砕」の強要、投降しようとした兵士の殺害 /過酷な戦場の状況に耐えかねた自殺などなど
~ 兵士・軍属230万人の戦死者のうち、実際の「戦闘」で死亡したのは2-3割ではないか。/無残としいかかようのない死の有様を、被害と加害の重層性を視野に入れ、戦争体験談論の系譜を丁寧に再検討する必要がある/そこに戦争受忍論を克服する可能性が見えてくる。
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