「アジア解放の戦争」という文脈での70年談話
自らの言葉で語っていない、という点に報道の焦点があがっている。
が、「日露戦争がアジアやアフリカの人々を勇気づけた」という箇所に代表される文脈は、歴代首相の談話とまったく異質なものである。
「過去のおわびを継承すると述べたが、西洋の植民地支配への抵抗に関する、よりナショナリスト的な話に組み換えた」というフィナンシャル・タイムズ紙の記事が的を射てる。
第一次大戦の惨禍を経て、パリ不戦条約が締結されたという歴史の画期を無視した談話である( 実際、日本は国際連盟を脱退し、戦争に突入するのだが…)。
メモとして他にいくつかの海外報道に関するもの。
【安倍首相、談話継承も文脈変える 英フィナンシャル・タイムズ紙 日経8/15】
【「戦争の罪と向き合わず」=70年談話で英紙社説 時事8/15】
【戦後70年談話 フランスメディアの伝え方 NHK 8/14】
【ドイツ紙「首相自身の言葉でおわび言わず」 安倍談話 朝日8/15】
【安倍首相、談話継承も文脈変える 英フィナンシャル・タイムズ紙 日経8/15】安倍晋三首相は14日、日本の戦時中の行いに対し自らの明確な謝罪の表明を拒んだ。痛切な反省を表明した歴代政権談話の形式を引き継いだものの、文脈を顕著に変えた。
第2次世界大戦で日本が敗戦し70年目を迎える節目となる談話で安倍首相は、過去のおわびを継承すると述べたが、西洋の植民地支配への抵抗に関する、よりナショナリスト的な話に組み換えた。歴代の首相が使った、「植民地支配」「侵略」などカギとなる文言を繰り返すことによって、安倍首相は、かつての敵である中国や韓国から激しい批判を避けようとした。
しかし、安倍首相は、自身の保守系支持基盤に向け、日本の歴史解釈は定まっていないこと、そして同国はずっと謝罪し続ける意図はないというシグナルも送った。「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と同氏は述べた。
首相官邸で安倍首相は静かに、強い感情を見せることなく談話を発表した。この談話は、戦後50年と60年のときの談話よりもはるかに長いものだった。
「(戦後70年にあたり)国内外にたおれたすべての人々の命の前に、深く頭(こうべ)を垂れ、痛惜の念を表すとともに、永劫(えいごう)の、哀悼の誠を捧げます」と述べた。謝罪や過失の箇所にさしかかると安倍首相は、しばしば一般論を話した。「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も(中略)もう二度と用いてはならない」とし「植民地支配から永遠に決別」するとした。
安倍氏の談話は中国から批判を呼んだ。
国営新華社は安倍首相を批判し、「慎重に表現を弄し、自身の保守系支持基盤を喜ばせようと試みるものだ……そして近隣諸国との関係をさらに悪化させるのを避けた」と論じた。
また、同氏の談話は歴代首相の談話より「後退」したと付け加えた。
中国と韓国は、首相のことを悔い改めることのない国家主義者だとみなし、深い疑念の目を向けている。両国は以前から明確な謝罪を求めてきた。しかし自身の言葉で謝罪を表明せず、安倍氏は過去の談話を支持することを選んだ。「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。(略)こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」とした。
安倍氏は談話の冒頭に「西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地」を描写。日露戦争での日本の勝利が、植民地支配下にあり、それを打破しようとした人々をいかに勇気づけたか――という反植民地主義の文脈の語り口は、国家主義を支持する者らによる自国の歴史の見方にとって重要だ。
安倍氏は、日本軍によって売春を強要された「従軍慰安婦」が払った犠牲については言及しなかったが、戦争に伴って起きた性的暴力について新たな認識を盛り込んだ。
「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません」と同氏は述べた。
第2次世界大戦の間、韓国、中国、フィリピンの数千人の女性は、日本軍の慰安所において性的奴隷となることを強要された。By Robin Harding in Tokyo
【「戦争の罪と向き合わず」=70年談話で英紙社説 時事8/15】 【ロンドン時事】15日付の英紙タイムズは第2次大戦終結70年に関し社説を掲載した。14日の安倍晋三首相の戦後70年談話などについて、「恥ずべきほどなまでに、(戦争中の)日本の罪ときちんと向き合わなかった」と論評した。 社説は「原爆忌や終戦記念日で、日本は戦争の加害者というより、被害者であるという神話を維持している」と指摘。この「神話」が克服されなければ、周辺諸国との関係や日本の外交をゆがめると警告した。 一方、連合軍は「野蛮な体制」が勝利した場合にもたらされる恐ろしい結果を防ぐため戦ったと主張した
【戦後70年談話 フランスメディアの伝え方 NHK 8/14】安倍総理大臣が戦後70年にあたって発表した総理大臣談話について、フランスの主要紙「ル・モンド」は、安倍総理大臣は、いわゆる村山談話で示された内容を繰り返しただけだとしたうえで、「安倍総理大臣個人として、過去の侵略や植民地支配に対する謝罪を一切行っていない」と指摘しました。そのうえで、「安倍総理大臣は『痛切な反省』ということばを使って、歴代内閣の立場は今後も揺るがないと表明した一方で、戦争を経験していない子どもや孫という今を生きる世代は責任を負わなくてもよいと語った」と批判的に伝えています。
また、フランスのテレビ局「フランス24」は「安倍総理大臣が、国内外すべての戦争の犠牲者に対して哀悼の意を表明した」と評価する一方で、「いわゆる従軍慰安婦の問題について、直接的な言及は避けた」と伝えています
【ドイツ紙「首相自身の言葉でおわび言わず」 安倍談話 朝日8/15】 フランクフルター・アルゲマイネ紙(14日付、電子版)は、「謝罪――しかし疑心は残る」との見出しで、安倍首相が近隣諸国の不快を和らげるため歴代首相の謝罪の言葉などを盛り込んだが、「首相自身の言葉でおわびは言わなかった」と指摘した。「日露戦争がアジアやアフリカの人々を勇気づけた」との箇所については、「侵略がどのような行為か歴史家の議論にゆだねた」と解説した。一方、南ドイツ新聞(同)は「安倍首相は圧力に対して頭を下げた」との見出しを掲げ、「首相が半年前は侵略や謝罪について話すつもりはなかったが、与党内や歴代首相、多くの国民からの圧力に屈した」と分析。ただし、「首相自身の見解を変えたわけではない」などと伝えた。
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