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悪政覆い隠す「地方への高齢者移住」論(メモ)

 日本創生会議(座長・増田寛也元総務大臣)が、東京圏で介護施設が大きく不足することから、高齢者の地方移住を提言し、「受け入れ余裕」があるとする41都市をあげた。その1つとしてあげられた高知市の実態を見て、検証したい〔ある雑誌のレポートのための材料の整理〕。

●現状 「余裕」はあるか

 高知県 人口あたりのベッド数では全国1位、介護施設も8位。
 全国平均と比べれば、相対的に「余裕」がある数字

①ベッド数の多さ 、高知県の地理的、社会的必要性から生まれたもの

・地理的特徴   東西に長い、中山間地が多い、森林面積率84%〔全国一〕
→ 人口密度が低い。急峻な地形、谷スジにそって集落が点在
→ 医療・介護事業者にとって、経営的に非効率な条件
* 条件不利地の訪問介護、訪問看護を支援するために県単独の事業所支援制度がある

・県民所得の低さ 耕作面積が狭い、林業の不振、大都市との距離〔企業進出の困難さ〕
→  若者の大都市、県内では高知市に流出。共働き世帯が多い 〔家族の介護力の低さ〕
→  高齢者の比率が高い。特に一人暮らしの高齢者の世帯が多い
 
 《単身高齢者比率》
1. 鹿児島県 6.00
2. 高知県  5.86
3. 山口県  5.20 
4. 福島県  5.09
5. 和歌山県 5.02
6. 大阪府  4.88
7. 愛媛県  4.85
8. 北海道  4.75
9. 東京都  4.73
10. 宮崎県  4.71
全国平均   3.74
2010年国勢調査
  
*以上の条件により、高知市中心、施設整備が進められてきた。

 ★市内で療養病床を営む院長さんの話より》
「療養病床が人口10万人当たりで、高知県は日本一多い。老人医療費も高い。当たり前です。本県は全国より10年以上先を走っている超高齢先進県です。10年後には、虚弱老人の数が二倍になる。全国一でどこが悪い。慢性疾患を持つ虚弱老人にとりまして最高の県だと思います。高知県の療養病床は、その必要性があって育ってきた。療養環境の改善に非常に熱心だった。療養環境を改善してきた。全国に自慢していい。療養病床は高知県の文化だと思います。文化を壊してどうするんですか。」
【療養病床は高知の文化 医療シンポ 08年4月】


②特養待機者 2800名

・特養ホームの待機者(2014年度、要介護度3以上) 県下で2800名

・この5年間で療養病床が約400床削減
→ 「入院先がない」「入所先がない」と家族が奔走するのも全国と共通

・人口減少の中でも、施設ニーズは高まる
 人口減少の「先進県」(13年度、マイナス0.89%、約7千人で全国4位)だが・・・
施設の集中する高知市の人口 周辺からの人口流入により、今後もほぼ維持されると推計

 ★知事、市長の答弁
 「高齢者の単身世帯が今後も増加することなどにより、しばらくは入院医療のニーズが増加していく」(知事答弁、2014年12月県議会)
 「高知市は高齢者の単身世帯が多く、在宅介護難しい」「まず市民が充実した医療・介護サービスを受けられることが第一義」(高知市長、2015年6月議会)と認めているように、数字だけ見て、「施設が多く、余裕がある」

●医療介護制度の改悪の影響

①「地域医療構想」 療養病床、最大6割減

・「医療・介護総合推進法」の成立〔昨年〕。 → 約134万7千床のベッドを、10年後までに約15~20万床削減。115~110万床程度にする。

・現在、都道府県で「域医療構想」作り
 各病院を4つの機能別(①高度急性期、②急性期、③回復期、④慢性期)に分類し、政府が示した「望ましい病床数」をもとに策定

・高知県 
 現在1万6千200床 → 約3分の1にあたる5,000床の削減
 慢性期病床の削減数 2,400~4,300床で、現在の療養病床の最大6割削減

⇒ 「余裕」どころが、行き場がない高齢者が大量に生み出されることは必至

②介護も度重なる改悪で、特にサービスを支える担い手不足が深刻化

・高知県推計 10年後、介護人材が900人不足

・施設整備にも暗雲

例) 低所得者が唯一利用できる施設・特養ホーム増設の要望は高く、(2012年~14年度に687床の整備を計画(県は第5期計画)
→ が、467床に留まる。/要因は、1.経営の見通しが立てづらいこと、2.介護人材確保の見通しがたたないことが背景にある

★2012年 高知市社協 「福祉職場における人材確保・育成・定着」に関するアンケート
高齢者分野 「人が集まらない・応募が少ない」58.1%、
「求める人材の応募が少ない」は59.8%

県内の有効求人倍率(14年10月)
 高知県としては高い0.84倍(全国平均を0.26下回る)
 介護現場の求人1.39倍と人手不足を反映

★ 高知県の介護職員の処遇の低さ
平均月給169,700円 / 全国平均193,000円より2万円以上も低い 
→ 地理的条件など、経営環境の厳しさが反映

・今年度の介護報酬減額の影響(基本報酬4.48%減)
~ 施設、特に小規模施設ほど厳しい内容
例) A事業所(訪問看護、訪問介護、通所リハ、通所介護、在宅介護支援)の試算
月2050万円の収益 → 月136万円、年間で1286万円も減収
  
・要支援サービスの市町村事業への移行の影響
例) 今年度から実施したB市 (制度移行には2年間の猶予期間がある)
→ 委託先への単価は介護報酬の約7割。
通所介護の介護報酬は、改定で約20%減なので、昨年比で5割強の単価に。

 ⇒ 人手不足がさらに深刻に。都市部からの「移住」を受け入れる「余裕」などない。

●「移住による地方には経済効果がある」との主張について、

・県も「移住」を重視 / 2014年度は403組652人
~ その多くが40歳代以下の世代

・県の3年前の試算も、元気な高齢者が移住した場合には、社会保障費の負担を差は引いても「経済効果がある」
→ 自らの希望で、新しい生きがいを求めて移住することは、その人と地域にとって意味あること。
しかし、それらは都市部の「受け皿」不足のために、介護が必要とされる高齢者を大量に受け入れることを議論ではない
→ その「余裕」もないし、医療介護改悪で、その「余裕」もなくなる 
 
・医療介護の改悪こそ、県経済、雇用に大打撃を与える
 2012年度の県内総生産(名目)2兆1604億円
うち、医療・介護などの公的サービスは2463億円億円と1割強と最重要産業の1つ
雇用者数 医療・介護分野は5万5千人で全産業種別の中で最い
 →医療ベッドの3分の1が削減、介護報酬の大幅切り下げ・・・極めて大きな影響

◆小括・・・「提言」は、歴代政権によって進められた医療・介護の切捨て、深刻化する人手不足という現実をあえて無視し、「移住」でなんとかなるように描くイデオロギー攻撃
→ 真剣に「移住」をいうなら
 ①第一次産業を土台とした地域経済の活性化
 ②社会保障の充実。人手不足解消につなかる処遇改選   
     が不可欠。   

●「日本創生会議」 政権の政策推進の露払い

 民間の1研究機関だが、座長は、第一次安部政権の総務大臣

①政権と連携した動き
・昨年、全国の約半数の自治体が「消滅」するレポート提出
直後に、政府は、50年後に1億人程度の安定的な人口構造を保持する」という目標を打ち出し、2014年「骨太の方針」に盛り込み「地方創生本部」を立ち上げ。/「地方創生」戦略では、今回の「提言」につながる「移住促進」も大きな柱に。

・東京圏は受け皿不足として「高齢者の地方移住」を勧めるレポート提出
今回も直後に人口減少を踏まえた地方対策「まち・ひと・しごと創生基本方針」を閣議決定。移住を希望する高齢者の受け入れ拠点として、地方に住居や医療・介護、生涯学習といった機能を備えた「日本版CCRC」の整備を進めることを打ち出す。

⇒民間研究所だから可能なセンセーショナルな「提言」で、政権の政策遂行の露払い、世論誘導をしている

 ②その本質
・ 「自治体消滅」論
農林水産業の切捨て、市町村合併押し付けなどで地方を衰退させてきた原因を不問
「自治体消滅」というショッキングな打ち出しで、地方の「自助努力」を迫り、打開できない自治体に、合併、再編を迫る
→ 一部グローバル大企業に奉仕する国づくりを進めるための新たな戦略

・「高齢者移住」論
社会保障の切捨てを覆い隠し、地方間の政策課題に、矮小化、誘導。
(地方対策を閣議決定して同じ日に、療養病床数などの「地域差の是正を着実に行う」と
「余裕」を奪う方針を決定)
衰退する地方に、まやかしの「希望」を振りまき、TPPや社会保障削減の負の影響を覆い隠す、
高齢者を社会の「厄介者」のように見なし、権利保障を求める声を抑圧


――― 安心して医療・介護サービスを受けることができ、希望する地域で住み続けられる―― 憲法が保障する権利を実現することこそ政治が最優先に取り組むべき課題

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