地震動想定手法の欠陥 伊方・準備書面
大飯原発差止め判決、高浜原発差止め仮処分と、10年間で6回も基準地震動が原発をおそった事実から、平均像から求める地震動想定手法の根本的欠陥が明らかにされてきた。
4月に出された伊方原発差止めの準備書面は、この問題にしぼったもので、さらに網羅的で踏み込んだ内容になっている。 以下は、整理のためのメモ
【地震動想定手法の誤り 準備書面42 伊方差止め請求 2015.4】
【 強振動予測レシピ 】
入倉レシピ 9つのステップから導く
◆スケーリング則に伴う誤差
・耐震設計や耐津波設計において,しばしばこのスケーリング則が用いられる。
・地震現象や津波現象が,良くは分からないため,多数の事象を集めて,その平均像を求めるしかないというところに,根本の原因がある。
・すなわち,スケーリング則には必然的に大きな誤差を伴わざるをえない。そして,このスケーリング則を用いた耐震設計,耐津波設計には,また当然の帰結として,大きな誤差が伴わざるを得ないのである。しかし,耐震設計は,この平均的な値で行ってはいけない。それでは50%の地震で,平均値を超えてしまうので,とりわけ危険極まりない施設である原発で,平均値で耐震設計を行うなど到底許されないことである。
・地震動想定は科学的推定であるから,必ず誤差評価を行うべきだというところにある。「不確かさの考慮」は,推定の誤差評価として記述される必要があるが,原発推進者は,そのような定量的な表現を使わず,なぜその「不確かさの考慮」で十分かの検討も行わない,極めていい加減な評価手法しかとっていない。
◆平均像からの誤差
①ステップ2 断層破壊面積(震源断層面の面積)から地震モーメントを導くもの
・破壊面積が大きくなれば地震モーメントが大きくなるが、相当なばらつきのある関係
・レシピは、その平均値をとっている。
正規分布でいえば 4倍の+2α。44回に1回
8倍の+3α 740回に1回
実際の入倉氏のデータ 平均から最も離れた値は、ほぼ平均像の4倍
*武村式のデータの中には,入倉の平均値の7倍に及ぶデータが存在する。
②STEP4 アスペリティの総面積
・経験的に震源断層面の22%がアスペリティの総面積であるというものであって,震源断層面の平均像を示すものである。
・平均(中央の直線)から下に最大はずれた値は、同じ断層面積でも,アスペリティの面積が平均の2分の1近い大きさとなる地震がある。
→ アスペリティの面積比が小さければ,アスペリティの応力降下量が大きくなる。
→ 最低、平均の1/2、地震動2倍にとめることがもとめられている。
*内閣府に設けられた南海トラフの巨大地震モデル検討会は,南海トラフ沿いの地域の地震動や津波高の想定を実施したが,そのとき用いた強震断層モデルでは,東海域で面積比を12.44%としている。
この検討会の値12.4%は,アスペリティと総面積の面積比の関係の中の最小値。
~ 地震動が既往最大になる値を取るべきという立場を取っている。
◆既往最大でも4倍以上
ステップ2の地震モーメントで4倍、ステップ4のアスペリティの面積で2倍 実際のデータのばらつきを「安全側」に考慮すれば、少なくとも平均像の8倍
* 07年中越沖地震 設計用限界地震450ガル。 1号機解放基盤面で1699ガルを観測
→ 原子力安全委員会,原子力安全・保安院は,各原子力事業者に対して,短周期地震動レベルを1.5倍とした場合に機器・配管の健全性が保たれるか確認することを求めた。
伊方原発は、「不確かさを考慮」し、473ガルから570ガルへ変更 08年
【震源を特定せず策定する地震動】
1.新基準「基準地震動および耐震設計方針にかかわる審査ガイド」
→「震源を特定せず策定する地震動」 /いくら調査してもわからない断層が潜んでいる可能性があり、敷地近傍の調査にかかわらず、全サイトに共通的に考慮すべき地震動。
・地震動策定の基本方針 大きく2つに分類
〔1〕「震源と活断層を関連づけることが困難な過去の内陸地殻内地震について得られた震源近傍における観測記録を」「適切かつ十分に収集し、」「これを基に各種の不確かさを考慮して」応答スペクトルを策定する。
〔2〕、「地表地震断層が出現しない可能性がある地震」は 「地震学的検討から全国共通に考慮すべき地震」。
→「Mw(モーメントマグニチュード)6.5未満の地震」は、「地表地震断層が出現しない可能性がある」とされている。
・「審査ガイド」 「収集対象となる内陸地殻内地震の例」
96-16年間の16地震を例示。 --- これで十分なわけがない
しかも、「地表地震断層が出現しない可能性がある地震」 14個だが、うち北海道留萌支庁南部地震以外の13個の地震は、地盤データが不足しているとして、とりあげられていない。
2.北海道留萌支庁南部地震
〔1〕地震の特徴
・Mw5.7。きわめて局所的な地震 地震動1000ガル超 応答スペクトル2000ガル超
→ 大きな地震動 NFRD効果 ~ 地震波の進行方向と破壊の伝播方向が重なって、地震動が増幅
・観測点の地震動は、最大地震動ではなく。 観測記録の1.5倍以上
→ 〔財〕地域地盤環境研究所の報告 観測記録から「すべり角」を変えたさまざまなシミュレーション
1.5倍以上、ケースによっては2倍以上の結果も。
〔2〕電力会社の試算の問題点
・ 「地表に近い岩盤による増幅があった」とし 、これ考量した「はぎとり波」を算出 609ガル
それら不確かさを踏まえ、620ガルを想定 ~ 本当に増幅があったのか? という問題もあるが・・・
①観測地点が、最大の地震動ではない。それを想定しなくてもよいのか。
609ガル 1.5倍 914 2倍1218
②留萌 わずかMw5.7の地震 / 新基準「地表地震断層が出現しない可能性がある地震」 Mw6.5未満と規定
Mw6.5ぎりぎりになった場合を想定しなくてよいのか。
〔3〕敷地直下のMw6.5未満の地震は最大どこまでの地震動をもたらすか ~ 留萌をベースに
①-① 平均像で、Mw5.7 を Mw6.5で試算
Mw6.5 は Mw5.7 の16倍の地震 地震動 規模の3乗根に近似 2.5倍
→ 609 * 2.5 1522.5ガル
最大の地震動 1.5倍の場合 2283.8ガル
最大の地震動 2倍の場合 3045ガル
・入倉レシピ 平均像 同じ断層面でも、既往最大で4倍、8倍の地震動が発生する場合がある。
1万、2万ガルを超える地震動が想定されうる
①-② 地震モーメントが4倍の場合 ~ 短周期地震動も4倍(入倉レシピ)
→ Mw+0.4 / Mw6.1
*モーメントマグニチュードと地震モーメントの関係式 log M0 = 1.5Mw + 9.1
・Mw+0.4 は Mo 4倍 ~ 短周期レベルAとMoの関係 4の1/3乗=1.59倍で増加
609 * 4 * 1.59 3873.24ガル
最大の地震動1.5倍の場合 5809.86ガル
最大の地震動 2倍の場合 7746.48ガル
~ 「既往最大でよいのか」という問題もある / 安全側にたって10倍とすると 2万~3万ガル
③わずか16年の1個の地震でよいのか
この10年間に、08年宮城内陸地震、11年東北地方太平洋沖地震 で想定外の大きな地震
「トランポリン効果」という未知の事象でもたらしたもの。
地震に対する人類の知見は極めて限定的。「想定外」の事象が普通に起こることを示している
【共振現象 応答スペクトル】
・地震動の破壊力は,最大加速度だけでは説明できず,継続時間(さらにその他の特性)も大きく影響することによるからである(甲130・112頁)。
極めて単純化して言えば,地震動の中で最大の加速度は周期0.5秒付近の成分だったが,その継続時間は短く,一方で,周期0.2秒付近の加速度は,地震動の中では最大の成分ではなかったが,継続時間が長く,共振により建物の揺れは成長したものだ,ということができる(実際にはさらに複雑であるが,ここまでにとどめる)。
このようにして得られた応答スペクトルは,地震動が建築物に与える影響を集約したものであって,ここに耐震設計の全体が表れるのである。
耐震設計ではこの応答スペクトルが重要であり,地震動の大きさそのものでは,地震の破壊力は示されない。
・「何ガルの地震動にも施設は耐えられる」と言ったところで,それだけでは大した意味はなく,問題は,応答スペクトルが,建物や機器配管などの施設の固有周期付近でどれだけか,なのである。
・原発の機器・配管の固有周期は0.02秒~0.5秒程度の短周期に集中していること
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