小規模校を存続させる場合の教育の充実~適正規模等に関する手引
58年ぶりの手引きの改正。統廃合推進一本やりから、73年、山原さんの質問により、「小規模校として存続し充実するほうが望ましい場合がある」という「Uターン通知」で結びついた。そして、昨今、財務省が少人数学級否定や統廃合推進によるコスト削減論が執拗にくりかえされている中、文科省の新たな手引きは、対抗の重要な足場になる。
手引きは、その問題意識を
「地域コミュニティの核としての学校の機能を重視する観点からは・・・ 地域の総力を挙げ、創意工夫を生かして小規模校のメリットの最大化やデメリットの克服を図りつつ、学校の存続を選択する場合等の複数の選択があると考えられ」るとし、「地域創生」ともリンクさせ、地域づくり、地域の中での教育という観点を押し出している。
「学校統合を選択しない場合」「小規模校のメリット最大化策」「学校を再開される場合」など詳しく展開されている。以下は「小規模校を存続させる場合の教育の充実」部分。
なお、この点で、2月県議会の質問に、知事は、教育環境の整備とともに地域コミュニティの核としても学校は重要で、一律的な統廃合ではなく、小規模校を選択する場合の手立てなど具体的に示すよう、教育再生実行会議などで、繰り返し求めてきた、と答えた。
【公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引
~少子化に対応した活力ある学校づくりに向けて~ 文科省 2015/1/27】
【小規模校を存続させる場合の教育の充実】
(1)学校統合を選択しない場合
○ 1章(3)で述べたように、市町村の中には、様々な事情から学校統合によって適正規模化を進めることが困難であると考える地域や、小規模校のまま存続させることが必要であると考える地域も存在するところです。学校が置かれた状況は様々であるため、一概には言えませんが、統合を選択しない主な場合としては、下記のようなケースが考えられます。
① 離島や山間部、豪雪地帯など、近隣の学校間の距離が遠すぎる、季節により交通事情が著しく異なるなど、学校統合に伴いスクールバス等を導入しても安全安心な通学ができないと判断される場合
② 学校統合を行った後に、更なる少子化の進展や地域の産業構造の変化等の事情により児童生徒数が減少するなど、安定的に通学可能な範囲で更なる学校統合を進めることが難しい場合
③ 同一市町村内に一つずつしか小・中学校がなく、かつ既に当該小・中学校が併置されていたり、小中一貫教育が導入されていたりするなど、当該市町村内で統合による学校規模の適正化を進めることが不可能な場合
④ 学校を当該地域コミュニティの存続や発展の中核的な施設と位置付け、地域を挙げてその充実を図ることを希望する場合
○ また、⑤学校間の距離が比較的近い大都市や市街化区域においても、ドーナツ化現象等により学校が小規模化することがありますが、3章の(3)で述べたような対策を講じてもなお通学路の安全確保が難しい、宅地造成や再開発による大規模なマンション建設等により大幅な人口変動が繰り返されることが見込まれるなど、様々な地域事情により、当分の間、他の学校との統合を検討することが困難な場合も考えられます。
○こうした場合は、学校の存置を選択することになる可能性が高いと考えられますが、あわせて、教育の機会均等とその水準の維持向上という義務教育制度の本旨に鑑み、小規模校のデメリットを最小化し、メリットを最大化する方策を計画的に講じる必要があります。
○ なお、学校が余りにも小さな規模になってしまう場合や、通学距離が余りにも長くなってしまう場合、他の市町村に隣接する地域等に居住する児童生徒にとっての利便性が高い場合等は、地域の実情に応じて、慎重な検討を行った上で、事務委託等により近隣の市町村の学校へ通学させることや、複数の市町村で協力して学校を設置すること(組合立学校)も考えられます。
(2)小規模校のメリット最大化策
○ 教育の機会均等を確保する観点からまず検討しなければならないのは、小規模であることのメリットを最大限に生かし、児童生徒への教育を充実させる方策です。
【少人数を生かした指導の充実】
○ 一般に小規模校には下記のようなメリットが存在すると言われています。
① 一人一人の学習状況や学習内容の定着状況を的確に把握でき、補充指導や個別指導を含めたきめ細かな指導が行いやすい
② 意見や感想を発表できる機会が多くなる
③ 様々な活動において、一人一人がリーダーを務める機会が多くなる
④ 複式学級においては、教師が複数の学年間を行き来する間、児童生徒が相互に学び合う活動を充実させることができる
⑤ 運動場や体育館、特別教室などが余裕をもって使える
⑥ 教材・教具などを一人一人に行き渡らせやすい。例えば、ICT機器や高価な機材でも比較的少ない支出で全員分の整備が可能である
⑦ 異年齢の学習活動を組みやすい、体験的な学習や校外学習を機動的に行うことができる
⑧ 地域の協力が得られやすいため、郷土の教育資源を最大限に生かした教育活動が展開しやすい
⑨ 児童生徒の家庭の状況、地域の教育環境などが把握しやすいため、保護者や地域と連携した効果的な生徒指導ができる
○ こうしたメリットを最大限に生かし、例えば下記のような取組を行うことも考えられます。
① ICT(例:電子黒板、実物投影機、児童生徒用PC、デジタル教材等)を効果的に活用し、一定レベルの基礎学力を全ての児童生徒に保障する
② 個別指導や補習の継続的な実施、学習内容の定着のための十分な時間の確保、修業年限全体を通じた繰り返し指導の徹底などを総合的に実施する
③ 少人数であることを生かすことでより効果を高めることが期待できる教育活動(例:外国語の発音や発表の指導、プレゼンテーション指導、音楽・美術・図画工作・体育等の実技指導)において、きめ細かな指導や繰り返し指導を徹底する
④ 技能の向上の観点から、ICTを活用して運動のフォームや実習の作業等を動画撮影し、効果的な振り返りに活用する
⑤ 総合的な学習の時間において個に応じた学習課題を設定し、複数年にわたり徹底的に追究させる
⑥ 少人数であることを生かして、各教科や総合的な学習の時間、特別活動等において、踏み込んだ意見交換をさせる
⑦ 児童・生徒会活動や各種の班活動等を通じて、意図的に全ての児童生徒に全ての役職を経験させる
⑧ 隣接学年のみならず、学校全体での異年齢活動や協働学習を年間を通じて計画的に実施する
⑨ 教育活動全体を通じて、校外学習も含めた様々な体験の機会を積極的に取り入れる
【特色あるカリキュラム編成等】
○ 教育課程特例校制度なども必要に応じて活用しつつ、校区の豊かな自然・文化・伝統・産業資源等を最大限に生かし、地域のニーズを踏まえた体験的・問題解決的な活動を積極的に取り入れた特別なカリキュラムを編成することも考えられます。その際、地域の高等学校との連携強化を図り、小・中・高を通じた特色化を図ることは地域の魅力づくりにとっても大きな意義を持つものと考えられます。
○ また、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、地域の大学等とが連携し、これまでの関係団体等の研究の蓄積も踏まえて、複式学級の特性を生かした独自のカリキュラム・指導方法を開発し、各種研修等を通じて展開を図っていくことも考えられます。
○ さらに、特に郡部の小規模校においては、児童生徒数が少ないことや地域とのつながりが密接であること等を生かし、例えば市町村の補助や地域のNPO、まちづくり団体、商工業関係団体、伝統文化の保存・継承団体などの協力を得て、教育課程外又は社会教育の枠組みの中で校外学習、体験活動、短期留学、ホームステイなどを行い、そこで得られた成果を学校教育活動に環流させるといった取組も考えられます。
【社会性の涵養、多様な考えに触れる機会の確保】
○ 小規模校で不足しがちな社会性を涵養する機会や多様な意見に触れる機会を確保したり、様々な体験を積ませたりする観点から、例えば下記のような工夫が考えられます。
① 小中一貫教育の導入により、小学校段階・中学校段階全体として一定の集団規模を確保する
② 上級生がリーダー役となった異学年集団での協働学習や体験学習を年間を通じて計画的に実施する
③ 山村留学・漁村留学32、いわゆる小規模特認校制度33 の導入等により、児童生徒数や多様性を確保する
④ TV会議システムやオンライン会議システム等のICTを活用し、他校との合同授業を継続的・計画的に実施する
⑤ 教室で不足する多様な意見を収集させる観点から、タブレットPC等を全員に整備し、他校の児童生徒との情報交換に活用する
⑥ 他地域の学校や、本校・分校間で学校間ネットワークを構築し、スクールバス等を活用し定期的に互いの学校を訪問して合同授業や合同行事を行う
⑦ 幼稚園、保育所や児童館などの児童福祉施設、公民館等の社会教育施設、社会福祉施設等と小・中学校施設とを複合化することにより、異年齢交流の機会を増やす
⑧ コミュニティ・スクールや学校支援地域本部の導入を契機として、学校教育活動への地域人材の効果的な参画を促進して、社会性を涵養する機会を確保すること
⑨ 多様な意見に触れさせるために、保護者や地域住民の参画を得て、国語や総合的な学習の時間等でパネルディスカッション等を実施する
⑩ 放課後や土曜日等も活用しつつ、学校教育と連動した社会教育プログラムや職場体験活動を計画し、年間を通じて実施する
⑪ 発達段階に応じて集団生活や自治的活動を十分に経験させる(例:短期間の交換ホームステイ、1週間程度の通学合宿、寄宿舎等の宿泊施設を活用した1か月程度の教育活動等)
⑫ 社会教育活動の一環として、都会の子供たちのサマーキャンプやウィンターキャンプのような取組に地元の子供たちを参加させることにより、異なる環境で育った子供たちとの交流の場を確保する。
【切磋琢磨する態度、向上心を高める方策】
○ 一般に小規模校は同学年や学級内の児童生徒数が少ないために、切磋琢磨する環境を作りにくいという課題が指摘されています。こうした環境の下で、児童生徒に適度な競い合いの気持ちや向上心を育むためには、意図的な取組を積極的に行う必要があります。
○ このため、例えば、上述のような合同の教育活動を活性化させるほか、過去の先輩が作った優れた作品等を蓄積し、積極的にモデルとして示すなどの取組が考えられます。
また、全国学力・学習状況調査や全国体力運動能力・運動習慣等調査など、各種の全国調査の結果や他校の活動の映像資料等を適切な配慮の下で活用したり、PTA等とも連携して各種の検定やコンクールへの参加を積極的に推奨したりするなどして、同世代全体の水準や他校の児童生徒の頑張っている姿を意識させながら指導の展開を図るといった工夫も考えられます。
〇さらに、見学旅行や修学旅行などの機会を活用して、早い段階から様々な進路の選択肢を意識させ、学習意欲の向上を図るといった工夫や、他の自治体も含め別の地域の学校を「姉妹校」に指定して交流を深め、学校間での切磋琢磨により児童生徒の意欲を高める環境を作るといった工夫も考えられます。
【教職員体制の整備等】
○ 教職員数が少ないことに伴う様々な課題に対しては、各都道府県教育委員会の協力も得ながら、地域の実態に応じて下記のような工夫を講じることも考えられます。
① 複数学校間で兼務発令を行い、教科免許保有者による指導を確保する
② 複数学校間で教科等の専門性を生かした教員の巡回指導システムを導入する
③ 複数学校間で学校事務を共同実施し、事務の効率化を図るとともに教員が子供と向き合う時間を増加させる
④ 年間の行事予定や指導計画を複数校間であらかじめ調整し、校内研修や長期休業中等の研修は合同実施を基本とする
⑤ ①や②に伴い、必要に応じ、各教科等の教育活動のうち効果的かつ適切なものを特定の期間に集中的に実施する
⑥ 腰を据えて当該地域の教育に取り組んでもらうため、都道府県教育委員会と連携して、教員の採用及び人事において特定地域での勤務を前提とした「地域枠」を設ける
⑦ 複数の教員に一つの学級を担任させることにより、多様な観点での評価や校務の適切な分担を可能とする
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