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子どもの貧困対策法・大綱~ 特徴と課題(メモ)

 「人材育成に傾斜する子どもの貧困対策」 宮永弥四郎 前衛201412 の論考からの備忘録。

 貧困の定義も削減の数値目標もなく、政府のやる気のなさがあらわれた法律・大綱だが、自治体やさまざまな運動をしていくうえで、使える部分もあり、特に、都道府県にどんな計画をつくらせるか、が大事になる。 そのための課題等整理のメモでもある。

 【子どもの貧困対策推進法】
【子供の貧困対策に関する大綱】

 以下、メモ

【子どもの貧困対策法・大綱~ 特徴と課題】

1.本気度に欠ける立法と大綱

・イギリスの「子どもの貧困法」が参照されたが、継承されなかった優れた点
 ① 貧困指標の設定とその削減目標の法定
 ② 国、地方自治体の責任の明確化
 ③ 政府及び自治体の対策大綱策定過程への当事者参加の法定

・「貧困」の名のつく法律制定は画期的だが、法の曖昧さ・不徹底さが施策・運動に混乱をもたらす面が存在

・子どもの貧困対策ネットワークなど関係者の期待を裏切った内容
  河北新報「本気度が伝わってこない」、京都新聞「連鎖断つ数値目標必要」 東京新聞「数値目標示せ」~熱意に欠ける、神戸新聞「国はどこまで本気なのか」、 高知新聞「改善への実効性が問題だ」~国の本気度や実効性を疑ってしまう。南日本新聞「経済的支援が手薄だ」、琉球新報~本気で子どもの貧困に取り組む気があるのだろうか。既存事業の寄せ集めと指摘される内容

2 子どもの貧困対策推進法の問題点と課題

・対策推進法 
 第一条・目的 「子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備するとともに、教育の機会均等を図るため、子どもの貧困対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及び子どもの貧困対策の基本となる事項を定めることにより、子どもの貧困対策を総合的に推進することを目的とする」
第二条「子ども等に対する教育の支援、生活の支援、就労の支援、経済的支援等の施策」を講ずる
~ 目標は、いくつかの留保は必要だが、一旦は肯定的に評価したい

(1)「貧困」及び「子どもの貧困」の定義

・最も深刻な問題点~ 法では「貧困」「子どもの貧困」が定義されていない

→ 貧困対策を「総合的に推進する」という以上、政策課題としての「貧困」「子どもの貧困」の明確化が不可欠
→ 達成すべき政策目標が定まらず、施策の立案、施策への合意形成、検証評価がなりたたない。

・定義は容易ではない

  〔メモ者/貧困の定義は「最初にぶつかる問題」であり、「永遠のテーマ」(阿部彩)
    歴史的にも  絶対的貧困(ラウントリー)、相対的剥奪(タウンゼント)など捉え方が発展〕

・イギリス 定義はないが、4つの数値目標を定めている
 ① 相対的低所得に関するも目標 中央値の60%未満の世帯の子どもを2020年度末までに10%未満とする
 ② 低所得(中央値70%未満)と物質的剥奪の複合に関する目標   同 5%未満
 ③ 絶対的低所得に関する目標  2010年度の中央値60%を基準に、同 5%未満
 ④ 貧困の継続に関する指標  相対的貧困の状態が3年以上継続する割合  政府の定める目標以下とする

 → 相対的貧困だけでは捉えられない、ので ②他の子どもが共有する生活体験が奪われている状態の克服 ③景気動向、中央値に左右されない指標 ④期間が長いほど世代間連鎖を招きやすいことに着目、したもの/ 多様な視点から削減目標を定め、子どもの貧困を見落とさない、とする意思の現われ

・日本  政策目標を「健やかに育成される環境を整備する」とだけ規定
→ 何を「貧困」ととらえ、対策をつうじてどのような「環境」をつくろうとするのか不明。

(2)貧困の根絶でない貧困対策

・法の目的は「健やかに育成される環境の整備」であって、貧困そのものの削減・根絶が射程に入っていない
~ 生まれた家は貧しくても、努力して学ぼうとする者には必要な支援を与える、といっているに過ぎない。

・イギリスの貧困法 ~ 相対的貧困率を低下させ、物質的剥奪を減らすことが目標
 → 前者達成には/賃金水準、公的扶助水準の改善が必要  後者/学校行事・クラブの無償化など

・日本 貧困そのものの削減を目的としていないので、施策を定める大綱も同様
 ~指標は

a 生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率
b 生活保護世帯に属する子供の高等学校等中退率
c 生活保護世帯に属する子供の大学等進学率
d 児童養護施設の子供の進学率及び就職率
e ひとり親家庭の子供の就園率(保育所・幼稚園)
f  ひとり親家庭の子供の進学率及び就職率
g スクールソーシャルワーカーの配置人数及びスクールカウンセラー の配置率
h 就学援助制度に関する周知状況
i  日本学生支援機構の奨学金の貸与基準を満たす希望者のうち、奨学金の貸与を認められた者の割合(無利子・有利子)
j ひとり親家庭の親の就業率
k 子供の貧困率
l 子供がいる現役世帯のうち大人が一人の貧困率
m 生活保護世帯に属する子供の就職率

① kとl  相対的貧困率    世論の力で項目に入ったと思われる
  
②a~f「貧困状況にある子どもが健やかに育成され」、一般家庭の子どもと遜色なく進学就職しているかの把握
→ 進学、就職それ自体は重要だが、成果主義的にとらえられ、成長を阻害しかねないことに注意が必要

 例) 学ぶ喜びを実感してもらうボランティアの学習支援に、市が高校進学の目標を持ち込み、暗記と反復練習を軸にした入試対応型の内容をもとめたために、市側とボランティアの摩擦が生じる。

③g-j 行政の実施状況の施策 
→  この施策が積極的に役割を果たすか、検証されていない。

→  これらの施策が目指す目標を明確化し、その妥当性を検証し、その達成状況を目標とすべき
 例) SSWの配置状況自体が重要なのではなく、配置することで学校に新たにどのような役割をはたすかが重要。大綱は、学校を貧困対策の「プラットホーム」とするとしているが、学校がその重責を担いうるのか、任務を果たすためにはどのような体制が必要か、検討されなければならない。

(メモ者 奨学金という名の「教育ローン」であり、ブラックバイトが蔓延する温床ともなっている。無批判に肯定していいのか)

④eとf  理解にし難い指標
・母子家庭の就業率80.6% 正規39.4%、非正規47.4%。 就園率72.3%  (11年度全国母子家庭等調査)
→ すでに極めて高い(ダブルワーク、トリプルワークで、親は疲労、子は「家庭」「子ども時代」が奪われている)。
  子育て世帯の失業0.4% OECD最低、子どもの貧困率9番目14.3%(ユニセフ07年)

( 就業すると貧困率が高くなる異常な構造が問題  50.4→50.9%  OECD2010年 )

→ 当事者の個人的努力では解決しない。労働市場の改善が必要

3.子どもの貧困対策大綱(2014/8)の特徴と問題点

・大綱は ①基本方針 ②貧困に関する13の指標 ③実態把握・指標の改善のための調査研究 ④推進体制
~ ありあわせの指標、既存の施策をならべにすぎない。以下、特徴と問題点

(1)人材育成
・基本方針の筆頭に目的「貧困の世代的連鎖の解消と積極的な人材育成をめざす」と掲げている
 
  「子供の貧困対策は、法律の目的規定(第1条)にもあるとおり、貧困の世代間連鎖を断ち切ることを目指すものであるが、それとともに、我が国の将来を支える積極的な人材育成策として取り組むということが重要である。
国民一人一人が輝きを持ってそれぞれの人生を送っていけるようにするとともに、一人一人の活躍によって活力ある日本社会を創造していく、という両面の要請に応えるものとして子供の貧困対策を推進する。」
→ 法律の目的を「世代間連鎖を断ち切る」に限定
  法の規定と無関係に「、我が国の将来を支える積極的な人材育成策として取り組む」ことを目的と宣言

→ 成長できるよう必要な施策を講じることが必要だが「「わが国の将来を支える積極的な人材育成」とすると/  子ども一人ひとりの価値よりも人材需要と効率的な育成が優先される懸念 /選別へのバイアス

→ 重点施策「大学進学等・・・」では「意欲と能力がある学生が・・・」という前提がついている。
(メモ者 貧困ゆえに、意欲の獲得や能力の顕在化の機会を奪わるというリスクそのものの解消ではない)

〔★部分 メモ者

★基本方針2 第一に子供に視点を置いて、切れ目のない施策の実施等に配慮する。

 「子供の貧困対策を進めるに当たっては、第一に子供に視点を置いて、その生活や成長を権利として保障する観点から、成長段階に即して切れ目なく必要な施策が実施されるよう配慮する。
児童養護施設等に入所している子供や生活保護世帯の子供、ひとり親家庭の子供など、支援を要する緊急度の高い子供に対して優先的に施策を講じるよう配慮する必要がある。」
→ 「権利として保障」、リスクの高い子どもの「優先的な施策」という規定は活用できる。

 「施策の実施に当たっては、対象となる子供に対する差別や偏見を助長することのないよう十分留意する。」
→ 一般施策の充実の中で「権利を保障」する観点であり重要。例)「公的保育」はスティグマを生まない。教材費・給食費そのものを無償にする施策など

★基本方針3
 
 「子供の貧困の実態が明らかになっているとはいい難い点が認められる。」「子供の貧困の実態を適切に把握した上で、そうした実態を踏まえて施策を推進していく必要がある。」
→ 計画策定の前提として「何が貧困か」など県民的議論を求める内容として活用できる。

★基本方針8  経済的支援に関する施策は、世帯の生活を下支えするものとして位置付けて確保する。

 「子供の貧困対策を進めるに当たっては、生活保護や各種手当など、金銭の給付や貸与、現物給付(サービス)等を組み合わせた形で世帯の生活の基礎を下支えしていく必要があり、経済的支援に関する施策については子供の貧困対策の重要な条件として、確保していく必要がある。」
→ まあ、当たり前だが・・・・ 〕

(2)プラットフォームとしての学校 

・基本方針5  「教育の支援では、『学校』を子供の貧困対策のプラットフォームと位置付けて総合的に対策を推進するとともに、教育費負担の軽減を図る。」
つづいて「家庭の経済状況にかかわらず、学ぶ意欲と能力のある全ての子供が質の高い教育を受け、・・」
→ 支援の対象が「学ぶ意欲と能力のあるすべての子ども・・」・・・となってることに慎重な検討が必要

 「①学校教育による学力保障、②学校を窓口とした福祉関連機関との連携、③経済的支援を通じて、学校から子供を福祉的支援につなげ、総合的に対策を推進するとともに、教育の機会均等を保障するため、教育費負担の軽減を図る。」
( メモ者  基本方針2にもとづき「権利として保障」、すべての子どもを対象にすることが必要 )

(メモ者 推進体制・・・ 計画づくりだけでなく、PDCAを真綿にも、有識者だけでなく、実際に子どもの貧困に取り組んでいる運動団体、NPOなどの参加による共同作業をどう構築するか、課題)

(3)課題の隠蔽・視点の欠落

①学力格差~最大の要因は「社会経済的背景」、学習時間の効果は「限定的」

 学力学習状況調査の結果から、学力に影響を与える要因を分析した文科省の委託研究〔耳塚寛明・お茶の水女子大学副学長 2014/3/28〕
 家庭所得と両親の学歴を加味した「社会経済的背景」。
a 世帯収入が高いほど学校外教育支出が多くなり、学校外教育支出の多い家庭ほど子どもの学力が高い傾向
b 社会経済的背景がLowest SESの児童生徒が「3時間以上」勉強して獲得する学力の平均値は、Highest SESで「全く勉強しない」児童生徒の学力の平均値よりも低い 
、という衝撃的なもので「「この意味で、学力格差というのは、教育問題というよりは、社会問題として把握したほうが正しいと考えます。」と報告
→ 小手先の処方箋で解決するものではない、社会制度全体にかかわる問題

【学力格差~最大の要因は「社会経済的背景」、学習時間の効果は「限定的」 2014/9】

②就学援助の周知 
・就学援助は市町村で水準が違う。水準が十分のか、まず検討されるべき。そして周知でなく、必要な家庭が受けられているかを指標とすべき
・生活保護基準引き下げにともない、基準低下がひろがりだしてい現実をスルー
 〔メモ者 母子加算引き下げが検討されるなど、逆行している〕

4 貧困の社会科学的解明
 最後の章は? 相対的貧困率だけで実態は把握できない、はそのとおりだが・・・

★メモ者 
 阿部彩さんは「相対的貧困率」の有用性を述べているが、それでは不十分で、タウンゼントの相対的剥奪の観点での調査(日本人のうけとめは冷た)もし、経済指標だけでない社会的包摂の観点を示している。
 そのうえで、就労によって貧困率が低下しない(逆に増加)、所得に占める公的支援の貧弱さ、所得采配分率の低さなど総合的な指摘している。 文章は、「相対的貧困率」の有用性の部分だけに触れていて ?
 
 同時に、現在の日本の貧困は、資本主義のもとで、利潤第一主義が生み出した貧困であると捉え る必要がある。貧困の原因は、産業予備軍を不可避的に生み出す資本へ活動にある。社会的なバリケードが必要である。
→ 労働時間短縮、同一価値労働統一賃金、社会保障の充実による労働市場の組織化
→ 劣悪な、半失業(非正規雇用)を生み出す政府の「就労支援策」は、それと真逆の政策である。(就労できることは重要であるが、それはきちんとした労働市場、社会保障があってこそ。) 貧困脱出策のメインを就労支援におくことの階級的本質をつかむ必要がある。)

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Comments

子供の貧困というけど、親の貧困があるからその子供が貧困ということではないか。そして、貧困の連鎖というけど、貧困は連鎖しようとしまいと、貧困それ自体が問題なんじゃないのか。「意欲と能力のある子供」には教育の機会が必要だと言う議論には誰も反対しないけど、じゃあ、「意欲と能力のない子供」は貧困のままでもよいのだろうか。どうもよくわからない。

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