生活扶助基準・住宅扶助基準・冬季加算の引き下げ撤回を ルール無視の暴挙
生活保護問題対策全国会議の要望書
生活必需品が上昇しており、厚労省の恣意的な計算方法でも上げる必要があること。住宅は、国の定める最低基準を無視して、低所得層と比較(先日、書いたように基準の計算方法がなしくずし的に変えられているという大問題がある)。実態に合わない貧弱な冬季加算〔モデルとなる生活保護基準を維持できないということ〕。
恣意的なデータで、国民の暮らしを無視。そのためには、これまでのルールも無視するひどいやり方。
【生活扶助基準・住宅扶助基準・冬季加算の引き下げ撤回等を求める要望書 10/28】
【生活扶助基準・住宅扶助基準・冬季加算の引き下げ撤回等を求める要望書 10/28】
生活保護問題対策全国会議
■要望の趣旨
・2015(平成27)年4月に予定されている3段階目の生活扶助基準の引き下げは撤回し、むしろ、物価上昇局面に合わせて生活扶助基準を引き上げていただきたい。 1
・住宅扶助基準と冬季加算の引き下げは行わないでいただきたい。 2
■要望の理由
○第1 生活扶助基準について
1.はじめに
政府は、2013(平成25)年、3回に分けて総額680億、平均6.5%(最大10%)という史上最大規模の生活扶助基準引き下げを行う方針を決めた。この方針に従い、同年8月に1回目の、2014(平成26)年4月に2回目の引き下げが既に行われ、既定方針どおりであれば、2015(平成27)年4月に最後の引き下げが行われる見込みである。そして、実際に最後の引き下げが断行されるか否かは、2014(平成26)年12月の来年度予算編成において決められる。
2 物価は大幅に上昇しており特に生活必需品の上昇幅が大きい2
今般の生活扶助基準の引き下げが、いかに道理と根拠を欠く恣意的なものであるかについては、「STOP!生活保護基準引き下げ」アクションの2013(平成25)年2月13日付「生活保護費を大幅削減する平成25年度予算案の撤回を求める緊急声明」や、当会の同年12月4日付「平成26年度予算編成にあたり生活保護基準引き下げの撤回等を求める意見書(特に「生活扶助相当CPI」の問題点について)」に詳述したとおりである。
それに加え、いわゆる「アベノミクス」や消費増税の影響で、この間、物価はどんどん高騰している。すなわち、総務省統計局が毎月発表しているここ数カ月の消費者物価指数は、前年同月比で、総合指数は3.3から3.6%上昇している(より実態を表しているとみられる「持ち家の帰属家賃(持ち家を借家とみなした場合に支払われるであろう家賃)」を除く総合指数は、4.1から4.4%も上昇している)。中でも特に、食料の指数は4.1から5.1%(中でも生鮮食品は5.8から11.1%も)、光熱・水道の指数は6.4から8.1%(エネルギーは6.8%から9.6%も)と、生存のために不可欠な生活必需品ほど物価上昇率が高い。生活保護利用者等の生活困窮者ほど、これらの生活必需品が支出に占めるウエイトが高いことは言うまでもないから、生活保護利用者にとっての「体感物価」の上昇率は看過できないほどに高いことが容易に推察される。
3 厚労省の独自方式「生活扶助相当CPI」で試算しても生活扶助基準は引き上げる必要がある
厚生労働省は、「生活扶助相当CPI」という、学説上も実務上も全く根拠のない独自の方式を作出したうえで、2008年と2011年のそれを比較すると4.78%の物価下落があるとして、大幅な削減を根拠づけた(詳細は上記の当会意見書を参照)。
池田和彦教授(筑紫女学園大学)によれば、 2014年8月の「生活扶助相当CPI」は104.6であり、厚生労働省が前回比較した2008年(著しく物価が高かった年)の104.5よりも、さらに0.10%物価が高い。2011年の「生活扶助相当CPI」99.5と比較すると5.13%も物価は上昇しており、今回の引き下げの根拠とされた4.78%の物価下落を上回る物価上昇がある。
【厚生労働省「生活扶助相当CPI」の推移】
2008年 104.5
2011年 99.5
2014年8月 104.6
2014年4月、消費増税等による物価上昇を見込んで2.9%の生活扶助基準の引き上げ調整が行われたことを考慮しても、なお2.23%は生活扶助基準を引き上げなければならない。
今般平均6.5%の引き下げが3回に分けて実施されており,来年4月に予定されている引き下げ率は平均2.17%であることからすれば、 少なくとも来年4月の引き下げは見送り、若干の引き上げを行わなければ、厚生労働省の立場(「生活扶助相当CPI」)としても一貫しないことになる。
物価の下降局面にあっては物価を考慮するが、上昇局面になれば考慮しないというのでは、余りにも恣意的に過ぎ、ご都合主義も極まれりというほかない。そもそも、「生活扶助相当CPI」そのものに何ら正当性がないことからすれば、来年度の生活扶助基準引き下げは撤回し、物価上昇局面に合わせて大幅に引き上げるべきである。その上で、生活扶助基準設定にあたって物価を考慮することの是非や、その場合のやり方について、生活保護基準部会で慎重に再検討すべきである。
○第2 住宅扶助基準・冬季加算について
1はじめに
政府は、本年6月24日に閣議決定された、いわゆる「骨太の方針2014」(経済財政運営と改革の基本方針2014)において、「住宅扶助や冬季加算等の各種扶助・加算措置の水準が当該地域の類似一般世帯との間で平衡を保つため、経済実勢を踏まえてきめ細かく検証し、その結果に基づき 必要な適正化措置を平成27年度に講じる。」と明示した。この方針に基づき、現在、社会保障審議会の生活保護基準部会において、急ピッチで検討が進められている。本年10月には、住宅・土地統計調査の特別集計結果が同部会に報告され、議論・検証のうえ、11月には、検討結果が取りまとめられて、12月の平成27年度予算案に反映される見通しである。
しかし、以下述べるとおり、基準部会での検討資料として提示されているのは、いずれも減額という結論を導き出すための極めて恣意的なデータばかりである。
2 住宅扶助基準について
(1)「最低居住面積水準」こそが住宅扶助基準の拠り所とされるべきであるが、厚労省は「そんな基準は守る必要がない」と開き直っている
ア 「最低居住面積水準」こそ住宅扶助基準の拠り所とされるべき
国は、平成18年6月に施行された住生活基本法に基づき、平成23年3月に閣議決定された新たな「住生活基本計画(全国計画)」において、「最低居住面積水準」を定めた。最低居住面積水準とは、 「健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な住宅の面積に関する水準」であり、「単身者25㎡」「2人以上の世帯10㎡×世帯人数+10㎡」等と定められ、これらの水準未満の住宅については「早期に解消」するものとされている。
このように、最低居住面積水準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な生活」を住生活の局面において国が数値をもって具体化したものである以上、同様に「健康で文化的な生活」の具体化立法である生活保護法の実施にあたっても当然に守られなければならない。
とすれば、 適正な住宅扶助基準を算定するためには、最低居住面積水準を満たす住居の家賃水準の実態を調査し、それに住宅扶助基準を連動させることこそが必要である。
この点は、第18回生活保護基準部会(2014年5月30日開催)において、「住宅扶助に関しては、国交省の最低居住水準というミニマムをベースにするしかなく、生活扶助基準額改定時に行ったような一般世帯との比較をする必要はない(阿部委員)」、「75%が満たしているのだから、耐久消費財の7割に準じて生活保護世帯でも最低居住面積を基準にしてよい(山田委員)」と委員らからも同様の意見が示されている。
イ 現行の住宅扶助基準では「最低居住面積水準」は確保できず引き上げこそ必要
現行の住宅扶助額は、単身者では53,700円(東京都の1級地)、2人~6人世帯では69,800円(同前)であるが、この金額では十分な住まいは確保できず、生活保護世帯の住環境は概して劣悪である。
東京都保護課も「(この金額は)高い設定ではない。23区内でこの額の住宅が潤沢にあるとは思えない。引き下げで住み慣れた地域をやむなく離れる人も出てくるのでは」(2014年10月13日東京新聞)と、現行の住宅扶助基準が十分ではないことと、もし引き下げられた場合の危惧を表明している。
そして、直近の第19回生活保護基準部会(2014年10月21日開催)に示された資料(資料1・5頁)によって、住宅扶助基準で確保できる住居の劣悪さや、生活保護利用者が居住する住宅の劣悪さが一層明確になった。
すなわち、まず、 最低居住面積水準及び設備条件を満たす単身世帯向け民営借家またはUR賃貸住宅のうち、家賃額が住宅扶助特別基準(上限額)以下の住宅の割合は13.1%に過ぎず(資料1・5頁)、現行の住宅扶助基準では、最低居住面積水準等を満たす住宅は容易に確保することができないことが明らかとなった。
また、ケースワーカー調査の結果によっても、最低居住面積(設備条件含む)を満たしている単身被保護世帯の住居は31%に過ぎないこと(同24頁)。「腐朽破損」がある世帯が14%もあること、「敷地に接している道路の幅員」については、「接していない3%」「2m未満8%」「2~4m未満32%」を合わせて建築基準法上「既存不適格」とされる住居に住んでいる世帯が43%もあること、エレベータ無し住居が88%を占めていること(同27頁)など、現に居住している住居の質も極めて劣悪であることが明らかとなった。つまり、 生活保護利用者の多くは、狭い路地にある老朽化した耐震性にも問題のある危険な住居に住まざるを得ないのであり、阪神淡路大震災で生活保護利用者の死亡率が一般の5倍に及んだという教訓が未だに活かされていないということでもある。「近隣同種の住宅の家賃額より明らかに高額な家賃が設定されている疑義の有無」について「疑義なし90.3%」「判断できない9.0%」で、「疑義有り」は0.6%に過ぎないことからも、それは裏付けられている。
したがって、今回の調査によって、被保護世帯の住居・住環境が極めて劣悪であり、居住水準の改善こそが急務であって、住宅扶助基準の引き下げなど論外であることが明確になったと言える。
ウ 厚生労働省は最低居住面積水準は守る必要がないと言っている
ところが、厚生労働省は、 「健康で文化的な最低限度の住生活を営むことができる住宅かどうかをみるための尺度は、住生活基本計画(平成23年3月閣議決定)において定められている最低居住面積水準(設備条件を含む)でよいか。※全国の民営借家では約1/3の世帯で、最低居住面積水準(設備条件を含む)が未達成の状況にある。」としている(上記部会配布資料「住宅扶助に関する論点について[論点1]①」)。
これは、要するに「最低居住面積水準なんて守られていないのだから、守らなくてもよい」と述べているも同然である。 国(国交省)が定めて推進している基準を、国(厚労省)自らが否定し蔑ろにするものであって、国家としてあり得ない自己矛盾である。ナショナルミニマムを一般世帯に関しては追求しながら、被保護世帯については求めないという差別的政策も許されるはずがない。
また、最低居住面積水準の達成率を見る場合、これまで国(国交省)は、設備等の条件を含まない水準で「達成率の高さ」(80.4%)をアピールしてきた。にもかかわらず、今回、厚労省は、あえて設備等の条件を含む水準を採用して「達成率の低さ」(66.3%)をアピールしており、ここでもご都合主義の恣意的なデータ引用がなされている。
(2)最低所得層の家賃実態と住宅扶助基準を比較するのは不当である
ア 厚生労働省(財務省)の主張
厚生労働省は、 「低所得層の世帯における住宅水準との均衡という観点」から「住宅扶助特別基準額の妥当性を評価することも必要ではないか」とし(前記部会配布資料「住宅扶助に関する論点について[論点1]③」、「一般低所得世帯の家賃実態」3.8万円に対し、「住宅扶助基準額」4.6万円は2割程度高いという財政制度等審議会(平成26年3月28日開催)の資料を参考配布している。
イ そもそも「一般低所得世帯の家賃実態」を比較対照とするのが不当である
ここで「一般低所得世帯」とは、「世帯収入300万円未満」の世帯を指す(第17回生活保護基準部会資料)。
(1)で述べたとおり、本来、最低居住面積水準を満たす住居の家賃水準を拠り所とすべきことからすれば、そもそも一般低所得世帯の家賃実態を比較対照とすること自体が不当である。この点については、生活保護基準部会においても、一般低所得世帯には、「公営住宅や民間賃貸住宅の約5%を占める生活保護世帯も含まれておりバイアスがかかっている(園田委員)」、「最低居住水準を満たさないものもたくさん含まれており、その平均をとることは問題(山田委員)」と委員らから正当な批判がなされているとおりである。
ウ 仮に「一般低所得世帯の家賃実態」との均衡を問題にするのであれば、上限である住宅扶助基準額ではなく「生活保護利用者の家賃実態」を比較の対象とすべきである
一般低所得世帯の家賃実態額は実態額の平均値であるのに対し、住宅扶助基準額は上限たる基準値であるから、そもそも均衡論の比較の対象として不適切である。仮に、家賃実態の均衡を問題にするのであれば、「生活保護利用者の家賃実態」を比較の対象とすべきである。
厚労省の資料によっても、住宅扶助基準値に張り付いている(95~105%)のは4割弱であって、多くの世帯は基準値の95%未満の家賃の住居に居住している。
そして、厚生労働省自身が、かつて「行政刷新会議・新仕分け」の場(2012年11月17日開催)で示した配布資料(17頁)によれば、一般低所得世帯の家賃額38,123円に対して、生活保護受給世帯の住宅扶助実績額は37,088円である。つまり、 生活保護利用者の家賃実態は一般低所得世帯のそれより低いのであり、厚労省は、自ら有するこうしたデータを生活保護基準部会の場においては示すことなく、議論をミスリードしようとしており、極めて悪質である。
なお、生活保護利用者の家賃実態が一般低所得世帯のそれよりもさらに低いことは、それだけ劣悪な住居への居住を強いられていることを意味しているのであって、言うまでもなく「家賃実態が低いから住宅扶助基準を下げても良い」ということにはならない。本来必要なことは、劣悪な住居に住んでいる被保護者については、住宅扶助基準の範囲内にある限りは現在の家賃よりも高い物件であっても、最低居住面積水準等を満たす住居へ転居するための敷金その他の転居費用を支給するよう実施要領を改正することである。
(3)住宅扶助基準の改定方式として家賃CPIを重視するのは不当である
ア 厚労省(財務省)の主張
現行の住宅扶助改定方式は、①物価指数改定額、②現行の基準額、③生活扶助世帯の実態家賃の下から97%をカバーする額に家賃物価指数の伸びを乗じて得た額の3者を比較し、2番目にくるものに準拠して決定しているという。ところが、厚生労働省は、 「どのような方法が客観的で国民にわかりやすく、かつ、一般国民との均衡を図る観点から適当か」とし(前記部会配布資料「住宅扶助に関する論点について[論点2]」)、「近年、家賃CPIが下落しているにもかかわらず、住宅扶助基準額は据え置きとなっている」から、「家賃CPIとの連動性を高めた改定方式に変更すべき」とする財政制度審議会の前記資料を参考配布している。
イ 家賃CPIは(特に低所得層の)家賃実態を反映していない
等々力淳(内閣府参事官(経済財政分析総括担当)付、平成24年7月23日「近年の家賃の動向について」)によれば、CPI家賃は、全賃貸物件を対象として指数が作成され、空き家の賃料は新しい入居者が入るまで旧い賃料のまま横置きしているのに対し、IPD/リクルート賃料指数は、その月に成約された賃貸マンションの賃料に基づいた指数となっていることから、後者の方が景気等の動きにより敏感に反応し、機動的・先行的な動きをする指数であるという。そして、2000年以降、CPI家賃は全国及び都区部において下落傾向であり2011年半ば以降は下落傾向がやや強まっているのに対し、IPD/リクルート賃料指数は、都区部はおおむね横ばい圏内の動きであり、関西圏は2011年中ごろからは上昇に転じていおり、市場における実態家賃が下落傾向ではないことを明らかにしている。
平山洋介教授(神戸大学)によれば、公営住宅の着工戸数は1970年代には10万戸を超すレベルであったものが、2000年以降 は年間2万戸を下回るレベルへと激減している(図6)。また、木造共同建民営借家も、1973年には333万戸に達していたものが、老朽化等に伴い、2008年には225万戸へと大きく減少している(図9)。
その結果、低家賃住宅は減少し、高家賃住宅が増大するという家賃構成の劇的変化がみられる(図10)。そして、低家賃住宅のストックの減少のため、1994年から2009年にかけて住居費の平均値は、単身世帯は3.4万円から4.6万円へ、複数世帯は4.6万円から5.4万円へと大きく上昇している(図4、5)。
このように、低家賃住宅という型が衰退し、その絶対数が減少に向かう中、住宅扶助基準内で入居可能な住宅は大幅に減少している。こうした状況下で、中間層向け住宅を含む多様な住宅群の平均値数である家賃CPIは、住宅扶助基準の検討にあたっての比較対象としての意味を持たない(賃金と社会保障1621号4頁)。
上藤一郎教授(静岡大学)によれば、平成16年と平成25年の家賃CPIを比較すると、民営家賃のそれは102.1から98.5に大きく下落しているが、公営家賃のそれは98.6から100.6にむしろ上昇している。全体としての家賃CPIが101.4(平成16年)から98.8(平成25年)と下落しているのは、民営のウエイトが公営に比べて大きいということにほかならない。実際、公営のウエイトは消費支出10000のうち40であるのに対して、民営のウエイトは267と約6.7倍の差がある(つまり、借家のうち公営は13%であるのに対し、民営が87%を占めている)。
しかし、厚労省資料(第15回基準部会資料2頁、平成23年7月被保護者全国一斉調査)によれば、借家住まいの被保護世帯のうち公営住宅に居住する世帯は20%であるのに対し、民営住宅に居住する世帯は80%であって、一般と比べると公営住宅に居住するパーセンテージが7ポイント多い。
したがって、仮に家賃CPIを考慮するとしても、かかる生活保護利用者の居住実態に照らして補正をすれば、その下落率は相当小さくなるものと思われるのである。
以上から、いずれにせよ、住宅扶助基準額を決めるにあたって、一般の家賃CPIの動向のみを過度に重視することは、生活保護利用者の利用が想定される低家賃住宅の家賃動向をかけ離れることになるので許されない。
(4)一部カテゴリーの者にとっては現行の住宅扶助基準自体が明らかに低く、こうした者にとっては基準の引き上げこそが必要である。
ア 車いす利用の身体障がい者
車いす利用の身体障がい者が生活するためには、居室が1階になければ車イスが乗れるエレベータが付いている必要がある。部屋の中も車イスが移動できるフローリングの床と、介助者も寝泊まりできる広さが必要である。
車いす利用の単身障がい者の住宅扶助の上限額は東京都の特別基準でも6万9800円であるが、この額では上記の機能を兼ね備えた賃貸物件は到底確保できない。介助者を確保するためには人手のある都市部に住む必要があるので、家賃の安い地方に住むわけにもいかない。
そのため、多くの車いす利用の身体障がい者は、やむを得ず住宅扶助基準の上限を超える住居に居住し、基準超過部分は生活費等を削る等して捻出している。身体障がい者の住宅扶助基準の一層の引き上げこそが必要である。
イ 多人数世帯
現行の住宅扶助基準は、2人以上の多人数世帯は6人世帯まで同じ基準となっている(東京で69800円、大阪で55000円)。しかし、少なくとも4人以上の家族が都市部でこの基準内で居住できる物件は存在しない。
4人以上の多人数世帯については、さらに住宅扶助基準を増額することこそが早急に望まれている。
(5)貧困ビジネス・脱法ハウス対策には、行政と貧困ビジネスの「癒着」を断ち切り、最低居住面積水準と連動した住宅扶助にすることこそが有効である
貧困ビジネスや脱法ハウスは、生活保護利用者を劣悪な住居(例えば、2畳程度の仕切り部屋や蚕棚のような空間)に住まわせながら住宅扶助基準の上限家賃を徴収し、搾取の対象としている。しかし、単に住宅扶助基準額を引き下げても、貧困ビジネスは利益を維持するために提供する住居のレベルをさらに落とすだけであって何の問題の解決にもならないことは明らかである。
貧困ビジネスを根絶するためには、まずは、ホームレス状態にある要保護者の「便利な受入先」として貧困ビジネスを活用する行政の姿勢を抜本的に改めることが必要である。そして、欧米諸国の公的家賃補助制度と同様に、最低居住面積水準以上の住宅の確保を条件として住宅扶助を支給することとし、住宅建築の改善を促す誘引とする施策に転じることこそが有効である。
3 冬季加算について
(1)厚労省(財務省)の主張
冬季加算とは、冬季は他の季節と比べて暖房費などが必要となるため、11月から3月まで、生活扶助基準に加えて、地域別、世帯人数別に定められた額を支給するものである。
厚労省は、前出の財政制度審議会の資料をそのまま参考資料として引用し、 「光熱費(冬季増加額)の地域差は最大でも2倍弱であるのに対し、冬季加算は、北海道、東北、北陸では4倍以上となっている。」「九州や沖縄も冬季加算の支給対象となっているため、乖離が生じている。」としている。この理屈からすると、冬季加算の金額は、北海道、東北、北陸は2分の1以下に、沖縄は0にされかねない。
(2)光熱費上昇局面での冬季加算削減は寒冷地の「命取り」になりかねない
第1の2で述べたとおり、この間光熱費の物価は6.4~8.1%と著しく高騰している。特に電気代の高騰ぶりは異常であり、例えば、北海道電力は、2014年11月から12.43%、2015年4月からは15.33%も家庭用電気料金の値上げを認可されている(経済産業省HP)。
こうした中、寒冷地の「命綱」となっている冬季加算を大幅削減すれば、生活保護利用者の多くを占める高齢者や障がい・傷病者の健康を害する事態を招き、まさに「命取り」になりかねない。厚生労働省・財務省は、冬季加算の削減が「命にかかわる問題」であることを認識すべきである。
(3)データの取り方が極めて姑息で恣意的である
財務省の上記資料のカラクリは、「光熱費=冬季増加額」というフィクションに基づく、極めて姑息で恣意的なデータの取り方にある。すなわち、同資料は、 光熱費(冬季加算増加額)は、「家計調査(平成25年度)」を用いて全世帯の高熱・水道代の冬季(11月~3月)の平均額から4月~10月の平均額を差し引いたもの。」としているが、北海道・東北等の寒冷地において暖房を要する期間は、概ね10月~6月の9か月に及ぶのであって、11月から3月だけではない。
したがって、同一地域内で11月~3月の所要光熱費の平均額と4~10月の平均額の差を求めても、後者のうち10月、4月、5月、6月の4カ月間は暖房を要する時期であることからすれば、差が小さくなるのは当然である。
なお、厚生労働省は、第19回生活保護基準部会(2014年10月21日開催)において、「12月を除外した11月、1~3月を冬季として検証することも考えられる」などとする資料(資料2、11頁)を配布している。しかし、多くの暖房費を要する12月まで「冬季」から除外すれば、「冬季」と「冬季以外」の差は、より一層小さくなることが明らかであって、言語道断というほかない。
(4)本来、地域別の年間を通じての所要光熱費の実額の推移データを比較すべきであり、それによれば現行水準が特に実態と乖離しているとは言えない
冬季の所要暖房費の需要を賄うという冬季加算の趣旨からすれば、本来は、地域別に年間を通じての所要光熱費の実額の推移データを出して、それを比較すべきである。
まず、寒冷地における暖房の方法は、ストーブ(灯油・薪・ガス)、ファンヒーター(灯油・電気・ガス)、こたつ・電気カーペット・電気毛布(電気)等複数の方法が組み合わされ、直接の暖房費以外にも、凍結防止のための水道管用ヒーター(電気)、日照時間の短縮による電気点灯時間の延長等によって、光熱費が増大する(除雪作業委託費用、防寒用具の購入等、光熱費以外の費用もかかる)。
実際、札幌の暖房の消費量は他都市の約5倍にも及び、(経済産業省・平成14年度民生部門エネルギー消費実態調査)、家庭用灯油の世帯別年間購入量は、北海道は全国平均の約4.8倍、東北は約3倍、北陸は1.8倍(平成24年総務省統計局「家計調査」)となっている。
したがって、現行の冬季加算の基準が実態と乖離しているなどとは到底いえない。
(5)沖縄等の温暖地には本来、夏季加算が必要である
財務省作成資料において、沖縄がマイナスになっている(!)のは、11月~3月の光熱費よりも4~10月の光熱費の方が高いということである。その理由は、当然のことながら、後者はクーラー等の冷房費がかさむためである。
地球温暖化に伴い、夏季の気温がかつてなく上昇し、高齢者の熱中症被害等も増える中、一時は夏季加算の創設が話題になったこともあったが、その後完全に立ち消えている。本来、九州、沖縄等の温暖地においては夏季加算の創設こそが必要なのに、それをせずに冬季加算の削減だけを行うというのは、これもご都合主義で政策の一貫性がないものと言わざるを得ない。
以上
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