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「国際バカロレア」 ~ 歴史修正主義と相容れない

 文科省が旗を振っている国際バカロレア。高知県も前のめりだ。元国連職員の母親とIBに合格した息子さんへの取材が、その内容を平易に説明している。
  企業の求める単なる英語力や安倍内閣の歴史修正主義的教育とは、まったくあいいれない内容。
 「IBの理念としての全人教育~ 地球市民としての自覚を持って豊かな知識、優れた見識を持つバランスの取れた人間を育成するということ。これは、多様な価値観を尊重しながら『自由』『人権』『民主主義』という、国連憲章に掲げられている普遍的な価値と完全に合致する。」「「授業では、国連で扱っているミレニアム開発目標(MDGs)について話すことが多い」「母国語でいいので、まずは大きな概念―ここで言うところでは、第二次大戦終了後からMDGsに至るまで流れとその意味するところ―を理解することがまず大切」と語る。
  そして、「グローバルマインドを身につけた若者が活躍できる土壌が、果たして今の日本にあるでしょうか。」「受け皿である日本社会が多様性を尊重し、変化に柔軟にならないことには意味がありません」とも・・・
  「国際バカロレア」・・・以外といいかも。母国語で大きな概念をつかむ、国連の精神は、日本国憲法の精神でもある、それが「まず大切」なのだから。

【世界への切符?「国際バカロレア」は有効か元国連マザーが考える、グローバル教育のツボ   2014/4/24】

■国際バカロレア
・世界共通の大学入学資格「ディプロマ」と教育プログラムのこと。
・世界で幅広く活躍できるための学力や知識、思考力をつけよう、というプログラムとして設計されている。
・ディプロマを取得するためには以下の3つの単位が必要。
〇 Extended Essay(EE:課題論文)
生徒が学んでいる科目に関連した研究課題を決めて、自分で調査・研究を行い、学術論文にまとめる。
〇 Theory of Knowledge(TOK:知識の理論)
学際的な観点から個々の学問分野の知識体系を吟味して、理性的な考え方と客観的精神を養う。さらに、言語・文化・伝統の多様性を認識し国際理解を深めて、偏見や偏狭な考え方をただし、論理的思考力を育成する。
〇 Creativity/Action/Service(CAS:創造性・活動・奉仕)
教室を出て広い社会で経験を積み、いろいろな人と共同作業することにより協調性、思いやり、実践の大切さを学ぶ。

例題/歴史 共通 90分
複数の設問の中から2つ選択して回答。回答に当たっては、20世紀の歴史的出来事やその展開について論述。
○ 「アフリカ又はアジアで21世紀に誕生した国家を1つ選び、その主要な国内問題と、それらがどの程度解決されたかを論ぜよ」
○ 「経済社会問題への対応について、2つの多党制国家の政策を比較対照して論ぜよ」

【世界への切符?「国際バカロレア」は有効か元国連マザーが考える、グローバル教育のツボ   2014/4/24】  木村 麻紀 ジャーナリスト  東洋経済

大崎麻子 ~ 米コロンビア大学院国際関係学修士号を取得後、国連開発計画(UNDP)で途上国の女性支援を手がける。帰国後、フリーのジェンダー・国際開発支援の専門家として、国際協力や東日本大震災の復興支援に携わりながら、関西学院大学などでも教鞭をとり、『サンデーモーニング』(TBS系)をはじめとする報道番組のコメンテーターとしても活躍中。
近著に『女の子の幸福論』(講談社)。都内のインターナショナルスクールで国際バカロレアのディプロマ(大学入学資 格)を取得して卒業した19歳の長男、都内の公立小学校に通う12歳の長女の母親でもある

■国連出身ママ、息子は国際バカロレアを受験
―シェイクスピア作『マクベス』で、作者の意図を伝える上でマクベス夫人はどのような役割を果たしたと思うか述べよ。
―「“Literature is the sole representation of culture.”(文学は文化を代表する唯一のものである)」という引用について、授業で読んだ作品群から引用しながら、自分の考えを書け。

これらは、今回ご登場いただく元国連開発計画(UNDP)職員で現在はフリーのジェンダー・国際開発支援の専門家として活躍する大崎麻子さんの長男・Kさん(19)が昨年春に受けた「国際バカロレア」のディプロマ(大学入学資格)試験の一部だ。いずれも正答を問う質問ではないが、自分の考えを根拠づける適切な引用の上に、論理的な展開が求められる。もちろん英語で、だ。

グローバル人材育成の必要性が叫ばれる中、日本でも最近耳にする機会の増えた「国際バカロレア」(以下IB)という教育プログラム。世界で通用する大学入学資格を与えるIBはこれまで、日本ではインターナショナルスクールやバイリンガル教育をしている私立学校を中心に展開されてきた。
しかし、文部科学省がIBの認定校・候補校となる高校を2018年度までに国内で200校にまで増やす目標を打ち出すとともに、15年から日本語での授業によるディプロマも認められることになった。その影響は日本の大学入試にも及び始め、慶応大、筑波大、東京大が相次いで、入試選考にIBの成績を取り入れることを決めた。日本で生まれ育った多くの日本人にとっても、もはやIBは特殊な世界とは言っていられなくなっている。

■IBは国連が求める人材像そのもの

大崎さんは、自らも米国の大学院を修了して国連職員として国際開発支援の最前線で経験を積んだ後、親として長男のIB取得をサポートしてきた。そんな背景を持つ大崎さんは、IBには単なる語学力や論理的思考力、プレゼンテーション技能の向上を超えた「ある哲学」にこそ真髄が宿るのだと説く。

それはズバリ、全人教育だ。IBの試験官が書いた本には、以下のように書かれている。

“国際バカロレアの大きな特色は、「全人教育」というところにあります。これは、思考力・表現力に重点を置いた高い知的水準の達成はもちろんのこと、同時に異文化に対する理解力と寛容性を養うこと、さらに社会の一員としての自覚と責任感を養うことを目標としています。”<『国際バカロレア 世界トップ教育への切符』(田口雅子著 松柏社)より> 

「IBの理念としての全人教育というのは、地球市民としての自覚を持って豊かな知識、優れた見識を持つバランスの取れた人間を育成するということだと思います。これは、多様な価値観を尊重しながら『自由』『人権』『民主主義』という、国連憲章に掲げられている普遍的な価値と完全に合致していますね」(大崎さん)

その上で、大崎さんはこう続ける。

「IB取得には社会奉仕が課せられています。これは、知識は持っているだけではダメで、それをどう社会に還元していくかが問われるからです。国連に勤務していた時を振り返ると、リーダーシップを発揮して尊敬されている人に共通するのは、知識・見識を持っていて、他者への共感力があり、創造的なことでした」
これぞまさに、IB教育が目指す人材像だろう。

■すごすぎる受験勉強の末に、得られるもの
このように、IBは国際エリート教育にもつながるだけあって、その取得に至るまでのプロセスは、並大抵ではない。長男のKさんに、高校時代の勉強ぶりを振り返ってもらった。ちなみに、Kさんは、IBの必須科目として「文学(英語)」「語学(日本語)」「歴史」「物理・生物」「数学」「美術(建築)」「Theory of Knowledge(知識の理論)」を履修した。
「文学では、古典から現代文学、詩、戯曲まで、作品の一部ではなく全部通読することを求められます。それに加えて、各教科のレポートも書かなくてはなりません。また、他の人のレポートも読んで授業で意見することも求められるので、それに備えておかなければなりません。さらに、選択科目の作品づくりをしながら、サッカー部の試合や海外遠征を認定試験直前まで続けました。とにかくすべてが同時進行でしたね」

「カリキュラムが始まって4カ月後ぐらいからだんだん高度になってきて、徹夜が続いてくるんです。カリキュラムを教えるのに必要な時間が絶対的に足りないので、先生も途中から教えきれなくなって。そうなると『ここは自習しておいて』なんてことになる(笑)。2年目最後の3月〜5月にかけて口述試験が両言語(日本語と英語)であり、その後本試験が始まるので特に大変で、あまり眠れませんでした」

聞いただけで、目眩がしてくる。Kさんの話を傍らで頷きながら聞いていた大崎さんも、こう応じる。
「体力的にも精神力にも大変そうでしたから、今となっては本当によくやったと思います。IBカリキュラムが始まる前に学校で親向けのガイダンスがあったのですが、そこでは『とても過酷なので、親も覚悟して支えて欲しい』というお話がありました。『早く寝かせて下さい』とも言われて、何のことか分かりませんでしたが、やってみるとよく分かりました」
親としてはとにかく、食事やリラックスできる環境づくりを含めたサポートを求められたという。

「でも、国連でも幹部になるような人たちは、皆さん身体が丈夫。エリート教育では体力と精神力も重視されているんだな、と改めて思いましたね」

IBでは、古典などから普遍的な思想を学んだ上で、今の社会の課題解決にどうつなげていくかについて、論理的に結論まで導いていくことを求められる。2年間の学習成果を問う認定試験は、記述試験と口述試験で構成される。日本の大学入試で多用される、暗記すれば対応できる選択式の問題はない。古典などを通じてこれまでの思想を学んだ上で、自分はどう考えるか独自の見解を示さなければならない。

このあたりの難しさについて、Kさんに聞いてみた。

「カフカやドストエフスキー、メアリー・シェリーといった作家の作品を読まされ、これらにどのような普遍的な思想が宿っていて、それが今の社会にどのように影響しているか――といったことを常に考えさせられました。

口述試験では、手元に何もない状態でも、色々と違う要素を引っ張り出してきて、自分の意見を展開することが求められます。IBをやって良かったことですか?どんなテーマにも対応できる『雑談力』が上がりましたね(笑)」

でもこの雑談力、国際舞台でも実は必要な素養だという。Kさんの「雑談力」という言葉に思わず吹き出しながらも、大崎さんはつかさずこう続けた。

「国連時代の仕事を振り返ってみると、いきなり何か話を振られても、何か考えて言わないといけない場面って、結構ありました。でもその時、文脈を無視して何でもいいから言うというのではダメで、話の文脈を理解した上で、独自の視点から意見を言うことが求められます。いきなり問いを出されても、文脈に即し自分の考えや提案を論理的に説明することが求められるという点では、IBとも共通するものを感じますね」

■世の中の文脈を知ってこそ

グローバル人材育成へのニーズが各所で高まる中、大崎さんの仕事にも最近、変化が生じているのだという。グローバル人材育成に力を入れる私立大学や民間の進学塾で、大学生や高校生を対象に、国連を中心に取り組まれている地球規模課題について英語で授業をしてほしいという依頼が増えているというのだ。「良い傾向だ」としながらも、大崎さんは日本社会によるグローバル教育、その延長線上としてのIBの捉え方に懸念を示す。

「授業では、国連で扱っているミレニアム開発目標(MDGs)について話すことが多いのですが、貧困、保健といった個別のテーマの内容を英語で聞いてぶつ切りの知識を増やすだけでは意味がありません。

現在の国際秩序は、第二次世界大戦終了後にできた国連憲章をベースにできていて、国連憲章に書かれていることが普遍的価値とされているのですが、そのことを知っている人がとても少ない。外交や開発支援など、国際的な舞台で活躍したいのであれば、まずはこうした大きな枠組みを学んだ上で個別のテーマを捉え、国際社会や市民社会がどのような価値観をベースに枠組みづくりや取り組みを進めてきたかを体系的に理解する必要があるのです」

母国語でいいので、まずは大きな概念―ここで言うところでは、第二次大戦終了後からMDGsに至るまで流れとその意味するところ―を理解することがまず大切、と大崎さんは言う。その上で、物事を体系的に理解するための訓練としてIBは格好のツールであると説く。

「具体的には、IBは時間軸と空間軸を意識した学びだということです。時間軸というのは、歴史的な文脈、哲学や理念がどのような文脈で発展してきたかを知ること。そこに空間軸が加わり、文化や歴史の多様性を意識しながら、今起きていることをどう捉えるかを考えさせ、教師やクラスメートとの対話を通じて学びを蓄積し、知識を消化していくんですね。
ここが日本の中等・高等教育が抱える大きな課題だと思います。この課題の克服策としてIBを捉えるのであれば意味がありますが、単に英語力とプレゼン力向上の手段と捉えるだけではもったいないですね」

■IB教育の目的は「地域で普通に暮らす」こと?

国際社会で活躍するために必要な素地が凝縮されている感のあるIB教育。とはいえ、日本語カリキュラムが始まったとしても、その内容の専門性に見合って学費が高額になりがちなこともあって、「うちの子には受けさせたくてもできない」と考える向きもあるかもしれない。でも、だからと言ってあきらめるには及ばない。IB教育の「3つの精神」を親が理解しながら子どもと接すれば、高等教育や海外留学で得られるものが多くなるはずだと大崎さんは話す。

「IBの3つの精神というのは、探究を通じて自己肯定感を育む『自我の確立』、歴史や文化を通じた『多様性の受容』、国や文化背景が違っても人間の暮らしの営みは似ているという『普遍性への気づき』です。この3つをベースに、知識をどう社会に還元し、どのように社会貢献していけばいいかを追求するのがIBの精神で、そのための論理的思考力や言語化の仕方を身につけるのがIB教育なのだと思うのです」

「自分を持って他者と共存しながら社会に貢献する。非常に高度なリーダー教育手法がIBですが、IBの精神をどう身につければいいかを考えれば考えるほど、スタートラインは『普通に地域で生活していくこと』ではないかと思えてなりません。
IBの精神は、とにかく世界に出て行けば身に付くということでは必ずしもありません。国連でも、日本人の職員の中には私を含めて高校まで公立校だったという人がとても多かったですよ。英語は最初から話せなくてもいいのです。多様な世界に放り込まれた時に『こういうことって、あるよね』と思える力が大切なのです」

だからというわけではないが、現在小学6年生の長女は地元の公立小学校から公立中学校に進学予定なのだそうだ。進学塾には通わず、空手や書道やチアダンス、ギターに精を出しながら、同じ学校の地元のお友達同士で気軽に遊べる環境を謳歌している。大崎さんも小学校でPTAの役員を務めるなど、講演や講義で出張も多い仕事の合間を縫って学校に関わってきた。

「娘には、生涯で一番吸収力のあるこの時期に、身体性や感受性などを存分に育んで欲しいと思っています。私自身は、PTAでの活動を通じて防災訓練など地域の取組みに関わる重要性を実感しました。防災は地域の関心事。学校を地域のハブにして、地域の人たちがつながり合えるような取り組みをしていくことも重要です。IBの全人教育というのは、社会との関わりそのもの。親がまず背中を見せて、実践していきたいものです」

■ 変わるべきは大人たち

長男Kさんは、大崎さんが勤務していた国連近くにある小規模なモンテッソーリ学校で、小学校生活を始めた。学年の枠は無く、一人一人のペースで自由に勉強したり議論したり表現させてくれるところで、これが物事を深く考えるIBへのチャレンジの原体験になったのではないかと、大崎さんは見ている。
「彼は性格的にIBに向いていたと思います。とにかく読書が好きですし、物事を深く、かつ多角的に見る訓練を小学校の時に受けていたからです。ただ、それだけに大学進学のために良い成績をとろうとか、競争心のようなものが無くて、受験に関してはやきもきしました。

英国の大学はIBスコアだけを考慮しますが、米国の大学のトップ校が求めるのは、4年間を通して学業でまんべんなくハイスコアを維持すること、スポーツや芸術などで著しい才能があること、リーダーシップを発揮することなど、スーパーな学生です。多感な時期にそんな風に邁進できるのは、ある意味で従順な子や固い意思を持った子ですよね。日本ではあまり意識されていないようですが、IBイコール米国のトップ大学への合格では必ずしもないと思います」

Kさんは現在、上智大学国際教養学部で大学生活を送る。学校新聞の編集長としてその面白さに触れたジャーナリスト、さらには弁護士など、将来の夢をあれこれ膨らませながら、猛烈に勉強したIBの2年間を経てほっと一息ついている局面のように見受ける。そんなKさんを見守る大崎さんからのこのメッセージには、思わずハッとさせられた。

「グローバル教育を進める大学連合『G(グローバル)5』ができるなど、日本の高等教育のグローバル志向が加速しています。でも、こうした教育の成果でグローバルマインドを身につけた若者が活躍できる土壌が、果たして今の日本にあるでしょうか。どんなにIBを取り入れ、どんなに海外留学を推進しても、受け皿である日本社会が多様性を尊重し、変化に柔軟にならないことには意味がありません」
教育というと、とかく子どもたちをどうすべきか、と考えがちだ。でも、本当に問われているのは、実は私たち親世代をはじめとする大人たち、さらには日本社会のありようなのだということに気づかされる。


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