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田舎回帰 と 「自治体消滅」の罠

 増田氏とその研究グループの発表により、「896自治体 消滅の恐れ」と喧伝されているが、大森彌が「わな」と批判している。
“自治体消滅といえば、「平成の大合併」で消滅した町村数は1600にも及んだ。人為的な市町村消滅は激しく大規模であった。市町村の最小人口規模が決まっていないにもかかわらず、 自治体消滅の可能性が高まるというが、人口が減少すればするほど市町村の存在価値は高まるから消滅など起こらない。
起こるとすれば、自治体消滅という最悪の事態を想定したがゆえに、 人びとの気持ちが萎えてしまい、そのすきに乗じて「撤退」を不可避だと思わせ、人為的に市町村を消滅させようとする動きが出てくる場合である。未来の予測を「自己実現的予言」にさせてはならない。”
  合併した自治体では、かえって人口減が激しい。一方、県内には人口400人の村がある。移住が進み「限界集約」を脱した地区もある
 原発、温暖化、資源・食料問題・・・・ 大量消費社会から新たな価値観が求められている。。「中山間地が衰退すれば、都市部も危うい」(高知県知事)。
 「自治体消滅」は、多国籍企業中心の国づくりのための、地方切捨てのイデオロギー攻撃である。

【「自治体消滅論」に立ち向かうため、「小さいからこそ輝く地域」に学ぶ~ 「シリーズ地域の再生」全21巻完結に寄せて 2014/7】

【都市・農村共生社会の創造 ~田園回帰の時代を迎えて~ を発表 2014/9 全国町村会】
【はじまった「田園回帰」市町村消滅論を批判ー中山間フォーラムがシンポ 2014/8】
【自治体消滅/扇情的推論に惑わされるな 河北新報・社説8/16】

【「自治体消滅論」に立ち向かうため、「小さいからこそ輝く地域」に学ぶ~ 「シリーズ地域の再生」全21巻完結に寄せて 2014/7】

■農山村集落からの「撤退」か「田園回帰」か

 「896自治体 消滅の恐れ」(毎日)、「若年女性、896自治体で半減」(朝日)、「896自治体 若年女性半減」(読売)―5月9日、全国紙の一面にこんな見出しが躍った。もっとも扱いの大きい毎日新聞は以下のように続ける。
「全国1800市区町村(政令市の行政区を含む)の49.8%に当たる896自治体で、子どもを産む人の大多数を占める『20~39歳の女性人口』が2010年からの30年間で5割以上減ることが有識者団体の推計でわかった。896自治体を『消滅可能都市』と位置づけ、有効な手を打たなければ将来消える可能性があるという」
 この推計を行なったのは、元岩手県知事、元総務大臣の増田寛也氏が座長を務める「日本創成会議・人口減少問題検討分科会」。こうした地域では流出人口が出生率を上回って人が減り続け、医療・介護保険の維持がむずかしくなって、将来消滅する可能性があるというのだ。
 増田氏とその研究グループが、「人口急減問題」について言及し、大きな社会的反響を呼び起こしたのは今回が初めてではない。『中央公論』昨年12月号の特集「危ない県はここだ―過疎から消滅へ 壊死する地方都市」で「2040年、地方消滅。『極点社会』が到来する」という論考を発表し、自治体関係者に動揺をもたらした。
 そのポイントは、(1)東京圏をはじめとする大都市圏に人口が集中する傾向が続き、その結果、地方部では消滅が避けられない地域が続出。日本の中で大都市圏のみが存在する「極点社会」の形成が予想される、(2)大都市圏は「人口のブラックホール」といわれるように出生率が低い。人口集中がさらなる少子化をもたらし、国全体の人口が加速度的に減少、(3)その反転のためには、最後の拠点として、広域ブロック単位の地方中核都市に資源と政策を集中的に投入することが必要、というものである。とくに(3)について増田氏は、同号での藻谷浩介氏との対談で「山間部も含めたすべての地域に人口減抑制のエネルギーをつぎ込むのではなく、地方中核都市に資源を集中し、そこを最後の砦として再生を図っていく」「撤退戦」をやるしかないと語っている。人口30万人程度とされる地方中核都市に「わざわざ東京に出ていく必要のない若者を踏みとどまらせ」、「定住自立圏」をつくり出そうというのだ。

 そうした増田論文に対し、明治大学教授の小田切徳美さんは、2014年4月25日の「自治日報」のコラム「『増田論文ショック』と農山村」で、「現時点で気になる点」として、以下3点を列挙している。
 第1に、論文に刺激されて始まった論議の中に、「日本でも、欧州のようにコンパクトシティを実現して、農山村集落の撤退を始めるべきだ」という主張も少なくないが、都市部と農村部がくっきり区分されている欧州では、コンパクトシティに農村からの撤退という要素は含まれていない。むしろ欧州では、オイルショック以降、「逆都市化」と言われる都市から農村への人口還流が続いている。
 第2に、撤退論が財政の窮乏化を論拠としていて、「財政が厳しい中でそんな所に住むのはわがままだ」という言説に出会うこともあるが、これは、人びとの居住範囲を財政の関数として捉える発想にほかならず、財政次第では、東京圏以外のどの地域にも人が住むことが不合理だとされてしまうこともあり得る。
 第3に、撤退の対象とされる農山村で、とくに中国山地や九州北部等を中心に若者Iターン、田園回帰の動きが活発化していることを見逃している。

■「田舎の田舎」に子どもが増えている

 第3の問題点に関して、今回の「自治体消滅」論のもとになったデータは、2010年の国勢調査にもとづくものであり、しかも市町村単位の人口データを基本に分析しているので、近年の動きをとらえきれていないのではないかと指摘するのは、島根県中山間地域研究センター研究統括監の藤山浩さんだ。藤山さんは4月27日の「山陰中央新報」のコラム「『田舎の田舎』に新たな定住の波」で、以下のように述べている。
「県内中山間地域の218エリア(公民館区や小学校区等の基礎的な生活圏)について、2008年と13年の住民基本台帳による人口データを、県中山間地域研究センターで詳細に分析してみた。その結果、3分の1を超える73のエリアで、4歳以下の子供の数が5年前に比べて増えていることが判明した。全国的な少子化の時代に、これは驚きの結果である。しかも、子供が増加したエリアの分布は、山間部や離島といった『田舎の田舎』が大半を占めている。これまでの過疎の半世紀になかった現象だ」

 藤山さんは現場での体験や現時点のデータから、以下のような注目すべき「地殻変動」が起きつつあると感じているという。
 第1は、これまでのような都市優位の時代の終わり。2011年3月11日の東日本大震災は、太平洋側の都市部に集中しすぎたこの国のかたちの危うさを知らしめた。
 第2は、若い世代のなかに、地元の人や自然、伝統とつながりをもち、自らつくり、育てる暮らしへのあこがれが生まれていること。
 第3は、「田舎の田舎」への定住を主導しているのが、子どもをもつ30歳前後の女性であること。田舎暮らしを望む夫についていくというより、「私もがんばるから田舎で子どもを育てよう」というアラサー女性が多いという。

 こうした中山間地域の現場での体験にもとづくデータ分析から「増田論文」「自治体消滅論」に疑問を呈する小田切さんや藤山さんが中心になって編まれた本が「シリーズ地域の再生」第15巻『地域再生のフロンティア―中国山地から始まるこの国の新しいかたち』である。そこで小田切さんは、「中山間地域のもついくつかの条件は、今後の環境に優しい循環型の地域づくりと適合する可能性があり、今後はその条件が都市とは異なる価値として人びとを惹きつけるかもしれない。そうしたときに中山間地域から撤退してしまうことは、将来世代の選択肢を奪うことになってしまう」と述べ、藤山さんは以下のような島根県での取り組みを紹介している。
 島根県では、2011年度から12年度にかけて市町村と県庁各課、中山間地域研究センターが共同で「しまねの郷づくりカルテ」を作成し、全県中山間地域を公民館や小学校単位の基礎コミュニティとしての227エリアに分け、人口や各分野の統計データを集約し、定住促進に向けた地域診断資料としている。エリアごとに人口予測を行ない、長期的に高齢化率の上昇を抑え、小中学生数を安定させるために必要な新規定住増加数を割り出しているのだ。
「この数字は、決して達成不可能なものではなく、山間部や島嶼部等の比較的条件不利性が高い地域においても、こうした定住目標を達成しているところが現れ始めている。何よりも、ばくぜんと定住増加を考えるのではなく、地区ごとに明確な目標数値を地域住民で共有することが、具体的な行動につながる」と藤山さんは述べている。

 その具体的な行動の一つが、本誌1月号「限界集落に新規就農の若者がやってくるまで」で坂本敬三さんが紹介している同県邑南町銭宝地区の取り組みだ。
 同地区では、統計データだけでなく「小地域ならではのアナログな方法」で人口推計してみることにした。
「言ってみれば、気軽にできる集落点検です。90戸ほどの地域なら、地域に詳しい4、5人が集まれば、ある程度の予測ができます。電話帳を元に一戸一戸見ていき、例えば『○○家の息子は広島市に自宅を新築したらしい』などの情報があれば『Uターン不可』にカウントします。『△△家の後継者は農業大学校に入学した。どうも農業をする気らしい』。これは『Uターン見込み大』にカウント、といった具合。こうして予測した結果、30年後は現在の90戸から15~20戸にまで減少するものと見込まれました」
「このままではまずい」――集落点検を行なったメンバーが皆そう思い、計画づくりに着手。(1)都市に出て行った地元出身者との交流(その取り組みの一つが、本誌5月号「主張」でもふれた「ファーム布施」の農作業への地元出身者の参加)、(2)子どもたちの課外授業やフィールドワークが可能な環境整備、(3)Uターンの促進、(4)新規就農者の確保、(5)地域資源の洗い出し、(6)大学(大学生)との交流、(7)六次産業化の推進、をおもな柱とする事業を実施することになり、人が減るという危機感のなか、Uターンも含めて、新たに人を呼び込むことが大きな課題となった。
 同地区では新規就農者の確保のために、地区の集落営農2法人と2戸の園芸農家の協力を得て、(1)「法人への就農」(島根県の集落営農組織派遣事業を活用)、(2)「園芸農家での研修」(青年就農給付金を活用)、(3)「自営就農と定住に向けた空き家の改修」の3段階の就農支援を地域が行ない、それ以外の支援については行政が行なうことにした。そして、子どものいる家族、または今後子どもをもうける予定の家族を条件にIターンを募集、昨年3月、大阪在住の30代夫婦が就農、待望の第1子も誕生した。
「先は長いですが、少しでも地域が元気になるように今後も皆で知恵を出し合いながらやっていきたいと思います」と、坂本さんは述べている。

■「超限界集落」で小学校再開

 「50歳以下の住民がゼロ。学校もなくなったはずの地区。そこに、小学1年生が。じつは、このままでは地区が消滅すると危機感を抱いた町が、一度は休校になった小学校を再開したのです」(4月13日・NHKニュース「おはよう日本」のナレーション)
 再開したのは熊本県多良木町の槻木小学校。かつて林業や炭焼きで栄え、国の営林署も設置されていた最盛期の1959(昭和34)年には約400世帯、約1500人の人口を抱えていた槻木地区も、現在は約64世帯、人口約120人。高齢化率は73%で、昨年までもっとも若い住民は53歳だった。小学校は2007年に1人の卒業生を送り出して閉校。かつて中学校が1校、小学校が2校あった大字ごと「限界集落」化し、消滅が危惧されていた。
 小学校の再開を町に提案したのは、槻木地区の将来について町から相談を受けた熊本大学教授の徳野貞雄さん。徳野さんは「シリーズ地域の再生」第11巻『T型集落点検とライフヒストリーでみえる―家族・集落・女性の底力』で、同地区130名の他出者の半数は、それほど遠くないところに居住していると述べている。

▼地区内の別居を含めて多良木町内に15人(11.5%)、彼らは、車で40分以内で実家に行くことができる
▼隣接する球磨盆地内の市や町に36人(約27.7%)、実家まで車で1時間半の近距離
▼熊本市を中心とする県内に33人(25.4%)、実家まで車で2時間半の中距離
▼福岡・大阪・東京など遠距離の県外に61人(46.9%)

  「山を越えた町場の方にいる人も条件が悪かったから出て行っただけで、こちらに実家もあるし親もいる。学校というのはたんに教育の現場だけでなく、地域で30~40代が暮らしていくために、絶対にお子さんがいるかぎり、学校がなければいけない」(「おはよう日本」で徳野さん)
 徳野さんは槻木地区の将来について、(1)消極的な現状維持を図っていく「老衰型集落化」、(2)山を越えて町の中心部に移転する「全面移転」、(3)「中核的世帯」の導入と他出子サポートという積極的な努力と施策を集落の維持・存続のために遂行する「集落存続」の三つの選択肢を町当局や議会、住民に示し、話し合った。すると(2)の全面移転は住民の強い否定的な意見が出、また行政も財政的な負担が重すぎて実現できない。(1)の老衰型集落化は、住民の半分以上は「受け入れざるを得ない」という態度であったが、行政から「集落が消滅するまで最低30年以上はかかるなかで、道路の維持や住民の生活保障など、財政的支出の累積は膨大なものになる」ため、この案も強く避けたいということになった。残された案は(3)の積極的な集落存続ということになり、槻木小学校の再開を前提とした外部からの、子のいる30~40代の世帯の導入が決定し、「集落支援員制度」を活用して公募することになった。採用されたのは福岡県内で社会福祉協議会のケアマネージャーだった上治秀人さん(41歳)。奥さんの美由貴さんは、看護・助産師である。そして6歳と3歳の娘さんが2人。
「上治氏夫婦は、将来子どもたちを自然豊かな山村で育てたいという希望があり、高齢者の福祉と地域づくりとを自分の仕事として選択できるのは、非常にラッキーだと思って応募してきた」と、徳野さん。
 4月10日、その上治さんの上の娘さんを迎えて槻木小学校の入学式と開校式が行なわれ、NHKのニュースや全国紙が「超限界集落救えるか? 異例の小学校再開」「過疎地に活気『感無量』」などと伝えたのである。

■自分の山は自分で手入れする

 『家族・集落・女性の底力』では、槻木地区の集落点検でわかった人びとの日常の仕事(就業構造)についてもふれられている。それによれば、現在どのような日常の仕事をしているかという問いに対して1位〔自営の農林業〕23%、2位〔山の手入れ〕22%、3位〔家事・手伝い〕20%だが、「もっとも重要だと思う仕事」については圧倒的に〔山の手入れ〕が第1位で35%だった。
 これまで日本の林業政策は、「山林所有者の多くは地域に住んでいないか、住んでいても山の手入れをする意欲も能力もない」という前提に立って、森林組合や事業体に作業を委託する「施業委託型」を中心に進められてきた。
 2009年の結城登美雄さんの『地元学からの出発 この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける』に始まった「シリーズ地域の再生」全21巻の最終配本は、5月に刊行される『林業新時代―自伐がひらく農林家の未来』である。そこではまず、九州大学教授の佐藤宣子さんが、農林業センサスの分析から(1)素材生産の16.5%程度を「自伐林家」(家族農林業経営体で保有山林から自ら生産)が担っていること、(2)農業と林業の結びつきは地域的に多様であること、(3)自伐林家は農産加工や産直、6次産業化など相対的に活発な農業経営を行なっていること、(4)集落レベルでの森林資源保全の活動が2000年代後半から活発化していることを明らかにしている。ついで筑波大学准教授の興梠克久さんは、小農の兼業化を規模の経済性、生産性重視の視点だけから評価する見方に対して、(1)兼業農林家にとって農林業は生きがいそのものであり、生活基盤でもあること、さらに小型でも生産力はけっして低くない機械体系も開発されて、価格変動への対応が柔軟な小農経営の足腰の強さのゆえんにもなっていること、(2)兼業農林家は農山村地域の主要構成員であり、水・土地・林野などの地域資源の共同管理をはじめ、相互扶助組織の維持や伝統文化の継承も担うとともに、社会的費用の節減、農山村の活力維持にも役立っていることを明らかにしている。

 また、鳥取大学准教授の家中茂さんは、全国の自伐林業の現場に身を運び、現場の声を紹介している。高知県仁淀川町の最上流の集落・上名野川で「定年帰林」した父親の後に続いて、Uターンで自伐林業をやるようになった片岡博一さん(48歳)の声はこうだ。
「みてください、スギとヒノキしかありません。どうしてもこれでしか食う道はない。儲けはしないけれど、生活はできる。町では食うに困る人がいるというが、田舎では食うに困る人はいない。田舎におったら、ほんとの人間の生活ができる。のんびりとしてね、やれるでしょ。田舎には田舎のいいところがありますよ」
「限界集落で生活できないのか。そんなことはない。ぜんぜん生活できる。勝手に仕事がないと思って、勝手に田舎を捨てていった。高知まで1時間で通える。だから、限界集落というのは思い込んでるだけで、上名野川が最先端」

 東京一極集中の果ての「人口のブラックホール化」という「規模の経済の2周目の危機」に対し、「自治体消滅論」をふりかざし、中山間地域からの撤退と中核都市への政策と資源の集中を図るという新たな戦略――その向こうには、県や町村制の廃止につながる「道州制」が見え隠れする。こうした流れに立ち向かうためにこそ、「小さいからこそ輝く地域」の事例と論考にあふれた「シリーズ地域の再生」全21巻は刊行された。
(農文協論説委員会)


【都市・農村共生社会の創造 ~田園回帰の時代を迎えて~ を発表 2014/9 全国町村会】

 全国町村会では、このたび『「農業・農村政策のあり方についての提言」都市・農村共生社会の創造 ~田園回帰の時代を迎えて~』をとりまとめ、公表いたしました。 
 本提言は、①最近の農村志向の高まりを「田園回帰」と捉え、②出生率の高さや、再生可能エネルギー源の蓄積など、農村の新たな可能性に着目するとともに、③今後の農業・農村政策のあり方として、国と自治体が連携・協力(パートナーシップ)のもとで、農村の価値を創生する政策の実行を通じて、④都市と農村の共生社会を実現させることを訴えています。 
 人口減少時代という新たな局面を迎えたいま、「田園回帰」の動きを確実なものとし、都市と農村の共生社会を創造することは、都市の安定と農村の安心のためにも重要です。
 本提言の内容が、国の政策に反映され、町村をはじめ自治体の現場で活かされ、そして、多くの国民の皆様の農村に関心を寄せて頂く契機となり、「


■農業・農村政策のあり方についての提言 【本文】(PDF 3.0MB)
■農業・農村政策のあり方についての提言 【概要版】(PDF 0.95MB)


【「自治体消滅」の罠  東京大学名誉教授  大森 彌(第2879号・平成26年5月19日) 】

単に未来のことを記述しているように思われる言説(予想・予測)が、現在の人びとの行動に影響を与え、その結果、その言説が現実化してしまうことを、 米国の社会学者R・K・マートンは「自己実現的予言」と呼んだ。マートンは、「銀行資産が比較的健全な場合であっても、一度支払不能の噂がたち、 相当数の預金者がそれをまことだと信ずるようになると、たちまち支払不能の結果に陥る」という例をあげている。日本のことわざでは「嘘から出たまこと」である。

増田寛也元総務相を座長とする「日本創成会議」の分科会が、2014年5月、半数の自治体で20・30代女性が半減するという試算を公表し、マスコミで喧伝され、 自治体関係者などに影響を与え始めている。もとは『中央公論』2013年12月号の論考「2040年、 地方消滅。『極点社会』が到来する」であった。「地方消滅」の指標として使っているのは人口の「再生産力」を示す20~39歳の女性人口の減少率である。東京圏などへの人口流出が続くと、 2040年時点で2010年に比べ若年女性が50%以上減少し、人口が1万人以上の市区町村が373に、人口が1万人未満の市区町村が523になるという予測である。523の自治体は「消滅可能性が高い」という。 増田氏たちは人口減に対する思い切った対策を提案している。 

自治体消滅といえば、「平成の大合併」で消滅した町村数は1600にも及んだ。人為的な市町村消滅は激しく大規模であった。市町村の最小人口規模が決まっていないにもかかわらず、 自治体消滅の可能性が高まるというが、人口が減少すればするほど市町村の存在価値は高まるから消滅など起こらない。起こるとすれば、自治体消滅という最悪の事態を想定したがゆえに、 人びとの気持ちが萎えてしまい、そのすきに乗じて「撤退」を不可避だと思わせ、人為的に市町村を消滅させようとする動きが出てくる場合である。未来の予測を「自己実現的予言」にさせてはならない。


【まち・ひと・しごと創生」を現代版「ふるさと創生」へ 東京大学名誉教授  大森 彌(第2891号・平成26年9月1日) 】

1988年(昭和63年)の全国町村長大会では、「ふるさと創生」を内政の最重要課題に掲げた竹下登総理は、「地方の皆さんがメニューを作って、 それを中央がいかにサポートするかというように発想を転換しなければなりません」と述べた。通称ふるさと創生事業は、各市区町村に対し、 地域活性化に使える資金1億円を一律に地方交付税交付金を追加した政策であった。当時、東京湾の臨海部副都心整備は4兆円、横浜市のMM21は2兆円の事業であったから、 それと比べて1億円事業の合計はたった3200億円程度であった。それでも、全市区町村を対象にした「ふるさと創生」の支援であった。全国の自治体は1億円の使い道を熱心に議論した。 

2013(平成25)年の全国町村長大会で、安倍晋三総理は、「美しい国の原点はまさに町村にあり」と挨拶したが、その総理の提唱で「まち・ひと・しごと創生本部」が設置される。 気になるのは「まち」が焦点になっていることである。この「まち」に「むら(農山漁村)」が含まれていると読めるだろうか。 増田寛也元総務相を座長とする「日本創成会議」の分科会は、「成長を続ける21世紀のために『ストップ少子化・ 地方元気戦略』」(平成26年5月8日)で、「東京一極集中」に歯止めをかけるために若者に魅力ある地域拠点都市を中核として新たな集積構造を構築すべきだと提案している。 こうした案が国の施策に組み入れられようとしている。 

地方拠点都市という圏域形成によって東京などの大都市への人口流出を食い止め、そこでの出生率を高めることが期待されているが、 拠点都市への資源の集中が周辺の農山漁村地域の衰退を加速させるのではないかと心配になる。小規模市町村はどうせ人口減少で消滅するのだから拠点都市の維持・ 成長のためには切り捨ててもやむを得ないというような施策は地方創生とはいえない。「まち・ひと・しごと創生」が、 国とすべての自治体が知恵と力を結集して人口減少に立ち向かう現代版「ふるさと創生」になることを切望したい。


 【はじまった「田園回帰」市町村消滅論を批判ー中山間フォーラムがシンポ 2014/8】

特定非営利活動法人・中山間フォーラムが7月13日、東京都内で設立8周年記念シンポジウム「はじまった田園回帰?『市町村消滅論』を批判する」を開いた。「市町村消滅論」とは増田寛也元総務相が5月に提起したわが国の人口予測で896市町村が2040年にも消滅可能性があるとした(※)。
 しかし、このシンポジウムでは小規模な集落で移住者が増えている「田園回帰」の現実が報告され、その実践のネットワークをつくり「都市農村共生社会」づくりをめざすことこそが需要だと強調された。シンポジウムから「対抗軸としての田園回帰」(明大・小田切徳美教授)を考えてみたい。

~ 地域が手を結び 「あきらめ論」脱却を ~ 

◆はね返せ 増田ショック
 増田寛也元総務相が座長を務める日本創成会議は2040年の人口推計で具体的な市町村名を挙げて消滅可能性があると発表した。これについて同フォーラム会長の佐藤洋平東大名誉教授は、そもそも見通しが不確かな将来を「単純化して分かった気にさせる」という問題があり、疑いのない事実だとして人々に「思考停止」をもらたすと指摘。さらに「将来消滅するのであれば投資する必要はないのではと思う人」を生んだことも問題で、地方活性化のための税金はムダとの声を巻き起しかねないと批判した。
 しかし、そもそも“増田論文ショック”とも呼ばれるこの推計は実態をふまえているのかどうか、コーディネーターを務めた小田切徳美明大教授はその問題点を指摘した。 小田切教授は、この市町村消滅論が発表されてから、
1)消滅は必然→非効率的なものは不要=農村は不要→農村たたみ論、
2)消滅論に対抗する=従来の制度・政策を抜本的に見直すべき→制度リセット論、
3)消滅を受け入れる=どうせなくなるなら諦める→あきらめ論、
の3つが「入り乱れて同時に進行している」と指摘する。

 しかし、この推計にはいくつもの問題がある。 推計は「2040年に20―39歳の女性人口が半減」する地域は消滅可能性があるとしたが、小田切教授は「20代、30代の女性が半減した地域は1960年以降いくつもある。しかし、消滅しただろうか」と実態とのかい離を指摘する。
 また、人口が小規模な市町村で消滅が進むとしている。これに対して具体的に現在の若い女性人口99人が10人と89%減少すると予測された地域について「逆にいえば30年間で89人を増やせばいいということ。ターゲットが身近で無理な目標ではないはず」と指摘。1万人の人口が89%減少するという事態にくらべれば「小規模だからこそ人口復元の可能性がある」として、小規模人口地域だから消滅するとの見方に疑問を示した。
 さらにとくに3.11以来顕著になってきた「田園回帰」の動きを今回の推計で折り込んでいるのかどうか。

 小田切教授のまとめによると、国交省の2012年アンケート結果で都市住民の移住意向が強いのは「50歳代」と「20歳代」。そのグラフには「2こぶ」の状況が明確に示されている。また、ふるさと回帰支援センターの移住相談者をみると2008年には50歳代未満層は30.4%だったがその後増え続け、2013年のまとめでは54.0%を占め50歳代未満層が過半を占めたことも確認された。
 そのうえで、このような実態をふまえない「乱暴な推計を時代の流れだとして諦めて受け入れるのか」、それとも「未来は変えられるものとして知恵と努力で立ち向かうのか」の「農村の分水嶺」にあると指摘。それはまた「成長追求型の都市社会の形成か、脱成長型の都市農村共生社会の形成か」という「日本社会全体の分岐的」の問題でもあると小田切教授は強調した。

◆離島の高校 1学級増えた
 では、実際に中山間地域ではどのような田園回帰の動きが見られるのだろうか。島根県立大学連携大学院教授で中山間地域研究センター研究統括監の藤山浩氏の報告を紹介する。
 同センターでは住民基本台帳をもとに公民館区・小学校区という単位で人口分析をしている。島根県全域で218地区あるが、2008?13年の5年間で「4歳以下の子どもが1人以上増えた地域」は全地区の3分の1を超える73あった。増加した地区は山間部や離島もふくめて広く存在し、中心都市部との距離とは無関係であることも示されているという。
 次世代が定住し始めた具体例のひとつが益田市匹見町道川地区。広島県境沿いのもっとも山奥にある地域だ。人口161人で高齢化率は47.2%。小学生は08年に3人だったが13年には14人に。地区全戸がPTA会員になるなど地域ぐるみの子育てがUターンの増加につながっているという。
 また、フェリーで2時間かかる隠岐郡海士町では2004年から12年までの9年間で361名のIターン者が定住。町のキャッチフレーズは「ないものはない」と「島留学」を全国に呼びかけ、地元の隠岐島前高校は1クラス増を実現した。

◆「日本一の子育て村」めざす
 
シンポジウムではこのような人口増加を実現した現場から同県邑南町の石橋良治町長も報告した。 同町は「持続可能な町」をめざし、▽日本一の子育て村、▽A級グルメの町、▽徹底した移住者ケアの3つに力を入れてきた。
 「子育て」では子ども医療費の無料化や第2子からの保育料無料化をはじめ奨学金制度、新規就農支援、定住支援コーディネーターの配置などを実施。女性誌が「集え! シングルマザーたち」と特集で取り上げるほど女性の注目を集めた。
 A級グルメ戦略は、町の食文化に誇りを持とうという思いから。A級=永久、との意味も込めた。食の起業家をめざし農業研修もする「耕すシェフ」、ハーブ栽培と販路開拓などに関わるアグリ女子隊などさまざまな人材の力を活用して町づくりを進めてきた。
 この7月には100年先の子どもたちに邑南町の食文化を伝える「食の学校」も開校した。

◆移住者ケアを徹底
 徹底した移住者ケアとは定住支援コーディネーターを核にして地域住民とともに「おせっかいを焼くこと」、「愚痴を聞いて回ること」もバックアップになる。
 こうした取り組みで移住者は23年度からの3年間で83世帯154人を数えるまでになっている。児童の数は21人増えた。人口動態でみると社会増として25年度にプラス20人を実現した。
 日本創成会議は邑南町の未来について2040年には20〜39歳女性人口が約6割も減少し消滅に向かうと予測した。しかし、この層の人口は2010年の801人が14年には814人へと増えたのが「現実」だ(図表参照)。



 これにともなって高齢化率も平成23年に41.2%と予測されていたが、実際は39.4%となった。石橋町長は「町民総ぐるみで全力サポートしていく」と語る。

◆特効薬はない
 このような「田園回帰」について藤山浩氏は、「中途半端な都会の田舎ではなく、田舎の田舎を求める動き」だとして、それは「中山間地域が困っているから移住するのではなく、そこに未来があるからだ」と強調する。 この動きを定着させるには中山間地域の側にもまた循環型社会へ作り直しも求められているという。たとえば、定住のための所得確保策をそれまで“域外へと流出させていた所得を取り戻す”といった観点から、食の地産地消、エネルギー自給などを考える必要があるのでは、と提唱する。
 それは無理な外貨獲得ではなく、域内での経済循環へと転換することでもある。そもそも中山間地域は小規模・分散が宿命で、それはワークシェアリングや「ないものは自分たちでつくる」という暮らしへの発想にもつながる。
 また人口を増やすにも戦略が必要で「じっくり、ゆっくり毎年1%程度のペースが重要だ」と強調する。世代をずらしながら次第に人口を増やしていくことが重要で、藤山氏は「急激な人口流入は『都会の団地の失敗』の繰り返しになる」と指摘する。事実、都会の団地には一気に高齢化と空洞化が襲っている。
 藤山氏は「問われているのは社会のあり方。単なる田舎人口が問題なのではなく、長続きさせたい暮らし、地域、社会を取り戻すことだ」と呼びかけた。
 小田切教授はこうした報告を受けて、持続性を高めるために地域間が連携して「あきらめない」ことが大事だと強調した。また、邑南町の実践については「特効薬があるわけでないことが示された。それぞれの地域でオーダーメイド型の対応が必要で、“じわじわ効く薬”を何種類も用意する必要がある」と話し、最後に大森彌氏(東大名誉教授・地方自治論)の次のような言葉を参加者に紹介した。
 「(自治体消滅が)起こるとすれば、自治体消滅という最悪の事態を想定したがゆえに、人々の気持ちが萎えてしまい、そのすきに乗じて『撤退』を不可避だと思わせ、人為的に市町村を消滅させようとする動きが出てくる場合である」。

※市町村消滅論
 学者や元官僚らでつくる政策研究グループの日本創成会議・人口減少問題検討分科会(座長:増田寛也元総務相)が5月8日に発表した政策提言「ストップ少子化・地方元気戦略」のベースになった人口推計。人口の再生産を中心的に担う「20?39歳の女性人口」に着目し、2010年の国勢調査をもとにした国立社会保障・人口問題研究所の推計などをもとに将来予測をした。その結果、2040年までに20?39歳の女性人口が5割以下に減少する自治体は896自治体、49.8%との結果が得られたとし、これらを「消滅可能性都市」として公表した。

【自治体消滅/扇情的推論に惑わされるな 河北新報・社説8/16】

 「平成の大合併」で消滅した町村は、全国で1600を優に超える。わずか10年強で半数近い自治体を淘汰(とうた)しておきながら、このたびの慌てぶりはどういうことか。
 学識経験者でつくる政策提言団体「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)が発表した自治体消滅論に、何やら国中がざわついている。
 「全国市町村の半数が将来、消滅するかもしれない」との予測が示された途端、知事会は非常事態宣言を発し、市長会は対策研究会を設置した。
 試算は、子どもを生む中心世代である20~39歳の若年女性人口に着目。2010年を基準に30年後、若年女性人口が半減する市区町村を「消滅可能性都市」と定義した。
 福島第1原発事故の影響で分析困難な福島を除き、東北は5県で137市町村が消滅するかもしれないという。宮城以外の4県では、8割以上の市町村が消滅可能性都市にくくられた。
 確かに、心穏やかでいられない試算ではある。無論、問題を放置すべきでもない。だが、虫眼鏡で地方を見れば、物事は随分と違って見えてくる。
 「3.11」後、都市から被災地支援に入り、そのまま生活の根を張ろうとする若者たちは少なくない。試算で若年女性人口の減少率が全国最悪とされた群馬県南牧村には、この3年間で14世帯26人が移住している。
 若年層を中心とした田園回帰のトレンドは、地方自治分野の研究者の間では、早くから指摘されていた現象だった。
 創成会議の未来予想は、こうした分析を考慮せず、震災の前年を起点に人口曲線を単純に伸ばして導き出したにすぎない。
 弱小町村の人口復元力を過小評価する一方で、自治体消滅論は地方の中核都市に期待を寄せている。地方から首都圏への人口流出を食い止めるため、中核都市が「ダム」の役割を果たさなければならないとした。
 創成会議の立論は、行政サービス効率化に傾き過ぎているようだ。大が小を飲み込む図式は、東京一極集中と何ら変わりがないではないか。一つ間違えば、農山漁村の切り捨てを容認しかねない論法だ。
 自治体消滅論による地ならしを待っていたかのように安倍晋三首相は、これからは地方施策に本腰を入れると言い出した。
 骨太方針は、将来の経済縮小を回避するとして「50年後の人口1億人維持」を目標に掲げた。地方版経済成長戦略の司令塔となる「まち・ひと・しごと創生本部」が、同時に人口問題に臨むという。
 これでは人口減少対策と経済成長戦略のどちらが目的でどちらが手段なのか、皆目分からない。自治体消滅論のセンセーショナリズムに便乗し、富国強兵策を推し進めようとしているだけなのではないか。
 国の人口政策を神野直彦東大名誉教授(財政学)は「戦いの太鼓が打ち鳴らされると、人間は人口になってしまう」と喝破した。この慧眼(けいがん)に学びたい。

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Comments

地方は無くなりません。
隣の自治体と合併して合理化されるだけです。

夕張も破綻したのは乱脈経営の内部崩壊が原因、
地方はそういうのが沢山あります。
一般庶民はそういうのが無くなったほうが負担が少なくなりますよ。

 大森彌先生の「人口が減少すればするほど市町村の存在価値は高まるから消滅など起こらない」ってコメント、増田リポートへの反論になっているんでしょうかね?増田リポートの主張の要点は、「このまま何もしないままだと、人口再生産の基盤となる若年女性が猛烈な勢いで減り、数十年先にはコミュニティとしての存続が危ぶまれる地域が多数出てくる」ということにあると理解しています。増田レポートの主張がおかしいと言いたいなら、このまま何もしなくても、多くの地域でコミュニティが存続していけなくなるほど若年女性が減ることはないことを実証的に示す必要があります。大森先生のコメントは、そういう反証を示していないので、イマイチ説得力に欠ける印象があります。

 「人口が減少すればするほど市町村の存在価値は高まるから消滅など起こらない」かどうかは、そのときの政権が「人口が減少すればするほど市町村の存在価値は高まる」という価値判断に基づき、多くの財源や人材をつぎ込んで、人口が減少した市町村を支えるという政策を実施するかどうかによります。

 本当にどうなるかは、そのときになってみないとわかりませんが、その頃になれば、大都市圏と地方との利害対立は、今よりも格段に先鋭かつ大規模なものになっているでしょうから、何党が政権に就こうと、都市と地方の対立をうまく調停して、若年女性が激減した地域に大きくテコ入れする政策を実施するのは、不可能ではないにせよ、困難をきわめるでしょうね。

都会と農山村。どうも対立するものとして描かれていることは気にかかります。

両者は補完しあってはじめて成立します。それを無視して定住政策をとっても、結局子供の教育や仕事の壁で出て行ってしまうことになってしまいます。

山梨県・丹波山村のケースを今日(2015年6月10日)NHK「おはよう日本」で取り上げていましたが、結局義務教育までは楽しく住めても高校進学をきっかけに家族ごと出て行ってしまう。仕事がしにくいので東京都心に戻ってしまう。

中山間地域というのは、林業就労のほか、住民サービス向上、さらに地域の足まで多様な戦略がないと定着はしにくいのです。

また、コンパクトシティ推進と中山間地域の振興は実は不可分一体。いよいよ林業では体がもたない、クルマの運転に支障をきたした時には山を下りることができる体制も整えるべきです。

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