地方創生~地方衰退を「自己責任」にさせる土俵づくり
法学館憲法研究所のHPから、公共事業論などに詳しい中山徹・奈良女子大学教授の「地方創生」にかかわるコメント。「地方創生」の政治的本質がズバリわかる。
・大都市圏への人口集中を国土計画で改善するのではなく、その集中を与件として国土の姿を描いている。
・人口の大幅減少が避けらず地域が自立するのは困難。コンパクトとネットワーク形成でがんばれというもの。
・TPP、社会保障費の削減など、地方にマイナスの影響を与える施策が目白押し。それが政権交代に結びつかないよう、予算を一律に配分するのでなく競争的資金獲得を地方に競わせ、「活性化」を自己責任に枠に押し込む。
・地方衰退の根本原因である構造改革を覆い隠し、活性化しないのは当該地域の努力に責任転嫁させる議論。
【政府が進める地方創生をどう考えるか 中山徹9/15】
【政府が進める地方創生をどう考えるか 中山徹9/15】政府は地方活性化のため地方創生担当相を置き、人口減少の中でどのような国土、地方を目指すかという将来ビジョンもしめした。この間、政府が示した方向性をどのように考えるべきだろうか。
■政府の人口目標
政府は2014年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2014(骨太の方針)」を閣議決定した。この骨太方針では中長期的な対策を重視しており、その柱が少子化対策である。そこで示されたのは、「50年後にも1億人程度の安定的な人口構造を保持する」という目標である。
また、国土交通省は2014年7月に、「国土のグランドデザイン2050」を策定した。もし今のまま推移すると2050年では、人口が9708万人となり、その後も減り続け、22世紀を迎えるときには5000万人を下回る。それに対して出生率を2.07まで引き上げると、2050年で人口は1億人、その後穏やかに人口が減り、9100万人~9500万人で人口が安定するという試算をしめした。■スパー・メガリージョンの形成
グランドデザインで示された国土の方向性は二つである。一つ目は、リニア中央新幹線によって国土構造を大きく変えることである。2050年までにリニア中央新幹線が東京~大阪を結ぶと、三大都市圏が1時間で結ばれ、世界最大のスーパー・メガリージョンが形成されるという。東京~大阪が1時間で移動できるため、三大都市圏が一体化し、三都市間の移動が都市内移動のようになる。そのような流れを促進させるような施策を展開すれば、「圧倒的国際競争力を有する世界最大のスーパー・メガリージョンが我が国を牽引し、大都市圏域は国際経済戦略都市となる」という。
要するに、リニア中央新幹線をきっかけに、東京~名古屋~大阪の一体化を進めるような施策を展開し、国際競争に勝てる大都市圏を形成すると言うことである。■コンパクト+ネットワーク
一方、地方に対して示されたのは「コンパクト+ネットワーク」である。これには2種類ある。一つ目は「小さな拠点」である。これは集落が散在するような地域に、商店や診療所など日常生活に不可欠な施設を集積させた地区を形成することである。大きさは歩いて動ける範囲を想定している。このような「小さな拠点」と周辺地域をネットワークでつなぎ、農山村の生活を維持するとしている。
もう一つは地方都市である。「市役所、医療、福祉、商業、教育等の都市機能や居住機能を、都市の中心部や生活拠点等に誘導し」コンパクトシティの形成を図りつつ、公共交通ネットワークで周辺と連携させるという。さらに「複数の地方都市等がネットワークを活用して一定規模の人口を確保し…相互に各種高次都市機能を分担し連携する高次地方都市連合」を構築するとしている。想定しているのはおおむね人口規模が30万人以上の都市圏である。
要するに地方では人口の大幅な減少が避けられない。そのため、各地域が自立するのは困難であり、コンパクトとネットワーク形成でがんばれと言うことである。■「国土のグランドデザイン2050」の問題点
グランドデザインでは地域ごとの将来人口推計を行った上で、「コンパクト+ネットワーク」を提案している。2010年では全国の人口が1億2805万人、三大都市圏の人口が6545万人、それ以外の人口が6260万人である。それが2050年には全国の人口が9707万人、三大都市圏が5306万人、それ以外は4401万人になると予測している。人口減少率は、全国で24%の減、三大都市圏は18%減、それ以外は29%減である。また、三大都市圏の人口比率は51%から54%に上昇する。
グランドデザインは人口減少を前提とした最初の国土計画と言える。ただし、地方では今後30%程度人口が減るという予測を与件とし、大幅な人口減少を「コンパクト+ネットワーク」で乗り越えようとしている。また、リニア中央新幹線などのインフラ整備を進め、スーパー・メガリージョンを形成し、全国的に人口が減少しても、東京の国際競争力を強化しようとしている。
20世紀の国土計画は、将来予測される国土のひずみ、つまり大都市圏への人口集中を国土計画で改善しようとしていた。ところがグランドデザインは、将来予想される大都市圏への人口集中を国土計画で改善するのではなく、その集中を与件として国土の姿を描いている。この点がグランドデザイン最大の問題である。
■都市間競争型の地方創生
日本の地方は構造改革以降、急速に衰退しだした。20世紀の高度経済成長、過疎と過密が深刻化したが、当時の政府は公共事業予算と地方交付税を地方に重点的に配り、地方経済を維持しようとした。しかし、21世紀なって始まった構造改革以降、公共事業予算の削減、市町村合併が進み、地方経済は一気に衰退へと向かった。その結果、生じたのが政権交代である。
今回の地方創生は前回の政権交代を念頭に置き、同じ轍を踏まないという意思からスタートしたものだろう。地方創生はまだ進み出したところであり、具体的にどうなるかはまだわからない。しかし、おおよそ以下のように考えられる。
安倍政権は本格的な構造改革を進める予定であり、その中にはTPP、社会保障費の削減など、地方経済にマイナスの影響を与える施策が目白押しである。しかし、政権交代を招かないように20世紀型に戻すほど国家財政にゆとりはない。そのため、交付税や従来型の公共事業費ではなく、競争的な補助金や交付金を増やすと思われる。このような競争的資金を得るためには、先に述べた「コンパクト+ネットワーク」など政府の意向に沿った施策を展開しなければならない。しかもまんべんなく配るのではなく、競争的に配られる。そにため、競争的経費を十分確保できない自治体や、思ったほど成果が上がらない自治体は、本人たちに責任があるとされる。その結果、地方を衰退させている根本原因(構造改革)を隠蔽し、地方衰退の責任を自治体に転嫁できる。■さいごに
政府が進めようとしている地方活性化の特徴は二つにまとめられる。一つは、地方での大幅な人口減少を前提にし、その中でどのように生き残るかの方向性を示した現状追随論である。もう一つは、地方を衰退させてきた根本原因である構造改革を覆い隠し、活性化しないのは当該地域の努力が足りないからだとする議論する責任転嫁論である。
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