“それぞれの「戦争論」” ぜひ一読を
著者は、執筆の動議を語る…テレビやインターネットで通じ、瞬時に世界各地での「戦争」を知ることができる時代となった。メディアが報じる戦争が「リアル」であればあるほど「見えているものがすべてである」という錯覚におちいりすく、画面の枠外にも「現実」があることは忘れがちになる。戦争には、爆弾が炸裂する音、骨が砕ける響き、裂けた肉とともに散布する血の色、硝煙と死体の朽ちていく臭い、それらすべてを包む憎しみと怨念がある。それらすべてを再現できなくても想像することはできる。
戦争について語ろうとすれば、人間の生命と生活、人生の破壊をともなう行為がどのようなものなのか、そのリアルなイメージが必要ではないか。私が試みたのは、戦争を議論するための知識ではなく、それを想像するきっかけを提供することである。としている。
被害者だけでなく加害者の立場、正当化の主張も含めとりあげている。被害者と加害者の認識のギャップ、それがどうして生まれるのか、それがどんな意味を持つのかを問いかけてくる。
差別意識と「仲間との絆」による虐殺へのひきがね、武力行使による怨念の蓄積、加害側の葛藤、PTSDなどなど・・・
あとがきで
戦争の実体験はなくても想像はできる。殺戮の現場を象像するのは決して心地よいことではない。しかし、よりよい未来への営み、人間として生きる営みは、この人間の殺戮という行為への嫌悪感や拒否感を忘れたところには存在しないと信じている。と述べている。
ぜひ読んでもらいたい本である。
構成は以下のとおり。
【目次】
第1章 二一世紀の戦争――イラク戦争
「遠く」から攻撃することの意味/「遠くの兵士」と「遠くの私たち」/時間をこえた破壊/「ニンテンドー・ウォー」/クラスター爆弾/劣化ウラン弾について/「慈悲深い戦争」
戦争を知る人々1 イラク戦争被害の証言者ジャワード・アルアリさん
第2章 核兵器による戦争
核兵器とそれまでの兵器との違い/広島と長崎で起きたこと/苦しめ、殺し続ける兵器/原爆を投下したものたち/日本政府の態度
戦争を知る人々2 被爆体験の証言者 横川嘉範さん
第3章 軍隊という殺人のシステム
1 一九三七年 南京
夏さん一家の出来事/日本兵の視点から
2 ベトナム戦争(一九六四〜七五年)
人殺し「自動人間」/殺戮への引き金――敵意、仲間意識/PTSD
戦争を知る人々3 ベトナム戦争の証言者アレン・ネルソンさん
第4章 「民族」の名を語る殺戮
1 イスラエルとパレスチナの紛争
パレスチナ問題とは/シャティーラ難民キャンプでの虐殺/イスラエル軍のジェニン侵攻/イスラエルの「きずな」
戦争を知る人々4 シャティーラ難民キャンプ虐殺の証言者 広河隆一さん
2 ホロコースト――ユダヤ人の大量虐殺
ホロコーストとは何か/「生きる価値のないもの」/大量殺戮のための論理
第5章 沖縄が教えるもの――市民の間に顔を出した戦争
市民をのみこんだ沖縄戦/日本車による住民虐殺/住民をスパイとして殺害/住民の「集団死」/「集団死」をもたらした力
戦争を知る人々5 沖縄集団死の証言者 金城重明さん
第6章 占領――戦争は終わらない
1 イスラエルによるパレスチナの占領
検問所/パレスチナ人を囲いこむ「壁」/イスラエル兵士の考え/占領の「毒」
戦争を知る人々6 パレスチナ占領の証言者 土井敏邦さん
2 イラク占領
憎しみの拡大/イスラエル軍と同じやり方/イラクでも「壁」/つぐなわれない命/占領者がぶつかっているもの/アメリカ兵の「異論」
【著者略歴】
川田 忠明(かわた ただあき)
1959年生まれ。東京大学経済学部卒。世界30カ国以上を訪れ、各国の平和団体などと交流。9.11同時多発テロ以降は、戦争と平和の問題で、高校生、大学生をはじめ若い人たちへのレクチャーなどに積極的にとりくむ。現在、世界平和評議会書記、日本平和委員会常任理事、原水爆禁止日本協議会理事などを務める
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