医療介護総合法 「地域支援事業」の問題点と打開の道(メモ)
谷本諭さんの前衛2014.9の論考。「医療・介護総合法の国会論戦がしめしたもの――介護制度再建の道を考える」の備忘録。
主に「地域支援事業」についての部分のメモ。保険料の負担が増え、一方、どんどんサービスが切り縮められていく― 制度への信頼がなくなり、制度崩壊への道である。
なお、介護保険は、利用料負担があるため、サービスを限度枠一杯を使えるのは、所得が高い層になる、という点でも、富裕層優遇の制度設計となっている。
【医療・介護総合法の国会論戦がしめしたもの――介護制度再建の道を考える】Ⅰ.国会論戦で明らかになった悪法の実態
(1)「要支援切り」の実態と手口
・要支援1.2と認定されて、予防給付をうけている人の8割以上が、訪問介護、通所介護を利用
→総合法。この2つを介護給付から外し、市町村が実施する「地域支援事業」に移し、配色など代替サービスを、市町村の事業費に上限をもうけたうえ、NPO、ボランティアなど多様な担い手で行うもの
・ これまでも、ヘルパー派遣回数の制限、介護時間1回45分への短縮/今回は、保険の枠外へ
→ 市町村、事業者、利用者の批判の声で、政府は「既存の介護事業所の参画させる」「ヘルパーによるサービス、専門的なサービスも実施する」と弁明/ が国会論戦で言い訳が破綻①「専門的サービス」を「5割以下に」
7月の指針では、現行水準の「専門的サービス」、緩和した基準(資格のない雇用者)、住民主体の基準(主にボランティア)の3種類が示された
・専門的サービスの対象/「日常生活に支障が生じる認知症の人」などの限られたケース/厚労省のペーパー(6/11)…専門的サービスの量は現状維持、基本的に一定程度減っていく。仮に現状維持にとどめ、今後増える分を「多様なサービスにすれば、専門的サービスは「2025年には5割程度に減っていく」と明記
→ 現在利用者に「配慮」しつつ「現状維持」するなら、新規利用者の大半は「多様なサービス」となる
→ 「専門的サービス」を制限し、人件費の低い「多様なサービス」で、給付費の大幅削減が狙い
《事業以降後の「専門的サービス」と「多様なサービス」の利用割合について 厚労省老健局6/11》
②要介護認定の省略で「要支援者を減らす」・6/11ペーパー 「専門的サービス」の割合が「変動」(低下)する「要因」として「要支援者の数の伸び率の低下」を上げている / 総合法には、この要請にこたえた仕掛けがある
・市町村、地域包括支援センターの職員に「要支援相当」と判断された人について
→ 「基本チェックリスト」という簡易な質問項目への回答だけで、要介護認定を省略し、サービスの割り振りが可能になる/ その人は「要支援者」でなく「非該当」の人と同じ扱いに
・小池質問「医療保険にたとえるなら、病院の受付で問診表を書かせ、診察の必要なしと判断し、薬局に行けというようなもの」と批判
(メモ者 議会論戦では、認知症の早期発見の点でも要介護認定の重要性を確認させる)③地域ケア会議による「卒業」の強要
・「地域ケア会議」:「地域全体で高齢者を支えるネットワークづくり」を目的に、医師など多職種が参加して組織された合議体/ 現在、任意事業として8割の自治体で設置、総合法で全自治体に。
a 「ヘルパーによるゴミ出しを町内会、ボランティアにたのめないか」「デイサービスの入浴をやめ、老人福祉センターの風呂に通えないか」「通所リハビリは半年で卒業すべきだ」など (石川県の自治体)
b「介護保険を受ける人が多くなっているので自立を考えてほしい」「それだけ元気なら、サービスを使うのではなく、あなたがボランティアになったらどうか」「早く卒業して」などケアプランの変更をもとめられた。執拗に変更をせまられ「もういいです」と言ったら給付を打ち切られ、利用料の高いボランティアサービスへの切り替えを余儀なくされた (東京荒川区)
→「予防モデル事業」(13市区町村で実施。リハビリ、体操など予防事業の「介入」で、介護サービスの「卒業」をめざすもの)の考え方を適用する中でうまれたもの
→ 小池「『卒業』でなく『強制退学』」と批判 /「予防モデル事業」の結果表では、「卒業」したとされる人の大部分は、要介護認定で「非該当」と判断されたのではない。要介護認定の更新をしないことを「卒業」扱い。
(メモ者 議会論戦で「卒業」の意味を明確にさせる必要あり。重度化防止の点で「更新」を重視させる)④「専門的サービス」の人件費抑制
・厚労省老健局振興課課長補佐 今年4月に都内で行った講演/「専門的サービス」の「効率化」の内容
▽既存の訪問介護事業所に、これまでのプロのヘルパーによる介護サービスとは別に、地域支援事業に参入するための、例えばヘルパー一人にボランティア三人による新サービスの看板を掲げてもらってはどうか。
▽あるいは、今、要支援二で週二回ヘルパーによる身体介護を受けている人がいたとすると、週二回の身体介護だと負担限度額いっぱいになるけれども、それをヘルパーとボランティアのサービスに変えて、身体介護を週一回にして、あとはボランティアによる掃除と洗濯にすれば、人件費安いので単価は低くなる
▽こうした手法をオールジャパンで実現すれば給付費の抑制ができる。・厚労省方針 「専門的サービス」でも、現行の介護報酬より安くする
→ 質の低下。介護労働の「安上り化」に拍車をかけ、処遇改悪をすすめる
(メモ者 条件不利地では事業所撤退の懸念がある。現在、中山間地の事業者に、県単で補助を出しているが、議会論戦では、それを広げるとともに市町村での実施も、現実的対応として求めなくてはならない)⑤自治体の事業費に条件――給付費の大幅抑制
A 抑制の方針/ 現行制度のままなら、毎年5-6%増加する要支援者向け給付費を、「地域支援事業」に置き換えることで、後期高齢者の人口の伸び率3-4%に抑える
~ 国会質疑で、2025年度800億円、2030年度1500億円、2035年度2600億円の大幅削減が明らかにB 給付費削減を自治体に達成させる仕組み
・現在 「地域支援事業」の給付費総額 = 当該自治体の介護給付費×3%の上限
→ 総合法/(当該自治体の「現行の地域支援事業」+「要支援者の訪問・通所介護の給付費」)×「当該自治体の後期高齢者人口の伸び率」/ 制度スタート時は、個別事情を勘案した「バッファ」を認めるとの説明・上限を超えて、給付費が伸びた場合/ 超過分には、国庫補助を拠出しない
→ 自治体は、▽新規利用者の「多様なサービス」への流し込み ▽要介護認定の門前払い ▽「卒業」の強要などサービス縮小 ▽専門的サービスのコスト削減 ▽利用者の追加負担など、あらゆる給付抑制策に追い立てられていく仕掛け(5)介護保険の根本的矛盾を追及 /(2)~(4) 略
・総合法の過度な給付削減を実施しても、65歳以上の介護保険料は、2025年月8200円に。厚労省試算
→ この大本には、サービス利用者の増加、介護従事者の労働条件改善が、ダイレクトに保険料に跳ね返るという、制度の根本矛盾がある。
→ 保険料の「低所得者軽減」が決められたが、投入財源は給付費の1.4%・保険料抑制のためと給付を削減の繰り返し ~ 制度への信頼を崩壊させ、制度の維持を困難にする
★抜本改革は、国庫負担割合の引き上げ
全国市長会・町村会の提言
自民 野党時代、10%引き上げの政策
公明党 昨年参院選で、公費負担6割(現在5割)への引き上げを公約
Ⅱ 介護保険の危機をいかに打開するか(1) 政府の「2025年」論の欺まん
・総合法案提出にあたり、政府・厚労省が強調した「2025年問題」
~ 団塊世代が75歳以上になり、高齢化がピークになり、医療・介護のニーズがさらに高まる /が、施設などの資源は限られており、現行の提供体制では、大幅な病床不足、入所困難者と待機者の激増、孤立死・孤独死の頻発がおこりかねない /国の財源が逼迫し、現役世代に過重な負担を負わせられないもと、公的資源を大幅に拡充できない / 施設など資源の選択と集中し、地域の助け合いなど「地域包括ケア」の体制で、みんなで危機を乗り切っていく。と説明・実際の法案は、地域の医療提供体制の強権的な再編・縮小、要支援者を保険の枠外に閉め出すもの。訪問診療の診療報酬の大幅削減など、従来の削減路線の復活・強化 /社会保障を口実に消費税増税しながら、制度改悪を促進、「骨太方針」では「自然増」分の削減まで主張
→ 「2025年問題」は、社会保障の切捨てと消費税増税を飲ませる口実(2) 社会保障、税財政、経済の抜本的改革 ~ 日本共産党の「提言」参照
(3)深刻化する介護の危機 ~ 打開方向を考える
・現状/ 要介護の家族を持つ有業者890万人。介護離職、年8-10万人。/「お泊りデイサービス」など脱法的施設の利用やホームレス用の宿泊施設を転々とするなど「老人漂流社会」/高齢者の貧困と孤立の進行のもと「介護心中」「介護殺人」の続発 /年間1万人もの認知症高齢者の行方不明/65歳以上の「孤立死」「孤独死」も年2万人と推計(ニッセイ基礎研)
■現役世代が安心できる公的介護制度へ
■国策転換で「介護難民」解消を
■介護・福祉の供給体制を強化する
■高齢者福祉を立て直す – 措置制度、住宅保障、地域福祉の役割発揮
・貧困と格差の拡大、コミュニティの崩壊のもと複雑な問題を抱える高齢者が急増
→ 自治体の高齢者福祉の再編が急務
・虐待、貧困、社会的孤立など「処遇困難」な高齢者の救済は、老人福祉法にもとづく自治体の仕事・・・【老人福祉法】
(目的)
第一条 この法律は、老人の福祉に関する原理を明らかにするとともに、老人に対し、その心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な措置を講じ、もつて老人の福祉を図ることを目的とする。
(基本的理念)
第二条 老人は、多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として、かつ、豊富な知識と経験を有する者として敬愛されるとともに、生きがいを持てる健全で安らかな生活を保障されるものとする。
(福祉の措置の実施者)
第五条の四 六十五歳以上の者(六十五歳未満の者であつて特に必要があると認められるものを含む。以下同じ。)又はその者を現に養護する者(以下「養護者」という。)に対する第十条の四及び第十一条の規定による福祉の措置は、その六十五歳以上の者が居住地を有するときは、その居住地の市町村が、居住地を有しないか、又はその居住地が明らかでないときは、その現在地の市町村が行うものとする。(略)
2 市町村は、この法律の施行に関し、次に掲げる業務を行わなければならない。
一 老人の福祉に関し、必要な実情の把握に努めること。
二 老人の福祉に関し、必要な情報の提供を行い、並びに相談に応じ、必要な調査及び指導を行い、並びにこれらに付随する業務を行うこと。
・・・→ が、介護保険導入後、多くの自治体で高齢者福祉が縮小され、「介護保険任せ」にされてきた /福祉職の削減、保健所の統廃合、養護老人ホーム運営費の一般財源化など、国の制度改定が拍車をかけてきた
~ 「処遇困難」高齢者に対する自治体の「措置控え」がメディアでも問題化★福祉職員の増員、地域包括支援センターの体制強化、養護老人ホームへの財政支援の強化 /住まいの確保(経費老人ホームの増設、地域優良賃貸住宅制度の拡充など)/ボランティア、民生委員、自治会、社協は、保険給付の肩代わりでなく本来の役割発揮
( メモ者 ボランティアなど地域の力を発揮させる上でも、専門職による処遇困難高齢者への公的なサポートが不可欠 )・公的保障、自体福祉(措置制度)、地域福祉の役割発揮しながらの連携でこそ、地域全体の取り組みが前
(4)悪政打破・社会保障再生の国民的共同を
・総合法には、政府の政策に協力してきた有識者、保守系医療団体からのも異議
国会参考人質疑 連合が反対。日本ホームヘルパー協会、日本介護福祉士会が懸念
「賛成」の知事会も「(国が)財政再建的な手法をとれば、
障害者自立支援法、後期高齢者に続いて三度目の
抗議をしなければならない」・「国家的詐欺」が明らかになれば、国民に怒りにさらに火がつくことは必至
~ 社会保障のためと消費税増税しながら、「自然増」削減を叫び、制度改悪をくりかえす「国家的詐欺」
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