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集団的自衛権行使 「海外で活動する日本人に危険が迫る」 アフガン支援の中村哲さん

 アフガニスタンで支援をつづける中村哲氏。安倍部首相の「NGOやPKO職員が武装集団に襲われても助けることができない」という集団的自衛権行使の「理由」に異をとなえている。
・「NGOはノン・ガバメント、つまり政府と離れて勝手に活動している。国が守る義務はない。政府の後ろ盾がなく、自由に活動するのがNGOの特質の一つ。それを台無しにする」。
・「他国の軍隊が戦闘をすれば、その国の人々の目には侵略者に映る。侵略者に守られているNGOの職員は狙われ、かえって危険になる」
・「集団的自衛権の行使によって欧米同様、日本人という理由でテロの対象になれば私の仕事は続かない。逃げるしかない」
 【「9条のイメージに助けられている」アフガンで支援続ける医師・中村哲さん 神奈川新聞 6/5】

【「9条のイメージに助けられている」アフガンで支援続ける医師・中村哲さん 神奈川新聞 6/5】

 戦乱のやまぬアフガニスタンで30年近く支援活動を続ける医師の中村哲さん(67)は、憲法9条を持つ日本の平和的なイメージに何度も助けられてきたという。侵略者とみなされる欧米人がテロの対象になる一方、日本人は「武力で他国を侵略しない国」とされ、敵意を向けられてこなかったためだ。暴力と憎しみの連鎖のただ中に身を置く異色の医師は、憲法が禁じる集団的自衛権が行使されるようになれば、「海外で活動する日本人に危険が迫る」と警鐘を鳴らす。

 安倍晋三首相は、多くの若者がボランティアや非政府組織(NGO)の一員としてアジア、アフリカで平和や発展のために汗を流している、として言った。
 「この若者のように医療活動に従事している人たちもいるし、近くで協力してPKO活動(国連平和維持活動)している国連のPKO要員もいる。しかし彼らが突然、武装集団に襲われたとしても、この地域やこの国において活動している日本の自衛隊は彼らを救うことができない」

 5月15日、集団的自衛権の行使容認の必要性を訴えた記者会見での発言だった。
 この「駆け付け警護」に、中村さんは「しないほうがいい」と異を唱える。「NGOはノン・ガバメント、つまり政府と離れて勝手に活動している。国が守る義務はない。政府の後ろ盾がなく、自由に活動するのがNGOの特質の一つ。それを台無しにする」
 そもそも、と言葉を重ねる。「他国の軍隊が戦闘をすれば、その国の人々の目には侵略者に映る。侵略者に守られているNGOの職員は狙われ、かえって危険になる」
 1992年に訪れたアフガニスタンの山奥で出会った村長の言葉を中村さんは忘れない。「日本は敗戦の廃虚から復興を遂げながら、一度も外国に出兵したことがない。平和な国だ」
 日本がどこにあるのか知らなくても、「他国の戦争に加わらないおきてがある」ことを人々は知っていた。「日本が米国と仲がいいのも、インド洋で米艦船に給油したことも知っている。それでも他の軍隊と違うと思われているのは、海外に派遣されても銃で人を撃たなかったから。だから他国を侵略しない国として好感を持たれている」

■現実離れした戦争
 医療支援に始まり、井戸掘りに水路造り、今は農業支援に励む。集団的自衛権や自衛隊の在り方が論じられている日本の政治状況は、かの国からどう映るのか。
 「大きな曲がり角。戦争を身をもって知らない世代ばかり。私もアフガンを通して戦争のなんたるかを知った。安倍さんの描く戦争の状態は現実離れしたゲームのようにしか見えない」
 
その現実とは。
 「ある軍事評論家は言った。米軍はテロリストがいる場所だけをピンポイントで爆撃し、『人道的な戦い方だ』と。そう考えるなら、爆撃の下に立ってみなさい、と言いたい。爆撃で死んだのは女性や子ども、お年寄りといった罪のない人ばかりだ」
 「不朽の自由作戦」でタリバン政権が倒れ、人々は圧政から解放されたとされた。
 「自由になったのは、宗教色の強かったタリバン政権で禁止されていたケシの栽培だ。数年とたたず、麻薬超大国になった。それだけではない。解放されたのは、女性が外国人兵士に売春する自由、貧乏人が餓死する自由だ」
 その欧米の軍隊もアフガンから撤退する。
 「米国でのテロ以降の軍事行動は、先進国が歩調を合わせ、テロに対して行使した集団的自衛権といえる。日本はその仲間に入ろうとしている。撤退はアフガン戦争での敗北を意味する。その敗北を追い掛けようとしている現実は非現実、マンガの世界だ」

■信頼こそ安全保障
 「テロとの戦い」を掲げ、アフガンに軍隊を派遣した欧米諸国は市民から敵意のまなざしを向けられるようになった。復興支援や医療活動をしている欧米の民間人は誘拐や攻撃の対象となった。
 東部ジャララバードから外国のNGOは次々と撤退し、活動を続ける外国人は中村さん一人になった。「集団的自衛権の行使によって欧米同様、日本人という理由でテロの対象になれば私の仕事は続かない。逃げるしかない」
 帰国するたび気になっていることがある。「気が短くなっている。ちっぽけな小島のことで戦争が起きたら大変なことだ」。パキスタンとアフガニスタンの国境線は明確には分からず、大抵はあいまいなままだ。「あいまいでいいことに黒白をつけようとして、ヒステリックに隣国の悪口を言っている」
 安倍首相は行使容認を目指す集団的自衛権を「限定的なもの」と説明する。
 「戦争の現実を知らない人の言葉。相手がピストルを持っていれば、ピストルで応戦する。ライフルならライフルで、機関銃なら機関銃で。ひとたび武力を使うと際限なくエスカレートしていく」
 「国民の命を守る」と強調する首相の物言いも時代がかって聞こえる。「米国の正義のために戦おうと思っている米兵はいない。兵役を終え、公民権など社会的な得点ために参加しているにすぎない。戦争はビジネス化している」
 そうした武力によって守られたと感じたことは一度もなかった。中村さんなりの「安全保障」がある。「政治グループ、部族、地域の対立関係から超然としていること。移動の際、ルートや時間帯を変え、現地の治安部隊、警察と連絡を密にし、いろいろな情報を得ておくこと。そして、地域住民との信頼関係。こちらが本当の友人だと認識されれば、地域住民は保護を惜しまない」
 それは国同士の関係にも通じることだと考える。
 「無節操と思われても、誰とでも仲良くする。それ以外に頼るものはない。裏切られても、信頼する。信頼があれば人々の気持ちを動かすことができる」

●なかむら・てつ
 1946年福岡県生まれ。医師。パキスタンやアフガニスタンの無医村地域で医療活動に従事し、空爆下のアフガニスタンで食料配布を実施。現在は、かんがい・農業事業を中心に活動している。83年に中村さんの医療活動を支援する目的で結成された「ペシャワール会」(福岡市)の現地代表。PMS(平和医療団・日本)総院長。

■駆け付け警護に関する安倍首相の発言■
 現在、アジアで、アフリカでたくさんの若者たちがボランティアなどの形で地域の平和や発展のために活動している。
 この若者のように医療活動に従事している人たちもいるし、近くで協力してPKO活動(国連平和維持活動)している国連のPKO要員もいると思う。しかし彼らが突然、武装集団に襲われたとしても、この地域やこの国において活動している日本の自衛隊は彼らを救うことができない。一緒に平和構築のために汗を流している、自衛隊と共に汗を流している他国の部隊から救助してもらいたいと連絡を受けても、日本の自衛隊は彼らを見捨てるしかない。これが現実だ。
 皆さんが、あるいは皆さんのお子さんやお孫さんたちがその場所にいるかもしれない。その命を守るべき責任を負っている私や日本政府は、本当に何もできないということでいいのか。内閣総理大臣である私は、いかなる事態にあっても国民の命を守る責任があるはずだ。そして人々の幸せを願って作られた日本国憲法がこうした事態にあって、国民の命を守る責任を放棄せよと言っているとは私にはどうしても考えられない。
◆駆け付け警護
 国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊が、離れた場所に駆け付けて武装勢力に襲われた国連職員やNGOなどの民間人、他国のPKO要員などを救援する任務。相手が「国や国に準ずる組織」に当たる場合、憲法が禁じる「国際紛争を解決するための武力行使」に当たる恐れがあり、禁じられている。PKO協力法では任務に必要な武器使用権限は付与されていない。現行法で自衛隊員は、共に現場にいる他の隊員や、管理下に入った者を守るための武器使用が許容されている。
【神奈川新聞】


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